第39話 きゃぴきゃぴ。
焼肉の翌日、シリアスがコンシールド武装の追加作業に入った。
念願の、念願のコンシールドウェポンだし、念願の中型プラズマ砲だし、期待は鰻登りだ。
しかし、今日から三日、シリアスに乗れない。シリアスも作業用ボットを使っておじさんを手伝うそうなので、余り構って貰えない。寂しい。
大掛かりな工事なので、シリアスはダングの中じゃなくてサンジェルマンのハンガーで換装作業だ。
「…………アルバリオ邸に行こうかな」
「……どこ?」
「〝ですか〟を付けろよデコスケ野郎。僕がバイオマシンの操縦訓練依頼を受けてる上級区の家だよ。そろそろ基礎も固まったと思うから、アズロンさんとポロンちゃんに本格的な戦闘機動を教えなくちゃだし、ネマも免許取得の勉強出来るし」
余り乗りたく無いけど、空いてるダングで行く。と言うか持って行かないとネマが訓練出来ない。ダングにもVRモジュールは入ってるから、一緒にお勉強だ。
…………いや、ネマは筆記の方が良い? まぁ良いか。
しかし今日はシリアスが居ないので、僕は誰かのコックピットに同乗する事になる。最近のアルバリオ邸はライドボックスのコックピットカスタムが流行ってるらしく、複座もしっかり増設されてる。ポロンちゃんがチャットアプリで教えてくれた。
僕はポロンちゃんに「今日行く」とチャットを飛ばし、アズロンさんにも「本日、終日空いてるので行きます。時間に余裕が有ればどうぞ」とショートメッセージを送る。
アズロンさんは香辛料で稼ぐ企業のトップであり、当然ながら自由な時間を何時でも作れる訳じゃない。なので、僕は基本的にポロンちゃんに教えて、時間がカチ合うか、予め予定を立てた日に行った時にアズロンさんを教える事になってる。
スケジュールをきっちり決めても良いのだけど、向こうが自由で良いよって言ってるので、甘えさせてもらってる。
逆に、ポロンちゃんは何故か何時もアルバリオ邸に居る。
…………年齢的にスクールへ行ってるはずなんだけどなぁ?
そして通信要求。
「はーい。ポロンちゃん?」
『はい! ポロンです! 来るですか!?』
「え、もしかしてマズい? 予定あるなら止めるけど」
『あっ、違うです!? あの、えと……』
何を慌ててるのか知らないけど、僕が暇だから嫌でも付き合えなんて言うつもりは無いし、僕はそんなに偉くない。
むしろ依頼人のスケジュールを無視して教えてるんだから、偶にはダメって言われる事も有るだろう。むしろ今日までポロンちゃんだけでも確実に居たのがオカシイのだ。
そう思って予定をキャンセルしようかと思ってると、ポロンちゃんの通信の向こうから別の声が聞こえた。
『ちょっとポロン! それ誰と話してるの!? もしかして彼氏!?』
『かれッ……!? ち、違うです違うです!?』
『ええー、怪しいなぁ……?』
『えっ!? ポロンって彼氏居るのっ!?』
『居ないですぅ〜! 違うですぅ〜!』
通信の割り込みじゃない。ポロンちゃんの端末で拾ってる音だなコレ。接続してる回線増えてないし。でも複数の声が聞こえる。何人だ?
聞こえた声は、ポロンちゃんとそう歳の変わらない感じに聞こえた。そしてポロンちゃんの端末が音を拾ってる。つまり、ポロンちゃんのお友達、ないし知り合いである確率が極高。そしてアルバリオ邸に居る確率もそこそこ。
危ねぇ。VRバトルで教えるならディアラちゃんに成らないとだし、最近は開き直ってアルバリオ邸に行く時は最初から女装してたのだ。
けど、ポロンちゃんの推定友人さんが居るなら、女装は嫌だ。流石にこれ以上はディアラちゃんを知ってる人を増やしたくない。僕はあくまでラディアなのだ。
……………………あれ? でも、今日はシリアスでの参加じゃ無いから、別にメンズのままでも良いのでは?
