カーブミラー


 駅から予備校までの近道で、人気ひとけの少ない住宅地を通るんです。


 その途中の十字路に、古く大きなカーブミラーがあります。

 以前、別の曲がり角でチビッ子の自転車が飛び出して来た事があったので、見通しが悪い交差点ではカーブミラーも確認するようにしています。


 でも、その住宅地のカーブミラーは、別のものに目がいきます。

 カーブミラーが映している角度に、民家の窓が見えてしまっているんです。

 生垣が部分的に枯れていて、隙間からその家の窓の中が丸見えで。

 これって良いのかなぁなんて思いながら、いつも左右の安全確認ついでに眺めていました。

 その家は空き家のようで、カーブミラーで見える窓の中はいつでも真っ暗。

 カーテンもボロボロです。

 椅子や棚なども倒れて、空き巣にでも入られたように荒れています。

 もちろん、人の気配はありません。



 でも、この夏ごろから、誰かがその空き家にマネキンを置きました。

 空き家の中も不法投棄場所になってしまうのでしょうか。

 元々あったマネキンに光が差し込んだかなにかで、私が気付いたというだけなのかも知れませんけど。

 でも、誰かが入り込んでいるのは確かのようです。

 マネキンの着ている服が、見るたびに変わっているんです。

 初めてマネキンに気付いた時は、何も身に着けていませんでした。

 その数日後、白いスリップのようなものを着せられていて驚きました。

 明るい色のワンピースの日もあれば、Tシャツにジーンズという服装の日もありました。

 今日は、リクルートスーツのようです。


 空き家に入り込んだ誰かが、マネキンを着せ替えて遊んでいるのかも知れません。

 でも、その辺りで人とすれ違った事がないんですよね。

 毎日のようにマネキンを着せ替えに来る人が、本当にいるのでしょうか。


 人知れずマネキンが、勝手に着替えを楽しんでいるのかも知れない……。

 そう思うと、カーブミラーを見ずにはいられないんです。

 直接、家の中を覗く勇気はありませんけど。

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