第7話 何これ知らないィィィ。
「お、おまっ、良く出入りしてる孤児のガキだよな?」
僕が現在住んでる、と言うか住み着いてる。いや棲み着いてる町に、たった今帰って来た。
オアシスを利用して作られた場所で、人口は三万と五○○○人ほど。
壁などは特に無く、外から町の様子が見て取れる。けど防衛力はしっかりとあって、壁もただ見えないだけで、町を強力なパルスシールドで覆ってるのだ。
風は通すのに砂嵐なんかは弾くので、中は結構過ごし易い。陽射しは普通に辛いけど。
町並みとしては、町の中心に行くほどサイバーチックな見た目でシステマチックに、町の外周ほど原始的でアナログな感じになる。
中心に行けばビル群、外側はテント、みたいな町だ。所属する国が定める人口比だと町の規模なんだけど、何故か都市と言い張る変な町なのだ。
デザートシザーリア生産の古代遺跡が近くにある関係で、
他にも砂漠で育つ香辛料なんかも産出してるけど、その辺は孤児の僕には関係無いのでどうでも良い。香辛料は高いし、金持ち用の品物だし、本気で接点が無い。
と言うか仮に接点を持ちたくとも持てない。だって高価な品物を孤児に触らせてくれるわけが無い。別に触る気も無いけど。
天然のお肉とか野菜だって買えないのに、香辛料だけ手に入れてどうするのか。民間レーションにかけるの? 味変したいなら違う味のレーション買えば良いと思うな。最低グレードでも十種類はフレーバーが有るんだし。
「はい、ラディアです。
「……おう。…………あー、その、なんだ。ソレについて、聞いても良いか?」
そして現在。僕は町の入口で止められてる。当たり前だ。
シリアスはデザートシザーリアであり、つまりバイオマシンだ。兵器だ。武力だ。素通しして良い訳が無い。
パルスシールドで覆われた大きな町に二つあるゲートの、荒野側。つまり危ない方。野生のデザートシザーリアが出没する危険領域に向かって解放されてるゲートで、防衛用のバイオマシンが常に二機ほど警戒してる。
この町の名物が、……名物? いや名物で良いか。特産? の名物がデザートシザーリアなので、防衛戦力も当然デザートシザーリアだ。銀色に赤いラインが走ったカラーリングで、シリアスと違って攻撃機としてカスタマイズされてる機体になる。
そんな場所で僕は、まぁ当たり前にシリアスの件で止められた。
ゲートは広くてシリアスが五機くらい横に並んでも入って行ける大きさだけど、真正面で止まってちゃ迷惑だ。兵士さんの案内に従ってゲート横まで移動して、僕が降りやすい様にしゃがんでくれた優しいシリアスのコックピットから降りる。
その際、シリアスは優しいのでモタつく僕をそっとシザーアームでつまんで、ちょこんと正面に降ろしてくれた。もうシリアス大好き。
「砂漠で僕の乗機になってくれた、デザートシザーリアのシリアスです。……えと、僕、良く分からないんですけど、バイオマシンで都市に入るには、何か手続きとかお金とか、必要なんですか……?」
ちなみに、この町はバイオマシンが出入りする関係で人口よりも巨大だけど、間違い無く町である。けど、見栄とかメンツとか色々あるから、兵士さん相手には都市って言う方が通りが良い。
特に、僕みたいな孤児なんて、兵士さんに睨まれたらあっと言う間に生きて行けなくなる。
「あ? あぁ、まぁ、そうだな。バイオマシンで町に入るなら、税金やらなんやら居るが、…………まぁそうだよな。お前は情報端末とか持って無いもんな」
おおぅ、そう言えばこの兵士さんは自分でも町って言う人だった。でもまぁ普段から気を付けてないと、事故ったら怖いし、このまま行こう。
僕に対応してくれるのは、大きくてムキムキで、ちょっと爽やかな感じがする兵士のお兄さんだ。綺麗な赤髪がバッチリ決まっててカッコイイ。
ゲートに居る兵士さんは当たり外れが極端だけど、この兵士さんは凄い当たりの部類だ。なんたって、こうやって孤児である僕とちゃんとお話してくれるんだ。凄い助かる。助かり過ぎる。
悪い兵士さんだと、もう最悪は町に入れてくれなかったりする。そんな時はナノマテリアルを寄せ集めた襤褸服の性能を信じて、死ぬ程冷える夜の砂漠で次の日を待つ。正確には兵士さんが交代する時間を待つ。
兵士さんのシフトは結構ランダム要素が強いんだけど、僕の運が悪いと悪い兵士からの悪い兵士に交代、からの次も悪い兵士さん、みたいたクソ展開が待ってたりする。丸一日中に入れなかった時は本気で死を覚悟した。
