人形


 人形も、怪談の定番ですね。

 ひとりでに動くとか、捨てても戻って来るとか。

 私の人形は、そんな本格的な恐怖じゃありません。



 私の手元にある人形は、祖母の家に飾られていた日本人形です。

 祖母が亡くなって、古い家を片付けていた時に持ち帰ったものです。

 祖父母が元気だったころから、そこに飾られていたのは覚えていました。

 値打物でもないのですけど。

 見知った人形がゴミになってしまうと思うと気が引けて。

 私の部屋の、殺風景だった棚の上に飾ったんです。


 着物の色は深緑。もみじの模様です。

 怪談に出て来る日本人形は、赤や朱色の着物が多いイメージです。

 だから、深緑色の着物を着た日本人形は、怖くないと思っていました。


 でも、不思議なことがあります。

 いつも、表情が違うように感じるんです。

 私の記憶違いや、見る角度による差と言える程度だとは思います。

 昨日は、けわしい表情をしていました。

 今日は確かに、薄く微笑んでいます。

 怒っている人形を、祖母の家から持ち帰った記憶はありません。

 真顔だったはずと思っています。

 とても美人さんな人形なのです。

 険しい表情でも、きりっとした美人と表現できるし、微笑んでいれば、それはそれは女性らしい優しさを感じる表情です。

 どんな表情をしていても、違和感がないのです。

 初めから、こういう表情だったなと思ってしまいます。


 でも、やっぱり後から考えるとおかしいですね。

 微笑んでいる人形なら、いつでもずっと微笑んでいるはずです。

 微笑んでいる時に、いろんな角度から見てみても、険しい表情には見えません。

 人形にも魂が宿るというなら、表情こそ、人形さんがその時の気分で変えたくなるところかも知れません。

 そう思ってしまいます。

 まあ、有り得ない事のはずですけど。


 私がひとりでギャグを練っていたり、何もない所で滑って転んだりしていたら。

 人間の知らないところで、人形たちは爆笑しているのかも知れません。


 そう思うと、ちょくちょく人形たちに目を向けたくなるのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る