第38話 別れと煽り。



「では、元気でな。また何時か」

「ええ。皆さんもどうか、お元気で」


 整備屋サンジェルマンが新しくなり、タクト達も引越し、僕の新しいお家であるシールドダングも納品されてから数日。

 今日は、永久旅団がガーランドから旅立つそうだ。

 連絡を受けた僕はシリアスで東ゲートに行き、タクトグループも総出でお見送りだ。移動はまたレンタビークルである。


「はぁ、しかし、口説けなかったな」

「あはは、お誘いは光栄なんですけどね」


 旅団の幹部からは、僕も一緒に旅に行かないかと誘われた。つまり旅団への勧誘だ。

 とても光栄だし、楽しそうでもある。けど、僕は断った。


「ああ、会計の奴らが絶対に煩いぞ。是非にと言われて居たからな」

「えと、新人さんの為の機体鹵獲で?」

「それもある。そして、その件で鬼の様に稼いだだろう? 旅団の金策が手頃に行える人材は得難いからな。奴ら、絶対に勧誘しろと鬼の形相だったよ。…………勿論、私も君に来て欲しかった」


 ライキティさんにそう言われ、カルボルトさんやセルクさんや、グドランさんも頷いてる。会計の幹部さんは僕を前にすると暴走しそうなので控えてるそうだ。


「ごめんなさい。僕は、まだ砂漠をので」


 ガーランドで過ごした五年。父がくたばってから四年。まぁ人生がゴミその物だった。

 けど、僕はガーランドが嫌いじゃない。だって此処は、不法滞在者から見ても普通の都市だ。水は高いけど、極々普通の、善良な都市だ。

 何より、シリアスに出会えた。その一事だけで最高だ。

 そんな都市を、僕はまだ『良い想い出』で飾れて無い。せっかくシリアスとこれから楽しく過ごせるのに、僕はまだこの都市を心から『良い場所』だと思えてない。想い出が足りない。楽しさが足りない。

 僕の人生はもう、幸せ以外に有り得ない。なら、楽しく無い都市なんて、町なんて、嘘である。


「だから、僕はまだ行けません。それに--……」


 旅団は、旅を愛する傭兵団だと聞いた。

 何があっても旅を止めない。旅を続けるのに必要ならば、負け戦をひっくり返してでも無理やり旅路にしてしまう。旅の邪魔をするなら何人だって殺してみせる。そんな人達だと聞いた。


「僕もその内、色んな場所を見に行きます。その時に偶然出会えた方が、楽しそうじゃないですか。それも旅の醍醐味なのでは?」


 旅団は好きに旅をする。僕も後から好きに旅して、偶然出会ったらきっと楽しい。

 こんな場所を見た。あんな場所に行った。アレが美味くて、ソレが楽しく、ドレが綺麗で、旅が楽しかった。

 そんな事を話し合うのが、きっと僕と旅団の正しい距離だと思うのだ。


「くく…………、クククッ、ふふ、ふはははははッ……! 旅の醍醐味を語られたら、私はもう何も言えないじゃないかッ! ズルいぞラディア君! それはとても楽しい未来だと、私も思ってしまったじゃないか!」

「えへへ、ごめんなさい」


 その後も、カルボルトさんから「なぁ入れよぉ。一緒に行こうぜぇー?」と誘われ、「また会ったらお買い物に行こうね!」とセルクさんに言われ、「…………次は、俺もきっと、オリジンに」とグドランさんが言ってた。

 まだオリジン諦めてないの、グドランさんのハートが強過ぎる。きっと出会えると良いな。そしたらシリアスも一緒に、オリジン二機と古代機乗者オリジンホルダー二人で語り明かすのだ。


「では、また」

「ええ、また」


 機体に乗り込んで出発する旅団の皆を見送って、見えなくなるまで見ていた。

 タクトグループの男達は、セルクさんとの別れがキツいらしい。別にグループから足抜けして旅団入りしても良かったのにとタクトが言うけど、それはなんか違うらしい。

 と言うか、僕ら誰も、セルクさんが独身か否か聞いて無くない? 旦那さんとか居たらダメージで死ぬんじゃないの?


