クローゼット


 初めてソレが見えたのは、小学校の頃。

 姉の部屋のクローゼットでした。

 俺がイタズラするのをわかっていて、驚かそうと何か仕掛けてたんだと思ったんです。

 でも、きっとあの時から、ソレは見えていたんです。


 

 高校生になって、出来心で。

 女友達の部屋の、クローゼットを覗いたんです。

 少しだけ開けて見たら、ハンガーに掛けられた服が並んでいました。

 その服の全てが、透明なゲル状の何かに覆われていたんです。

 クリーニング屋のビニールを見間違えたわけじゃありません。

 ドロッとした透明の液体が、床に、ぼたぼた落ちていました。

 でも、勝手に覗いたので、聞けなかったんですよね。

 見ちゃいけないものを見たんだと、思うしかありませんでした。


 そして、現在です。

 彼女と同棲し始めて、一か月が経ちました。

 子どもの頃に見えたものなんか忘れていて、彼女の部屋のクローゼットを開けてみたんです。

 その中は、透明なゲル状の何かに覆われていました。

「この、ドロドロなに?」

 って、彼女に聞いたんです。

 勝手にクローゼットを開けている事には怒っていましたが、

「ドロドロ? なんか付いてたかな。どこ?」

 って、聞くんですよ。

 どこもなにも、全体を覆うようにドロドロにまみれているのに、彼女には全く見えていないんです。

 ドロドロを触りながら、服をめくって見ています。

 その手についたドロドロが床に落ちても、彼女は全く気付く様子がありません。

「ごめん、見間違いだった」

 そういう事にするしか、ありませんでした。

 彼女は、そのクローゼットに掛けられている服を着ているんですが、ドロドロがついていた事はありません。

 クローゼットの中にある時だけ、透明のドロドロまみれなんです。

 いつ見てもドロドロまみれです。

 隣の部屋の、自分のクローゼットには何も見えないんですけどね。



 幽霊が見える人の話は聞きますけど、クローゼットの中にゲル状の何かが見えるなんて、聞いたこともないんですよね。

 ネットで検索しても、カビとか虫の巣というくらいで、他の人に見えないドロドロが見えたり見えなかったりっていう話は見付かりませんでした。


 女性のクローゼットに住み着く、透明なゲル状のオバケなんているんでしょうかね。

 自分には、たまたまそれが見えてしまうとか。

 謎です。

 怖いというより、気持ち悪いです。

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