第6話 擦り合わせ。
僕が何時間寝てたのか。
こんな具体的回答を求める質問をしても、シリアスは困ってしまう。僕はバカだ。愛しい恋人を……、いやもう恋人で良いよ。人じゃないとか野暮な事言う人が居たらシリアスに挟んでもらおう。ムギュっと、プチッと。
それで、うん。尻尾フリフリは可愛いけど、これは僕が悪かったので聞き直す。
「僕が気を失ってから、二十四時間以内?」
左ガチガチ。マジか、一日以上寝てたのか。
まぁ良く考えると、傷の具合から言っても相応の時間は経ってるでしょ。
あ、ヤバい
「シリアス、僕が気を失ってから、四十八時間以内?」
右ガチガチ。良かったまだ二日以内だ。
「シリアス。本当は僕、もっとシリアスと沢山お話して、仲良くなって、イチャイチャしたいんだけど、このままだと
左ガチガチ。…………えっ!?
「帰っちゃダメなの?」
左ガチガチ。
「あ、帰っては良いんだ。じゃぁ取り敢えず、進も? それで、…………えっと、お話が嫌だったりした?」
止まってたシリアスがゆっくりと体を動かして、コックピットから見える目線が少し上がったから、多分立ったんだと思う。それからゆっくり歩行を開始した。ガショガショ鳴ってて可愛い。
それで、シリアスの返答は左ガチガチ。良かった。仮に右でガチガチされたらショック死する。即座に。即死する自信があった。
「……んー?
右ガチガチ。
「って事は、町に行かなくても、この子は死なない?」
右ガチガチ。マジか。え、マジか。
「それは、僕の二日以内って知識が間違ってる?」
左ガチガチ。
「じゃぁ、シリアスが
右ガチガチ。なるほど。シリアスがこの子の延命をしてるんだね。
……て事は、やっぱりシリアス、お仲間が大事なんだよね?
「……あの、やっぱり
尻尾フリフリ。分からないの?
…………ああ、僕はバカか。売ったらどうなるかも教えずに、何を聞いてるんだ。
デリカシーの無いバカめ。
うん。シリアスの僚機本体の話しなんだから、
でも
パッと思い付くのは単純な再利用だけど、それは無い。だってそのまま使ったら現代人を襲うんだもん。それは一緒に戦ったシリアスだって分かってる。
ならどう使われるのか、正解は初期化してから再利用なんだけど、知らなければ壊されたり、変な実験に使われたりとか、色々考えられるだろう。
「ごめんねシリアス。えっと、僕達現代人は、シリアスの仲間からはほぼ無条件で襲われるんだ。野生の、……って言い方もシリアス的には失礼かな。えっと……」
左ガチガチ。この場合の否定は……?
「野生って言っても気にしない?」
右ガチガチ。気にしないらしい。
分かった。けど今後はなるべく気を付けよう。でも今はお言葉に甘えて、そのまま説明させて貰う。
と言うか古代文明とは用語も違うかも知れないのに、まずそこから説明するべきじゃない? 僕って本当に気が利かないな。
どうしよう、こんなにグズで気が利かない僕とか、シリアスに愛想尽かされないかな……?
ああ怖い。ちゃんと説明しよう。そうしよう。
「えっと、現代人は基本的にね、古代文明の人達が、生きてる金属で作った生きてる兵器を、シリアス達みたいな存在をバイオマシンって呼んでるんだ。ああ、それと
右ガチガチからの尻尾フリフリ。
えーと、良いよ気にしないって感じかな。優しい好き。
…………なんか、随分歩く速度がゆっくりだな。怪我してた僕に気を使ってるのかな? 優しいなぁ。
僕もゆっくりの方がシリアスと沢山お話し出来て嬉しい。
「それで、あーえっと、これも今更だけど、シリアス達を作った国とかって、もう全部の国が、ものすんごく昔に無くなってて、だから現代人はその頃の文明の名残を纏めて、古代文明って呼ぶんだ。シリアスの国も、シリアスの国の敵だった国も、全部纏めて古代文明。だから、現代人って、基本的に古代文明同士の事とか気にしないから、もしシリアスが戦わないといけない敵対国の機体とか見付けても、出来れば攻撃しないで欲しいんだ。乗ってる人も敵対国の所属じゃ無いし」
右ガチガチ。良かった。
うん、凄い。本当に凄い。シリアスって凄い。お話しを全部、ちゃんと聞いてくれる。
全部のバイオマシンがシリアスみたいなら良かったのに。でもそうしたら、僕がシリアスに出会えなかったか。じゃぁ今のままで良いや。
「えーっと、なんだっけ。そう、シリアスの国って確か、虫型のバイオマシンを作ってた古代文明は…………、えっと、ハイマッド帝国、だっか?」
右ガチガチガチガチガチガチガチガチ。おおおお凄いガチガチだ。今までで一番のガチガチだ。
やっぱり、自分が所属してた国の名前が残ってるって、嬉しいのかな。シリアスが嬉しいなら僕も嬉しいな。ちゃんと古代文明の名前を知ってた僕、偉い! 凄い偉い!
