第37話 お金の使い道。



 僕らは稼いだ。それはもう、大いに稼いだ。

 おじさんなんて、一億ちょいを総取りだもん。僕はシリアスと折半したけど、おじさんはウハウハのはずだ。

 タクトも稼いだ。正確には『タクトグループも稼いだ』が正解だけど、僕としては報酬を支払ってる相手がタクトで、その後タクトが勝手に分配してるって意識なので、やっぱり僕的には『タクトが稼いだ』で合ってる。

 そんな僕らだけど、突然の大金をどうしましょ。そんな話し合いをした。

 シリアスのカスタムに殆ど使う予定の僕は良い。他に使い道が有るとしても、その場合でもどうせ傭兵業に関わる何かに使う程度だ。

 で、問題はおじさんとタクト。

 まぁ貯金って選択も、大いにアリだ。少なくとも無駄に消費しない時点で、マイナスには成らない有意義な選択と言える。


「移転作業が終わらん。ちょっとシリアスを貸してくれ」

「シリアスに聞いてくれます?」

『了解した。オジサン・サンジェルマンには、ラディア共々お世話になっている。手伝いはやぶさかじゃない』


 でも、おじさんはパァーっと使う事を選んだ。

 整備屋サンジェルマンの改装だ。と言うかもっと広い建物に変えての新装開店だそうだ。


「いやなぁ、此処でも文句はあんまり無いんだがよ。それでも強いて言うなら、デカい機体が入らねぇだろ? 今回の事で、やっぱダングの利便性には思い知らされたからよ。ダングの仕事を受けられないガレージだと、この先ちょっとな?」


 と、言う訳で。おじさんは一億の殆どと、これまでの貯金を注ぎ込んでサンジェルマンの新装開店をする。

 予定では、大型四機、中型六機、小型十機分のハンガーを備えた大型ガレージを用意して、作業用ボットも最新鋭の物を山程買うらしい。

 確実に、個人が所有するガレージでは破格の大きさだ。中型までを六機格納出来た現状でも個人所有のガレージとしては大きかったのに、その何倍にもなるガレージなんて、むしろ一人で扱えるのかと心配になった。

 しかし、その大きさでも一人で捌くために最新鋭の作業用ボットを買うのだそうだ。作業に使える自分の手足さえ増えるなら、いくらでもガレージをデカく出来ると豪語するおじさんは、多分ガーランドで一番の腕利きなのかも知れない。


「せっかくだから、俺らの拠点もサンジェルマンの近くにする。テント村から新拠点へ引越しだ」


 タクトも、ある程度のお金を放出する事に。

 お金が有るのにテント村で侘しい生活を続ける意味が無いからね。おじさんと違って建築からでは無く賃貸になるけど、スラム孤児からの大躍進である。

 機体も手に入ったので、何かと利用が増えるだろうサンジェルマンとの関係や距離を考えて、新しいサンジェルマンの近くを借りるそうだ。

 でも、小型とは言え十三機も格納出来る拠点とか、早々無いと思うけど?


「そこはほら、別に整備機能の有るハンガーじゃなくて、普通の駐機場で良いからな。居住用と別に近くのスペースを借りれば良いだろ。修理も整備も補給も、サンジェルマンを使えば良いし」


