物置部屋


 事務所兼自宅というやつで。

 僕の家は両親の仕事関係の人が、いつも出入りしているんです。

 昼も夜も賑やかです。

 時々うっとうしい事もありますが、一人っ子なので、時々遊んでもらったりお菓子をもらったり。

 僕も事務所の人たちに混ざって、楽しく過ごしていました。



 事務所になっている1階の奥に、けっこう広めの物置部屋があります。

 両親の仕事関係で使う物や要らなくなった物など、ゴチャゴチャと押し込んでいるようです。

 事務所の経費で購入したらしいタコ焼き器とか。

 たまに使う物もあるので、僕が取りに行かされる事もあって。

 そこには、いつも片づけをしているお姉さんが居るんです。

 僕が、

「タコ焼き器、取りに来ました」

 なんて声をかけると、

「あ、はーい。いま出しますね」

 って、探し物もすぐに見付けてくれます。

 ぶかぶかの黒い作業着みたいのを着ていて、長い髪をぐちゃぐちゃっと髪留めでまとめています。

 ほら、子どもの目線なので。

 お姉さんの胸が僕の顔の高さだから。けっこう大きいのがわかるっていうか。

 子どもが言うのも変ですが、垢抜けてないって言うのかな。

 キレイな格好をすれば、キレイになるお姉さんなんだろうなって思っていました。

 夜でも事務所の人が泊まっていたり、人の出入りがあったので、夜中でもお姉さんが物置部屋に居る事も、不思議に思わなかったんです。


 でも、気が付いたんです。

 物置部屋のお姉さんは、いつも物置部屋にいます。

 出退勤するところも見た事ないし、事務所で宴会をしていても出て来ません。

 呼びに行く人も居ないし、話にも出て来た事がありません。

 この事務所、いじめがあるのかなって思いました。

 事務所の人とは別の、何かの在庫管理の業者さんだったり?

 それなら、夜中まで居るのは変ですよね。



 いつも父がデジカメで、事務所の人たちと写真を撮っているのを思い出しました。

 1階の事務所ではなく、2階の父の部屋のパソコン。

 デジカメで撮った大量の写真を、パソコンに保存しているんです。

 その写真の見方くらいは僕にもわかります。

 一年で千枚以上の写真を撮っていて、探すのに時間がかかりました。

 でも、6年前の写真ファイルの中に、今と同じ姿のお姉さんを見付けました。

 事務所の新年会か何かの記念写真。

 みんなでテーブルを囲んで、カメラ目線でピースしています。

 事務所のオジサンに肩を組まれて、苦笑いでピースサインをしているお姉さんが写っていました。

 事務所のオジサンは今より頭の毛が多くて若く見えるけど、お姉さんは今と同じです。


 パチッと部屋の電気がついて、ぎょっとしました。

「なーにしてんの?」

 顔を出したのは父でした。

 気軽な感じで聞いてきたので、僕も聞いてみました。

「このお姉さんだと思うけど、この前、物置部屋で片付けしてた。事務所の人?」

 いつも居るとは言わずに聞きました。

「……」

 父の表情で、なんとなくわかりました。

「誰に聞いたの?」

 と、父が聞きます。

「なにを?」

「事務の子だったけど、物置部屋で亡くなったんだよ」

「事故?」

「うん、まあ」

「ふーん。じゃあ、人違いかな」

 そういう事にしておきました。



 きっと、お姉さんは、物置部屋で自殺したんです。

 近所の人が、うちの事務所で何年も前に自殺があったって、噂しているのを聞いた事がありました。

 作り話だと思ってましたけど。

 

 それから物置部屋のお姉さんは、片付けをしなくなりました。

 壁際に立ったまま、暗い顔で俯いています。

 僕が気付いてしまったこと、お姉さんも気付いたんだと思います。

 僕が幽霊を怖がらないように、ずっと片付けをするふりをしてくれていたんです。

 優しい人なのに。

「ここから出られないの?」

 と、聞いてみると、

「……ここに、居たいの」

 と、お姉さんは悲しそうな声で答えました。

 その会話を最後にして、僕はお姉さんに話しかけるのをやめました。

 僕が誰も居ない物置部屋で喋っていたら、お姉さんがお祓いとかされてしまうかも知れないから。


 でも、お姉さんは今でもずっと、物置部屋の壁際に立っています。

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