第27話 VRバトラー・ディアラちゃん。



 ハンガーミートでセルクさんとお昼を食べて、その後も色んな場所で遊んだ日の夕方、僕はおじさんにお願いして、シリアスにエフェクターを付けてもらう。

 作業自体はそう難しい事も無く、二○分程度で全部終わり、工賃も計算する方が面倒なレベルだと言われてオマケして貰えた。

 しかし、その代わりVRバトルの観戦優先権を強請ねだられたので、仕方なく渡す。

 VRバトルは、人気が高いバトラーの試合は入場制限が掛かるらしく、だけどバトラーから優先権を貰った観戦者は制限を無視して観戦出来るそうだ。

 この高度ネットワーク技術が栄えた時代で、観戦の入場制限が着くとかヤバくない?

 試合観戦は何かしらのVR機材で観戦しても良いし、単純に端末で見ても良い。


「…………嘘じゃん」

『着替えると良い。栄えある初戦、視聴者が極小数だとしてもアーカイブにはデータが残る。後々に閲覧数が伸びても恥ずかしくない様に、気合いを入れた』


 僕とセルクさんが買い物してる間に、シリアスがその演算能力までフル活用してコーディネートしたらしいは、既にサンジェルマンへ届いていた。

 明らかに特注品で、ベースは二回目のオスシ会へ着て行ったクラシカルなロリータ衣装に似てる可愛らしい、それはもう可愛らしい服だった。

 前回と違って、これはハッキリとゴシックロリータって分類の服らしく、シリアスのコックピットであるゴシックローズシリーズのカスタムコックピットブロックと合わせてデザインしたそうだ。

 うん、僕も、これを着て乗ったら映えるだろうなって思う。

 気になってチラッと伝票を見たら、二万シギルちょっとだって。

 ……………………二万ッ!? まっ、二万シギルオーバーなのっ!? 服一着でッ!?


「し、シリアスっ?」

『最高の出来栄え』

「いや、うん。出来は良いと思うよ、僕も。でも、これ、これを一二五人に着せたらデザリア買えちゃうって分かってる?」

『肯定。つまり、それだけラディアが可愛くなる。素晴らしい事』


 だ、ダメだ、シリアスの陽電子脳ブレインボックスがパッパラパーになってる……! 陽電子脳ブレインボックスの修理って何処に出せば良いのっ!?


『さぁ、やる』

「……わ、分かったよ。モジュールもセットして、…………声質とかエフェクトとか、全部任せて良い?」

『勿論』


 自分用の可愛い声とか、自分が映える可愛いエフェクトとか、それを僕が自分で選ぶとか、控え目に言って拷問だ。変則的な処刑ですらある。

 なので、もうノリノリなシリアスの演算能力で、僕に合う声とか、演出とか、全部選んで貰う。正直もうモチベーションがヤバい。勿論下の方でって意味だ。

 おじさんはまだお仕事をするみたいで、可愛い服に着替えてヘアセットもした僕は、ハンガーを一個借りて早速シリアスへ乗り込む。

 シリアスが知らぬ間に買ってた『オートメイクプリンタ』なる機材の効果に戦慄しながら、そっとVRバトルを起動する。

 ちゃんとモジュールもコンソールソケットに挿したし、コンソールソケットに挿す程度の簡単な処理では使えない大掛かりなVRモジュールも、おじさんにセットして貰ってる。

 おじさんもシリアスが嫌がるの分かってるから、メインシートに座ったりはせずに、必要な仕事をササッと終わらせてくれたらしい。流石おじさん。さすおじ。


『システム操作はシリアスがやる』

「あ、うん。任せるね。て言うか、登録やったのシリアスだから、僕はIDも知らないし」

『後で端末に諸々を送信して置く。今は、新人VRバトラー「ディアラ」に成り切るだけで良い』

「…………それが一番問題なんだけどさ」


 僕は今、シリアスが買って僕の部屋に用意してたオートメイクプリンタなる機材によって、それはもう可愛らしいお化粧が施されてる。もう誰が見ても絶対に男だとは分からないレベルで可愛くされた。泣きたい。

 お化粧の内容もシリアスがセットしたらしく、僕の肌色、髪型、顔の骨格、衣装との相性とコックピット内の照明やら何やら、様々な要素を完全に演算し切った最高のお化粧具合だ。もうどうにでもしてくれ。


『ゲーム開始。プレイヤーネーム・ディアラと、機体名ゴシックシリア、ログイン』

「あ、シリアスも偽名なんだね」

『配慮した。後にシリアスをシリアスと名乗って、ラディアがディアラとバレた場合、ラディアの精神にダメージが入ると予想した』


 それはマジで有難う……! その配慮には幾重にも感謝を捧げたい! 捧げた過ぎる!