ああ。そうか。ポロンちゃんも優しいから、僕がディアラで登場してお友達に認識される事を心配してたのか。僕が必要以上に身バレを怖がってたし、シリアスで行ったらアウトだろう。普段のシリアスに乗ってるのは男の僕なんだし、身バレの確率が跳ね上がる。
「ポロンちゃん。今日はシリアスが居なくてさ、だから今日のお勉強はシリアス抜きなんだ。つまり、色々と気にしなくて良いんだ。えーと、端的に言うと僕は今日、傭兵の姿でそっちに行くし、途中で着替える事も無い」
周りで聞いてる推定お友達に聞かれても、ギリギリセーフそうな言葉を選ぶ。どう言う意味かを問われたら、流石に誤魔化してくれポロンちゃん…………。
『…………? え、あっ!? 分かったですッ! えと、あの、ディ、じゃ無くてラディアさん、あの、今……』
「お友達が居るんだよね? 予定があるなら今日のレッスンは止めるけど、どうする?」
『やるですやるです! 帰っちゃヤですぅー!』
帰るも何も、まだ行ってないよ。
しかしまぁ、やる気がある生徒で何よりだ。
お友達も複座で参加しても良いと伝えて、僕は通信を切った。
それから可愛らしいカスタムコックピットのダングに乗って、サンジェルマンから出る。
現代の技術力であっと言う間に作られた建物だけど、急造とは思えないシッカリしたガレージだ。レプリケートって凄いなぁ。
「おじさん、シリアス、行ってきまーす!」
「……ますっ」
『おーう。気を付けて行って来いよー』
『シリアスは、お留守番』
何時もと全然違う操縦のキレを感じながら、ダングを発進させる。
シリアスのサポートが無いので、システムの起動シークエンスは全部僕が操作しないとだし、操作のレスポンスもなんか、こう、ヌメっとしてる気がする。
なんだろう。約三○○○万シギルも出して不良品って事は無いと思うし、オリジンとの差なのかな。
うーん、気になるな。今日は人のコックピットに同乗させて貰うし、少しだけ動かす許可を貰おうかな? 本当はシリアスにだけ乗りたいんだけど、もうダングに乗っちゃったし、今更か。
特注の大型ダングはスイスイとメインストリートを進み、上級北区の奥の奥に走って行く。操桿の感覚がヌルッとしてる以外は、快調だ。
流石輸送用機体。国内の輸送機シェアだけでも五割を余裕でぶっ超えてるマンモス機体だ。そのキャタピラ移動は非常にスムーズだ。
「…………こんな、おおきな、きたい。ねま、のる?」
「無理って言うならソレでも良いけど、そうすると僕、君を養う理由が無いよ? タクトかおじさんに雇ってもらう?」
「………………らでぃあが、いい」
「〝さん〟を付けろよデコスケ野郎」
ダングのデカさにビビるネマを置いといて、快適な走行性であっと言う間にアルバリオ邸に到着した。
何時もと違う機体で来た僕に、開門はスムーズとは行かない。初めて来た時みたいにこっちから通知を送って、僕がラディアだと知らせる。
『失礼しました。今、お開きします』
「いえ、毎日お疲れ様です」
門が開いたので、ダングでアルバリオ邸の駐機場を目指す。この家はマジで広いので、特注で大型にしたダングくらいは気にならない。
駐機場へ降りると、僕の到着を知ったポロンちゃんと、そのお友達が屋敷から出て来て駐機場に来た。ポロンちゃんを抜いて三人も居るぞ。良かった、ポロンちゃんにも友達居たんだね。ちょっと心配してたよ。
あと、お客さんの出迎えだからセルバスさんも居る。お仕事だもんね。
僕はダングのシステムを落としながらコックピットを開いて、降りる準備をする。ダングのコックピットはハッチ式で、頭がガショッと開く。頭が低い位置に有るので乗り降りが楽な機体だ。
準備が終わると、ネマを伴って外に出る。そして端末を操作してコックピットを一度閉じる。
「やぁポロンちゃん、仕事に来たよ。今日もレッスン頑張ろうね」
「はいです! 頑張るです!」
元気いっぱいなポロンちゃんは、クリームヘアーをふわふわさせながらぴょこぴょこする。あぁ可愛いんじゃぁ〜。
あとは、ポロンちゃんはちょっと抜けてる所があるので、やる気でぴょこぴょこしてるポロンちゃんはお友達を紹介してくれないのだ。だから自分から挨拶する。多分、この子達も上流階級の人達でしょ? 怒らせたら怖いもん。
「初めましてお嬢様方。アズロン・アルバリオ様からご依頼頂きまして、アルバリオ邸にてバイオマシンの操縦訓練を教えてます、傭兵ランク二のラディアと申します。そして隣は未来のバディ候補でネムネマです。どうぞ、お見知り置き下さい」
「…………さいっ」
ビシッと傭兵式の敬礼でキメる。ネマも真似してビシッとする。眠そうな顔との対比がなかなか芸術的だ。
(…………ねぇ、良くない?)
