第77話 自爆と誤爆と誘爆。
ガーランドで熟すタスクをじゃんじゃん消費する日々が続く。
スピカに実技の訓練を付けた翌日、僕はガーランド西ゲート前にある駐機場にて人と待ち合わせしてる。
相手は勿論、アルバリオ家の皆さんだ。今日は傭兵ランクを上げるための仕事を教える予定なのである。
「とは言え、そう難しい事も無いんだけどねぇ」
そう、ぶっちゃけ教える事なんて特に無いのだ。
だって、ポポナさんのアンシークで索敵して、ポロンちゃんのウェポンドッグとアズロンさんのダングで狙撃して、セルバスのデザリアで獲物をダングに積み込む。
これを延々と続けるだけで、お金なんて山のように稼げる。
これの延長でアホほど稼いだのがサソリ祭りであり、その先駆けたる普通の狩りでも、一日に数百万シギルは稼げてしまう。
そして資金力のあるアズロンさん達なら、狩りその物に慣れてしまえば、あとは機体も武装も強化して、より稼げるバイオマシンを狙いに行って同じ事をすれば良い。
例えばクロスレオーネとか。
クロスレオーネは
ちなみに、犬猿の仲であるサンダリアとハイマッドだけど、その二国に於いて戦争の主力として使われていた機体には当然対抗機が存在する。
ウェポンドッグとアーミーラクネルスの関係がまさにそれで、じつはホワイトフットとアンシークも対抗機の関係だ。ホワイトフットがジャミング環境下でも超広域通信を現実するなら、その通信で立てられた作戦を超精密センサーで暴き立てて潰してやんよォって感じで。
で、じゃぁクロスレオーネの対抗機って? って言うと、それが
多分、ニードリッパーから取れる
何せ、まだ見ぬ新世界の奥に有るかも知れないって言うお宝なので。
まぁともかく、アルバリオ家に稼がせるなら、狩りの手順と言うか流れを教えて、後は慣れさせて、それからもっと高額な獲物を狙わせれば良いだけなのだ。資金力がヤバいからね。
波に乗ってコンスタントにクロスレオーネを狩れるくらいになれば、恐らくはアズロンさんが稼ぎ出す現在の年収を超えることすら有り得る。
「報告。待ち人来る」
「お、ホントだ」
色々と思案しながら西ゲート前のゲートパークで待つこと三○分ほど、予め貰っていたアズロンさんの機体データと一致する反応をセンサーが捉えた。
アズロンさんは予定通りダングに乗っており、しかし、普通のダングじゃない。
なんとアズロンさん、僕らがサーベイルへ言ってる間にシャム級を買ってたのだ。つまりあの近付いてくる普通よりも大きなダングちゃんは、シャムの弟か妹的存在と言えるだろう。
砂蟲が擁するシャム級、つまりシャムなんだけど、あの子が着てる機体は現在、ムニちゃんにお下がりする予定である為に本格的な武装はまだして無い。
サーベイルで武装化した時点の予定ではコンシールド加工とか色々やって、しっかりとしたコンセプトの元に戦闘機改修を施す予定だったんだけど、ムニちゃんが乗るって事になったから、ムニちゃんが自分の為のカスタムをするならネマの手垢は少ない方が良い。
一度コンシールド加工とかしちゃうと、装甲とか内部の機構とかガッツリ弄るから元に戻すのが難しいし、完全に戻すとなると相応にお金が掛かる。それに一度その姿を関係系として見ちゃうと、ムニちゃんのイメージにも強く残ってしまって今後のカスタムにも影響が出る可能性が有る。
なので、今のシャムはサーベイルを出た時の姿を維持したまま。
「おおーい!」
アズロンさんが乗るシャム級、名前は確かフォートリアだったかな? そのフォートリアがゲートパークに入って来てシャムの横に駐機して、御家族が揃って降りてくる様子をモニターで確認出来たので僕達も外に出た。今日はこっちも全員居る。
お互いにシャム級のお尻から出て来てゲートパークの駐機場で対面すると、アズロンさんが嬉しそうに手を振ってくれた。
その後ろには勿論、ポロンちゃんとポポナさんとセルバスさんが居た。
そして…………。
「おにぃ、ちゃまっ…………♡」
大きな声を出して手をブンブン振ってくれてたアズロンさんの横からとてててーっと走り寄る小さな影が一つ。
決して早くない速度で、だけど必死に足を動かしてる事は見て取れる様子のその子は、僕の元まで一目散にやって来ると、脚にむぎゅっと抱き着いて嬉しそうに鳴いた。
