砂場
僕の通勤途中に、小さい公園があります。
その公園は最近、改装工事が入ってキレイになりました。
小さい鉄棒と小さいブランコ、小さい砂場と水道があります。
帰り道、人通りのない夜でも公園は街灯に照らされています。
その夜は、いつもより帰りが遅くなりました。
静かな住宅地の中、その公園の横を通りかかると、小さい砂場の上に何か伸びているのが見えました。
街灯が明るいので良く見えるんです。
小さい砂場の中、突き出ているのは人間の腕のようでした。
一瞬、ドキッとしましたけどね。
きっと、マネキンの腕でしょう。この砂場はとても浅いんです。
公園の改装工事中、コンクリの四角い溝ができて何かなと思っていました。そこに砂が入れられたので、砂場だったのだなと。
砂の中から腕が突き出ていても、砂の中に人が埋まれるほどの深さはありません。
どこかに捨てられていたマネキンか何かの腕を、誰かがイタズラして砂場に突き立てたのだろうと思ったんです。
翌朝、出勤時に見てみると、砂場の腕は消えていました。
早朝散歩のご近所さんが片付けたのかも知れません。
でも、その日の帰り道。
今度は3本の腕が出ていました。
手のひらを夜空に向ける形で3本、砂場から伸びています。
変なイタズラです。
マネキンの腕だとしても、子どもが見たら泣いてしまうのではないでしょうか。
また明日の朝になったら、誰かが片付けてくれると良いのですけど。
翌朝、やっぱり腕は消えていました。
誰のイタズラなのやらと思っていたんです。
その日の帰り、また腕が伸びているのだろうかと、砂場を見てみました。
やっぱり、腕はありました。
10本以上、全て同じような太さの腕……。
でも昨日までと違います。
砂場から突き出たたくさんの腕が、ゆらゆらと揺れていたんです。
柔らかそうなイソギンチャクを連想しました。
ただのマネキンは、あんなに柔らかそうな動きはしないでしょう。
最近は、あんな悪趣味な玩具が売られているのでしょうか。
誰か隠れていて、通行人が驚くのを見ているのでしょうか。
最近のユーチューバーとやらなら、そんな悪趣味な悪さもしそうな気がしてきました。
そう思うと、何も怖くありません。
公園に入り、砂場に近付いてみました。
僕が砂場に近付くと、風になびくように揺らめいていた腕たちの動きがピタッと止まりました。
こちらも足を止めると、動きを止めていた腕の1本が、ズボッと砂の中にもぐり込みました。
他の腕たちも、ズボズボと砂にもぐって行きます。
ひとつの穴も残さず、砂場はいつも通りの砂場に戻っていました。
「……」
静かな夜の住宅地。イタズラ仕掛人の笑い声なども聞こえません。
僕は、見なかったことにしました。
あの動きは、ハイテクな最新の玩具でも無理のように思います。
昼間、砂場で遊ぶ子どもが足を掴まれたりしないか……なんて少し心配でしたが、僕に出来ることは何もありません。
でもあれ以来、砂場の腕を見ることはなくなりました。
一体、なんだったのでしょう。
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