 シリアスを紹介してからの時限式遠隔女装バレとか千回死ねる。マジで助かった。


『ログイン完了。ゲーム説明は?』

「お願い。僕何も分からないから」

『了解した』


 VRバトルは、専用モジュールを実機に積み込む事で、慣性制御システムに介入して逆転させ、被ダメージ時にはリアルな衝撃なども味わえる本格的なバイオマシンバトルを味わえるゲームとなってる。

 プレイヤーは基本的にログインからログアウトまで、ずっとコックピット内で過ごし、VRバトルのゲームフィールドで過ごす。

 ものすんごくリアルに再現されたVRバトル内の都市、バトルシティに機乗したまま入り、他のプレイヤーとの交流もコックピットの中で通信を介して行う。

 と言うのも、シリアスがついでに調べて来た裏話によれば、リアル過ぎるVRでプレイヤー同士をそのまま交流させると、全年齢のこのゲームだと性的な交流などを制限するのが面倒なんだそうだ。

 技術的には余裕なんだけど、でもプレイヤーをコックピット内に留めて置けばその手間さえ要らないので、こんな形になってるんだとか。


「へぇ、確かにコックピットに居たらえっちな事とか出来ないもんね」

『ゲームのジャンルと特性上、どうしても男性ユーザーが多くなる。よって、ある意味で当然の措置』


 僕は縁が無かったけど、この手のゲームだと男性が女性に粘着するとか、色々と問題が発生しがちらしい。

 ゲームの規約やら何やらでそれらを縛っても、どうしても女の子と関わりたい頭パッパラパーなプレイヤーと言うのは後を絶たないらしく、規約や規制の穴を着くベクトルを間違えた努力家とのイタチごっこが発生する。だからもう、コックピットにずっと居ろやテメェって事なんだろう。うん、僕もその方が良いと思う。

 だって僕、今はディアラちゃんなんだし。被害者側だよちくしょう!


『バトルランクは、傭兵ランクにあやかってる。しかし、母数が多いのでその分等級も細分化してる』

「最高が九○ランク? なるほど、九段階の傭兵ランクを更に十倍したんだね。僕はランク一から?」

『肯定。VRバトルでは都市サーバー別にバトルシティがあり、都市別のバトルシティ内でランキングを競うシティランクマッチと、都市に関係無くバトルランクでマッチングしてランキングを競うオールスターマッチが有る。あと、都市の外では野良バトルが行える。都市の外は同都市の参加者が基本。しかし、別の都市のバトルシティにも行けるので、ラディアが、否、ディアラが別の都市のバトラーと遊びたいなら別の都市に行くと良い。コチラの都市でも探せばは居る』

「ふーん、そう言う感じなのか」


 そして、ゲーム内には『クエスト』なる架空の依頼もあって、それを熟すとゲーム内通貨が手に入り、それを使ってゲーム内での装備更新が行える。

 当然実機乗ってる人は、そんな事せずに実機を改造しても良いが、ゲームの為だと費用対効果がアホなので、その辺は良く考えよう。

 野良バトルやランクマッチでも、勝てばゲーム内通貨が貰える。シギルを使って課金してもゲーム内通貨が手に入る。そのお金を使ってゲーム内で機体の強化を行って、ランキングを勝ち上がるのだ。

 なんか、シギルでゲーム内通貨を買うって、お金でお金を買うって形が僕には良く分からなくてモニョるけど、此処では当然の事らしいので我慢する。まぁ嫌ならシギルを使わずに稼げば良いのだし。