 って事らしい。

 そして僕。


「ダング欲しい。ダングが有ると凄い稼げる。そりゃ人気もある筈だよ。大きくて沢山積めるってだけで可能性の塊だ」


 とまぁ、こんなお話しを三人でしたのが昨日の事。

 そして今日、旧サンジェルマンのガレージにて。


「いや、昨日の今日で都合の良いパイロット見付けて来るとか、お前の運命力はどうなってんだ? もしかしてフィクションブックの出身か?」

「自分でも、シリアスに出会えてから毎日ずっと、激運が過ぎるなって思ってます」


 そう、僕はダングが欲しかった。

 そしてさっき住処を解体しに行ったら、ダングに乗れそうなパイロットがタケノコの様に生えてたのだ。激運が過ぎる。


「ほら、ネムネマ。挨拶は? ちょっと怪しいお顔の人だけど、メチャクチャ優しい人だからね? この人に失礼ぶっこいた瞬間、僕は君のこと捨てるからね?」

「………………よーひく、おにゃがーひまふ」

「ゆっくり喋っても噛めるもんなんだな。初めて知ったわ」

「ネムネマ敬語知ってたのかよ。なんで僕には頑なに使わないの?」


 テント村でスピカに洗ってもらったネムネマは、まぁ可愛らしい女の子に化けた。服もシリアスが演算して選んだ物だから似合い過ぎてるし、何より顔立ちが半端無く綺麗だ。美しさを兼ね備えた可愛さが迸ってる。人に好まれる顔面を演算してレプリケーターで作ったの? って思うくらいに可愛い子だった。

 光に輝くプラチナブロンドが絹の様にサラサラストレートで、長い前髪が掛かる顔は常に眠たそう。顔がもう「眠いネムので寝まネマす」と訴えてる。名が体を表しすぎだろコイツ…………。

 着てる服は、ディアラちゃんがVRバトルで着るのと似てるゴスロリワンピースで、帽子役のアイテムはフリルとレースがあしらわれたモノクロのゴシックなヘッドドレスだ。

 ヘッドドレス程度で陽射しを防げるのか心配だったけど、何やら超凄い技術でしっかりと保護されてるらしい。マジか。出来ればその技術を是非とも都市防衛用パルスシールドにもお願いしたい。そうすれば帽子要らないのに…………。


「と、言う訳なので。ダング買います」

「そうか。しかし、どれ買う? ダングはデザリアと違って人気も高いから、正規品でも最初からカスタムしてある機体も多いし、用途によっても違うぞ」

「そうですねぇ…………。まぁ取り敢えず、当初の予定通りに基本はガレージダングが良いです。ただ居住区画も欲しいんですよね」

「お? ついにウチの居候は卒業か?」

「あははは! まさかですよ。新サンジェルマンのガレージを当てにしてるので、寝床が居住区画からガレージのハンガーに成るだけです」

「占有料は貰うからな? 月に五万シギルでどうだ?」

「高くないです? 五万シギルあったら大型のハンガー付きの賃貸借りれますよね?」

「その分、整備は無料にしてやるよ。補給もお前が使ってる弾薬を纏め買いで安く仕入れて、お前にも安く流してやるし。それにカスタムの工賃も多少はマケてやるよ」

「おなしゃーす!」


 高待遇で僕の新居が決まった。

 居住可能なダングに住み、そのダングはおじさんのガレージに住む。

 おかしいな。ダングとは言え持ち家を買うみたいなモンなのに、なんで家賃が掛かるのか。


「あ、じゃぁシリアスはダングの中か?」

「そのつもりです」

「ふむ。じゃぁその分も値下げしてやるか。シリアスの整備もダングの中でやるなら、こっちのスペース食わねぇしな。二重取りは良くねぇだろ。…………三万でどうだ」

「おなしゃーす!」


 おなしゃーすリターンズ。

 そんな訳で、僕ら皆大忙しだ。それが理由でシリアスのコンシールド加工が出来なかったんだけどね。

 あれは流石に、内部の調整とか改造が避けられないので、時間の掛かるカスタムなのだ。仕事が激早いおじさんでも三日使うと言えば、どれだけ大変な作業かは分かると思う。

 で、おじさんは今まさに移転作業中で、既に移転先の建築も大金ぶち込んで急速に進めてる。数日で移転先も完成して、サンジェルマンは向こうに移るのだ。そんな状況で三日も掛かるカスタムとかしてられないので、今は保留になってる。

 ちなみにカスタムパーツはもう届いてるので、準備さえ終わったらシリアスはまた進化出来る。

 はぁぁプラズマブラスター楽しみだなぁ!

