眉毛


 国語のオジサン先生の顔、まじまじ見たのって初めてかも。

 こっちから見て右側。

 先生の左眉毛だけがゴッソリ太いんです。

 いつも、左右の太さ違ってたかなぁ……?


 背を向けて、黒板に教科書の一文を書いています。

 もう一度よく見てみようと、目を向けていました。

 次に先生がこちらを向いた時、やっぱり片側だけがゴッソリ太い……でも、こちらから見て左側です。


 居眠りの多い午後の国語の時間。

 生徒の意識を向けようと、パーティーグッズの口髭か何かを片眉に貼り付けてたりして?

 後ろを向いた隙に貼り替えているのかも……。

 でもそれなら、さすがに誰か気付いているはずです。

 確かに居眠りは多いけど、クラスの半分以上はちゃんと黒板を見てるし。

 ……見間違いだったかな?


 また、こちらに背を向けました。

 こちら側から見て、太眉は確かに左側でした。

 片手にチョークを持って、もう片方の手に教科書を持っているので貼り替えはできないはず。

 私が黒板も見ず、ノートも取らずに凝視していると、先生が振り返りました。

 太眉は消えていました。

 左右同じ。どちらも、いつも通りの太さです。


 やっぱり見間違いだったでしょうか。

 寝ぼけている時間だし……。

 でも、すぐに見付けました。

 太眉だったものは、先生の左モミアゲになっていました。

 やっぱりモサモサは移動していました。


 先生と目が合ってしまい、慌てて視線を逸らしました。

 あれは何でしょう?

 初めは笑ってしまいそうでしたが、移動するモサモサなんて、デカい毛虫みたいで不気味です。

 もう授業には集中できません。

 私が目を向けるたびに黒いモサモサは眉毛やモミアゲに移動し、口髭になっていたタイミングもありました。

 吹き出しそうになりました。


 授業が終わったら友だちに聞いてみようと思いましたが、仲の良い友だち3人とも居眠りしています。

 誰か気付いていないかと見回しても、視線が不自然なクラスメートは居ないようでした。


 授業が終わるころ、黒いモサモサは消えてしまいました。

 髪の毛の中にでも入ったのでしょうか。

 休み時間になり、友だち3人に聞いても案の定、誰も見ていませんでした。

 移動する眉毛、なんだったのでしょう。



 あまり好きではない国語の授業が、今後はちょっと楽しみになるかも知れません。

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