「まずは、このまま都市外に出て野良バトル?」

『任せる。先にカスタムしても良い。シリアスのシギルでそこそこの課金はして置いた』

「…………何してるの?」


 いや、シリアスがお金使う場面って、共通の支払いであるパーツ購入と、整備と補給と、あと僕の女装くらいだけどさ。ゲーム課金にお金使うオリジンってもうこれ良く分からないな。


「まぁ、後々カスタムは必ずやるんだし、今は、今のシリアスでどの程度戦えるのかを知りたいかな?」

『了解した。しかし、野良バトルは魔境らしい。ランク無差別で遭遇戦が基本。クエスト受注無しで都市から出た瞬間、長距離狙撃されて死ぬ可能性もある』

「なにそれこわい」


 魔境ってレベルじゃ無くない? 完全にグドランさんに聞いた内容と一致してるんだけど。完全に最前線の環境なんだけど。


『今のうちに、エフェクトランチャー、及びボイスチェンジモジュールを起動する』

「…………どんなもん、ッッ!? ふぇ、え、何これ、声がっ」


 相手に聞こえる声だけ変わるのかと思ったら、僕の耳に入る僕の声が既に可愛くなってるんだけどッ!?

 いやビビるわ。マジでビックリした。僕が喋った通りに、めちゃくちゃ可愛い声が同じように喋ってる。違和感が凄い。


「ふぇぇえ、めっちゃ女の子…………」

『今の、今の「ふぇぇえ」は大分良かったと判断する。その調子で女の子になって欲しい』

「今のは演技じゃ無いんだがッ!?」


 ああダメだ、無いんだがって声がもう可愛い。全然迫力が無い。マジかよ。

 僕もこれ、多分目の前にこの姿の僕が居て、この声で喋ってたらめっちゃ可愛い女の子だと思うわ。絶対に男だとか思わないし、スラム孤児だなんて欠片も想像出来ない。


「…………このビル群に、歩行者が一人も居ないのは違和感凄いね」

『そう言う設定の、そう言うゲーム。時間経過で慣れると判断』


 だろうね。

 まぁ、うん。もう、良いか。僕が僕ってバレなきゃ良いんだし、戦うのは楽しみだし、シリアスも僕が女の子を演じるのが楽しいと言うなら、目撃者も電脳の向こうにしか居ないし、気にしない様にしよう。

 もしかしたら、傭兵の仕事で女の子の振りをして何か仕事を、女性の護衛をしろとかって依頼を受けるかも知れないし、女の子の演技を磨くのはマイナスでは無いだろう。…………僕の精神ダメージ以外は。