 勿論VRバトルで試してるので、買うのに躊躇いは無い。


「よし。おじさんは忙しそうだし、ネムネマに免許取得させる準備でもしようか。じゃないとダング買えないし」

「………………がん、ばぅ」

「〝ます〟を付けろよデコスケ野郎」


 もう良いと思ってたけど、この子なんか僕がこれ言わないとちょっと寂しそうな顔するのだ。これ言うと眠そうな顔で少しだけ笑うのだ。

 眠そうな無表情からの微笑って、なんか化学反応でも起きてるのかって疑うくらい幸せそうなので、ちょっとだけ絆された僕は定期的にデコスケ野郎と口にする事になった。


「で、ネムネマは--……」


 読み書き出来るのか。そう聞こうとしたら、バトルジャケットの袖をちょいちょいされた。摘んで引いてるその手はなんだね?


「なに?」

「…………ねま。が、いい」

「………………どゆこと?」

「よび、かた」


 ああ、ネムネマじゃなくて、ネマって呼んで欲しいと?

 ふむ、なるほどね。


「なにちょっと距離詰めて来てんの君」

「………………だめ?」

「〝ですか〟を付けろよデコスケ野郎。いや別にダメじゃ無いけどね? どしたの? 仲の良い人が居なくて寂しいの? でも孤児ってそんなモンだよ? 慣れないと辛いよ?」


 まぁ必要以上に厳しくするつもりも無いので、呼び方くらいは応えよう。

 そうだよなぁ。孤児初心者だもんなぁ。いきなり知らない都市に放り出されて、何も分からないまま飢えたんだもんなぁ。

 せめて身近な人が居ないと、不安が消えない。けどネマには身近な人が居ない。だから、自分で距離を詰めないとずっと一人なのだ。


「ねま、も。らでぃあ、って、……よぶ」

「〝さん〟を付けろよデコスケ野郎。…………わぁ凄い、ちゃんとしたバージョンが言えたのちょっと嬉しい」


 フィクションブックで見たセリフそのままが言えた。

 とても嬉しいので褒めてあげよう。サラサラになった頭を撫で撫でしてあげる。


「…………えへっ」

「眠そうな顔で笑うともっと眠そうだね」

「………………かわ、い?」

「まぁ、可愛いんじゃない?」


 ネマの顔はまぁ、とんでもなく綺麗なんだけどね。でも僕としてはどっちかって言うと、ポロンちゃんの方が可愛いと思う。何時もニコニコしてるし、喜怒哀楽がコロコロ変わって、見てて飽きない。

 ああ、僕の最愛最高最強最優な完全無欠の一位がシリアスなのは確定的に明らかで語るまでも無いって前提で、普通の感性ならこう感じるよねってお話しだ。

 多分、造形美に点数を付けるならポロンちゃんよりネマの方が高得点なんだろう。けど、僕は本人の気性まで入れたらポロンちゃんが可愛いと思う。頑張り屋で「ですぅー!」って言ってるポロンちゃんは癒されるぞ。

 なんと言うか、首輪付けてリードに繋いでお散歩したい。芸を仕込んで、成功したらヨーシヨシヨシヨシって撫でて上げたい。きっと尻尾をブンブンして喜ぶはずだ。

 いや、今はポロンちゃん飼育方法を考えてる場合じゃ無い。


「で、ネマは読み書き出来る? まぁ出来ると思うけど」


 アレだけの服が着れる箱入りだったんだし、教育くらいは受けてるはずだ。

 むしろ、そんな状態の子供を都市にバレず捨てる為に、父親は何をしたのか、どんな方法でネマを連れて来たのか……。

 うん、気になる所だ。闇商人でも使ったかな?


