ギター


 アコースティックギター。アコギです。



 近道に使っている、住宅街の裏道のような場所。

 雑木林があり、粗大ゴミの不法投棄場所になっていたりするんです。

 そこに、ギターが捨てられていた事がありました。


 若いころ、ちょっとかじって、すぐに挫折したのでひと目でわかりました。

 薄茶色のアコギが捨てられていたんです。

 けっこう安価に売られているので興味をもって買う人も多いですが、大きいので、処分に困ってこういう所に捨てちゃうんですよね。

 あ、自分のはまだ、納戸にしまい込んでありますけどね。


 雑木林に捨てられていたギター。

 なにかゴソゴソ聞こえたんです。

 弦は切れているようで、5弦しか残っていません。

 6本の弦の内、5番目のみが残っている状態です。

 アコギにはサウンドホールという穴があり、ボディーの中は空洞になっています。

 地面なので鳥小屋はにならないかも知れませんが、中にネズミでも住み着いているのかと思いました。

 ギターが危険物のはずはないと思って、覗き込んだんです。

 子ネコだったりしたら、可愛いかなと思っていたんですけど。


 僕が覗き込むより先に、ホールの中にオッサンの顔が現れました。

 ギターの中からこちらを見上げるように、オッサンの目と目が合いました。

『勝手に捨てんなよ』

 野太い声が、ギターの中に響きました。

「俺が捨てたんじゃねぇし」

 思わず、言い返しましたよね。


 舌打ちされたと思うんですよね。

 ギターの中から。

 すぐにギターの中の顔は見えなくなりましたが、不機嫌そうな顔だったのは覚えています。

 何様……ではなく、何者だったのでしょうね。



 翌日、そのギターは無くなっていました。

 他の不法投棄ゴミは残っているので、誰かが拾って行ったのでしょうか。

 使わなくなったものでも、処分に困ったものでも、不気味で手に負えないものでも。

 不法投棄はいけませんね。

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