第55話 シャム改造。



 翌日、ネマが突然に発し始めた『妹力』にやられ、僕は傭兵ギルドに行って手続きをした。

 自由臣民の戸籍を管理するのは国では無く傭兵ギルドなので、この手の手続きも行政機関では無く傭兵ギルドに成る。

 これも端末でパパっと手続き出来るのだろうけど、ぶっちゃけ細かいアレコレが分からな過ぎて無理だった。シリアスに聞けば分かるんだろうけど、シリアスも万が一の思い違いが有るとマズイから、ギルドで教えて貰いながら手続きするべきだと主張した。

 なので、僕はサーベイルの傭兵ギルドにてネマと養子縁組をした。

 本当なら『親』が『子』に対して組む縁組なのに、『子』が『子』と縁組をする形は特殊過ぎたので、ギルドの職員さんも少し困ってた。

 途中、婿養子的な感じで夫婦っぽい関係にされそうだったから焦ったけど、最終的には良い感じに落ち着いた。

 家族に成るとは、つまり『家』が立つ訳で、ネマは捨て子で元になる戸籍が無く、僕もまぁある意味捨て子みたいな感じなので、新しくちゃんとした『家』の戸籍として形作る際に、最初からそうだった風に纏めてもらった。ぶっちゃけちょっとグレーゾーンな手続きだ。でも誰も困らないので問題無い。

 さて、僕とネマで一つの家に属する形で手続きするから、それに際してファミリーネームが必要になった。当たり前なんだけど。


「じゃぁ、今日から僕はラディア・スコーピアね」

「…………ねま、も、ねむねま、すこーぴ、あ」


 スコーピア家の爆誕だ。名の由来は勿論シリアスだ。サソリはスコーピオンとも呼ぶので、少し捩ってスコーピアだ。

 今日此処に、ラディア・スコーピアとネムネマ・スコーピアが新しく産まれたのだ。


「………………にひ♡ にぃ、たん♪︎」


 手続きを全部終わらせて、ギルドの駐機場まで戻って来た僕ら。

 シャムのバックゲートからガレージに乗り込んだ途端、ネマがムギュっと抱き着いてスリスリしてくる。

 くっ、クソがッ! 正式に妹になった途端にメチャクチャ可愛く見える! なんか良く分からないけどズルいぞッ!


「……ねまの、にーたんっ♡」

「むぐぅっ、ちくしょう、書類一枚でこんなに変わるかよッ……!?」


 僕は戦慄した。

 これが、これがネマに封印されていた妹力だとでも言うのかッ!?

 茶番の様だけど、茶番じゃ無いんだ。マジなんだ。昨日の夜までは小生意気なデコスケ野郎だったのに、今はこんなにも可愛いデコスケ野郎な妹に見えるんだ。何故? オカシクない? 精神病でも患ったか?


『推測。それが生来のラディアである可能性。親を反面教師として、自分は家族に優しく接したいと言う深層心理が働いた結果だと判断する』

「なるほどねッ!?」


 確かに、僕は息子を砂漠へ置き去りにする様な男には成りたく無い。だからネマが正式に僕の妹と成ったなら、僕はネマを甘やかして可愛がって家族の愛情を注ぎまくって注ぎまくって注ぎまくって愛情過多で「パァンッ!」て破裂させるくらいの対応をするべきだ。本心からそう思う。