「せっかく東区に来たし、少し見てく?」

「良いんじゃないか? ウチの野郎共はセルクさんショックで数日使い物にならねぇし。…………そうだな、財布でも買うか」

「あ、良いね! 電子決済だけじゃ味気ないし、少ないらしいけど電子決済対応して無いお店もあるらしいし」

「と言うか、単純に『金持ってる象徴』っぽくて、ちょっと憧れるんだよな。カッコイイ財布に」

「わかるぅー!」


 タクトの案で、東区を皆で適当にプラプラして、東区特有の『外周区露店』を冷やかす。

 東区はガーランドの玄関なので、こう言う小さな流通単位でも商売が盛んなのだ。他の区には露店なんて見た事ない。


「おお、現金のやり取りも盛んだね。ちょっと降ろして来た方が良いかな?」

「そうな。郷に入っては郷に従えって言うし。露店の支払いが現金ベターってんなら、俺らも用意するべきだろ」


 なんでもドローンで運んでくれる現代でも、お金のドローン輸送はされて無い。単純にドローンを狙った犯罪が増えるし、盗まれた場合に銀行と顧客間の問題が無意味に複雑化するから。なら最初から現金の入出庫は人の手でって決まってるそうだ。

 それでも、簡単な金額の入出庫ならその辺のマーケットにある無人機で降ろせる。


「バイオマシンのパーツとか天然物の食べ物じゃ無くて、普通の買い物なら一○○シギル札が数枚あったら充分過ぎるよね?」

「アレだな。バイオマシンに関わると、金銭感覚がガッシャンガッシャン割れてくよな」


 つい最近、五○万シギルが誤差とか思ってしまった僕には耳の痛い話しだ。

 ネマも入れて三○人近い子供で露店を冷やかしながら、僕とタクトは財布とか置いてる露店を探す。途中で美味しそうな串焼き肉とか買っちゃうのはご愛嬌。

 …………フードプリンターの性能が良いのかな? それともフードマテリアルの質が良いのかな? 普通に美味い。


「あ、二人が探してるのってああ言うお店じゃないの?」

「…………おお! 良い感じ!」


 ギルディスが見付けた露店に行って、僕とタクトはお財布を漁る。店主が良い顔しなかったけど、懐からお札を出したらニッコニコしてた。子供の冷やかしだと思ったんだな。


「まいどー!」


 僕とタクトは似た様なデザインの長財布を買った。

 少額でも電子決済って人が多いので、ぶっちゃけ余り使われてない。けど好きな人は好きなアイテムで、このアナログでシンプルな見た目でも、色々と機能が盛り込まれてたりする。


「…………おお、凄い。読み取り式の電子決済用チップが入ってるらしいよ」

「口座と連携して、生体認証機能まで…………」


 送信式が一般的だけど、読み取り式もあるっちゃある。

 僕とタクトは早速口座連携をした後、お財布に生体認証登録をする。

 それから懐の札束を財布にしまって、チェーンをベルト穴に掛けて尻ポケットに。ああオシャレじゃん。


「…………なんか、良いな」

「うん。良い……」


 僕らを見てたら欲しくなったグループの男の子達も、チラホラと財布を買い始めた。女子は冷めた視線を送る。

 いや、タクトが買う時には普通だったのに、それは無いよ。女子怖いなぁ。


「あ、ネマも要る?」

「…………おかね、にゃい」


 そうだった。生活は面倒見るけど、まだ仕事をして無いネマにはお金を払ってない。当たり前だ。孤児には「お小遣い」なんてシステムは無いのだ。衣食住を保証してるだけで充分過ぎる。


「……のど、かわぃた」

「ああ、そうだね。そこの自販機で何か買う?」

「…………ねま、こーら、すき」


 コーク系飲料か。パステルカラー好きなネマには、意外な好みだと思った。

 僕は早速買ったばかりの財布を出した。ちょっとウキウキしてる。

 ネマはコーラで、僕は何にしようかな。相変わらず飲料の値段がトチ狂ってる都市だよね。水七シギルで、他の清涼飲料水、所謂いわゆるジュース系飲料が軒並み一○シギルだ。オカシイだろ。


「他の都市だと二シギルくらいで買えるらしいぞ」

「前から思ってたけど、流石にオカシイと思う。ガーランドは余計に輸送費が掛かるったって、限度が有るでしょ」

『推測。水の利権に関わるアレコレで、飲料系に関税が掛かってる可能性』


 そんな巫山戯た理由があるのか…………?

 あーいや、そうか。水七シギルで、仮にジュースが五シギルくらいだと設定しても、その値段比なら誰も水とか買わないだろ。

 水よりもっと安い飲料があったら、大量に買って浄水機にぶち込めばソレでシャワーだって浴びれてしまう可能性もある。

 そうするとオアシス水道契約とかにも影響が? いや有り得るぞ。住居系のダングに水を補給したりするなら、水の方が高い時はジュースを補充して浄化すれば良いのだ。技術的には汚物すら完全浄化出来る循環システムなら、全く問題無いだろう。機種によってはフィルター代とか掛かるけど、ボトル一本七シギルよりマシだろ。

 つまり、このジュースの値段は完全に、水の利権のとばっちり…………?