(凄い良い……。え、こんな人に教わってるの? ポロンずるくない?)
(可愛い感じとカッコイイ感じのバランスが凄い……。隣の子も、何あれ芸術? 可愛いの暴力?)
何やらヒソヒソしてる。お気に召さなかったかな。上流階級から不興を買うとか嫌なんだけど。名誉子爵にはなるべく変身したくない。
「バディ候補、です?」
ヒソヒソしてるお友達をよそに、ポロンちゃんはコテンと首を傾げて、ネマをじーっと見る。
「うん。色々あって養う事になったんだけど、僕はお仕事しない子を養うつもり無いからさ。僕も四年前からずっと働いてるし。幸いネマは、筆記が怪しいけど機体の操縦は出来るっぽいから、免許を取らせてダングを任せようかなって。ほら、ちょっと稼いだからダング買ったんだよ。フレームから大型化されてる特注機だよ」
僕は降りて来たダングを仰いで紹介する。ちなみにまだ名前は無い。ネマに買い取らせる機体なので、ネマが免許取って
(ず、ズルいです…………! ポロンだって、ポロンだってラディアさんのッ……)
「ん? どしたの?」
「なっ、何でも無いです! 新しい子を買ったです!? 大きいです!」
ポロンちゃんが何か、思い詰めた様な顔した気がする。けど、何でも無いって言うし、別に良いか。僕はあくまで操縦を教える先生で、ポロンちゃんのプライベートなお悩みを解決する依頼は受けてない。
そう言うのはアズロンさんとかポポナさんとか、身内がやれば良い。
「そう言えば、ポポナさんは?」
「あ、そうです! お母様もズルいです! 最近は毎日アンシークに乗ってどっか行っちゃうです!」
「なるほど、機体買ったんだね。と言う事は、セルバスさんも?」
まだキャピキャピしてる女の子達を尻目に、ひっそりと佇むナイスミドル銀髪オールバック執事さんであるセルバスさんに聞く。今日もオールバックと燕尾服がバッチリ決まってカッコイイ。憧れる。
「ええ。デザリアを一機、旦那様からご都合頂きました。安かったと言われましたが…………」
「あー、まぁ多少値落ちしても、普通の人から見たら充分に高額ですよね。でも、今は本当にデザリアの値段が落ちてるんですよ。半額近くまで大暴落です」
「…………そうなのですか?」
「はい。僕がちょっと、大きな傭兵団から人を借りて、デザリアを三桁ほど鹵獲して売り捌いたんですよ。そのせいでアホほど値が落ちましたね。代わりに総額で三億シギルほど稼ぎまして」
「三億ッッ……!?」
おっとぉ、セルバスさんと話してたら、金額を聞いた女の子がビックリして叫んじゃった。
皆、髪色薄いなぁ。染めてるのか抜いてるのか、まさかガーランド出身でその色の地毛なのか? どっちにしてもやはり上流階級か。
声を上げた子は勝ち気な顔立ちに反して、柔らかいパステルピンクの髪色をした女の子だ。ツーサイドアップに纏めた髪の上にベレー帽を置いてる。絶対ネマ、この髪色好きだと思う。
二人目はネマにも負けず劣らず、眠そうな顔をした銀髪の女の子だ。光を弾く色なので意外と砂漠でも有りかも知れない。スタイルはボブカットで、帽子は無い。…………マジか。多分あれ、頭に付けた髪飾りが帽子代わりなんだろう。なんか超技術で陽射しを遮る奴だ。ネマのヘッドドレスと同じ仕組みの奴。
三人目は薄緑色の長い髪をカールにした女の子で、活発そうな印象を受ける。プリカタイプだな。
そしてコレが重要なんだけど、なんか全員が同じ服着てる。女性用のブレザーって奴か。完全に同じでは無く、個人個人で多少のカスタムはして有るけど、明らかにスクールか何かの制服だろう。
「はい。三億です。まぁ経費を抜いて仲間と分けたら、六三○○万くらいに成っちゃいましたけどね。後ろのダングはその稼ぎで買った特注ですよ。居住区は勿論、ガレージのハンガーも選び抜きまして。センサーや装甲や
「三○○○万ッ……!」
「え、しゅご……」
「同い歳くらいなのに、すごい……」