「…………できぅ」

「こっちは無理だと思うけど、輸送機免許を取れる自信ある? 筆記の話しね?」

「………………むぃ」


 むぃ? ああ無理か。うん、まぁ当たり前だよね。

 乗り方知ってるのと、乗る為の法律を知ってるのは全然違う。僕は古代機乗者オリジンホルダーとしての特別待遇で取得したインチキ免許だけど、普通はもっと法律とかを色々と勉強しないと、筆記試験で落とされる。

 

「乗った経験は? 何に乗ったの?」

「…………ほわいと、ふっと」

「ああ、ウサギ型か」


 小型下級長距離通信機、ウサギ型ホワイトフット。

 アンシークのレーダー性能が通信性能に置き変わった様なサポート要員だ。耳をピって立てるとみょいんみょいんって専用アンテナになる。

 通信能力の弱い辺境都市とかは、ホワイトフットを使って大都市との通信網を維持してるって噂が有るくらい、通信距離が凄い機体だ。

 そしてやはりアンシークと同じく、それ以外に長所が無い。強いて言うなら見た目が可愛いくらいか。

 ガーランド周辺ではアンシークの流通が強いから、金持ちが移動用に買う機体と言えばアンシークだけど、いやガーランドだと名産なデザリアも選択肢だけど、他の都市だとホワイトフットも多いそうだ。

 小型下級は小さい分だけ都市の中でも使い易いので、金持ちがビークル代わりに所有するケースもある。ネマが乗ったのはソレだろう。

 私有の敷地内なら免許無くても乗れるから、愛人の娘にデヘデヘしてた父親か、もしくはめかけとして相手に買わせたホワイトフットを娘に与えた母親か、どっちかが乗り方を教えたんだろう。


「まぁ良いや。実機に乗った経験が有るなら話しが早い。ダングを買ったら実機にVRバトルを入れるから、それで延々と練習しつつ、筆記の試験勉強するよ。試験に落ちたら、ダング乗れない君を雇う理由も無いし、追い出すからね。そのつもりでお願いね」

「…………ぁい」

「ダングは僕が購入するけど、最終的に君の物にしたいから、悪いけど借金って形にする。返済が終わったら完全に君の機体になる。けど借金を返し切るまでは僕がオーナーだから、そこは気を付けてね」

「…………しゃ、……きん?」

「強制で借金とか怖いかも知れないけど、普通にお金稼がせて、普通に返済出来る様にするから。と言うか今から止めても良いし。その場合は君の面倒見ないけど。ああ、既にその服は貸しだからね。逃げても良いけどその分は取り立てるからね」


 ダングに乗って僕の仕事をサポート。給料は稼ぎの二割。更にその内の半分が返済として僕に帰って来る。つまり完済までは手取り一割。


「今でも僕って、狩りに出れば五○万から一○○万くらい稼いでて、そこにダングが加われば更に稼げるはずだし、その内の経費抜いた後の一割を返済に、一割を手取りに出来る条件で君を雇うよ。手取り一割だけど総合額は二割だから、ぶっちゃけコレ結構な好待遇だと思うよ?」

「…………おかね、わかんにゃぃ」

「箱入りが過ぎる…………。まぁその辺も教えてくよ」


 ダングって正規購入なら基本でも一○○○万シギルするんだけどね。でも一回の仕事で五万とか一○万とか稼いでたら、あっと言う間に完済出来ると思う。

 買うのはもう少し高いカスタムタイプだけど。

 僕はネットでダングを売ってるメーカーを調べて、望むカスタムの物を漁る。

 ダングって装甲硬くて足が早いけど、輸送機なので中身がスカスカなのだ。足が無限軌道キャタピラなので、その分機関部がシンプルで済み、ダングの内部ってコックピット、陽電子脳ブレインボックス生体金属心臓ジェネレータ、エネルギータンク、駆動機関くらいしか無いのだ。超シンプル。

