レンガ階段


 友人宅の最寄り駅で、時々見かける少年がいます。



 待ち合わせ場所は駅の階段の下なのですが、すごく埃っぽいんです。

 車で迎えに来てくれる友人が『着いたよー』と連絡をくれるまで、階段の上で待っています。


 その階段。

 一段一段、細いレンガを横にズラーッと並べたデザインなんです。

 その階段の途中に、しゃがみ込んでいる少年がいます。

 指差し確認のように、横に並ぶ細いレンガをひとつひとつ数えているようです。

 以前は、階段の真ん中にしゃがみ込んで危ないなぁ……と、思うだけでした。

 その少年が転げ落ちるのを見るまで、普通に近所の子だと思っていたんです。


 初めて見た時はビックリしました。

 階段の下にはバス停もあるので、電車からの乗り継ぎで、慌てて階段を駆け下りる人もいるんです。

 バス停の方を見ながら駆け降りて行くオジサンでした。

 バタバタとした足音が荒っぽかったので、危なっかしいと思っていたら、案の定、しゃがみ込んでいる少年にぶつかりました。

 少年はゴロンと一回転して、いくつか下の段で止まりました。

 階段の上からは、少年の表情が見えません。

 でも、何事も無かったように、下の段でレンガを数え始めたんです。

 少年にぶつかったオジサンは、振り返りもせずに走り去っていました。


 これまでに3回、駆け降りる人がぶつかって、少年が転げ落ちる場面を目撃しました。

 いくらバスに気を取られていたと言っても、少年が転げる勢いでぶつかって気付かないはずはありません。

 小さい子を階段から蹴り落としておいて、見向きもせずに行ってしまう人ばかりでもありませんよね。

 でも、3回とも、ぶつかった人たちは気付きもしない様子で行ってしまいました。

 少年も転げ落ちた段で、気にせずレンガを数え続けています。


 きっと、見えてはいけない少年なのですよね。

 自分から声をかけてみる気にはなりません。

 もちろん、ぶつかってみようとも思いません。



 ただひたすら、横に並ぶレンガを数え続けている謎の少年のいる階段。

 それ以上の事は、何もわかりません。

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