「んー、よし。今から頑張って女の子になるね! 開き直る!」

『良い調子。そのままキャルンキャルンして欲しい』

「きゃる…………、難易度が高い…………」


 さて、シリアスを操作して都市の外へ。いきなりランクマッチは、何と言うか、ちょっとハードルが高い気がするんだ。

 野良バトルが無法地帯だと言うなら、逆に言うと初心者が何をやっても、誰にも迷惑を掛けないのだろう。そう思えば、かなり精神的に楽だ。


「よーし、しゅっぱーつ!」

『とても良い調子。ゴシックシリアはディアラを応援する』


 あ、身バレ怖いから機体の色変えとこう。最初の一回だけカラーリング変更が無料なの、良いなぁ。

 うーん、機体はベースを全部ブラックに、それと赤のラインと青のアクセントを、全部シルバーにしよう。

 …………おお、良いぞ。カッコイイ。コックピットとの親和が上がった。

 シリアスと言えばデザートカラーだけど、ゲーム内は良いよね。身バレ怖いし。


「一人称も、『僕』から変えた方が良いかなぁ?」

『熟考。しかし答えは出ない。一人称『僕』の女児は、一定の支持が有るらしい。つまり、捨て難い要素であると言える』

「…………良く分からない世界だ」


 ガーランドの最奥区を何倍にも引き伸ばして大都市にした様なバトルシティを進み、人が居なくてマシンロードしか無いビルの間を歩いて行く。

 そうして出た都市の外は、荒野だった。


「…………ちょっとガーランドっぽく無い景色を期待してたのに」

『都市別でフィールドが変わるらしい。希望するならサーバー変更を推奨』


 都市間長距離ネットワークによって繋がる回線領域で、一応は別の都市のサーバーにも遊びに行けるそうだ。今後の楽しみにしよう。

 ひとまずは、ガーランド仕様のバトルシティ外部で遊ぼうか。


「…………む? 通信?」


 都市を出て、二○秒も経って無い内に、何か来た。


『否定。これは攻撃通知。つまり決闘状。白い手袋を投げ付けられた。無差別の遭遇戦では無く、ランクマッチルールで戦おうと言う要求』


 おっほー? いきなりか。凄いなVRバトル。


「ほっほぅ? これ、受けるとどうなる? と言うか受けるって形で良いの?」

『肯定。拒否するとそのままルール無用の遭遇戦仕様のまま。通知を許諾した場合、ディアラと対戦者の戦闘領域に他者からの干渉が無くなるインスタンスフィールドが形成され、勝敗が決定するまで出られなくなる』

「よし、受けて」

『了解』


 僕は叩き付けられた手袋を拾って、決闘を受ける。なんたって、僕って帝国名誉子爵身分ですし?


『通知受けるとは良い度胸だ。気に入ったぜルーキー。だから今からボコボコにしてや--……』

「あはっ、対戦者さんですね? よろしくお願いしマース!」

『--え、あっ、ちょ、可愛い……。お、お嬢ちゃん、ちょっと連絡先とかッ』


 対戦者からの通信が届いて対応。相手は如何にも傭兵って感じの無骨な人だった。でも僕を見た瞬間に呆けて、それからデレッと表情が崩れたのでダメだと思う。カッコ悪いなぁ。

 そして僕は何もして無いけど、通信はブツって切れた。多分シリアスが切った。


「さぁ、殺ろうか。……シリアス、センサーに感は?」

『無い。長距離砲撃機か、ステルス機の可能性が高い』

「了解。砲撃に気が付いたら僕に知らせず避けちゃって良い。気が付いたら僕も勝手に避けるから」

『了解した』


 ごめんね対戦者さん。これ、一対一ワン・オン・ワンじゃ無いんだ。

 僕とシリアス、二人で一人。オリジンと古代機乗者オリジンホルダーなんだよ。


『……ッ! 砲撃!』

「あいさぁー!」


 ペダルを蹴り込み、一番装甲が硬いアームも射線に噛ませながら急発進。

 前評判通りに慣性制御システムが効いて、僕の体はシートに押し付けられる。この感覚が堪らない。


「避けたァ! 砲撃コースから逆算!」

『完了、ホロバイザーにロケーター表示』

「おっしゃぁぁぁあッッ!」


 女の子らしい演技? なんだっけそれ。

 僕はもう楽しくて楽しくて、シリアスが演算した結果に合わせて機体を走らせる。

 ウェポンシステムはとっくに起動してて、グラディエラと装甲も既に可変済、パルスライフルが露出して何時でも砲撃が可能である。


「見付けたぁぁぁあッッ…………!」

『うわヤベェッ……!?』


 このゲーム、ローカルで繋がる距離なら通信が勝手に繋がっちゃうのか。この場合はホロ通信じゃなくて音声だけで、でも相手の慌て具合が分かるのでちょっと楽しくなる。

 まぁこっちから操作すればホロ通信もまた繋げるんだろうけど、ぶっちゃけ戦闘中にホロ通信は邪魔。


「おにーさーん♪︎ あーそびーましょー!」

『機動が素人じゃねぇッ!? 新人じゃねぇのかっ!』

「残念☆ 実機持ちの戦闘機免許持ちでーす☆」

『マジかよチクショウッ……!』


 見付けた機体は、まぁガーランドだしね。砲撃仕様に改造されたデザリアだった。

 もっと、色々とヤバい機体がウヨウヨしてるのかと思ったけど、良く考えたら使ってる陽電子脳ブレインボックスで機体が制限されるし、強い機体の陽電子脳ブレインボックスは相応に高額だ。

 七割は小金持ちな市民からの参加って事は、当然ながら購入出来る陽電子脳ブレインボックスも相応だ。

 いいとこ、イヌ型の機体から抜いた陽電子脳ブレインボックスで組まれたライドボックスを買って、オオカミ型に乗り換えるくらいが精々かな? ブリッツキャットも小型だし、陽電子脳ブレインボックスは安いのかな。そうしたらネコ科繋がりでクロスレオーネに積み替えられる。

 まぁ、でも今は、デザリアのミラーマッチ何だから関係無いよね!