 なるほど、なるほどね。シリアスの指摘で僕は僕の中身が良く分かった。


「良し、ネマ」

「…………ゅ?」

「メチャクチャに甘やかしてあげよう」


 僕は開き直って、ネマを抱っこして居住区画のリビングへ移動する。頭も撫でて、スリスリしたいと言うなら好きにさせる。

 リビングに移動したならフードプリンターを起動して、お菓子をいくつか出力する。ポテチと、クッキーと、あとパフェかな。

 全部出したら配膳をシリアスが操るバトラに任せて、僕はネマを抱えたまま椅子に座る。

 そうしたらテーブルに運ばれて来たお菓子を摘み、ネマの口に運ぶ。


「ほら、あーん」

「………………っ!? ん、にゃぅ、えふふぇっ♡♡」


 突然僕が甘やかすからビックリして、でも嬉しくて、最後はふにゃふにゃに笑って甘え出す。僕の手からポテチをパクッと食べると、嬉しそうに僕の胸にスリスリする。


「…………にーちゃ、しゅきぃ♡♡♡」

「はぁメッチャ可愛い。何コレ? 立場一つで変わり過ぎじゃない? 僕が現金なだけ? 僕チョロくない? ほらネマ、クッキーもあーん……」

「……あむっ♡」


 なんか、うん。良いな。心がほんわかする。

 しかもこれ、こうやって妹に成って思う存分甘える為だけに、戦闘機免許の勉強を頑張ったのかと思うと、無限に可愛い気がして来た。

 僕は抱っこしたネマに次々とお菓子を食べさせてあげながら、反対の手で頭をサラサラと撫でる。


「さて、ネマ。そのままパクパクしながら聞いてね?」

「…………ゅん♪︎」

「い、今のは肯定で良いのかな。なんか可愛い鳴き声が聞こえたけど」

「……かぁ、い? ねま、かぁい?」

「うんうん、ネマは可愛いぞ。て言うかネマの可愛さは僕、最初から肯定してたでしょ?」

「…………………………えへっ♡」


 照れて僕の胸で顔を隠しちゃうネマ。はぁこれが妹かよ。世の中の兄って幸せ過ぎない? え、つまりシュナ君ってメカちゃんって言う妹が居るのにあんなワガママなの? ダメだろ。既に鬼程幸福なんだから良い子にしろよ。

 まぁ良いや。今はそれより今後の事だ。


「で、ネマは戦闘機免許を取った訳だけど、どうする? シャムの武装化、サーベイルでやる? ガーランドまで待つ?」

「…………また、なぃ。すぐ、ほしぃ」

「あいよ。じゃぁまた、武器屋を見に行こうか。ウェポンドッグから剥いだプラズマブラスターは残ってるけど、流石にアレだけって事は無いでしょ」


 それに、どうせ装備を追加して貰うなら、ナインテールナットが居たあの武器屋が良い。ナインテールナットなら速攻で武装を付けてくれるでしょ。

 武器を買ってそこらの技師にお願いすると、どれだけ時間を食うか分からない。そしてシャム本体の改造なので、シャムの中にあるハンガーは当然使えない。つまりシリアスが技師を担当出来ないのだ。

 流石にハンガーも無く、ボットを外に出して野外改造とか無茶だ。やれば出来るんだろうけど、無茶する分時間掛かるし意味が無い。それならそこらの技師にお願いした方がマシだ。

 でも、ナインテールナットはアレ自体がハンガーみたいなモンだし、伊達に機体弄り用の工作機を名乗って無い。きっとおじさん並の早業を期待出来るだろう。

 むしろ、衛生工作機とまで銘打たれるナインテールナットと同じレベルの仕事を求められるおじさんがヤバいのだ。引っ越して新装開店した折にボットの性能まで上がったから、一日仕事を四○分とかで終わらせちゃうヤバい人に成ってるんだから。


「ん、じゃぁお昼食べたら行こうか。お昼はどうする? シャムで食べる?」

「…………まよぅ。さー、べぃる、おさかな、おいし」

『シリアスはもう、魚介の摂取について諦めた。朝食を基本に栄養摂取量を調節する方針を強める事にした』


 なら折角なので、お昼はシャムで食べる事に。お昼もシリアスに任せて、栄養管理を頑張って貰おう。

 メニューはキノコ盛り盛りのクリームパスタとサラダに、ミネストローネとロールキャベツだった。美味しかった。


「濃厚で食べ応え有るのに、なんかヘルシーな気がした」

『その様に務めた。フードマテリアル製のイミテーションでは、そこまで大きな意味は無いが、素材出力からの調理ならば多少は効果が見込める』


 シリアスの手料理で健康にされてしまった僕らは、武器屋レッセルに向かう。

 ネマがコックピットのメインシートに座り、セーフティロッドを降ろしながらも今日は強気である。戦闘機免許を取得した今のネマなら、レッセルの利用も余裕なのだろう。お兄ちゃんは期待してるよ。