「そう、ハイマッド帝国と仲悪かった国の機体とか、入り乱れてるのが現代なんだ。それで、多分シリアスが作られた場所もそうだと思うんだけど、基本的に今も稼働してるバイオマシンの生産施設って、一つ残らず暴走してるんだよね。……シリアスの作られた場所もそうじゃなかった?」
右ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ。おお、もう、「そう! そうなんだよ!」って感じが凄い伝わって来る。
そうだよね。シリアスってこんなに優しくて理性的だもん。問答無用で襲って来るバイオマシンを永遠に作ってる基地とか、怖かったよね。よしよし。コックピット撫でちゃう。
そしたら頭ヨシヨシしてくれた。お返し貰っちゃった。えへへ。
「それで、
ピタッと、シリアスのあらゆる挙動が止まった。移動してる景色も止まる。
驚いた、のかな?
「ビックリした?」
右ガチガチ。ふむ、シリアスは現代人の技術がもう少しマシだと思ってたみたいだ。現代人を代表してゴメンなさい。
「うん。作れないんだ。
何となく、シリアスが戸惑ってる気がする。
ごめんね。現代人がしょぼくて。
「
驚いて、時々歩行が止まるシリアスが可愛い。シートを撫で撫で。グリップも撫で撫で。コンソールも撫で撫で。
「話しが戻って、
右ガチ。「なるほど」みたいな感じかな。
「だから僕達現代人は、入手した
心做しか、シリアスの速度が落ちた気がする。落ち込んだのかな。
「えっと、シリアス? もちろんシリアスが嫌なら、僕は
右ガチガチ。
「それでね、えーと、現代人はそう、
ぶっ壊したり入れ替えたりするより、ずっとマシだと思う。シリアス側から見たら例外無く鬼畜の所業だと思うけど。
そう思うと、死肉を漁って脳をぶっこ抜き、人格ぶっ壊したり完全にデータ吹っ飛ばしてから新しいゴミ人格入れて奴隷にしたり、ドギツイ催眠術で自我を眠らせたりしてるんだよね。クズじゃん。現代人クズじゃん。
ああバイオマシンに敵対されて当たり前のクズじゃん。なんかもう、そのまま襲われて滅びろよって思って来た。クソ親父が乗ってたオオカミちゃんもそうだったんだよね? うわクソ親父最低。死んで良かった。ざまぁみろ鬼畜ゴミ野郎。
「……後は、なんだっけ。んーと、
ポツポツと呟いたら、シリアスがまた撫で撫でしてくれた。
「だから許して、なんて言わないけどね。僕は他にお金の稼ぎ方なんて知らなかったけど、それでもシリアスの仲間の、僚機の、同じ国の家族の遺品を漁ってお金に替えて生きて来たんだ。古代遺跡でしか産出しない資源だから、僕みたいな信用の無い子供が持ち帰っても、ちゃんと値が着くから」
正直なところ、ちょっとだけ買い叩かれてるけど。
でも、薄汚い孤児が持ち込んだ
と言うか、僕はあの人が居なかったら普通に死んでた。水買えなくて。枯れて死んだ。
「…………ねぇシリアス。やっぱり、シリアスの僚機も、暴走してるの?」
右ガチ、からのフリフリ。
「多分そうだけど、よく分からない?」
右ガチガチ。
「なるほど。……どうしてシリアスは、平気だったの?」
フリフリ。分からないのか。……うん、バカな事聞いたな。分かってたら、シリアスだってシートの後ろに居る子も、正気に戻してたはずだよ。
あー、僕はなんてデリカシーが無いんだろう。シリアスはこんなに素敵なのに、僕が釣り合ってない。申し訳ない。
「……シリアス、どうする? 僚機さんは、売る? それとも、壊す? この辺で売ると多分、自我の低減措置が入るから、僚機さんの自我が消し飛ぶ訳じゃないけど、でも確実に低減措置かは分からない。僕には約束が出来ない。もしかしたら自我破壊措置とかかも知れない」
シリアスは悩んでるみたいだった。
お友達の事だもんね。どんなお友達だったのかな。聞いても良いのかな。思い出させたら、ダメかな。
