ミジカイダン

揺れる

　ロッキングチェアーが、よく揺れています。

　床に着く部分が弧を描いていて、座って背もたれに寄り掛かると、程よく揺れる木製の椅子です。

　スカーフや膝掛をかけた、お婆ちゃんが座っているイメージがありますが、うちのロッキングチェアーは祖父のお気に入りでした。

　その祖父もすでに他界し、祖母は施設に入っています。

　日当たりのいい祖父母の部屋に、ロッキングチェアーは置かれています。

　よく揺れています。

　当たり前にゆらゆらするので、風などのちょっとしたことで揺れるものだと思っていたんです。

　祖父母が使わなくなっても、掃除をしないと床が傷みます。

　揺れ方が不思議だと気付いたのは、ロッキングチェアーの下に掃除機をかけていた時でした。

　意外とズッシリしていて、隙間風程度では揺れそうにないと思ったのです。

　床が傷んで傾斜がついている訳でもないはずです。

　怪談やホラー映画など好きなのですが、見えない存在が揺らしている可能性に行きつくまで時間がかかりました。

　今でも、原因は椅子や床などにあるのではないかと思っています。

　もし椅子を揺らしているのが見えない存在だとすれば、祖父が帰って来ているということでしょうか。

　それとも、施設に入っている祖母が家に帰りたがって、生霊になって来ているのでしょうか。

　ロッキングチェアーそのものが、祖父との思い出を大切にして『揺れる』という現象を起こしている可能性もなくはないのかも。

　怪談やホラー映画なら、こんな時、どうやって原因究明していたでしょう。

　進展待ちでしょうか？

　『その内に月日が経ち、新たな事実や不可解な状況が出てくる』といったところでしょうか。

　祖母は、施設で楽しそうに過ごしています。

　自分の足で医者に行かなくて済むから、すごく楽と言っていました。

　その笑顔は本心だと思っています。

　ロッキングチェアーは時々ゆらゆらするだけで、なにも困った事はありません。

　ギシギシ音がするわけでも、揺れる以上の動きを見せるわけでもありません。

　ひとりでに揺れていることに気付いてから数年が経ちますが、今もそのままです。

　よく揺れています。