懐中電灯


 朝はまだ暗く、夕方も暗くなるのが早い季節になりました。


 運動不足解消のため、朝夕に近所をひと回りウォーキングしています。

 夏場は早い時間と夕方暗くなってからでなくては、暑くて歩けません。

 そのまま同じ時間に歩く習慣になっているので、冬場は当然、もっと暗い時間帯に歩くことになります。

 それでも、早朝出勤のサラリーマンや、犬の散歩をする人をチラホラ見かけます。


 でも、最近は気になる事が増えました。

 私と同じようにウォーキングをしている人だと思うのですが、懐中電灯を持って歩いているんです。

 懐中電灯を持った手で腕を振って歩いているらしく、暗い道の向こうに明かりがチラチラ動いているのが見えるんです。

 住宅地の一本道で、向こうから懐中電灯の明かりがチラつきながら近づいて来るので、その内にすれ違うだろうと思って歩いて行くんです。

 でも、すれ違ったことは一度もありません。

 住宅地なので、始めは途中の家に入ったのだろうと思っていました。

 でも、別の道でも見かけたんです。

 やっぱり、すれ違うことなく、チラチラしていた明かりはいつの間にか消えてしまいます。


 懐中電灯の、明かりしか見えないんです。

 懐中電灯を持って歩く人の姿が見えた事はありません。

 手に持って歩いていると思われる揺れ方の、明かりが見えるだけです。

 街灯があるので、私は明かりを持ち歩きません。

 夜道とはいえ暗さに目も慣れているので、懐中電灯を持っているはずの人のシルエットくらいは見えるはずなのですけど。



 何度も見かけていると、懐中電灯らしき明かりが見える場所は、いつも同じ辺りだと気付きました。

 よく見かけるのは3か所。

 空き家の前ばかりです。

 1軒は一人暮らしのご老人が亡くなったばかりの家。

 もう1軒は住人が夜逃げしたという噂の家。

 残りの1軒は、いつ頃から空き家なのかわからない古い家です。少し前にボヤ騒ぎがありました。

 そして最近、近所に住む友人のアパートの前でも見かけるようになりました。

 照明も明るいアパートですが、やっぱり懐中電灯のような明かりが揺れているだけです。

 それを持っているはずの人の姿は見えません。

 車のライトの反射や機械的な揺れではなく、人が手で動かしているような揺れ方の光なのですけど。



 いつか、その正体がわかるでしょうか。

 不吉の予兆などではないことを願っています。

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