「で、何買うよ。シリアス?」

『思案。無難に中型パルス砲を提案する。大型炸薬砲でも良い』

「前に行った時、なんかチラッと『炸薬弾薬を更にパルスで加速させる方式で大型砲並みの威力がある中型砲』みたいな武器が見えた気がするんだけど」

『興味深い。実物を見て検討したい』


 僕とシリアスがあーだこーだと複座で相談してると、あっと言う間に武器屋レッセルが入ってる超大型ビルに辿り着く。

 前回と同じ様に大型の入場ゲートを潜り、そして四基あるバイオマシン用のエレベーターから大型用を選んで乗って…………、上へ参りマース☆

 マンイーターのハイスキュラを買った武器屋レッセルは十四階で、一階一階の高さが有るこのビルでは十四階程度でもかなり高所となる。

 そんなお店に乗り込み、また広大な店舗の端に居るナインテールナットを眺めながら、ネマとシャムの為に買う武器コーナーまで行く。

 今日こそは自信の通りにシャッキリとシャムを歩かせるネマは、戦闘機免許の取得者に相応しい風格が有る。…………気がする。

 まぁ少なくとも、前回の様に微笑ましい視線や邪魔に思われる視線等も感じ無いから、進歩はしてるはずだ。


「…………あれ、ほしぃ」

「ん、フレキシブルアーム?」


 ネマがまず目を付けたのは、汎用武装用のハードポイントに接続するフレキシブルアームで、アームの先にはまた汎用武装用のハードポイントがあった。有線機器に使う延長コードみたいな物か。

 武装の射角を増やし、砲高も確保出来る。汎用武装を使う砲撃機には有用なオプションだと言える。


「うん、良いんじゃない? アレにはプラズマブラスターでも乗せる?」

「…………ゅん。あと、そげき、ほぅ。ほしぃ。それ、と、まんいー、たー」

「あと、ネマも個人携行武器の許可も出たんだよね? そっちも買う?」

「ゅんっ……♪︎」


 妹化してから発生する様に成った鳴き声が可愛い件について。

 まぁ良い。今はとにかくシャムの武装だ。

 ネマはフレキシブルアームにプラズマブラスターを装備して、後はマンイーターと主砲が欲しいそうだ。いっその事、アズロンさんみたいな重武装&重装甲カスタムでも良いと思うけど。

 ああ、あと脚周りにスライド用のパーツも付けねば。此処に売ってるかな? 無いかな? 此処は武器屋だもんね?


「うーん、シャムが特注機だから、ちょっと色々と勝手が違いそうだね」

『肯定。装甲ごと取り替えて、ハードポイント付きの装甲に換装が可能な商品も販売してる。しかし、シャムとは規格が合わない』

「困ったねぇ。ナインテールナットにハードポイントを増設して貰う事に成るんだろうけど」

「…………ねま、…………きめ、た」


 お、ネマが決めたらしい。

 グルグルと店内を回って一通り見たあと、ネマが商品を選んで行く。

 まずはナインテールナットにハードポイント増設して貰う料金パックを購入。シャムの背中の両脇、頂点から少し下がった位置に左右それぞれハードポイントを作るらしい。

 それからネマが最初に選んでたフレキシブルアーム。これはガッチリ折り畳んで置けるコンパクトでパワーの強い良品に見える。

 それと、フレキシブルアームの先には武装を装備せず、ハードポイント一つに差し込む事でハードポイントを増設出来るウェポンバインダーを二つ。これは簡単に言うと、有線機器に使うマルチタップみたいな物だ。