阿漕あこぎな商売しやがって」

「水の利権者は地獄に落ちろ」

「裸で警戒領域に行って乾涸びろ」

「そんなに水が好きならガーランド地下のオアシスで溺れてろや」

「蒸し焼きでも可。サウナ作りは得意だぞ手伝ってやる」


 口々に利権者を罵倒する。水の利権者に対する僕ら孤児の怨みは根が深い。

 単純に、水が安かったら助かった命は数知れず。水があったら困らなかったトラブルも枚挙にいとまが無いのだ。

 水で稼ぐ奴はなるべく苦しんで死ね。それが僕らの共通認識。

 もしかしたら正当な、本当に赤字ギリギリの値段設定だったのかもって、少し思ってた。でも水で儲けるために輸入する清涼飲料水に関税掛けるとかクソでしょ。

 仮にジュースが五シギルで売ってたら、僕らはもっと楽に生きれた。だって普段から買う水ボトルが日に二本は必要で、それをジュースに出来たら四シギルも浮くのだ。そしたら一日に民間レーションが四つも追加で買える。一食に一個として二食分用意する僕らは、一食で二つ食べて一日三食食べれた計算になる。


 マジガッデム!


「ネマから見て、どう? この都市の水分は高い?」

「…………おかね、わかんにゃぃ」

「……せやった」


 茶番を終えて、ネマにコーラを、僕はイエローマックスとか言うコーヒー飲料を買う。二人分で計二○シギルだ。いや高過ぎない?


「酒は安いのにな」

「ほんそれ! でも砂漠でお酒は水の代わりにするの危ないし」


 お酒飲んで体温上がって、発汗して余計に水を出したらそのまま死ぬ可能性がある。と言うか砂漠で自ら体温上げるとかちょっとした自殺行為だ。ナノマテリアルを着てるとは言え、心情的にも避けたい所だ。

 ガーランドではアルコール飲料が水より安い。けどアルコール度数が高い程安いって言う意味不明な値段設定なのだ。例外もあるけど。

 安く水分補給をしようとすると、脱水で死ぬ可能性がががが…………。


「ままならねぇ」

「ほんとにな」


 お財布を尻ポケットに戻す時、タクトはジャケットの懐に戻そうとしてて、そしてなんか明らかに『ソレ目的』だよねって奴が近付いて来たのが見えた。

 予想通りにタクトにぶつかり、懐に入れようとした手を僕が捻り上げる。傭兵用の服には身体強化機能も有るんだよ。古代文明から見るとお粗末な強化率らしいけど。シリアスに『…………幼児用の、玩具機能?』とか言われた。マジかよ現代文明だらしねぇな。


「イダダダダッ……!?」


 捻って、くるっと回って、ダンッ! 自販機前のフロアでスリを地面に拘束する。こう言う簡単な体術も傭兵は必要らしく、電子教材買って偶に練習してるんだ。


「おお、スリか。……すまんラディア、助かった」

「良いの良いの。…………あれ? お前もしかしてゴミクズ、じゃなくて、ガボットじゃね?」

「あ? …………おお、マジじゃん。やったぜ現行犯でこのクソぶち込めるじゃん」

「離せよぉぉぉおッッ……!? ちくしょぉぉお!」


 なんと、スリはガボットだった。僕を見捨てたガボットだ。ふふ、待ってよ今は数枚のお札しか財布に入ってないんだから、札束ビンタ出来ないじゃん。ふふふふふふふ。


「誰かと思えばー! ガボット君じゃないですかー!」

「やべぇ楽しくなって来た」

「だ、誰だよお前ら!」

「あれ? 分からない? ああ服装か」


 記憶に残る黒髪天然パーマ。捻じ曲がった性根が滲み出る顔面にそばかす装備。

 身に纏う服も当時の僕らより少しだけマシだけど、ツギハギの目立つボロボロのシャツ。

 東孤児グループを纏める男、ガボット君を現行犯で捕まえてしまった。


「………………ま、まさか、ラディア? それに、タクト? 他の奴らもッ!?」

「お久しぶりでーす! 相変わらず素敵なお召し物ですね! お顔のメイクも良く似合ってますよぉ!」

「煽りよる」

「クソがっ!? どうなってる!? なんでお前らがそんな上等な服着てるんだッ!? どんなシノギを見付けたお前ら!?」


 地面に押さえ付けたガボットが僕らの姿を見て大混乱。こいつ、ナチュラルに僕らを見下してたからな。それが見るからに格上になっちゃったら、精神の均衡を保てないんだろう。可哀想に。

 でもそんなの関係ねぇ! おら喰らえ僕のオーシャンパシフィックピース! 古に存在したらしい伝説のコメディアンの魂を喰らえ!


