スリッパ


 仕事から帰って家のスリッパに足を入れたら、中に何か柔らかいものが入っていたんです。

 ビックリして覗き込んでも、何も入っていません。

 もちろん足の方にもついていません。

 窮屈なパンプスを履いている時間が長いから、足先の感覚が変になっていたのかも知れません。


 でも翌日も同じように、帰って来て足を入れたら、スリッパの中で何か柔らかいものが触ったんです。

 糸か何か出ていて、足先が引っ掛かるのかと思って見ても、やっぱり何もありませんでした。

 もう一度足を入れてみると、何も触れる事なく履けるんですよね。


 そんな事が、何日か続きました。

 着替えや入浴でスリッパを脱いで、また履く時には何事も無いんです。

 仕事から帰ってきて、最初に足を入れる時だけなんですよね。



 さすがに気になっていたので、その日は履く前に覗き込んでみたんです。

 何も見えなかったので、なんとなくスリッパの上から足先部分を踏んでみたんです。

 何も入っていないつもりでしたが、

「ぎゃあっ」

 って、スリッパが悲鳴を上げたんです。

 ビックリして飛び上がりましたよ。

 人間の声でした。野太い男性の声で。

 気持ち悪くて、すぐにゴミ袋に入れて玄関の外へ出してしまいました。

 翌日は燃えるゴミの日だったので、そのまま捨ててしまったんです。



 買い置きしていた新しいスリッパでは、足先が何かを触るような事はなくなりました。

 あのスリッパには、何か目に見えないものが住み着いていたのかしら。

 燃えるゴミに出してしまいましたが、悲鳴を上げた何かがどうなったのか少し気になります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る