 そしてウェポンバインダーに接続する武装は、プラズマブラスターはもう用意してあるから、長距離砲に使うパルスライフルを二挺。そして僕が使ってるマンイーターと同じ物を二つ。


 会計、約二二○万シギル。


「意外と安かったね?」

『低グレードとは言え、プラズマブラスターを用意していた事が大きい。つまり、ネマの手柄』

「……ぇら、い?」

「偉いぞーよしよーし…………」

「………………えへっ♡」


 お会計も終わったので、商品を運んで貰ってナインテールナットの所まで行く。「キツネさんコレつーけて♪︎」ってなもんだ。

 特にナインテールナットのパイロットから通信が入る事も無く、先にネマが端末で送ってた仕様書通りに改造が始まる。二時間くらい掛かるらしい。

 僕らはシャムに乗ったままそれを待つ。ああ、シャムのお尻からシリアスがプラズマブラスターを運び出して、それもフレキシブルアームに付けるウェポンバインダーに装着して貰う。

 ちなみに、それぞれの商品名はこんな感じ。


 汎用式フレキシブルアーム。

 商品名・SSTアラーニアv9。


 長距離狙撃用中型汎用パルスライフル。

 商品名・M8287パラソルライト。


 三点式追加武装孔制御盤。

 商品名・MGノートブック。


 ハイスキュラは僕のと同じなので割愛。それと犬から剥いだプラズマブラスターはコレだ。


 中距離用中型汎用プラズマキャノン。

 製品名・コルブラット。


 バイオマシンに最初から装備されてる武装は古代文明の量産品なので、正式な名前は分かってない。だから通称に近い名前で流通してる。

 商品名じゃなくて製品名なのはソレが理由で、『M8287』とかモデルナンバー的な物が無いのも同じ理由だ。


「ウェポンバインダーで全部で纏めちゃって良かったの?」

「…………ゅん。これ、かり。がーらん、ど、かえったら、ほん、かすたむ」


 なるほどね。今はロコロックルさんの依頼を熟す為に武装を仮付けして、本カスタムは帰ってからなのね。

 砲口を全部纏めたからどうしようかと思ったけど、仮なら良いか。

 コレだとバイオマシンとクレイジーが同時に襲って来たら、マンイーターを使う為にも主砲を下げないと行けなくなるので、あまり宜しくないのだ。でもほっといたら移乗攻撃されてしまうから、主砲ごとマンイーターで狙わないとダメだし、そうなるとバイオマシンに対応出来なくなる。

 その辺はネマも分かってるのか、でも僕が前衛を張れるなら間に合わせのカスタムでも暫くは何とかなる。


「ほん、とは、おおがた、しゅほー、こんしー、るど、したい」


 うん、コンシールド加工するなら旅先じゃアレだよね。おじさんでも三日掛かるって言ってたし、その辺の技師に任せたらどれだけの日数シャムが使えないのか、考えるだけで嫌になる。