「…………ラディア様。私めの記憶が正しければ、シールドダングの購入費用は通常、一○○○万シギル程かと思うのですが」
「そうですね。ノーマルのゼロカスタムを買うなら、その金額ですね」
「……あの、何をどうすると、三倍に?」
「うーん、じゃぁ見てみます? ダングの中」
多分、アズロンさんがシールドダング志望だから、こんな高額になる機体は気になるんだろう。だってこのダング、フル武装してあるならまだしも、ノーマルダングより大きい以外は外観ゼロカスタムだもん。
ベース機で三○○○万とか聞いたら、内心穏やかじゃ無いだろう。アズロンさんがどれだけ稼いでるかは知らないけど、お金だって無限にある訳じゃない。此処から更に武装を付けたりするなら、値段は更に上がるんだし。
そんなお悩みを抱えてるだろうセルバスさんと、あとついでにお嬢様方とポロンちゃんを中にご案内。コックピットから入って、居住区に抜け、ガレージから外へ。
居住区のグレードには皆が驚いて、バイオマシンの中でこのレベルの暮らしが出来るのかと隅々まで見ていた。
流石にプライベートな個室は勘弁してもらったが、セルバスさんは客間とキッチン、バスルーム、トイレ、そしてリビングダイニングは目を皿の様にして検分してた。
「…………アリですね」
「でしょう? 僕の場合、仮の家じゃなくて此処へ本当に住むので」
「重ねて、アリですね。限られたスペースを上手く使い切って、凄まじい居住性を獲得してます。使われてる機材の質も良く、仕事が丁寧です。ガレージも素晴らしい。変形型のハンガーで格納限界を変更出来るのですね。…………参考まで、この機体を購入したメーカーをお聞きしても?」
僕はセルバスさんの端末に詳細をメールした。きっとアズロンさんが免許を取った後に購入する機体は、このダングの影響を大いに受けるだろう。
「お嬢様方も、満足頂けましたか?」
「はーい!」
「ご満足」
「これ、パパに買って貰ったとかじゃなくて、自分で稼いで買ったのよね……? はぁ、素直に凄い…………」
「ありがとうございます」
褒められたのでお礼を言っておく。僕の場合は買ってくれる相手が居ないんだけどさ。
なにせパッパはくたばってるから。天国にシギルを持って行って僕に送金してくれるなんて事があれば別だけど。
…………あれ? そう言えば父の遺産ってどうなったんだ?
まだ事実か確認して無いけど、自称でも凄腕だったんだろう?
僕も経験して知ったけど、バイオマシンに乗るとアホほど稼げるし、同時にアホほど金が掛かる。そんな懐具合が基本の
その辺どうなってんだろ。僕は相続出来ないの? それとも、なんか、まかり間違って母の方にでも行った? ああ、そんな手続きとかしてたら有りそうだな。
うーん、分からない。暇な時にその手の法律でも調べようか? でも四年前だしなぁ。調べても手遅れ感が凄いし、忘れちゃった方が精神衛生的にも良いかな。
「じゃぁそろそろ、本日のレッスンと行きますか。セルバスさんは免許取れたんですよね。どうします? 参加します? あとお嬢様方はどうしましょう?」
「見学したいでーす!」
「私も興味あるのよね。パパにダメって言われてライドボックス買って貰えないけど」
「分かる。うちもお父様がダメって…………」
「ポロンは、むしろお父様が『乗るか!? やるか!? いいゾ!』って凄いもうプッシュ……」
「やっぱりポロンずるくない? こんな先生見付けてるし、お父様ガチャSSSSSSRだし、容姿まで可愛いって何? 人生勝ち申してるの?」
僕から言わせれば、桃髪の君も人生勝ち申してる方だよ。親ガチャ失敗して無いだけで人生勝ち組だよ。
僕なんて砂漠に置き去りだからね? そのお陰でシリアスと出会えたけどさ。
と言うか未だに誰も、女の子達を紹介してくれないのは何故なのか。もしかして、僕が人の名前覚えるの苦手なのバレてる? 気を使われてる? どうせ覚えないんだからええやろ的な精神?
