ミジカイダン

洗濯機

　自宅の洗濯機が変です。

　深夜電力で洗濯しようと、寝る前にスイッチを入れています。

　洗濯物を入れて内蓋を閉じると、湿気で曇った内蓋に自分の顔が映ります。

　内蓋に映る自分の顔は、いつも眠そうでくたびれた顔をしています。

　その顔に最近、違和感があります。

　鏡とは違うので、自分の顔がハッキリと映る訳ではありません。

　でも、なんとなく自分の顔ではないような気がしてきます。

　洗面所の鏡を見れば、いつも通りの不細工……いつも通りの自分の顔です。

　洗濯機の内蓋は、水滴が渇いた水垢がカリカリになってしまっていて、多少拭いた程度ではキレイになりません。

　15年以上使っている洗濯機なので汚れはスルーできますが、ふと映る自分の顔はなんだか気になりました。

　徐々に、自分の顔が変わっていくように感じるのです。

　目が黄色く濁って、口は半開きになっています。私は口を閉じているのに。

　洗濯機を回すのは夜の遅い時間なので、気持ち悪いなと思っていました。

　気になるので、洗濯機を回しながら様子を見ていました。

　相変わらず、私の顔がこちらを見上げています。

　見下ろす自分の反射が、自分を見上げるように見えるのも、なんだか不思議です。

　水がある程度満たされると、回転が始まります。

　内蓋に映る自分の顔が、洗濯槽の回転と同時に回り出しました。

　いま思えば、おかしな話です。

　自分の顔が妙な映り方をするのは内蓋です。その上の外蓋を閉めなければ洗濯機は動き出しません。

　小さな透明窓しかない外蓋越しに、内蓋の全体を見ていたのです。

　まるで洗濯機の中に、人が入った状態で回り出したように見えました。

　慌てて停止ボタンを押し、外蓋を開けました。

　いつも通りの、自分の顔が内蓋に反射しています。

　内蓋も開けてみましたが、当然、洗濯機の中に人など入っていません。

　疲れているのでしょうか。

　もう一度、洗濯開始すると、今度は妙なものが見えることなく回り出しました。

　脱水まで完了してから、湿った洗濯物をハンガーに干していくのも面倒な作業ですよね。

　洗濯槽の空きスペースを見ると、中に入ってみたいなんて思う事はありました。

　やっぱり、疲れているのでしょうか。

　15年以上、私の洗濯物をキレイにしてくれている洗濯機が、

『ひと休みしろよ』

　と、言ってくれている気がしました。

　少し高さがありましたが、私はなんとか洗濯槽の中に入りました。

「ありがとう」

　洗濯機に、お礼を伝えました。