 シャムが使えないって事は、その間は僕ら宿無しって事だもん。

 ナインテールナットからの施行が終わるまで、僕らは居住区画でのんびりする。またネマを抱っこしてお菓子を食べさせる時間が始まる。

 これをやると、ネマは顔を赤くして照れながら喜ぶ。恥ずかしくて隠したいけど隠し切れない照れと喜びが滲み出てる。


「今気が付いたけど、ネマが僕の妹に成ったって事は、僕のお嫁さんのシリアスから見ても義妹いもうとな訳だよね?」

「……おねー、たん?」

『………………妹よ』

「ごめんちょっと笑うわ」


 二人とも無表情系だから、ちょっとコントっぽいの笑っちゃう。

 そうやって三人ほわほわしてると、あっと言う間に時間が過ぎて、改造が終わった。

 ネマの端末に作業終了の通知が入って、やはりパイロットからの通信とかは無いらしい。


「よし、じゃぁ帰ろうか。それとも、ネマの武器を見に行く? 此処だと落ち着かないから、専門店かどっかでさ」

「…………ゅんっ♪︎ いく」

「〝ます〟を付けろよデコスケ野郎。ほら、コックピットに戻るよ」


 ああ、やっぱりデコスケ野郎って言うと喜ぶんだよね。この段に至っては何となく、その理由も分かって来たけど。

 要するに、ネマの聞く『デコスケ野郎』は、僕から呼ばれる愛称代わりなんだね。

 実の兄みたいな気さくさで、言葉の裏に呆れを含んだちょっとだけの親密さを感じて、ネマは嬉しかったんだ。

 兄貴が妹に、まったくしょうがねぇなぁって言いながら頭を小突く様な、そんな気安い態度が嬉しかったんだ。

 何故その兄貴役に僕を選んだのかは未だに分からないけど、その為に頑張って勉強して、難しい戦闘機免許を取得したって言うならば、僕だってその想いに報いるくらいの事はするとも。


「そうだ。今日はネマが妹になった記念日って事で、ずっと行かずに居た天然物のオスシでも食べに行こうか? ウオナミのお姉さんに味の違いを報告するって約束、まだ果たせてないし」

「…………ゅん♪︎」

「ところでさ、その、ゆんって鳴き声、どしたの? ペット枠も狙ってるの?」

「……めざ、せ。だとー、ぽろん、ちゃ」

「ポロンちゃんライバル視してたのッ!?」


 いや、でも、しかし、ポロンちゃんのペット力はかなりの物だよ?

 ポロンちゃんの誕生日とか聞いたら、自然に首輪とリードを贈りそうな、あの迸るペット力。生半可じゃ勝てないぞ?


「ほれ、早く退かないと怒られるぞ」


 抱っこしたネマをコックピットのメインシートに押し込み、ナインテールナットの前から移動させる。

 僕らの他にもお客は居るからね。さっさと退かないと後ろが詰まる。


「…………むぅ。わか、た。でも、あと、で」

「うん、好きなだけ甘えて良いから。今は次の店に行こう」

「……ゅん♪︎ いく。から、まっぷ、おねが、い」

「〝します〟を付けろよデコスケ野郎。……シリアス、オススメの個人携行火器販売店ってある?」

『当然、調べてある。表示するので、ネマはホロバイザーを降ろして欲しい』

「…………ぁい。わかり、ました」


 やっぱり何故かシリアスには敬語なんだよね。妹になっても相変わらずか。

 まぁ僕とシリアスを比べたらシリアスの方が尊く敬わざるを得ないって言うなら、ぶっちゃけそれは世界の真理と言えるので仕方ない。僕は納得するしか無い。

 取り敢えず、もう武器屋レッセルに用事は無いので、さっさとバイオマシン用のエレベーターに乗り込んで退店だ。


「………………おみせ、とおい」

「ん? どんなルート? シリアス?」

『端末に送る』


 ネマが少しボヤいたので、シリアスからデータを送って貰う。


「ああ、コレなら寄り道しない? ほら、海底トンネル使ったら良い感じの位置じゃない?」

『思案、理解。ネマ、ルートを変更する』

「……わか、た」


 そうして、個人携行火器パーソナルガンショップへの道程みちのりは、僕がムク君達と通った例の海底トンネルルートになった。


「………………しゅご、ぃ」

「綺麗でしょ? ネマにも見せたかったんだよコレ」

「……えへっ♪︎ これ、でー、と?」

「シリアスと僕のデートにネマがオマケって感じだけどね」

「…………むぅ、けち」


 僕はサブシートにも座らないで、メインシートの背もたれに肘を着いて寄り掛かり、そのままネマの頭をクシャクシャと撫でた。

 ネマは頭を撫でられて嬉しそうに笑い、そして海底トンネルの景色を見て目をキラキラさせている。

 そんな小一時間を楽しんだ後に、僕達はガンショップに辿り着いた。

 そこはキャスターが在った様な小規模のビルで、完全に人間基準の建物の一階に店を構えた老舗店って感じだった。

 ガンショップ・ウィル。シンプルで好みの店名である。やっぱり『霧のきりきり屋』とか意味不明だよ。僕あの店の内容、今でも知らないし、調べる気も無い。逆に謎のままにして置きたい感がある。