「……端末は、持ってません。税金って、どのくらいですか?」
「…………いや、その前に一つ答えろ。……この機体、もしかしてオリジンか?」
……オリジン? なんだっけそれ、聞いた事ある。
「…………なんでしたっけ、それ?」
「あ? …………ああ、天然物のバイオマシンの事だよ。
「あー! はい! そうです! オリジンです!」
そうだ、天然そのままで現代人に味方してくれる機体をオリジンって呼ぶんだった。御伽噺がどうとかで、クソ親父パワーが邪魔して記憶からハミ出てた。おのれクソ親父め。死んだら絶対に殴りに行ってやるからな。
「……………………マジか。あー、マジかぁ。すげぇ、本物かよ」
「あ、えと、オリジンだと、何かマズかったりしますか……?」
「いや、単にメチャクチャすげぇってだけだ。……あーいや、オリジン欲しさ馬鹿が馬鹿をやらかす可能性はあるから、その辺は気を付けろよ。オリジンってのは超希少で、現代人の手が入って無いのに使える
「……え、国に保証とか、…………え?」
「あー、そっからか」
なんか、ごめんなさい。
僕も色々と、必要な知識は頑張って集めたし、覚えたけど、まだ子供で色々と足りないのも事実だ。
お手を煩わせて申し訳ないけど、どうか説明をお願いします。
まさか本当にバイオマシンに乗れるなんて思っても見なかったから、そっちの知識なんて全然知らないんです。
「…………そうだなぁ、お前は孤児だが愛想も良かったし、目端も効いた。ゴズンの馬鹿共の憂さ晴らしにも文句を言わず、嫌な顔もせずにトラブルは徹底的に回避してた。あん時は助けてやれずにスマンかったなぁ」
……………………え、えっ、なに、なんで急に褒められたのっ。
えと、嬉しいけど、ちょっと怖い。
この兵士さんは凄い良い人だし、信用出来るけど、そう言うのとはちょっと違くて、なんかこう、シリアスに出会えてからずっと、幸運につぐ幸運で、揺り戻しが怖い。
あと不意打ちで褒められると耐性が無いから、あー、ダメだ涙が……。
「……ぐしゅっ」
「おおおおいっ、どうしたっ!? 待て待て待て!? オリジンの前で急に泣くんじゃねぇ! 俺がイジメてる見たいじゃねぇか!」
「あの、ごんなしゃっ……、褒められ………、嬉しっ」
あー、ごめんなさい兵士さん。ギャン泣きブッパ告白した辺りから、喉が震え易くなってるんです。普通に泣いちゃってごめんなさい。
あとシリアスは凄く優しくて素敵で理性的なので、心配しなくても大丈夫ですよ。
「………あー、そうだな。辛かったよな。ごめんな」
「い、いぇっ、ごめんなさっ……」
「本音を言うとなぁ、お前はまぁ、行儀の良いガキだったから助けてやりたかったんだがな。俺も兵士だから、税金で飯食ってんだ。だから税金払ってる住民が優先で、慣例的に目零してるお前らには構ってやれなかったんだわ」
それは、分かってる。
税金を払わずに町に棲み着いてる僕ら孤児は、当たり前だけど行政の助けなんて借りれない。そして、兵士は間違い無く行政の側。
だから兵士さんは何も間違って無い。むしろ、僕らに融通を効かせるのは職務違反ですらある。
もっと言うと、僕のゲート入りを意地悪で止めて憂さ晴らしてた意地悪な兵士達も、兵士の仕事内容を思えばむしろ正しい行為なんだ。税金も払わないで不法滞在してるゴミが、しれっと町から出て、しれっと町に帰って来るだから。追い出すのは兵士として正しい。
「ぐすっ、ん、んー! …………はい! もう大丈夫です! お騒がせしました! ごめんなさい!」
「…………やるせねぇよな。こんなガキすら助けらんねぇで、何が兵士だよ馬鹿野郎」
「いえ、あの、
なんだろう。本当に、こう、シリアスのお陰で全部が全部、急に良い方向に転がり出した気がする。
「……まぁ、これからは安心しろ! 乗機持ちって事は、金も稼げるし、行政対応的にも町に入るなら必ず税金が発生する。つまり、俺は今後、ちゃんと仕事としてお前を助けられる。それに、オリジンを味方に付けたってのはデケェぞ。望ば色々と融通を効かせて貰えっからなぁ。人の手が入らないまま現代人に味方するバイオマシンなんざ、国の方がお前のご機嫌を伺う側になる。お前にへそ曲げられて国の外に行かれる方がずっと損だからな」
……なんと、気がするどころか、本当にシリアスのお陰だった。やはりシリアスは天使だった?