 機体が大きい分だけ大きいのが積める生体金属心臓ジェネレータのパワーでキャタピラをブン回して走るのがシールドダングなのだ。

 スライド操作で横にグルンって一回転する機能も有るけど、普通は誰もやらない。格納してる機体も積んだ荷物も、残らず大惨事になるから。

 陽電子脳ブレインボックスとコックピット系の関係でスライド操作をオミットは出来ないらしいのだけど、出来たら多分どのメーカーも消してると思う。

 操作系を増やす事は可能なんだけど、減らすのは出来ないらしい。


「…………おお、このダング良くない? フレームから改造されてて中型上級に収まって無いけど、その分ガレージも広くて居住区も良い感じ。ネマ的にはどう?」

「………………まかせ、る」

「自分が乗る機体だよ?」

「……ねま、くわしく、にゃい。だから、まかせぅ。えらばれたの、だいじに、する」


 らしいので、ダングの選択権は僕に委ねられた。まぁお金返ってくるまでは僕がオーナーだから、メチャクチャ口を出すつもりだったけどね。

 女の子らし過ぎる花柄装甲とか選ばれたら困るし。そう言うのは却下して行くつもりだった。けど完全にお任せされるとは……。

 僕がオススメした機体は、中型上級であるダングをフレームから弄って大型下級までデカくしちゃった改造機だ。

 その分、下級なら二機、中型下級までなら一機積める格納庫を持つシールドダングが、中型中級を二機まで格納出来る様になってる。超デケェ。

 おじさんは新サンジェルマンの中に大型ハンガーも入れるって言うし、大型が通れるマシンロードに面した場所に建つはずだから問題無い。

 ただ、その分このダングめっちゃ高い。一八○○万もする。デザリア何機買えるんだよ…………。


「格納庫が大きい分、獲物も沢山積めるし、今までは背中に積んで都市まで往復してた時間も狩りに使える。…………良い買い物だよね?」

『肯定。シリアスとしては、この先住む場所が広いのは喜ばしい』

「そうだよね。中型中級まで二機って事は、小型なら三機か四機は積めるよね」

『内蔵ハンガーを可変式に変更推奨。中型二機用のハンガーでは小型を四機積んで整備する必要が出た場合に都合が悪い』


 なるほど。中型二機用から小型四機用に変形出来るハンガーにするのか。じゃないと実質四機積めるだけで、同時に整備出来るのは二機までなのだから、依頼とかで他の傭兵を乗せる事になった時とかに都合が悪そうだ。

 普段は中型用のハンガーにして、シリアスには伸び伸びと過ごして貰おう。


『それと、作業用ボットも欲しい。サンジェルマンを利用出来ない時は、シリアスがセルフメンテナンスをする』

「そんな事出来るの!?」

『疑問。オジサン・サンジェルマンが操作出来る遠隔ボットを、何故シリアスが操作出来ないと?』

「あ、いや、それは言われたらその通りなんだけど、どっちかって言うと自己整備の方…………」

『…………嘆息たんそく。ラディア、シリアスは元々、工作機』


 あ、せやった。

 だからおじさんからも手伝いを頼まれたりするのだ。

 実はゼロカスタムのデザリアって、シザーアームの中に精密作業用のマニピュレータが内蔵されてる。機体の修理とかも視野に入れた設計で生み出された機体なのだ。

 もうシザーアームも戦闘用に換装したから精密作業用マニピュレータも無いけど、作業用ボットでそれを補えるなら問題無いのだ。


『それに、オジサン・サンジェルマンは相当に腕の良い技師。手伝いのついでに作業を観察して学ぶと、大変有意義』


 現代人が裸足で逃げる演算能力と通信領域干渉が可能なシリアスが見ても、おじさんは凄腕なのか。凄くない? つまりおじさんは古代文明基準で凄腕って事じゃん。人間国宝か?

 て、帝国さん? こんなヤバい人材を辺境のスラムに置いてて良いんですか? 国の損失では?