うん。アロナちゃんである。
何時もは間延びした声で眠そうに喋るこの子が、珍しくタンギングが効いた声を出したので少しビックリした。いや『何時もは』とか『珍しく』とかって言える程の交流は無いんだけどさ。
「やぁアロナちゃん。一昨日ぶりかな? それにアズロンさんも、ポポナさんも、セルバスさんも、ポロンちゃんも。今日は宜しくお願いしますね」
「いやいや、宜しくするのはコチラだよラディア君! サーベイルから帰って来て間も無いのに、申し訳ないねぇ!」
「ラディアさんお久しぶりですっ! 会えなくてすっごく寂しかったので、また会えてとってもとっても嬉しいですっ! ……それで、アロナは何やってるですかっ! そんなうらやまッ……、じゃなくて、失礼な事は止めるですよ! ポロン達の先生なんですっ! こら、離れるですぅう……!」
「いやですぅぅ…………」
ゆっくりと近付いてくるアズロンの横をポロンちゃんがダバダバーっと駆けて来て、しゅたっと挨拶してくれたらすぐにアロナちゃん剥がしに入る。大変助かりますポロンちゃん…………。
ポポナさんとセルバスさんも、アズロンさんに倣ってゆっくり来る。僕は皆さんに会釈をした。
「それと、ネマちゃんはお久しぶりだね。シリアスさんもお久しぶりだけど、その姿ならば初めましての方が良いだろうか? まぁしかし、そちらの愛らしいお嬢さんについては確実に初めましてだね。どうもお嬢さん、ワタシの名前はアズロン・アルバリオ。香辛料の販売を生業にしてる者だよ。お見知り置きくれ給え」
「は、はじめまひてっ! むに、でしゅ……!」
「おひさ……」
「ご紹介痛み入ります。当機は傭兵団砂蟲団長ラディア・スコーピアのメイドを努めます、シリアスと申します。仰る通り、メイドとしては初対面であるかと存じますが、今まで通りに接して頂ければ幸いに存じます」
まず、お前が今まで通りじゃ無いんだがッ!?
僕はバッと振り返って背後に居るメイドを見た。ビックリし過ぎて内心でシリアスを「お前」呼ばわりしちゃうくらいにはビックリした。いやでも亭主関白プレイとか思えば「お前」呼びも有りかも知れないので今度相談して見よう。継続してのそれは無理。
「し、シリアス? 急にどしたの?」
僕はてっきり、何時もの「傭兵団砂蟲所属小型中級局地工作機改修戦闘機--……」って挨拶が出るもんだと思ってたから凄いビックリしたよ。
ほら、アルバリオ家の皆様もビックリしてて口を開けてる。いや、ポポナさんだけは優雅に右手を添えて隠してた。流石元貴族令嬢。
「どうした、とは? ご主人様は何に驚いておいででしょうか?」
「ご主人様ッ!? え、うわっ、その呼ばれ方は背中がムズムズするけどちょっときゅんきゅんしちゃうのは横に置いて明後日の方向に蹴飛ばして、初めてそんな呼ばれ方したんだけどっ!? ビックリするよっ!?」
「そうですか…………。敬愛するご主人様に仕えると言う仕事に於いての大先輩であるセルバス・コリオル様が居らっしゃる場でしたので、少々張り切って見たのですが、止めた方が宜しいでしょうか……?」
「あ、いや、その、正直に言うとめっっっっちゃ可愛くて物凄く捨て難いんだけどもねッ!? えと、ほら、皆もビックリしてるし、ポロンちゃんだってお友達がメイドとして一歩引いて接して来たら悲しいかもだし……?」
重ねて言うなら、それは二人っきりの時に甘々のベッタベタするアレコレでおなしゃす。メイドさんプレイ楽しみです。
「ふむ、納得。では止める」
そしてあっさり止めるシリアス。
「あ、うん。そ、それはそれで寂しい……」
「大丈夫、シリアスは分かってる。今夜を楽しみにすると良い」
「ふわぁぃ……」
優しく微笑まれてからの頭を撫で撫でによって僕は完落ちした。いや、最初からか。
無表情キャラの突然の微笑みは威力二倍で心停止の危険が有るから、皆も用法用量を守って楽しくイチャイチャしようねっ! ラディア・スコーピアとの約束だぞっ?
「では改めて、傭兵団砂蟲所属小型中級局地工作機改修戦闘機、サソリ型オリジン・デザートシザーリア制御人格のシリアスと、その身体であるセクサロイドのメイドシリアスだ。以後、よしなに」
「だから何でそこまでバラすのぉおッ!?」
シリアスが、シリアスがフレンドリーファイアしてくるぅぅ……!
