多い影


 カフェでバイトを始めて半年になります。

 最近、お店の通路に、不思議な影が見える事に気が付きました。

 大人っぽい雰囲気の落ち着いた照明が特徴のカフェで、悪く言うと薄暗い店内です。

 先日、奥の席へ向かう通路に、2名様でいらしたお客様の影が3名様分、並んで見えました。

 どの照明がそう見せているのかわかりませんが、光のいたずらは面白いなと思っていました。

 でも、カウンターにいた店長に聞くと、そんな影は見た事が無いと言います。

 次に来たお客様も2名様だったので、それとなく通路を見てみると、2名様分の影しかありません。

 ちょっとした通る位置のズレで、影が3つに見えるのかも知れませんね。

 キッチンカウンターから見えやすい、通路の影の数でお冷の数を判断する事があったので、気をつけなくてはいけないなと思いました。



 また後日、2名様の影が3名様分に見えた事がありました。

 先日に影が3名様分に見えた時と、同じお客様でした。

 うちのお店には珍しい、お爺ちゃんお婆ちゃんの二人組だったのでよく覚えています。

 私は他のお客様のレジ対応をしながら、

『腰の曲がり具合で影が3つに見えたりして?』

 などと、失礼な事を考えていました。

 レジ対応を終えて奥に戻ると、店長がお爺ちゃんお婆ちゃんの席に、3つのお冷を置いている所でした。

「ふたり分だけで良いですよ」

 と、お婆ちゃんに言われていました。

「あ、失礼いたしました」

 と、ひとつ多いお冷を下げる店長に、お爺ちゃんが、

「よくありますから、いいんですよ」

 と、言っています。

 いらなくなったお冷をトレーに乗せて戻って来た店長に聞いてみると、影の数を見たら3人だったと言っていました。

 私が先日に見た、2人なのに影が3人分に見えたお客様だと伝えると、不思議だなぁと首を傾げていました。

 気になって聞き耳を立てていると、お婆ちゃんが、

「まだあの子、ついて来てるのねぇ」

 と、にこやかに言っていました。お爺ちゃんは真顔のまま、

「こういう店は好きだったからな」

 と、答えています。

 その視線は、空いているお婆ちゃんの隣の席に向いていました。


 照明などの関係ではなく、そこには本当に誰かが居たのかも知れません。

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