「ふむ。取り敢えずこのダングで良いかな。せっかくだから生体金属心臓ジェネレータも良い物に積み替える」

『大型の生体金属心臓ジェネレータは上を目指すと沼。そこそこで妥協推奨』

「了解」


 そうだった。生体金属心臓ジェネレータだけで四桁万シギルとか平気でする領域だった。小型のテンションで買い物したら速攻で破産してしまう。

 僕とシリアスの所持金は、シリアスのアップグレードで三五○○万シギル程使ってるので、残り九○○○万くらいだ。一億と二六○○万稼いでたからね。

 勿論、使った三五○○万にはまだ装備して無いコンシールドブラスターの代金も含まれてる。


「ダングの購入はどうする? 僕が出す?」

『折半で良いと思われる。仕事の報酬から経費を抜いて一割をネマへ。残りを何時も通りに折半して受け取れば、自動で返済作業が終わる。僅かでも手間を増やす理由が無い』

「ああそっか。僕が出したら、わざわざネマの二割から一割を僕の口座にって計算が発生するのか。なら確かにネマへの報酬を払った後に、何時も通り僕とシリアスで折半する方が楽だね。金額だけ記録しておけば返済に支障もないし」

『シリアスは、言うほど使わないので、口座が目減りしても困る事が特に無い。プール金的な扱いでも構わない』

「いやそれはダメだけど」


 シリアスのお金の使い道って、僕の女装服だもんね。でもシリアスのお金は、そのままシリアスのお金である。プール金とか冗談じゃない。

 ちなみに、シリアスは僕のメンズ服を買う理由が無い事に気が付いて、レディースしか買わなくなった。辛い。メンズが欲しければ自分で買わねばならぬ。いや自分で買うのは当たり前なんだけどね。


「じゃぁ、居住区画のデザインも選んで、装甲も一応アプデしようか。アンシークが居ない分、センサーも良いの欲しいし、その他諸々で…………、オプション代込みで二七○○万シギルに成りました」


 生体金属心臓ジェネレータと装甲とセンサーが高く着いた。


「………………それ、ねまの、しゃきん?」

「……これはちょっと、正直アホみたいにオプション付けまくって申し訳無い。うん、いや、返済の催促とかしないし、利息も付けないからさ。ゆっくり返済で良いからね。それに、その分高品質な機体を先に貰えるって見方も出来るし、まぁ、許してよ」


 ちなみに、今はダングのオーナーが僕なので一緒に住むが、ネマがお金を返し終わってダングの所有権を得て、僕に居住区画から「出てけ!」と言うなら、素直に出て行くつもりだ。お金を返し切ったのなら正当な要求だし。

 その頃にはもっとお金稼げてるだろうし、そしたらまた何か考えるとしよう。


 カスタムダングの機体が大きいので、居住区も大きい。

 勿論ガレージ部を圧迫しない程度だけど、コックピットからでも格納庫からでも行ける居住区は中々の物になってる。

 僕とネマのプライベートな部屋を含めて個室が四つ。キッチンにバスルームにトイレも完備。リビングダイニングもモダンでオシャレだ。

 水周りは超高度循環システムが搭載されてて、生活排水を完璧に浄化して再利用出来る内部完結水道となってる。技術力的には汚物も処理して浄化、再利用だって可能なんだろうけど、気分的な問題なのか汚物処理システムは別に高度なのが入ってた。ミニプラズマドライブって言う、まぁ溜まった汚物を消し炭にしようぜ! って装置だね。

 そうやって徐々に目減りした水は何処かで補給しないとダメなんだけど、一度の補給で二ヶ月は無補給で良いくらいの高効率循環システムらしい。凄いな。

 つまり、基本的にお水は使い放題! シャワー浴び放題! バスルームでザバーって水を無駄にしても無駄じゃない! 最高か!