「あら、あらあらあら……♪︎ そう言う事なのねぇ……?」
「ふむふむ。なるほどね? ウチの輝かしい程に愛らしいポロンに何も反応しなかったのは、そう言う…………」
「ああああ僕のプロフィールが壊されて行くぅぅぅッ……!」
ポポナさんがニマニマして、アズロンさんが頻りに頷き、セルバスさんは無言で微笑ましい顔をしてる。何気に一番ダメージが大きいのはセルバスさんの反応だ。
「せくさ、ろいど……、です?」
「ですぅ……?」
「あ、良かったポロンちゃん達は知らないのかっ。是非そのまま永劫その知識を得ること無く生涯を終えて終えて欲しい……! 絶対に調べてはダ--……」
僕が言い切る前に、ポロンちゃんはポケットからスティック式の情報端末を取り出して起動する。
その端末は使う時に変形して、カシャっと先が割れて「T」字が横になった様な形になり、棒の股座から薄いホログラムディスプレイがヒョインって伸びる仕組みになってるタイプだ。
操作方法は何か分からないけど、何かしらの脳波操作装置を使ってるんだろう。
「調べちゃらめぇぇえええっっ……!」
「ぁえっ? 検索、出来ないです……?」
「ああ良かったキッズフィルターかっ! 助かったァ……!」
「ぇと……、調べられないって事は、つまり…………?」
僕が安堵してると、ポロンちゃんは「フィルターは危ないのと、暴力的なのと、えっちなのを弾くです。だから、せくさろいどって言うのはそのどれか…………?」って推理し始めて、僕はそれを邪魔しようとするが、その時点でもう手遅れだった。
ポロンちゃんは僕を見て、シリアスを見て、また僕を見た後に、「ボンッ!」と赤くなる。
「えっ、えええッ、えっちなやつですっ!?」
「ちくしょう即バレは止めてくれよッッ……!」
せっかくフィルター掛かってたのに、ポロンちゃんが自力で辿り着きやがった。なんて勘の良い子供なんだっ!
まったく、君みたいに勘の良いカキはフライだよっ! サーベイルで食べたカキフライ美味しかったなぁ(音速の現実逃避)。
「じゃぁ、ぇとッ、ラディアさんとシリアスさんはもうっ、エッチしたですかッ……!?」
「わざわざ聞かないでッ!? もしかしてポロンちゃんって僕の事嫌いなのっ!?」
「大好きですけどッッッ!?」
「じゃぁスルーしてよ! 僕をイジメないでよッッ……!」
「大好きだからスルーしないですよっ!? 好きな人が自分じゃない女の子とえっちしたなんてお話し、スルー出来る訳無いですよッ!? ラディアさんは出来るですかッ!?」
…………む? いや、確かに?
僕の好きな相手はシリアスで、シリアスがどんな人と…………。
うわぁぁぁぁあスルー出来ねぇよスルーする訳ないじゃん相手を探し出して殺してや--…………、あれ?
「……………………えっ? ぽ、ポロンちゃんって、僕の事が好きだったの?」
危うくスルーしかけた爆弾発言を、良く考えたらスルーしたままの方が良かったのに、気が動転してて拾ってしまった。
「……ぇあっ? …………へっ、あぅえっ? …………ああぁぁあああぁあぁッッッ!? なっ、なんかポロンッ、うっかり自爆しちゃったですッッ!?」
いや、どちらかと言うとポロンちゃんのは誤爆だと思う。自爆したのはスルーした方が面倒事回避出来たのに拾っちゃった僕だよね。
「いいいいイヤですッ! こんなロマンの欠片も無い告白とか絶対にイヤですッ!? ら、ラディアさんっ! 今のは忘れて下さいですぅッ!」
「無茶を仰る」
僕もシリアスに対して盛大にガチ泣き告白した事有るから知ってるよ。世の中、時間は巻き戻せないんだよポロンちゃん…………。古代文明でも無理だったんだってさ。
「や、やだぁ! おにーちゃんとっちゃやだぁー!」
「おっと、ここでムニちゃん参戦かい?」
こう、なに? 居た堪れない空気を何とかしようと愛想笑いをしてたら、ムニちゃんが参戦。もう僕には手網を握る事すら不可能な気がしてきた。
「そもそもアナタ誰ですかぁ! ポロンはもうネマちゃんだけで羨ましくて泣きそうなのに、なんで女の子増えてるですっ!? ラディアさんのお嫁さんになるのはポロンなんですよぉ!」
「ち、ちがうもん! ぼくだっておにーちゃんのおよめさんになるんだもんっ!」
「おっと、なんか誘爆したぞ。皆もっと爆発物の取扱に気を付けて?」
騒がしいけど、実の所僕、そんなに慌てて無い。
僕としてはシリアスって言うの不動の存在が心に居るので、どれだけ「好き」と騒がれても揺るがない。
揺らぐとすれば、それはシリアスから何かを言われた時だけだ。
「…………うーん、狩りに行けるのは何時になるやら」
渦中の人の癖に、僕はそんな事を思いながら終息を待った。
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