「足がお留守!」

『長距離砲が重いんだよチクショウがッ!?』

「なら足周り強化しましょうよ! 大事ですよ足周りー!」


 シリアスが演算する砲撃予測線を躱しながら肉薄、もう逃げられないぞ。

 と、思ったら相手のデザリアがお尻から火を吹いて加速した。なんだアレ!


『ブースター確認。破壊推奨』

「おっけ任せて! この距離なら外さない!」

『イギャァァアッ!? 嘘だろブーストダッシュ中の加速器にピンポイントショットだとッ!?』


 パルスライフルが見事にヒット。尻尾を挟む形で装備されてる大型ブースターの片方を潰し、そのまま僕は逃げる機体のお尻に噛み付いた。

 そして組み付いたままグリディエラ内蔵のパイルバンカーで残りのブースターも破壊し、エキドナも思いっ切り敵にブチ込む。


『イギィぃぃいッ!? ちょ、待って待って死ぬ死ぬ! 大破しちゃうぅぅ!』

「勝敗設定を大破に設定したのお兄さんですよ〜♪︎」

『そうだったぁぁあッ!?』

「装甲かったいなぁ……、えい♪︎」

『ぎゃぁぁぁああああッッ…………!?』


 完全に組み付いた。しかも相手が下手にお尻を見せたせいで、早々反撃を受けないポジションからのフルボッコだ。

 しかし、硬い。超硬い。野生のデザリアならエキドナ一発で中破まで持って行けるのに、十五発全部撃ち尽くしてやっとギリギリ小破かなってレベルだ。めっちゃ硬い。

 時間が掛かりそうなので、絡み付く様に抑えてたテールの武装もアームでぶっ壊し、安全にして行く。


「死ね死ねぇ〜♪︎」

『うぉぉあああッ!? 装備全損ッ!? えげつねぇッ!』

「反撃されたら怖いですぅぅ……♪︎」

『あっ、やめっ、ぴゃッ--……』


 拉致が明ないので、機体にのしかかって、しがみつく。

 そしてグラディエラの砲門を揃えてコックピットを狙い、乱射。

 オラオラオラオラオラオラオラオラァァアッッ……!

 相手の、一番硬いコックピットをブチ抜く為に全弾発射。この後襲われたら何も出来ずに死ぬだろう。でも良い。今は勝ちたい。

 パルスライフル撃ち尽くしても死なない相手に、僕はグラディエラのパイルバンカーも揃えてコックピットに宛てがい、とにかくトリガーを引きまくった。

 そして最後に、潰れたカエルみたいな声が通信から聞こえた後に、ブツっと通信途絶。相手のコックピットから赤い花弁が咲いた。勿論比喩だ。

 そうして、相手のパイロットが死亡判定を受けて、僕は初陣に輝かしい白星を飾った。


「びくとりー?」

『いえす。びくとりー』


 うぇぇぇええい! 超気持ち良い! 楽しい! 最高!

 アレだけ嫌がってたのに、現金なもんだ。僕はもうヤミツキになってる。

 女装とか些細な問題だった。なんなら「怖いですぅぅ」とか言ってノリノリだったわ。なんか、良いぞ。いや、女装にハマったとかじゃなくて、これだけ別人ならどれだけ煽っても現実の僕は無傷だって言うのが、女装を開き直る後押しをしてる。


「ふぅぅぅう! 勝った勝ったー! わーいわーい!」

『非常に可愛い』

「シリアッ、じゃなくて、ゴシックシリアも可愛いよ!」

『シリアで良い。無理をして間違えると危険』


 それはそうだ。

 もし現実で対戦者さんと会っても、僕は別人だから無傷って精神性でもって暴れてるのに、シリアスの名前から身バレしたらヤバ過ぎる。


「たのしーねー♪︎ シリア、勧めてくれてありがとっ」

『非常に可愛い。スクリーンショットの連写速度が足りない』

「いや撮影は止めて?」

『否。人気が出たあと、データで売れる』

「本当に止めてっ!?」


 ボイスチェンジモジュールでキャピキャピした声になってる僕は、もう頭がパッパラパーになってシリアスとイチャイチャする。


「そう言えば、通信中に僕がシリアと喋ってるの、どういう扱いになるのかな?」

『どうとでも。オリジンだと隠さなくても良いし、専用のサポートAIを積んでると言い張っても良い。複座にオペレーターを乗せるプレイヤーも居るので、複座にシリア用のダミーを置いても良い』

