スープ
『昼間はまだ暑いが夜になると風が心地よく』
その日の気温や天候を、ひと言ずつ日記帳に書き記しています。
昨日も同じような一文だったので、『虫の声』とか『道行く人の服装』という文言でも入れましょうか。
考えていると、網戸にしている窓の向こうから、
「ねえねえ」
と、若い女性の声が聞こえました。
私が目を向けると、もちろんそこには誰の姿もありません。
ここは、マンションの8階。
ベランダもない窓なので、その向こうに人がいるはずもありませんが、
「ねぇ、ねぇ」
また聞こえます。
網戸にしているので、他の階から聞こえているのだと思いました。
でも、妙に声が近いような気がして、もう一度窓に目を向けましたが、やっぱり誰の姿も見えません。
「ねぇ。温かいもの、何か飲ませて」
姿の無い声が、網戸のすぐそばで言いました。
自分に言っているとは思いませんでしたが、
「温かいもの?」
と、聞き返してみたんです。
「緑茶も良いけど、スープとかが良いなぁ」
と、声は言いました。
会話が成立したのか、私の言葉はなくても良かったのか。わかりません。
台所からインスタントのコーンスープを作って来て、窓際に置いてみました。
変化があるでしょうか。
ねえねえという声は、聞こえなくなっています。
数分後、窓際を確かめました。
スープは半分ほど減っています。
数分で蒸発するものでもないでしょう。
網戸越しに誰か、スープを飲んで行ったのかも知れません。
もちろん、この部屋に私以外、誰も居ませんでしたよ。
夏の終わり、ちょっと不思議な体験でした。
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