金目鯛

 ※フィクションです。スーパーや鮮魚販売等への他意はありません。




「今年のサンマ、小さくても高いわよねー」

「去年も安くはなかったですけど、なにもかも値上げで困りますよねぇ」

 なんて、近所の奥様との立ち話で聞かせてもらった話です。



 海なし県の一般的なスーパーでは、新鮮な尾頭付きの魚ってアジとサンマくらいです。

 他は切り身か、シシャモのような小さいものばかりで。

 でも、先日は大きな金目鯛きんめだいが、サンマの隣に並んでいたそうです。


「目が合っちゃってね。濁ってもいない目がギョロギョロしてたから、活きが良いのかなって思って。お爺ちゃんがなかなか釣りに行けなくて、大きい魚をさばきたいなんてぼやいてたから。たまには良いかなと思って、その目が合った金目鯛を買ったのよ」

「あそこのスーパーで、まだ生きてる魚なんて珍しいですね。お刺身もできそう」

 と、私がうらやましがっていると、

「それが、食べてないのよぉ」

 と、奥様は溜め息交じりに言っています。

「冷凍しちゃったんですか?」

「庭の池で泳いでるわよ」

「えっ?」

「お爺ちゃんが、鯛じゃないから飼うって。確かに、その1匹だけ目が大きくて元気だったのよね。鯛って書いて売ってたんだから返金してほしいくらいだけど、もう池に入れちゃってたのよ」

「そんなに元気だったんですねぇ。なんて魚だったんでしょうね」

「さぁ。でも淡水魚なんじゃない? 錦鯉と仲良く泳いでるから」

「……それは逆に、気付かずに食べちゃわなくて良かったじゃないですか?」

「だって、けっこう大きかったけど魚1匹が2千円もしたのよぉ。家族分のステーキ肉が買えたわよぉ」

 と、呑気に笑っていました。



 昔、どこかのスーパーで有毒魚の混入がニュースになった事がありました。

 その手の話なら、けっこう問題ですけどね。

 でも、あのスーパーで、生きた新鮮な魚が買えるとは思えないんですよね。

 その金目鯛に似た謎の魚、本当にその鮮魚コーナーで売られていたものなのかしら。誰でも買う事の出来るものではなかったのではないのでしょうか。

 その奥様にしか見えていなかったとか、レジの人には普通の金目鯛にしか見えていなかったのではないか、とか……そんな事を考えてしまいます。


 ちょっと近い内に、お庭の池を見せていただきたいものです。


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