「しかも外に出たらおじさん居るし、サンジェルマンの近くにはタクト達も居るし。…………幸せか?」

『肯定。ラディアはずっと幸せに生きる』

「しゅき」


 忙しそうなおじさんを尻目に、ハンガーに居るシリアスのアームに抱き着いた。すりすり。装甲がひんやりするんじゃぁ。


「と、言う訳で。ネマが免許さえ取れば、お家ごと仕事が手に入ります」

「…………すご、ぃ?」

「この収入で、このランクの家まで着いてくる仕事を、『凄く無い』と評価するなら、それ聞いたその辺の市民が助走を付けて殴って来るよ」

「……こぁぃ」


 任せると言うネマにも、流石に自分の個室くらいは選ばせた。拘らない場合はメーカーが用意してるプリセットから選択出来て、ネマはその中からパステルカラーが基調の女の子らしい部屋を選んでた。

 僕はおじさんと趣味が似てるので、ちょっとレトロっぽい感じの、シックでモダンな個室を選択。残り二部屋は客間として無難なデザインが良いだろう。

 機体のカラーリングも、今回は奇をてらわずに単色塗装。濃いめのグレーで染め上げる。


「あ、そうだ。コックピットはどうしようか? 汎用で良い?」

「………………ぁの、ね。…………しりぁ、す、の」

「シリアスのコックピットが良いの?」

「…………ぅん」


 希望を言われたので、一応スイートソードのカスタムコックピットブロックのシリーズを全部見せてあげた。


「…………………こぇ、かぁいぃ」

「スイートフラワー? ネマはパステルカラーが好きなの?」

「…………ぅんっ」


 パステルカラーのケーキと花柄がモチーフのカスタムコックピットだ。

 デザリアは他都市だと微妙にマイナー機体な為にシリーズに加わったのが最近だけど、ダングは超絶需要があるスーパースターみたいな機体なので、スイートソードが出してるシリーズは一つ残らず全部にダングカスタムが有った。


「ふーむ。操作系の細かい違いは有るけど、基本はゴシックローズと同じか。でも、試験受ける時は汎用コックピットで受けるからね? こっちに慣れ過ぎて試験落ちたとか言ったら怒るからね?」

「………………ぁい。がんばぅ」

「〝ます〟を付けろよデコスケ野郎」

「…………ぇへ」


 やっぱり何故かデコスケ野郎って言うと喜ぶんだよねこの子。なんで?


「まぁ良いか。ダング本体がこの値段なら、もう五○万以下のカスタムコックピットとか誤差でしょ」

『警告。正しい金銭感覚喪失と、それに対する危機感の欠如。気を付けると良い』

「…………ほ、ホントだよ。五○万が誤差とか、僕は何を言ってるの?」


 シリアスに会う前の人生何個分だと思ってんだ。馬鹿なのか僕は。

 でも実際問題、三○○○万シギル近い機体代金に、五○万プラスしたところでやっぱり誤差なんだよな…………。これは僕の感覚とか関係ない事実でもある。

 こんな悩みを持つくらいに僕って、人生を丸ごとアップグレードしちゃったんだなって思いながら、端末で選んだ諸々で注文書を作って、メーカーに送信。アンド支払い。

 使った額の半分がシリアスの口座から送金されて、これで折半だ。


「でもこれ、ネマが試験に落ちたら別のパイロット探さないと行けないんだよね」

「…………が、がんばぅ、よ?」

「勿論、試験に落ちて雇用の話しが全部白紙って時には、この機体は僕達が購入したって事にするから、借金は無しで良いよ。そこは安心して。…………落ちたら追い出すし」

「………………が、がんば、ぅ!」

「うん。まぁ、頑張って? 勉強用のテキストは用意してあげるから。…………ああ、それとネマにも端末が要るね。意外と必要な物が多いな」


 サンジェルマンが移転するまでの間、僕はネマの訓練をして、スピカの訓練をして、そしてアルバリオ邸でも訓練した。


 ポポナさんとセルバスさんは輸送機免許試験に受かってた。 


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