試着室


 使用中かと思ったら誰も居なかったって、たまにありますよね。



 かなりマイペースな友人、Aさんの話です。

 街角の小さな婦人服店で、Aさんはスカートやワンピースを見ていたそうです。

 お店に入っても、店員さんが寄って来る事はなかったのだそう。


 試着してみたいワンピースを見付け、店員さんを探すと、レジ横のパソコンで何か作業していました。

 試着室を見ると、カーテンの下の隙間に足が見えています。

 勝手に試着してもいいんだなと。

 ワンピースを片手に、Aさんは試着室の近くの棚を見ながらうろうろしていたそうです。

 10分ほど経って、店員さんがやっと気付いてくれました。

「失礼いたしました。どうぞ」

 と、カーテンをシャッと開けてしまって。

 試着室の中にいたのは、膝から下の足だけでした。

 鏡の方を向いて立っているだけの両足。

 店員さんには見えていない様子です。

 服を片手に、やっぱりいいですとも言えず、Aさんは先客にぶつからないように試着室へ入ったそうです。

 着替える気にはならず、すぐに出て来てしまったそうですけど。

 試着中なら、見えている足元もそれなりに動いているはずですが、その足はずっと立ちっぱなしだったとのこと。

 靴も無かったそうです。


 Aさんは、

「足だけでよかったよぉ。着替え中の幽霊さんだったら、開けちゃったら申し訳ないし」

 と、のんびり言っていました。

 結局、その足がどういう存在だったのかは、よくわからないそうです。



 謎の足が見える狭い試着室に、入れるAさんが凄いと思いました。

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