森の中


 肝試しじゃないんです。

 高校生にもなってとは思いますけど、俺らが持ってるのは懐中電灯と虫かご。

 カブトムシとかクワガタを探しに来たんです。



 まだ朝は来ないくらいの時間でした。

 男子高校生5人、懐中電灯で木の幹を照らしながら歩いてたんですけどね。

 昼にもよく通り道にしてる通路なのに、ちょっと迷ったっぽくて。

 さすがに、もう少し明るくなってから来ればよかったです。

 真っ暗の中、足元を照らしたり木の上の虫を探したり。

 そんなに山深い場所じゃないので、明るくなれば帰り道もわかるかなって、軽い気持ちでうろうろしてたんです。

 ひとり怖がって、俺のTシャツをずっと掴んでる奴もいましたけど。

 

 歩いてる内に、他の友だちがアカアシクワガタっていう、足の付け根がちょっと赤いクワガタを一匹捕まえてました。

 でも、なかなか見覚えのある場所に出られなかったんです。

 子どものノリっていうか、迷ってるのに楽しんじゃってる気分だったんですよね。

 俺のTシャツを掴んでる奴だけが、ずっと怖がってました。

 そいつが、急に足を止めて俺のTシャツを引っ張るんです。

「落ち着けよ、すぐ明るくなるし」

 と、声をかけたんですが、そいつは無言で木の上を指差しています。

 ヘビでもいたかと思いましたが、違いました。

 ちょっと高い所から、首を傾げた女の人がこっちを見てたんです。

 俺はポカンとしちゃいましたけど、誰か「うわっ」って声上げてました。

 黒いブラウスに、細身のスカートの中から白い脚が二本、だらーんと伸びていたんです。

 高さ的に、首吊りだってわかりました。

 ロープじゃなくて、ストッキングだったと思うんですよね。縛り方のせいで、首を傾げたようなぶら下がり方になってて。


 でも、まばたきしてたんです。


 目を見開いて、パチパチまばたきしながら俺たちを見下ろしてました。

 首を傾げたまま、ストンって地面に降りて来て、

「私、パンツ見えちゃってる?」

 って、聞いてきたんですよ。友だちのひとりが、

「ぜんぜん、見えてません」

 って、答えました。

「あ、そう。良かった」

 真顔で言ったその女の人は、首を傾げたまま向きを変えて、暗闇の奥へ歩いて行きました。

 獣道もない場所なのに、慣れてるような足音がザクザク遠ざかって行きました。

 それで俺たちは、後ずさるように戻ったんです。

 すぐに、見慣れた場所に出られたので、自転車を停めてる場所まで走って逃げ帰りました。

 めっちゃ怖かったです。


 気になったんで、一緒に行った友だちのひとりと、明るい時間にもう一度見に行ったんです。

 迷ってた辺りかなって場所を探してみましたが、女の人は見付かりませんでした。



 森の中で、過去に首吊りがあったか?

 調べていません。

 今でもその場所、時々行くんですよ。突っ切って行くと、釣りの穴場もあるんで。

 本当に首吊りがあったなんて事になったら、怖いじゃないですか。

 暗黙の了解って感じなので、いつか友だちの誰かが調べちゃうかも知れませんけどね。

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