「え? え? 知りたい? ねぇ知りたい? 僕らのシノギ、知りたいの? ねぇ? この場で土下座して今までの事を謝った後に三回まわって『自分は生涯素人童貞です! アオーン!』って大声で鳴けば教えてあげても良いよ? ほら、僕って優しいからさ。あ、ちなみにその時は全部撮影して君のグループ全員に見せてあげるからね。あと吠えてくれないならこのままスリの現行犯で兵士さんに預けるから」

「クッソ煽りよる」


 そりゃ煽るよ。札束ビンタ出来なかったんだし。


「は、はぁ? それやったら、スリ見逃してくれんのか……?」

「タクトが許せばね? スられそうだったのタクトだし」

「面目ねぇ。気が抜けてた」


 ちなみに、タクトグループはもう周囲を囲ってて、ガボットは逃げられそうに無い。皆が傭兵用の服着てるからね。パワーアシスト付いてるから、女の子にも勝てないよ君。


「…………し、シノギも教えてくれんのか? 本当に?」

「僕は嘘を付かないよ。知ってるだろ?」

「……聞いても、お前らにしか出来ねぇシノギじゃねぇのか?」

「まさか。僕ら以外にもやってる人は居るし、例外は有るけど基本的には誰でも出来るシノギだよ」


 悩んだ末、見逃される上にお金を稼げる方法まで知れるとあって、ガボット君はプライドを捨てた。いや、元々持ってなかったのかも知れない。

 僕は「やる」と言った彼を離した。囲んでて逃げられないからね。


「ちゃんと大声でね? 微妙な声量でお茶を濁す気ならリテイクだから」


 彼は苦虫を噛み潰した様な顔で、楽しそうに三回もくるくるしてくれた。勿論宣言通りに撮影中だ。はぁ楽し。この後コイツのグループを回って全員に見せなきゃ。


「お、俺は生涯素人童貞です! アオーンッ!」

「やりやがった。初めてガボットを男だなって思ったわ」

「よ! プライドを捨てた男の代表! 輝いてるぞ!」

「マジ煽りよる」


 怨み骨髄だからね。


「や、やったぞ! 言ったぞ! さぁ、俺にお前らの新しいシノギを教えろ!」

「うん、良いよ。誰でも出来るシノギだけど、言った通りに『例外』は始められないけど」


 僕は端末でライセンスを表示して見せてあげた。

 一口納税を使って現在、僕の傭兵ランクは二だ。これでも駆け出し扱いだけど、最低でもランクを一つは上げれるくらいに仕事をしてるって傭兵ギルドが保証してくれてるので、ランク一と比べたら信用度が雲泥の差だ。


「………………は?」

「僕、傭兵なの。乗機持ちの機兵乗りライダーで、戦闘機免許持ちのランク二。これが僕のシノギだよ」

「…………いや、は? えっ、はぁ?」


 信じられないガボット君が、間抜け面で僕の端末と僕の顔を交互に見る。


「ちなみに、俺達はまだ免許持ってないが、ラディアのお情けでデザートシザーリアを十三機貰った。あとは免許さえ手に入れたら機兵乗りライダーだ」

「·…………嘘だろ?」

「マジなんだよなぁ」


 此処は完全に歩行者用のストリートなので、シリアスは来れない。でもシリアスが居る場所まで移動したら、簡単に証明出来る。


「いや、は? だって、誰でも出来るって…………」

「例外は有るけどって、僕は言ったよ? 基本的に誰でも傭兵に成れるもん。傭兵は、自分の名前と情報端末さえ有れば、とりあえず乗機が無くても徒歩傭兵ウォーカーとして登録出来るんだよ。それに徒歩傭兵ウォーカーでも大きな傭兵団にでも拾われたりすれば、乗機が貰えたりするし。現代で端末持って無くて傭兵登録出来ない人間なんて、孤児くらいだろ? ほら、立派な『例外』じゃん。僕は嘘なんて言ってないよ。『基本的には誰でも出来る』もん」


 ベロベロバーって最後に一煽り。ガボット君は顔を真っ青にしたり、真っ赤にしたり、怒ったり悲しんだりで忙しい。

 多分、悲しいのは無駄情報の為に生涯素人童貞宣言した事だろうか。


「つまり端末を買えない君には絶対に無理ィィイィイイイ! ベロベロバァァァアアアッッ!」

「煽りよる煽りよる」

「ぐっ、がぁぁっ、ぐぞがぁぁあっ」

「ブチ切れじゃんすか」


 へーいガボット君! 顔色が紫色だぞッ!? どうしたんだい? 死ぬのかい!?


