姉妹・むかご
私は大学生、すぐ下の妹が高校生、末の妹は中学生。
もうひとり、お嫁に行った姉がいて、女ばかりの4姉妹です。
現在は姉に赤ちゃんが産まれて何かと大変なので、母が手伝いに行っています。
父は東京に単身赴任していて、私は妹たちと田舎の古い家で暮らしています。
ムカゴは、お嫁に行った長女の好物なのです。
赤ちゃんを産んだばかりの姉に美味しいものを食べさせてあげようと、妹3人で裏山に来ています。
ムカゴは、ミニチュアのジャガイモのような見た目をしています。
山芋のツルに出来る、タネと球根の中間のような役割なのだそう。
「ムカゴはツルの一部が肥大してできるんだって。花が受粉してできる種子とは違うの」
調べ物の好きな三女、高校生の
中学生の末っ子、
「じゃあ、山芋にタネはできないの?」
と、聞いています。
「できるよ。タネは風に飛ばされて遠くで子孫を増やす役割で、ムカゴはすぐそばに落ちて親株の近くで子孫を増やす役割なの」
「ふうん。四子は山芋の方が好き」
「山芋は掘るの大変だから。それに、ムカゴは今の時期に収穫しないと、みんな落っこちちゃうんだからね。
「はいはい」
私は、スマホで妹たちの様子を撮影しています。
ムカゴを届ける連絡のついでに、ビデオレターも付けようかと。
妹たちは元気だよ、と。
「毎年、この辺に伸びてたよね」
「今年は無いねぇ」
妹たちは木の上を見回していますが、山芋のツルはなかなか見つかりません。
ざわざわと枝葉を揺らす風も冷たくなりました。
『あるよー。こっちだよー!』
どこからか、長女の声が聞こえた気がしました。
「
「うん。聞こえた」
三子と四子が同じ方向に目を向けています。
「え? ふたりも聞こえたの?」
「うん。こっち」
私がふたりについて行くと、すぐに山芋のツルを見付けました。
「わー、上にいっぱい付いてる」
私と三子は、小さい脚立を担いでいます。
身軽な四子は、葉の落ち始めている木にスルスルと登ってしまいます。
木の上で伸び広がる山芋のツルから、指の爪サイズのムカゴを収穫しました。
3人で採ったムカゴは、散らばらないようにひとつの袋にまとめました。
「さて、次は」
『こっちだよー』
また姉の声が聞こえました。
三子と四子にも聞こえていたようです。
声の聞こえた方へ行ってみると、またムカゴのたくさん付いた山芋のツルが広がっていました。
ふたたび摘み集めたムカゴを撮影していると、三子と四子が手をつないで難しい顔をしていました。
「ねえ、二子姉ちゃん。一子姉ちゃん、産後の肥立ちが悪くて死んだりしてないよね」
と、三子が言いました。
「いやいや。昨日も、ムカゴを送ってほしいって電話きて、元気だったよ」
「一子姉ちゃん、ホームシックかなぁ」
「ホームシックとは言わないんじゃないの。え? 一子姉ちゃんの生霊が来てる?」
「前は4人で、栗拾いとかムカゴ取りに来てたもんね」
「その内に私もお嫁に行っちゃうんだから。ふたりでムカゴ採りに来るのよ」
私が言うと、ふたりは同時に振り返りました。
寂しがってくれるかと思いきや。
ふたりとも無言で目が点になっています。
「どうしたの」
「お姉ちゃん、後ろにジャガイモ生ってる」
「は?」
振り返って見ると、テニスボール大のムカゴがツルにぶら下がっていました。
「でかいムカゴ!」
私と三子が目を丸くしていると、四子がもぎ取りました。
「一子姉ちゃんに似てるよ」
確かに、巨大ムカゴのデコボコが人の顔に見えます。
「うちらの中で一番美人な姉ちゃんが芋顔って事はないでしょう。確かにちょっと似てるけど」
「えー、二子姉ちゃんの方が美人だよ」
嬉しい事を言ってくれます。
「そんなこと言って、好物作ってもらうつもりでしょう」
三子に言われ、四子がえへへーと笑っています。
「お嫁に行った先が楽しくても、こっちで楽しかったのが無くなった訳じゃないって事じゃない?」
三子が、とてもキレイにまとめました。
「そっかぁ」
のんびりと言いながら、四子は巨大ムカゴに笑顔を向けています。
帰り道。手をつなぐ三子と四子の後姿を撮影しています。
「次は干し柿かな」
「干し柿はいつも、お母さんが作ってたからね。帰って来てくれるかな」
「作り方聞いて、うちらで作ろうよ」
「干し柿にも、一子姉ちゃんの顔が出て来たりして」
「お祖母ちゃんかもよ。前は、干し柿作るのお祖母ちゃんだったじゃない」
祖母は、5年前に亡くなっています。
「そうしたら、完全にホラーだね」
「いや、一子姉ちゃんの声が聞こえるのも十分ホラーだよ」
「あれ? それもそうだね」
もちろん、うちの長女はその後も元気です。
送ったムカゴは、炊飯器で炊いてムカゴご飯にしたそうです。
姉の顔に似た巨大ムカゴは、ジャガイモと一緒にポテトサラダになりました。
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