うん、止めとこう。デリカシーが無いにしても、限度がある。
「…………あ、そうだ。シリアスがこのまま保存してあげられるなら、ずっとコックピットに置いておく?」
左ガチガチ。何かダメらしい。
「保存が出来ない?」
右ガチガチ。
「今は出来てて、でも無理? つまり長期的な保存は出来なくて、今は応急処置的な?」
右ガチガチ。
「…………そっかぁ。適当な提案して、ごめんね」
頭撫で撫で。
悩んでるのはシリアスなのに、優しい。
「……………………ねぇシリアス、物凄く無責任な事言って良い?」
右ガチガチ。
「僕は、売った方が良いかなって、思うんだ」
フリフリ。理由が分からないって事かな。
「もちろん、お金が欲しいって気持ちはあるから、そこは嘘を付けないよ。でもね、なんて言うか、シリアス達の時代の技術力に比べたら、僕から見ると現代って何段も落ちるクソザコナメクジだと思うんだよ。現代人はクソザコナメクジ」
右をガチガチさせかけて、止まる。肯定すると僕もクソザコナメクジって事になるから、気を使ってくれたのかな。優しい好き。
「だからね、今僕が語った
頭撫で撫で。気にするなって事かな。嬉しい好き。
「僕ら現代人がマジでクソザコナメクジな事に期待して、
もしそうなったら、本当に僕ら現代人が
「……本当に壊れたり消されてる場合は、無責任過ぎる提案なんだけどさ。もしそうなったら、この先にもし本当にそんな未来が来たらさ、シリアスがシリアスの判断で、僚機の
めっちゃ頭を撫でられた。えっと、このタイミングでこれはどう受け取れば良いんだろうか。
「えと、そんな感じ。僕の提案は以上です」
右ガチガチ。
「……それで、どうする? 売る?」
……………………………………右ガチガチ。
悩んだ。凄く悩んだ後の、右だった。
「本当に、良い?」
右ガチガチ。
決意は硬い、のかな?
「…………うん。分かった。売ろうね。それで、僕だけの取り引きなら買い叩かれてもボッタくられても良いけど、今回はシリアスのお友達を送るんだもんね。絶対に変な値段では……」
左ガチガチ。………………ん? え、今のタイミングって何を否定された?
「……あ、僕ならボッタくられてもってとこ?」
左ガチガチから右ガチガチの左ガチガチ。なになになに。
「えと、否定肯定否定、だから、違うけど、それもそう。でも違う?」
右ガチガチ。合ってるらしい。つまり?
「…………僕の取り引きも大事だけどそれは置いといて、………………もしかして、この僚機さん、お友達じゃ、無い?」
右ガチガチ。マジかよ!
「お友達じゃ無かったのッ!? こんなに真剣に悩んでたのにッ!?」
右ガチガチ。
「えと、ただの知り合い?」
左ガチガチ。知り合いですら無いッ!?
「同僚? 面識無いけど職場一緒だし、的な?」
右ガチガチの、右ガチガチ。大正解。
うぉおぉおおっ……!? し、シリアスが天使過ぎるっ!
「顔見知りですら無い同僚の為に、そんなに真剣に悩んでたのッ!? シリアスが天使ぃ……!」
左ガチガチガチガチガチガチ。これは分かる。照り隠しだ!
「シリアスは天使だよ! 僕の天使様! 違くないの! 天使なの! 砂漠の天使! ほら、死にかけの僕を助けてくれたし!」
左ガチガチガチガチガチガチ。凄い拒否して来る。照れてるの可愛い。どうしよう、胸がキュンキュンする。脳みそが女の子になりそう。
「ふふ、どれだけ左をガチガチさせても、シリアスは天使だからね。これは譲らないよ。あ、ほら、だからそんなにガチガチさせても譲らないってば。僕の大好きなシリアスは天使なの!」
こんな感じで、僕はずっと天使天使言ってて、シリアスも町までずっと左のシザーアームをガチガチさせてた。可愛い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます