帽子
子どもの頃は、夏の日除けに帽子をかぶるイメージでした。
でも大人になってからは、冬場の寒い日こそ帽子をかぶりたくなります。
出張先で見かけた雑貨屋で、ニット帽を見付けました。
どこにでもありそうな機械編みのニット帽ですが、色が気に入りました。
濃い
試しにかぶってみて、フィット感も良かったのですぐに購入したのが去年の冬のこと。
去年は何度も使わない内に暖かくなってしまいましたが、今年は秋の内からかぶり始めました。
でも、なんだか去年と違うのです。
洗濯などしていないのですが、窮屈というか、徐々にきつくなって頭を大きな手に鷲掴まれているような気分になるのです。
安価なニット帽は、一年経つと収縮がきつくなるのでしょうか。
グイグイと伸ばしてから鏡の前でかぶって見ると、窮屈さもないのでそのまま出かけました。
でも、3時間ほどしてから、急に頭を鷲掴まれたような感覚になります。
驚いて頭に触れてみても、かぶった時のままのニット帽です。
一度脱いで、軽く伸ばしてからかぶり直すと、なんともなく被れるのですけど。
そんな事が、3回ありました。
ダメもとで、柔軟剤を使って洗濯してみました。
見た目には全く変化がありませんでしたが、手触りはふんわりしたような気がします。
その場でかぶってみる分には、窮屈感もありません。
なので、短時間で済む近所の買い物に、かぶって出かけました。
自転車に乗っていても、つばのある帽子と違ってニット帽は飛ばされる事がありません。
でも、十字路のカーブミラーに妙なものが見えました。
濃いグレーのニット帽が、肌色のように見えたんです。
自転車でサーッと通り過ぎてしまったので、もちろん見間違いと思ったのですけど。
近所のスーパーに着いて、すぐに頭を鷲掴まれるような感覚になりました。
やっぱり、ニット帽の収縮がおかしいと思っていると、スーパーに隣接しているパン屋さんのガラス扉に、私の姿が映りました。
私の頭にはグレーのニット帽ではなく、肌色の大きな手が乗っています。
驚いて、頭の上のものを叩き落としました。
足元に落ちたのは、グレーのニット帽でした。
ガラス扉に映っているのは、手首から先の、大きな人間の手です。
繊維ゴミなんて、思いつきませんでした。
すぐに、スーパーの入り口にある燃えるゴミのゴミ箱に、ニット帽を押し込んでしまいました。
ニット帽を買った雑貨屋さんは別に、ホラーグッズや中古品を扱っているお店ではなかったはずです。
私の買ったニット帽はタグもついた新品でした。同じ商品が何枚も重ねられていたんです。
妙な窮屈感と、ガラスに映った大きな手。
見間違いや、気のせいだったと思いたいです。
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