そうだよなぁ。未だになぁ、タクトグループのメンバーさえほぼ全員覚えてないしなぁ。
興味無いと頭に入って来ないんだ。ポロンちゃんくらい強烈なら覚えられるんだけどさ。
それにまだ、誰もが奇跡的に、お互いの名前を呼ばないんだよなぁ。「ねぇ」とか「ほら」で済ませちゃう。
「ネマはどうする? ダングに残ってVRバトル起動する?」
「…………どしたら、ぃい?」
「僕としてはむしろ、筆記の勉強して欲しいからなぁ。もしポポナさんかセルバスさんが暇なら、ネマをお願いしたい所だけど」
「でしたら、私めがお嬢様をお預かりしましょう」
VRバトルでネマの操縦は見たんだけど、うん。及第点だった。多分実技は通る。八歳の体で試験用の実機を上手く動かせるか否かだけが心配だけど、そのくらいは融通効かせてくれるだろう。
なので、ネマには筆記を勉強して欲しいのだ。僕は早く、ダングのパイロットが欲しい。
「お願いします。…………ところで、セルバスさんとポポナさんは、結局のところ戦闘機免許は取らないので?」
「…………正直な所、悩んでおります。と言うのも、奥様が乗り気になってまして。バイオマシンの操縦が思ったより楽しく、より複雑な機動が出来るなら戦闘もアリだと」
「つまり、ハマっちゃったんですね?」
「端的に言えば、そうなります。と言いましても、やっても精々が実機で狩人の真似事でしょうか。流石に戦争や、護衛依頼を受けての対人実戦などは…………」
まぁ、そうですよね。端的に言えば人殺しだもん。超えちゃいけないラインだと思うよ。僕は超えちゃったけど。
それに、世の中には生身で徒党を組んで、輸送任務中の機体に移乗攻撃カマすクレイジーが居るらしいから、護衛を受けてハッキリと視界内で人間を挽肉にする機会も有るかも知れない。
それが嫌なら、狩人が限界だと思うよ。熱い対人戦なら、VRバトルで良いんだし。
「さて、では屋敷に戻りましょうか。ラディア様は、お嬢様とライドルームへ?」
「ですね。筆記の勉強は正直、僕の仕事じゃないですし。ポロンちゃんがランクマッチのレートを二○○くらいまで上げられるように、ミッチリ教えたいと思います」
皆でダングからアルバリオ邸へ。
ネマはセルバスさんへ任せて、僕はポロンちゃん含むお嬢様一行と共に、ライドボックスが詰まったライドルームへ。
部屋の中にあった四機の内、二機の黒い箱は解体されてる。アンシーク用とデザリア用だ。ライドボックスの中の
しかし、なんか残ってるライドボックスがその分巨大化して無い?
