えんぴつ


 大人になってから使うことは少なくなりましたが、鉛筆の書き心地は好きです。

 メモ用紙と一緒に鉛筆を置き、ちょっとした覚え書きや買い物メモを書くために使っています。

 スマホのメモも便利ですが、紙のメモも手軽で気に入っています。



 その日も、買い出しで購入しようと思っていたものをメモするため、鉛筆で書き始めました。

 でも、なんだかヒッヒッと変な音がして書きにくかったんです。

 しばらく鉛筆の先を削っていなかったせいかと思い、鉛筆削りで先端を尖らせました。

 メモ用紙にグルグルと試し書きしてみると、やっぱり妙な音がしています。

『ひいぃー』

 という、女性の悲鳴のように聞こえるのです。

 鉛筆が紙にあたる角度を変えてみても、やっぱり女性の声で悲鳴を上げているように聞こえました。

 今までは音もなく使えていたのですが……。


 この鉛筆は、いつからここに置いているものだったかしら。

 子どもの頃に箱で買った鉛筆と一緒に、もらい物などの鉛筆も混ぜて保管していたものです。

 このキャラクターが描かれた可愛い鉛筆は、近所に住んでいたいくつか年上の女の子にもらったものだったと思います。

 ずいぶん前にお嫁に行ってしまいましたが、なんとなくその子の声に似ている気がしてきました。

 まさか、お嫁入り先で、彼女に何かあったのでしょうか。



 数日後、鉛筆をくれた彼女に、元気な女の子が産まれたと聞きました。

 おめでたい話を聞いた時、私は鉛筆の悲鳴を全く連想しませんでした。しばらく経って、またその鉛筆を使おうとした時に思い出したんです。

 もしかすると、大変な出産中の彼女の気持ちが、私の鉛筆まで伝わってきたのかも知れません。

 不思議なことのようですが、妊娠出産の神秘はそのくらいの現象も起こしそうな気がするんです。

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