うん、間違い無い。つまり国がシリアスの天使論を保証してくれるって事……、あれ、違う? まぁ良いや。
「えと、でも僕、今はお金持ってなくて……」
税金が払えれば助けてくれるって事なのに、まずその税金が払えない。払って町に入らないと
なんだこの堂々巡り。
バイオマシンが町に入るって言うのは、つまり兵器が何かの保証の元に町への侵入を許されるって事なんだから、その税金が僕の手持ちで足りる訳が無い。
凄いぞ、僕の今の所持金なんて、八シギルだ。一日生きれる分と、ちょっとの余裕を目安に手元に残して置く癖があるんだ。
いや、癖というかそうしないとコロッと死ぬからなんだけど。
パルスシールドに守られてるとは言っても、砂漠の町で一日二日と水を飲まないで過ごしたら本気で死ぬ。
オアシスを利用した町だけど、そんな水の利権なんて偉くてお金持ってる人が当たり前に抑えてて、そしてまたお金を稼ぐ為に高値を付ける。それ以外の水なら輸送費で結局高くなる。つまりこの町の水は高い。それを計算して生きないとあっと言う間に死ぬ。
「だーかーら、その辺は融通効かせられるって言ってんだろ? お前の相棒に乗ってる諸々、買取業者を
「…………乗ってる、諸々?」
乗ってる? 何に? え、コックピットの中にある
「あ? だから乗ってるアレだよ。売るんだろ?」
「……………………はぇ?」
兵士さんが示す指の先を、僕も振り返って見る。
後ろには当然、シリアスが居て、振り返れば当たり前にシリアスが視界に入る。
「………………なに、あれ」
「…………は? いや、お前の獲物だろ?」
そうして目にしたシリアスは、と言うかシリアスの背面。背中。ちょっと平たくて、何かを積んで置けそうな装甲の上には、こう、なんか色々。
………………デザートシザーリアの残骸らしき物が盛り盛りに乗っていた。
「………………………………何これ知らないィィィ」
「……はぁ? いや、はぁ?」
山積みだ。山積みである。
シリアスの背中になんか大量の、デザートシザーリアの残骸があった。
見た瞬間、最初はシリアスの前の体を勿体ないから持って来たのかなって思った。けど、良く見るとシザーアームが二本以上あったり、尻尾が複数あったり、明らかに一機分じゃない。
「ちょ、シリアスッ!? 何それ!?」
「いや、お前が持ってきたんだろうが。なんで知らないんだよ」
「いや、あの、ちょっと事情が……!?」
大混乱。僕、大混乱。
いや落ち着いて。大丈夫、僕は落ち着ける。よし。
「ちょ、ちょっとごめんなさい。ちょっとだけ時間を貰っても良いですかッ!?」
「おう。まぁオリジンへの対応だからな、俺もサボってるとは言われねぇだろうし、むしろゆっくりしてくれて良いぜ。仕事の一環としてサボれんのは大歓迎だ」
そう言う事なら喜んで!
「シリアス、シリアスさん? あの、そのお背中の方々は、シリアスの僚機さん達だよね……?」
右ガチガチ。
「う、うん。だよね。で、それどうしたの? 帰り道、別に襲われなかったよね?」
右ガチガチ。
「……じゃぁ、僕がダウンしてる時?」
右ガチガチ。
「…………おお、そうか。シザーの右と左でイエスとノーなのか。すげぇな、バイオマシンと会話が成立してやがる。本当にオリジンなんだな、すげぇ」
兵士のお兄さんが興奮してるけど、僕はそれどころじゃない。
だって、シリアスにとって僚機さん達って、すっごい大事な存在じゃないの? なんでそんなに山積みなの? 山積みって言っても、三機くらいかな? いやゼロカスタムのシリアスが三機背負ってる時点で大変な事だよ。どんだけ重かったの。随分ゆっくり移動するなって思ってたけど、これが理由だったの?
