授業
福祉系の専門学校を卒業して数年。
学校から連絡があり、『卒業生の話を聞こう』という内容で、在校生たちに話をしてもらえないかとのことでした。
私も在学中に、そういった授業を聞いた覚えがあります。
参考になる話ができるかわかりませんが、他の卒業生たちも一緒とのことで、私も卒業生のひとりとして参加しました。
懐かしい顔ぶれの卒業生数人と一緒に、専門学校に呼ばれました。
『お
『人間関係に問題を起こす先輩職員は、他の職員から見てもそういう行動が今まであったはずだから、怯える前に他の職員たちの接し方を落ち着いて観察してみるといいかも』
など、学校の先生が授業として教える訳にいかないような、でもこれから社会へ出る生徒さんたちに必要になるであろう内容を話し合いました。
その数日後。
現在、就職活動中の在校生たちを前に、仕事内容や実際に働き始めて驚いた事など、他の卒業生と順番に話をしていきました。
教壇に立ち、生徒さんたちに注目されると緊張します。
キレイに並べた机に座る、生徒さんたちの顔もキレイに並んでいます。
興味深そうに聞いてくれる子や、一生懸命にノートにメモをしている子、眠そうに余所見をしている子。
先生たちから見える生徒たちって、こんな感じだったのですね。
私自身にも面白い経験でした。
でも、ちょっと気になる生徒さんがいたんです。
一番後ろの席で、じっとこちらを見ているのですが、微動だにしない生徒さんがひとり。
真顔というか、無表情をこちらに向けたまま全く動きません。
他の生徒さんたちは時々プリントを見下ろしたり、黒板に目を向けたり、前髪をいじってみたり。
動きのない生徒さんは他にいません。
気になって目を向けると、しっかり目は合っているのですが、瞬きもしていないように見えました。
その日は無事に終了し、事務室で卒業生たちと話していました。
「そうそう、教壇側から見て右奥ね。一番後ろに居た女の子でしょ?」
「ベリーショートの女の子だよね。中性的っていうか
「瞬きもしなかったね。目ぇ開けて寝てたんじゃない?」
他の卒業生たちも、全く動かなかった生徒さんが気になっていたようです。
「その子の服装、見えた?」
私たちよりも2年先輩の卒業生が言いました。
「えーっと?」
「一番後ろの席だったから、顔しか見えませんでした」
私たちが答えると、先輩は頷きながら、
「私、去年も頼まれて今日みたいな話をしたんだけどね」
と、言いました。確かに、始めの顔合わせで、そう言っていました。
「あの子、去年もいたよ。で、去年も2年連続で来てた先輩がいて、その前の年にもいたって言ってた。同じ場所に」
「……専門学校で、何年も就職浪人してるなんてことは無いですよね」
「ないでしょう」
「……」
先生に聞いてみようかどうしようか。
卒業生たちで話し、結局、見間違いだろうという事にしました。
何をどう見間違えたのかはともかく、不気味に思えて、あまり関わりたくなかったんです。
授業中から、その生徒さんの首から下が、無かったような気がしていたんです。
そんな事はありえないので、わざわざ顔を傾けたりしてその生徒さんの体を確認するような事はしませんでしたけど。
もしかしたら、椅子に腰かけている生徒さんたちと同じ高さで、顔だけが浮いていたのかも知れません。
たくさんの視線を向けられることに慣れていない私の、緊張による見間違いと思いたいです。
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