ミジカイダン

管理霊園

　秋のお彼岸なので、お墓参りに行ったんです。

　枯れた花の始末や、お墓周りの掃除なんかもしてもらえる管理霊園。

　こちらは気楽なものです。

　敷地の隣にお花やお線香を売っていたり、キレイなトイレもあって。

　お墓参りが済んで、帰りのバスを待つ間にトイレを済ませることに。

　ちょうど私の前を、高校生くらいの女の子がトイレに駆け込んで行ったんです。

　個室が３つ並んでいて、女の子は一番奥に入っていたので、私は一番手前に入りました。

　そして、どこからか、

「おばあちゃーん」

　と、女性の声が聞こえてきたんです。慌てて探しているような声でした。

　私が個室から出たタイミングで、その女性がトイレに入って来て、

「おばあちゃん？」

　って、個室に声を掛けてるんです。

　いまどき珍しい感じの、ちりちりパーマのおばちゃんで。

　喪服じゃありませんが、グレーのスーツを着ていました。

　一番奥の使用中の個室をノックしながら、

「ちょっとお婆ちゃん、タクシー来ちゃうから！」

　って、言ってるんですけど、その個室に入ってるの、どう見ても高校生くらいの若い女の子だったんです。

　そっちで水を流す音もまだ聞こえていなかったので。

　それで私、その女性に声をかけたんです。

「そこに入られたの、若い方でしたよ」

　と、私が言うと、ちりちりパーマの女性は、驚いた表情で個室の中に、

「えっ、やだ、ごめんなさい」

　と、声をかけました。中から女の子が、

「あ、はい」

　って、答えていて。

　ちりちりパーマの女性は私に、

「あの、髪を紫に染めたお婆さん、見てませんか。ちょっと派手なピンクの杖をついてるんですけど」

　と、聞いてきました。

　それは見ていれば忘れないだろうと思って。

「見てないです」

「やだ、どこ行っちゃったのかしら」

　私に会釈しながら、その女性はトイレを出て行ったんです。

　私もすぐに、手を洗ってトイレから出たんですけどね。

　トイレの前には休憩所があって、ベンチが並んでいます。

　すぐ目の前のベンチに、紫髪のお婆ちゃんが座っていました。

　ショッキングピンクの杖が傍らにあって。

　さっきの、ちりちりパーマの女性、お婆ちゃんがトイレに行ってると思い込んで、霊園内の別のトイレに行っちゃったのかしらと思ったんです。

　なので、そのお婆ちゃんにも声をかけました。

　もう、ちりちりパーマという表現しか思い浮かばなかったので、

「すいません。ついさっき、グレーの服で、ちりちりした感じのパーマの女性に、紫色の髪のお婆ちゃん見かけませんでしたかって聞かれたんですが。お連れさんじゃありませんか」

　って、聞いたんです。

　ちょっと驚いた顔をされてましたけど、

「あらー、そうですかぁ」

　って、ポケットからスマホを取り出して、簡単に操作してね。

　スマホあるなら電話できるし、良かったと思って。

　ハイテクなお婆ちゃんだなと思っていたら、

「この人ですか」

　って、写真を見せてくれたんです。

　ちりちりパーマの女性と、お婆ちゃんが一緒に写っている写真でした。

「あ、そうですそうです。この女性が、そこのトイレに探しに来られてましたよ」

　私が答えると、

「そうですかぁ。まだ心配させちゃってるのねぇ」

　って、写真を眺めてるんですよね。

「連絡取れそうですか？」

　って聞いたら、ニコニコして頷きながら、

「私の娘なんですよ。いま、この子のお墓参りして来たところなんです」

　なんて、言うんですよ。えっ、と思って。

「いい歳になっても騒々しくてねぇ。ごめんなさいね」

　入口の方から、

「おばあちゃーん」

　って、さっきとよく似た声が聞こえたので、見たら、ちりちりパーマの女性よりずっと若い女性でした。

「お婆ちゃん、タクシー来たよ」

「あぁ、そう。今ねぇ、あんたのお母さんが来てくれたのよ」

「なに言ってんの。お迎えはまだ先だよ」

　私がポカンとしていたら、お婆ちゃんが、

「お先に失礼しますね」

　って、会釈して、お孫さんらしい女性も、なにかなって顔しながら会釈して行ってしまいました。

　お孫さんが『お迎えはまだ先』と言っていたので、きっと、お婆ちゃんがボケちゃってる訳ではないんですよね。

　そういう事って、あるんだなって思いましたよね。