「なるほど。…………でも、オリジンだとカミングアウトすると、僕の身バレに繋がるよね?」

『肯定。シリアはオペレーターを偽装する手段を推奨する。ちなみに、今回のバトルは既にシリアのダミーを複座に用意していた。ゲームカメラと対戦者にはそう見えるように干渉している』

「え、マジで? シリア凄い……。え、じゃぁ他から見たら複座にシリアの人間モードが乗ってるの?」

『肯定』


 何それ超見たい! 見た過ぎる!


「ズルいぃ……、僕もシリアの人間体見たいぃ……」

『例の店舗で、ホログラムによってサポートAIのボディを表示するホログラムプロジェクターも販売していた』

「なんでそれを買わないのっ!? むしろそれが一番欲しかった!」

『不要だと判断していた。購入しなくても、シリアの演算領域を考えれば充分に偽装は可能だと』

「むぅ、分かった。今回、お金出したのシリアだしね。そのプロジェクターは自分で買うことにするよ」


 駄弁っているが、弾薬がゼロなので凄く急いで都市に帰ってるところだ。今襲われたら死ぬ。

 そうして、巷で言うフラグとやらを回収する事も無く、僕とシリアスは無事にバトルシティに帰って来た。速攻で補給に行く。


「あ、野良でも勝てたらお金貰えるんだっけ。いくら貰えた?」

『驚く事に、四○万バトリーが手に入った』


 バトリーとは、VRバトルのゲーム内通貨だ。


「それって高いの?」

『ゲーム内に於いて、シギルと同程度の価値と思って良い』

「マジか。野良ってそんなに稼げるの?」

『相手による。対戦者のバトルランクやランキング、所持バトリーの総量、機体性能などから計算される。今回の対戦者は、中々強い方だったと思われる。少なくとも、初心者相手に負ける様な機兵乗りライダーでは無かったと思われる』

「マジかー」


 予想外にバトリーを稼げた事もあり、僕らはまず補給を受け、その後にクエスト等も漁って更にバトリーを稼ぎ、装備の更新を検討した。

 今回は相手に組み付いてしまえば、なんて事無く勝てた。けど、全弾撃ち尽くしても勝てないとか異様に硬い装甲だったし、やっぱりシリアスが言う通りに強めのプレイヤーだったのだろう。

 そんな相手と戦う為には、今のままではその内ボコられる。僕だけなら良いけど、シリアスがボコられるとか死にたくなるので、ちゃんと装備を更新して抗える様にして置こう。

 幸い、ゲーム内なので、クエストで稼げるバトリーも現実よりずっと多く、頑張ればかなりコンスタントに稼げた。


「やっぱり、プラズマ砲かな?」

『肯定。そして、背部にも装備を増設するべき』

「だよねー。でもさ、プラズマ砲って長距離砲撃苦手だよね?」

『肯定。長距離砲撃ならばパルス砲が推奨される』

「せっかくテールで砲の高さに下駄履かせてるんだし、テールは長距離砲が良いと思うんだよね。狙撃に高さって重要でしょ?」

『理解。その提案は正しく、有用。しかし、プラズマ砲の火力も捨て難い』

「プラズマ砲、どうにか背面かアームに乗せられないかな……?」


 シリアスの新しい姿を、僕とシリアスで模索する。うん、確かに、実際に運用しながら望む完成系を探せるのは、凄く助かるや。


『提案。いっそ、シザーアームを砲撃専門用に換装』

「えぇ〜、でも僕、シリアのシザーアーム好きなんだよね。やっぱりシリアはサソリで、ハサミがなきゃ。強くなる為だからって、アイデンティティも捨てる必要は無いと思うよ」


 殺伐とした内容を、呑気にほのぼの語り合う。

 この時、僕は忘れていた。

 このゲームがVRバトルであり、ネット配信出来ると言う事を。


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