シリアスと沢山お話し出来て嬉しいとか思ってたよ僕。
「シリアスは、その、良かったの? 残骸集めるのと、仕留めるのじゃ、全然違うでしょ?」
右ガチガチ。
「えと、僕のせい?」
左ガチガチ。
「シリアスの、ため?」
右ガチガチ。
「…………その、僚機さん達は、殺しちゃったの?」
左ガチガチ。
「い、生きてるの?
右ガチガチ。
確かに、良く見ると三機ともウゴウゴしてる。けど、尻尾は軒並み根元くらいからバッキリ折られて、プラプラしてる。足も根元くらいにざっくり爪痕が入ってて、機関部を破壊してる様に見える。
つまり、生きたまま無力化した?
「おおい、つまりカスタム無しで三機も生け捕りにしたのかよ……。俺の給料何年分、いや何十年分だ……?」
ごめんなさい。兵士さんの給料とか僕知らない。でも何年分とかになるの……? 年単位?
「シリアスは、本当に良いの? 多分、それ、シリアスが本当は超えちゃいけない、ナニカを、踏み越えてるんじゃないの?」
右ガチガチ。右ガチガチ、左ガチガチ。
えっと、今のは……。
「本当に、良いの? えと、シリアスが超えちゃいけない何かも、肯定?」
右ガチガチ。
「でも、そのあとの否定は、でも超えるって、こと……?」
右ガチガチ。
「…………なん、で? 超えちゃ、ダメなんじゃないの?」
右ガチガチ。
「でも、超えるの?」
右ガチガチ。
「それは、僕のため?」
左ガチガチ。
「…………ああ、違うね。ごめん、質問を間違えた」
誰かの為かどうかは、良く良く思えば、個人の思想による。人を助けるのが自分のためだと思ってるなら、どれだけ自己を犠牲にして人に尽くしても、自分の為だと言い張れる。
だから、僕が聞くべき、そうじゃない。
「シリアス。それは、僕と一緒にいるため?」
シリアスが嘘を付かないなら、逃げられない聞き方をする。
僕とシリアスの間に、嘘をつかないなんて約束は無い。けど、僕はシリアスが嘘を付かないって勝手に思ってるし、仮に嘘をつかれても、騙し切ってくれるならそれで良い。
でも、やっぱり、シリアスは優しくて、素敵で、理性的で、頼りになる、この世で一番素敵なバイオマシンだった。
右が、動いた。
「…………なんで? なんで僕にそこまでしてくれるの? 嬉しいけど、シリアスが何かを捨てるのは、僕、嫌だよ」
泣きそうになる僕を見て、シリアスは背中に僚機を乗せたままアタフタしてる。
ごめんね。肯定か否定か、どちらでも無いか。三択でしかやり取り出来ないのに、こんな質問ばっかりする僕はズルいんだろう。
でも、他に聞き方が思い付かない。どうすれば良いか分からない。だから次の言葉が出て来なくて、そしたらシリアスがビシッと右のシザーアームで、兵士さんを指した。
刺したじゃなくて、指した。急でビックリしたし、兵士さんもビックリしてる。
「お、俺ぇっ!? え、俺、何かしたかっ? やらかしたか?」
「えと、いえ。シリアスは凄い理性的なので、やらかしとか、そう言うのは特に……」
「いや、まぁ。今のやり取り見てりゃぁ、信じられねぇくらい気の良いオリジンに見えるが……」
戸惑ってる僕と兵士さんは、シリアスが何を伝えたいのか分からずに右往左往する。すると、兵士さんの胸元からピリリリっと電子音。
「あん? 仕事中に誰だよ……。あぁん? 短距離通信? しかもテキストデータ?」
なにか起こったらしくて、兵士さんが制服の胸ポケットからスタイリッシュな形の端末を取り出して、ホロディスプレイで操作する。
「…………ぅぉおっ、マジかよマジかよ! すげぇマジかよ! うわすげぇ!」
突然兵士さんは、端末とシリアスを交互に見ては大興奮。何があったんだろうか?
