道路のシミ


 アスファルト道路に、黒いシミがついている事がありますよね。

 ジュースか何かこぼしていたり、車のマフラーからポタポタしたものだったり、犬のおしっこだったり。

 自宅から駅まで行く途中には、いつも同じ場所に黒いシミがついています。



 秋晴れが続き、道路は乾いています。

 灰色のアスファルト道路に、いつもある黒いシミ。

 そのシミは、民家の門の前にあります。

 始めは黒くなったまま消えなくなっている、何かの跡だと思っていました。

 でも少し前から、いつも形が違っている事に気が付きました。

 同じような大きさですが、丸かったりいびつだったり。

 散歩中の犬が、いつも同じ場所でおしっこをしているのかなと思っていたんです。


 そして最近。

 その黒いシミが、徐々に大きくなり始めました。

 ずっと人の頭ひとつ分くらいの大きさでしたが、現在は肩幅と同じくらいの楕円になっています。

 民家の門の前で、謎の黒いシミが少しずつ大きくなっていきます。

 どこまで大きくなるのか。

 翌日の様子を見るのが、少し楽しみになっていました。

 でも、楽しむようなものではなかったんです。


 つい先日、とうとう黒いシミの正体に近付きました。

 門前に黒いシミのある、民家の前の真っすぐな道路。

 私が歩いていると、その民家から高校生くらいの男の子が出て来るのが、遠くから見えました。

 大きめのマグカップを持っていたので、犬のおしっこのニオイ消しに水でもかけるのかと思ったんです。

 しゃがみ込み、男の子はマグカップの中身を黒いシミに注ぎました。

 黒い液体です。

 それは道路に広がることなく、黒いシミに染み込んでいくように見えました。

 男の子はしゃがみ込んだまま、真顔で黒いシミを見下ろしています。

「おいで」

 男の子が、黒いシミに言葉をかけました。

「おいで。早くおいで」

 もう一度言葉をかけてから男の子は立ち上がり、民家の中へ戻って行きました。


 なんとなく怖くなりました。

 道路の手前から眺めていた私は、黒いシミの前を通らず横道に曲がりました。

 私は目も耳も、人より良いと思っています。

 確かに男の子は、黒いシミに向かって『おいで』と、言っていました。



 翌日から、通る道を変えました。

 あの黒いシミの正体は不明です。

 でも徐々に大きくなる黒いシミから、本当に何かが出て来そうに思えて怖ろしくなりました……。

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