ミジカイダン

強風に吹かれる人

　これは解決も後日談もない、変なものを見た、というだけの話です。

　僕は喫茶店の窓際の席に座って、道行く人を眺めるのが趣味なんです。

　人間観察っていうんですかね。

　持ち物とか服装や髪形なんかを参考にしたり、通行人がどんな人なのか勝手に想像してみたり。

　何度か、知り合いを見かけた事もありました。

　変わっているという表現もよくないですが、独特な格好や、風変わりな組み合わせの一団を見かける事もあります。

　十人十色というか、色んな人がいるのは当たり前なんだなって実感できるんですよね。

　それと、不可思議な存在を見かけた事もあったんです。

　その日は無風状態で、気温が高かったんです。

　そういう日でも、長袖長ズボンの人は多いんですよね。

　日除けにUVパーカーみたいな長袖を着ている人はともかく、スーツを着込んだサラリーマンの人たちは大変そうですよね。

　移動中くらい上着は脱げばいいのに、汗だくになりながら通り過ぎる人も多くて。

　足早で忙しそうなサラリーマンを目で追っていると、その向こうに妙な人を見付けたんです。

　長い茶髪を下ろして、黄色いロングスカートの上に長袖のカーディガンを羽織っていました。

　でも、顔が見えなかったんです。

　髪も服も、ビュンビュンに風に吹かれていて、髪で顔が隠れてしまっていたんですよね。うっとうしそうに手で髪をかき分けたり、広がってしまいそうなスカートを押さえていました。

　いつの間に風が強くなったんだろうと周りを見ても、街路樹も花壇の花も揺れている様子はないんです。

　その女の人とすれ違って行く人の髪は、全く風になびく様子もありませんでした。

　ひとりだけ、強風に吹かれてたんですよね。

　遠くから見ていると異様な光景なんですが、道行く人は誰もその女性に目を向けていなくて。

　見えちゃいけない人が、見えちゃったのかなって思ったんです。

　ちょっと視線を外してね。喫茶店でコーヒーを頼んでいたので、ひと口飲んでから見たら、強風に吹かれていた女性はいなくなっていました。

　気付いたら隣の席に座ってたなんてことになると、めちゃくちゃ恐怖ですけどね。

　そんなこともなく、ただ見た、見えなくなった、それ以降も見ていないという話です。