「おい、お前の相棒からメッセージだぜ」
「…………えっ」
端末を受け取って、画面を見る。
ホロディスプレイは本来、持ち主以外からは見えない様に設定されてるけど、お兄さんは僕に見えるようにしてから貸してくれた。
そこには、『貸して欲しい』とだけ書かれてて、最初は意味が分からなかった。けどすぐに、シリアスがお兄さんに端末を貸してくれって、そうテキストを送ったのだと分かった。
シリアスはこんな事も出来たんだ。びっくりして、でもシリアスとちゃんとお話し出来ると思うと、ドキドキしてふわふわする。
「…………シリアス、教えてくれる?」
右ガチガチ。そこはシザーアームを使うだと、なんか少しだけおかしかった。
「シリアスはなんで、そこまでしてくれるの? シリアスにとって、僕って何?」
なんか、クソ重いメンタルの女の子みたいな事言ってる自覚はある。兵士のお兄さんも近くに居るのに、ぶっちゃけ恥ずかしい。
けど、今これを聞かないと、僕はこの先ずっと、シリアスとの距離感を間違えると思った。
だから聞いて、答えが欲しくて、そして一拍の間があって。
-ピリリリッ。
…………あ、お兄さんごめんなさい。操作方法分からないです。
「お、おう。こうして、受けた通信開いて、テキスト出して…………」
そうやって見た、シリアスからのテキストは一言だけ書かれてた。
『幸せにする』
胸がギュッッッッてなって、死ぬかと思った。
膝から崩れ落ちて、涙がポロポロ出て来た。
「…………こいつぁ、すげぇなぁ」
うん、凄い。
一発で僕はやられてしまった。
もう、なんか、良いや。全部どうでも良くなった。
シリアスは、僕を幸せにしてくれるらしい。おかしいよ。だって、僕はもう、出会ってからずっと、ずっとずっと、ずぅぅーっと、幸せなのに。
これ以上は、破裂しちゃうよ。
だけど、それも、良いや。破裂しても、シリアスに壊されなら、僕は幸せだ。
シリアスは、僚機を壊して、それを売り払っても、僕と一緒に居てくれるらしい。
吠え声。または嗚咽?
もう、気が付いたらワンワン泣いてた。幸せで胸がいっぱいだ。
耐性無いんだって。ちょっと手加減してよ。
「おまっ、大丈夫かっ!? そこまでガチ泣きされると流石に居づれぇ……!」
ごめんなさい。すら、マトモに言えない。
もう、自分がなんで泣いてるのかも、分からない。
気が済むまで吠えて、泣いて、今日までの人生を全部涙と一緒に絞り出した。
一緒に居てくれる。
犯してはならない、その何かを犯しても、シリアスは僕と一緒に居てくれる。
その証明が、シリアスの背中に積まれてる。その想いが兵士さんの端末に届いてて、シリアスの愛情は僕の心に届いてた。
なら僕は、この気持ちは、どうやってシリアスに届ければ良いんだろう。
クソだった。僕の人生はシリアスに出会う瞬間まで、何から何までクソだった。
電脳小説の題材になれるほどにヒロイックな悲劇も無く、ただ一山いくらの不幸として溢れては消えていく、文字通りゴミその物の人生を歩いて来た。
その辛さも、緩くて終わりの無い絶望も、全部がシリアスに出会う為の、幸福の前払いだったのだとしたら、僕はもう、ただ納得するしか無い。
今度こそ、今度こそは納得しよう。
僕は、僕の人生に納得した。報われた。幸せになれた。
そして今日から、いや昨日から、もう僕は幸せ以外の人生など歩めない。
全部絞り出して、想いの丈を吠えて、背中を摩ってくれるお兄さんにも、必要も無いのに全部語った。
そしたらシリアスも、テキストでいっぱいお兄さんの端末に何かを送った。ずっとピリピリ鳴ってて、鳴り止まない。
お兄さんが「端末がバグったかッ!?」って慌ててるのが面白くて、泣きながら吹き出してしまった。
笑ってるのか泣いてるのかも、僕ももう分からない。
ああ、幸せだ。
クソ親父。いやお父さん。
今日まで胸に溜めた罵詈雑言全部捨てるから、一言だけ贈らせて欲しい。
ありがとう。
僕は置いて行かれて幸せだった。
シリアスに出会う為の準備だったんだ。だから良かったんだ。今日までの全部、僕はきっと幸せだったんだ。
だから、ありがとう。
ただ、ありがとう。
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