ミジカイダン

プチプチの音

　最近、部屋の中からプチプチを潰す音が聞こえてきます。

　梱包用のプチプチです。

　通販で買い物をすることが多く、届いた商品の緩衝材（かんしょうざい）として入れられていたプチプチは、いつか何かに使えそうなので廃棄せずに保管しています。

　でも、いつからか、部屋の中でプチップチッと音がするようになりました。

　常に聞こえている訳ではないので、初めは気付きませんでした。

　家鳴りとは違いますが、エアコンや冷蔵庫などのちょっとした異音か何かだと思っていたんです。

　先日、またプチッと聞こえてきた時に、耳を澄ませて音の出所（でどころ）を探ってみました。

　音は、緩衝材のプチプチを保管している場所から聞こえていました。

　そこで、やっとプチプチが潰れる音だと気付いたんです。

　保管と言っても、棚と棚の間の１５センチほどの隙間に上から次々に積んでいるだけです。

　夏なのでプチプチの中の空気が膨張しているのか、下の方になっている古いものが劣化で破裂しやすくなっているのか。

　理由はよくわかりませんが、音の出所はわかりました。

　その内に古くなったものを処分しようと思っただけで、その時には何の対処もしなかったんです。

　エアコンをつける日が続き、電気代が気になったので、少し涼しかった日に窓を開けて過ごしていました。

　網戸から外の風が入ってきたので、蒸してはいましたが我慢できました。

　でも、温度や湿度の変化のせいか、プチプチの潰れる音が今までよりも頻繁に、大きく聞こえました。

　ぷちっぷちっぷちぷちぶちぶち……。

　家電の異音でないなら火災の原因などにはならないだろうと思っていましたが、プチプチが潰れる原因もはっきりしないので不安になりました。

　古いものを処分すれば音もなくなるかと、ゴミ袋を持ってきました。

　上の方に積んである新しいものだけ保管しておき、残りはゴミ袋に入れていきました。

　いつの間にか、けっこうな量が積まれていました。

　棚と棚の間に詰め込んでいたプチプチを上から抜いていき、ゴミ袋に押し込んでいきます。

　その間、潰れる音は聞こえていませんでした。

　しかし、棚の間のプチプチが残り少なくなってくると突然、ぶちぶちぶちぶちっと激しい音が響きました。

　ネズミか何かが住み着いていたのかと驚きましたが、そういう訳ではありませんでした。

　プチプチの中に、細かい粒々が動いているのが見えたのです。

　目は良い方です。

　虫が湧いているなら掃除機で吸ってしまおうと思っていたら、ぐしゃぐしゃっと、プチプチを引き裂くような音が聞こえました。

　もう一度よく見てみると、プチプチの中の細かい粒々が床にこぼれてモゾモゾと動き、ひと塊になっていきます。

　その塊は、小さな人の形になりました。でも真っ黒です。

　１０センチほどの黒い人は、立ち上がり、こちらを見上げました。

　顔も目もわからない真っ黒なので、なんとなく見上げているように感じただけです。

　そして、その姿はスッと消えてしまいました。

　劣化したプチプチがぼろぼろとこぼれている他は、何も見えなくなりました。

　身動きもできず、呆気に取られていました。

　一瞬、棚の後ろにでも隠れたのかと思いましたが、どこかへ飛んで行ったような気がします。

　見えた訳ではありませんが、虫のような翅（はね）を生やして舞い上がり、網戸を通り抜けて外へ飛んで行ったような気がするのです。

　妖精さんでしょうか。真っ黒でしたけど。

　とりあえず掃除機を持ってきて、ほこりなども一緒にキレイにしました。