「あ! そう言えばお父様が、ラディアさんなら自分の子を任せても良いって言ってたです!」
「…………え、突然なに? ポロンちゃんからのプロポーズ?」
「ぴゅッ!? ぷ、プロっ--!?」
アズロンさんの自分の子って、つまりポロンちゃんでしょ? 任せるってのは、嫁にどうかって事? いや僕にはシリアスが居るので…………。
「ち、違うです違うですッ!? ライドボックスの話ですっ!?」
「ああ、なるほど」
突然の『父公認御で付き合いしましょう』宣言かと思った。アズロンさんって僕をめっちゃ気に入ってるから、仮に僕が娘さん下さいって言ったら喜んで! って成りそうな空気がある。勿論ポロンちゃんの意思が重要だけど。
でも『自分の子』ってポロンちゃんじゃなくてダングの
「それなら、お言葉に甘える? 今日はポロンちゃんと同乗しても良かったけど、ポロンちゃんもお友達と乗りたいよね。ポロンちゃんはどうしたい? て言うかライドボックスが少し見ない内にデカくなってるんだけど、どんだけコックピット改造したの。何人乗れるのコレ? アズロンさんのダング借りる必要無くない?」
「よ、四人乗れるです…………。パイロット入れて五人…………」
「人数ピッタリじゃん」
ああ、でも丁度良いな。大型ダングに乗った時のヌメっと感がダング特有の物である可能性もあるし、ウチのダング以外のダングに乗りつつ、他の機体にも乗るべきか。
なんかシリアスが作業中だってのに付け込んで浮気してるみたいで嫌だな。でもヌルッと感の把握は大事だと思うんだよなぁ。オリジンと現代機の差だとしたら、つまり僕とシリアスにとってはアドバンテージな可能性がある。
「じゃぁ、僕は基本的にアズロンさんの機体を借りて、ポロンちゃんが直接聞きたくなったらそっちに乗る形にしよう。お嬢様方はお好きな方の複座に乗ると言う事でどうでしょう? ポロンちゃん、どうせアズロンさんのコックピットも、家族を乗せる為にサブシートを沢山付けたんでしょ? ライドボックスめっちゃデカくなってるし」
「お、お父様はパイロットシート除いて八席…………」
「なして? メイン入れたら九人乗りじゃん。流石に多くない?」
「お仕事の関係で、知人を乗せるかもって…………」
「ああ、ポリシーが邪魔しなくなったから、今度は知ってる人に自分の機体を自慢したくなった感じかな…………」
今までの反動か。
バイオマシン好き好きの民が、バイオマシン好き好き過ぎてコックピットは避けて生きて来たんだ。それが自分の機体を持って、自分だけのコックピットをカスタムってなったら、もう色んな知り合いに「見て! ねぇ見てワタシの機体! 素敵なコックピットだろうっ!? ねぇ!」ってなるのは必定か。
気持ちは分かる。僕だって本当は世界中にシリアスの可愛さを宣伝したいもん。
サソリ型がマイナー機? ははっ、ご冗談を。…………みたいな?
「じゃぁ私はポロンの彼ピッピの方に乗るぅ〜!」
「ぴゃぁッ!? か、彼氏じゃないって言ってるですぅ〜!」
「ふむ。じゃぁボクは、ポロンの方に。彼氏と通信越しにやり取りするポロンを眺める。きっと趣深い」
「なんで皆ポロンの言う事聞いてくれないですっ!? ラディアさんは彼氏さんじゃないですよぉ〜! 趣深いってなんですかぁ!」
「マルはどっちに乗ろうかなぁ〜?」
皆、元気だなぁ。
ポロンちゃんだけ私服だから、なんかイジメとかそう言う可能性に着いてちょっと思ってたけど。仲良さそうで安心した。
アズロンさんがリアスとターラに、ポロンちゃんの友達になって欲しいと言ってたのも、その関係かとちょっとだけ邪推してたんだ。
でも、まだ依然としてポロンちゃん不登校説が残ってるから、あまり触れない様にしよう。
だって何時も家に居るし。お嬢様三人は制服っぽいブレザー着てて、ポロンちゃん私服だし。もう見るからに地雷情報じゃん? 見えてるなら踏まないとも。地雷ってそう言う物だよ。
しかし、彼ピッピ扱いは困るな。シリアスも忙しいとは言え、端末のモニタリングくらいはしてるだろうし。
でも下手に否定して「はぁ、空気読めないなコイツ」みたいなキレ方されるのも怖い。アズロンさんは初日のインパクトが強過ぎて大丈夫だけど、僕って結構な上流階級アレルギーなんだよね。主に水利権のアレコレで。
「では、今日のレッスンを始めようか。ポロンちゃん、まずは何時も通りにインスタンスエリアで練習ね?」
「分かったです! 今日こそはラディアさんから合格貰うですぅ!」