「はぁ、スッキリした。本当は最後に札束ビンタしたいんだけど、まぁ長年の恨み辛みは、コレで水に流そうか。もう僕はシリアスのお陰で報われたしね。…………あ、なんなら何か奢ってあげようか? コーラ飲む? 串焼きでも良いよ」

「サッパリか」

「違うよタクト。言ってるじゃん? サッパリじゃ無くてスッキリだよ」


 僕の四年間分の怨みだけど、まぁ言うてコイツ、僕をグループから弾いただけだからね。何かを不当に奪われた訳でも無いし。

 急に全面的に許し始めた僕に、顔色紫ボーイだったガボットがポカーンとしてる。状況に着いて来れないらしい。


「ん? 要らないの? コレまでの事を水に流すけど、依然として君と僕は仲良く無いし、奢ってあげるなんて今日くらいだよ?」

「…………え、あっ、じゃぁ、要る」

「急展開過ぎてラディアの情緒が不安定なのかと思うよな。でもコイツ、最近これがデフォルトなんだよ」


 いえーい! ランダムメンタルデフォルト男でーす!


「今日はお世話に成った傭兵団を良い感じにお見送りして、かなり機嫌が良いから奢ってあげるね。何なら皆でその辺どっか入る? あ、ハンガーミート行く!? あそこならガボットの服でも文句言われないよ!」

「あ、良いなハンガーミート。肉が食いてぇ。前回は全然食えなかったし、リベンジしてぇ」

「…………ねま、おにく、すき」


 露店でちょっと摘んじゃったけど、やっと普通に食事が出来る様になって来た僕らの胃袋は食べ盛りだ! 多分!

 未だに意味が分からないって混乱してるガボットをタクトに任せて、僕はネマを連れてシリアスの元に。

 タクト達はグループ全員乗れるレンタビークルなので、一人くらい増えても問題無い。と言うか奢るって言ったけど、別に親しくも無い奴をシリアスに乗せたくない。加えてあの格好だし。


「…………らでぃあ、らでぃあ、おにく?」

「〝さん〟を付けろよデコスケ野郎。でもお肉だよ。食べ放題だ。好きなだけ食べて良いよ」

「……ねま、らでぃあすき」

「現金な好意」


 駐機場に戻って来てシリアスに機乗。タラップを歩いてコックピットへ。

 シリアスに「お財布買ったー!」とお喋りしながら起動シークエンスを終わらせて、さっさと出発。

 タクトは一回行った事あるし、ハンガーミートの座標は知ってる。別々に行っても問題無い。

 目的地は最奥西区だから、このまま真っ直ぐメインストリートを西に向かって突っ切るだけだ。


『タクトから通信要求』

「うん? どうしたんだろ。ガボットが暴れでもしたのかな?」


 ならぶっ飛ばして大人しくすれば良いのに。取り敢えず通信受諾。


『おうラディア。ハンガーミートってビークルで入れんの?』

「……………………あっ」


 ダメじゃない? 危ないから一度ハンガーに入ったら生身で出て来るなってお店なのに、踏み潰されそうなビークルで入店とか無理じゃない?


「待ってて、確認してみる」

『おう、待ってるわ』


 ハンガーミートのサイトからお店に通信。確認。タクトに通信要求。


『どうだった?』

「ダメだった。ダング出すわ」

『よろしくぅ』


 ちくしょう! 僕はなるべくシリアス意外に乗りたく無いのに!

 だからネマに免許取らせようとしてるんだぞ! タクトグループにも、ネマも、まだ輸送機免許すら取った人が居ないので、必然的にダングを持って来るのは僕になる。

 もう納品はされてるので、新サンジェルマンから乗って来るだけだ。中にシリアスを格納してから来れば、ちゃんとシリアスと一緒に来れるし、一緒に食事出来る。


「ネマ。文句を言う訳じゃ無いんだけど、なるべく早く免許を取ろうね。協力するから」

「………………がん、ばぅ。できたら、ほめて?」

「〝下さい〟を付けろよデコスケ野郎。好きなだけ頭をナデナデしてあげるさ」

「…………えへっ。やく、そく」


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