台風


 最近の台風って、おかしいですよね。

 もちろん台風だけでなく、ゲリラ雷雨や集中豪雨だったり、住宅地で竜巻だの土砂崩れだの。

 『予測を超える』とか『観測史上初めての』なんて言葉を聞かない季節がなくなりました。


 ……いえ、異常気象への愚痴を言いたいわけじゃないんです。

 現在、我が家は台風の暴風雨にさらされています。



 さっき、ベシャッと、窓に何かあたる音が聞こえました。

 ベランダとは言えないような、エアコンの室外機置き場と手すりを兼ねたようなものが、窓の外についているのです。

 先ほどの、ベシャッという音。

 ボロ雑巾やゴミならいいですが、風に飛ばされてきた鳥だったらどうしましょう。


 カーテンを開けてみるべきでしょうか……。

 いや、鳥って確か、勝手に保護してはいけないのでしたよね。

 できる事は何もありませんね。


 結論を出し、ホッとしているところ。

 ベシャッと、また窓の外から同じような音が聞こえました。

 ……また? 

 と、思っていると、ベシャベシャッと、連続して同じ音が聞こえました。

 これはもう、どこからかたくさん飛ばされてきた何かが、このマンションにぶつかって来ているのでしょう。

 きっと、隣の部屋の窓にも、同じ音がぶつかっているのです。


 見るのも怖い、見ずに何だかわからないのも怖い……。

 『シュレディンガーの猫』とは違いますけれど。

 どうしましょう。悩みます。



 やらなくちゃ、やりたくない、と悶々もんもんとし続けながら、けっきょく夏休みの宿題は休みの最後まで残してしまうタイプでした。

 さっさとやってしまえば良いということは、自分でわかっているんですよ?

 でも、この腰の重さは、そんなに簡単に、やってしまおうという行動に移れないんです。


 カーテンの向こうを見ようか見まいか、朝まで悩みそうです。

 頭の隅では、朝になれば答えがわかると理解しています。

 だけど、まだ朝ではありません。

 今は今なんです。

 今するべき事があったと、後から思うのではないかと予想してしまいます。

 考えるだけ無駄です。わかってます。また、ベシャッと聞こえました。



 もう、諦めて寝てしまいましょう。

 眠れるかわかりませんが、ベッドに入りましょう。


 私が部屋の電気を消そうとスイッチに手を伸ばすと、どすどすと廊下を近付く足音が聞こえました。

 母がドアを開けたのです。廊下から風が入り、カーテンが揺れました。

 大きく揺れたので、目を向けてしまって……。

 ありえないようなジャストタイミングで、ベシャッとぶつかってきました。


 黒い塊でした。


 すぐに揺れたカーテンは落ち着いたので、なんだったかわかりません。

「すごい風だね!」

 それだけ言って、母は廊下を戻って行きました。

 言われなくてもわかってますが。家の中の安全確認中のようです。


 それよりも、黒い塊です。

 カラスではなさそうな、丸いものでした。

 いっそ、カラスなら理解に及ぶのに。それも困りますけど。



 結局、あまり眠れないまま朝になりました。

 台風は通り過ぎて、今日は暑くなりそうです。

 カーテンを、恐る恐る開けてみました。

 窓の外の手すりには、ゴミなども残っていませんでした。

 外壁もキレイで、鳥の羽も見当たりません。

 結局、あの黒い塊はなんだったのでしょう。


 窓掃除もしていないので、ガラスの汚れに丸い跡がいくつも残っていました。

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