「…………良いなぁ、楽しそう。なんでウチのお父様は許してくれないのかしら?」
「単純に、危ないから。バイオマシンは兵器だって事を皆、忘れがち」
ほんそれ。バイオマシンは兵器なんだよね。カスタム性の高いビークルの代替品じゃ無いんだよ。
ぶっちゃけ都市の外に出ないなら、あらゆる用事がビークルで済む。整備も補給も都市の外に用意すれば、都市にはマシンロードも要らなくなる。
でも、ライドボックスは市民が一番気軽に、そして安全にバイオマシンへ乗れる装置である事も確かなんだよね。それに安いし。
ライドボックス本体はバイオマシンの様に
なので、アルバリオ家くらい大金持ちじゃ無くても、
「もし、どうしても乗りたいと言うなら、僕のダングでもご両親に紹介してみますか? 都市外への旅行用の機体を買って、自分で動かせた方が便利だと主張すれば、案外意見も通せるかも知れませんよ」
「どうかしら? お父様って頭硬いから…………」
「そう言う時は利点を強く見せると良いですよ。ダングを自分で動かして、内部のガレージに護衛を雇えば安全ですし、いざと言う時には護衛の指示が無くても逃走出来るのは強みです。ダングも護衛の持ち機体だと、護衛が危ない時にどうなるか分かりませんからね」
「…………なるほど」
そんなアドバイスをしながら、僕は未だに名前も知らない桃髪さんを連れてアズロンさんのライドボックスへお邪魔する。
「おお、ゴッツいカスタムされてる。アズロンさんは貴族趣味なのに、機体はこう言う男臭いのが好きなのか……」
「凄いわね。わざと乱雑にされてる感じが……」
中は、なんと言うか、配管とか配線をわざと見える様に出して機械感を煽るデザインのコックピットだった。
そして座席が多い。メインシートをトップに、その後ろへ二列四段のサブシートが並んでる。なんだこれ、バスビークルかよ。このコックピットだけならお客を乗せて都市を巡ってそう。
うん、知らないメーカーのカスタムだ。僕が探し切れて無いだけか、それともアズロンさんくらいの上流階級じゃないと手に入らない伝手なのか、現状は判断出来ない。
まぁシリアスに聞けば一発なんだろうけど、シリアスは今忙しいからね。おじさんを手伝って自分にコンシールド加工をするんだから。
「さて、では起動シークエンスを始めますから、座って貰えますか?」
「はーい!」
元気な桃髪ちゃんをサブシートの先頭に座らせて、シートベルトを装着して貰う。VRバトルは慣性制御装置を逆転させて迫力を出すので、シートベルト無しだと普通に危ない。
僕もメインシートに座ってシートベルトを装着。それから久し振りのゴーグル型ウェアラブル端末を装着して、脳波操作で機体にアクセス。
普通の機体は生体認証と端末認証を入れてるモンだけど、アズロンさんは本当に僕へ任せても良いと考えてたらしく、僕がアクセスしても弾かれなかった。
なのでそのまま起動シークエンスを立ち上げてから、細かい操作を行う為にコンソールパネルを引っ張り出す。普段はシリアスがやってくれるけど、オリジンの助けが無い場合は細かい設定とか全部自分でやる必要がある。
ゲームの起動もそうだし、ゲーム内の操作も同じ。操作系の操縦桿では対応出来ない操作はコンソールパネルを使う。
「では、まずはフレンドリストからポロンちゃんにホロ通信を送ってから…………、お嬢様はモニター見えてます?」
「見えてまーす! あと、一々お嬢様とか言わなくても大丈夫よ? 呼び捨てでも良いのに」
「いえ、あの、名前を教えて貰って無いので」
「…………………………あぁっ!? 本当だ!? 凄い失礼しちゃったわ! えっと、ごめんなさいねっ?」
桃髪ちゃんは僕が名乗ったのに誰も名乗り返さなかった事を平に謝って来た。ちょっと勝ち気な感じだけど、やっぱり育ちが良いのだろう。
「えと、私の名前はモモコロルク・ケステンタート。モモって呼んで良いからね!」
桃髪のモモちゃんとか、分かり易くて助かる。助かり過ぎる。上流階級の名前を忘れるとか怖過ぎるもんな。名誉子爵にはなるべく変身したくないし。
「あと、銀髪で眠そうなのがシャラートラーナ・イムリプス。シャラって呼んであげてね。それと緑色の元気な子がマルルツェッテ・ワグナーズ。マルか、ルルか、ツェッテって呼んであげてね!」
うん。モモ、シャラ、マル。覚えやすいぞ。助かる。本当に助かる。
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