カウンターコーヒー


 怪談というより、すごくアホな話なんです。



 お店のレジで紙コップを買って、レジ横で、自分でボタンを押して挽きたてコーヒーが淹れられるカウンターコーヒー。

 以前、レギュラーサイズの紙コップを頼むつもりで『Lサイズ』って言ってしまった事があるんです。

 LだとLargeになってしまいます。

 Regularなら『Rサイズ』と言わなくてはいけなかったのですが、値段も気にせず電子マネーで支払ってしまったので気付かなくて。

 Sサイズは無く、小さいのがRで大きいのがLだったんです。

 『小さいほう』とか言っておけば良かったのに。


 でも自分では小さいサイズのつもりだったので、カップをセットしてから小さいほうのマークのついたボタンを押して、小さいフタを取って待っていたんです。

 Lサイズの紙コップにRサイズのフタは合わないわけで。

 あれ? って顔をしていたら、レジのお姉さんが出て来てくれたんです。

「あっ、お客様、レギュラーサイズのボタン押しちゃってますね。新しいコップをお持ちするんで」

 と、言われて、やっと気付いたんです。RとLの違いに。

「いいんです、すいません」

 と、言ったんですが、

「お客様が損しちゃってますから、お気になさらず」

 と、新しい紙コップをセットして、Lサイズコーヒーのボタンも押してくれて、

「こちらの、大きいほうのフタを取ってお待ちくださいね」

 なんて、全部やってもらっちゃいました……。

 いまどき、お婆ちゃんでもそんな間違いはしませんよね。


 そんな事をしていて、やっと買えたホットコーヒー。

 近くの公園のベンチに座って、レシートを見てみたんです。

 確かにLサイズのブレンドコーヒーの料金を支払っていました。逆に、小さいカップなのに量の多いボタンを間違えて押したりしなくて良かったです。

 溜め息をつきながら、いざコーヒーを飲もうと見たら、フタの縁の部分にベッタリとピンクの口紅がついていました。

 さっきまでそんなものは無かったし、私は荒れ性なので透明の保湿リップしか使わないんです。

 ずっと手に持っていたので、誰かが口をつけているはずもありません。

 口紅は飲み口のついたフタについていたので、フタを外せばいいかと思い一口飲んでしまいましたが、やっぱり気持ち悪いので中身は洗面所に流してしまいました。

 苦労して買ったコーヒーなのに、勘弁してほしいです。

 この口紅の主は、何者なんでしょう。


 ベッタリついた口紅はニンマリ笑っていました。

 RとLを間違えた私を笑っていたのでしょうね。

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