スパ――ン!
先日、久々に友人と会う機会があって、友人おススメのお店へ行ったんです。
スナックなのか、バーなのか。
そういう場所には詳しくないんですが、大人っぽい雰囲気のお店でした。
友人と私のふたりだったんですが、4人座れるボックス席のようなところに案内されました。
適当にお酒や食べ物を注文して、久しぶりだねーなんて話していたんです。
奥の方の席だったんですが、店内の他のお客さんたちの様子も横に見えていたんですね。
お洒落な雰囲気で、カラフルなカクテルを飲んでいる人が多かったです。
私たちの席には黒ビールがきて、乾杯して。
「最近どうなの?」
なんて近況報告し合っていたら、カウンターの方から、スパ――ンって、軽快に響く感じの音が聞こえたんです。
急に聞こえたから驚いてしまったんですが、カウンター席に座っている女性のお客さんが、カウンターの上を手で叩いた音だったみたいで。
中にいる店員さんと、楽しそうに話している様子でしたけどね。ちょっとビックリしました。
まあ、気にせず、大盛サラダとか頼んだのがきたので、小皿に取り分けたりしてたんです。
そうしたら、また同じ女性の席からスパーンって聞こえて。
時々、机とか膝をパーンっと叩く癖のある人っているじゃないですか。
『そうなのよぉ』とか『そう言えばさぁ』みたいなタイミングで机を叩く人が職場にいたので、そういう癖なんだろうなと思いました。
店内のBGMもけっこう賑やかだったので、そんなに気になる訳じゃなかったんですけどね。
それでまた、少し経ってからスパーンって聞こえて、急に聞こえるからやっぱりビックリしてしまって。
「さっきからあんた、何にビックリしてるの」
って、友人がお店の中を見回すんです。
そんなに離れてるわけではないので、私は声を抑えながら、
「カウンター席にいる女の人がさ。パーンってするたびに、音でビックリしちゃって」
と、テーブルを叩く真似をしながら話したんです。
でも、友人は首を傾げて、
「いや、このお店、カウンター席ないし」
って、言うんです。
あれ、カウンターって言わないのかなと思って。
「そこの、奥にボトルが並んでる棚が見える手前のさぁ」
友人からも見えている角度なんですが、首を傾げるんですよね。
「確かにカウンターはあるけど、席はないよ。椅子ないじゃん」
と、友人に言われて、やっと気付いたんです。
椅子に座ってるものだと思い込んでいましたが、カウンターの前に椅子は無かったんです。
その女の人は椅子に座っている格好で、宙に浮いてたんですよ。
背の高い椅子に座ってるくらいの高さで、黒いハイヒールが床から浮いているのも見えてるんです。
空気椅子の女の人を友人が不思議がらないので、見えてないんだなって思ったんですよね。
友人はそういう話が好きなわけではなかったので、こういう服装のこういう女の人が、なんて話はしませんでした。
「あれ、座ってるように見えたんだけどなー」
くらいな感じで、ごまかしました。
ずっと、私には見えていたんですけどね。
青緑と黒の斑模様みたいな、タイトなワンピースを着た女性でした。
バーカウンターがよく似合う、色っぽい笑顔の女性。三十代前半くらいだったと思います。
カウンターの中に店員さんはいましたが、奥のキッチンから出された食事にトッピングをしたりお酒を用意したり、ずっと忙しそうに動いてたんですよね。
その女性と、話している様子はなかったんです。女性の方は店員さんを見ていましたけど。
私たちがお店を出るまで、スパ――ンっという軽快な音は何度も聞こえました。
あの女性は、どういう存在だったのでしょうね。
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