トイレの鏡


 その場に誰も居ないのに、鏡には映るっていう怪談がありますよね。

 その逆があったそうです。


 Aさんが百貨店で、お買い物をしていた時のこと。

 婦人服売り場の奥にある、トイレに立ち寄ったそうです。

 入り口から左側に個室が並んでいて、右側に水道がある普通のトイレです。

 奥の個室が使用中だったので、Aさんは手前の個室に入ったんですね。

 掃除も行き届いて、キレイな明るいトイレだったそうです。

 Aさんがトイレを済ませて個室から出ると、奥の個室に入っていた人もゴソゴソと服の音をさせて、水を流す音も聞こえたそうです。

 もう出て来るならと、Aさんは奥側の水道を空けて、入り口側の水道で手を洗っていました。

 キーッとドアの開く音が聞こえ、スニーカーのようなキュッキュッという足音が出て来ました。

 でもその足音は、水道に向かわず出口へ進んだそうです。


 手を洗わないの!?


 と、驚いてAさんが鏡越しに見ようとしたら、足音の主が映っていません。

 角度的なものではなく、足音が真後ろを通っても映りません。

 振り返って直接見てみると、普通の女の人の後姿だったそうです。

 夏らしく肩を出して、ロングのワンピースを着ている女性は、同じ階にあるファッション雑貨のお店の紙袋を手にしていました。


 なぜ鏡に映らなかったのでしょう。

 Aさんも背後の個室も鏡に映っています。

 鏡に映らない幽霊さんだったのでしょうか。

 幽霊さんでも、普通に百貨店で買い物をしている(つもりでいるだけ?)かも知れませんね。


 Aさんにその話を聞かせてもらった時、幽霊さんも手を洗ったらいいのにと思いました。

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