 さて、お店に来たので近くの駐機場にシャムを停めて、シリアスにお留守番をお願いする。


「毎回待たせてごめんね?」

『問題無い。その内対策するので、ラディアも気にしなくて良い』


 シリアスがどんな対策をするか分からないけど、まぁ酷い事には成らないだろうと思う。楽しみにしておこう。

 今はそれより、ネマの武器購入だ。

 僕も買ってからずっと、基本的にハンドガンは身に付けてる。女装してふりっふりのワンピースを着てる時さえ、腰にはパルスブラスターが提げてある。当然今も腰にホルスターで装備済み。例え使う予定が無くても、ハンドガンくらいは腰に提げるのが傭兵の流儀だ。

 なので、ネマにも持たせたい。何かあった時に武器が有るのと無いのじゃ全然違うから。


「さ、入ろうか」

「……ゅん♡」


 ネマは二人で買い物出来てるんるんだ。例えそれがハンドガンの購入なんて無骨なショッピングだとしても、ネマには嬉しいらしい。

 駐機場から歩いて店舗へ。

 ガンショップ・ウィルは、中に入ると少し圧迫感を覚えるレイアウトだった。所狭しと棚が並び、そこに様々なライフルやハンドガンが並んで居る。

 基本的に炸薬銃かパルスブラスターだ。プラズマブラスターもゼロじゃないけど、プラズマ兵器はエネルギー源の関係で大型化しやすいので、個人携行兵器だと最低でもライフルサイズだ。一応はハンドガンサイズも有るには有るけど、一発撃ったらエネルギー切れとか言う代物を、いったい誰が買うのか。

 まぁ威力は高そうだけどさ。でも破壊力で言えば普通のパルスライフルをワンクリップ撃ち尽した方が強そうだ。


「ネマはライフルとか欲しい? 別に要らないなら、護身用のハンドガンだけ買う?」

「…………ねま、らいふる、もつ、きかい、…………ある?」

「……うん、無いね。ネマがライフル撃たなきゃダメな時は、撃ってもダメな時だわ」


 と言う訳で、ハンドガン選びだ。

 ネマの小さな手でも撃てて、反動が少なくて威力が充分な物って成ると、まぁパルスブラスターだよね。炸薬銃のハンドガンは弾薬の薬莢が影響してグリップが太くなるし。


「コレなんてどう? 可愛くない?」

「……にーたん、えらん、で?」

「甘えん坊だなぁ」

「…………えへっ♪︎ ゅん♡」


 棚から見本の銃を一つ一つ取って、ネマの手に持たせて見る。

 構えさせて、無理が無いかを見て、大丈夫そうなら候補に入れて次の銃を見る。

 それを繰り返して店内を見回り、取り敢えずはコレかなって物が決まる。


 パルスハンドガン・M88Qcウィッチドレス。


 小さめで黒い拳銃なんだけど、デザインが地味に可愛くて良い。

 お値段も九八○シギルと良い感じ。割とロングセラーな量産品なので安いっぽい。購入時に店員のイカついおじさんが教えてくれた。

 他にもホルスターと予備マガジンを数本、それと弾薬にエネルギーパックも購入だ。ついでに僕の銃の弾も買っておく。


「品はどうする? 送るか?」

「いえ、すぐそこにホームダング停めてるので、持って行きます」

「そうかい」


 いぶし銀な感じの店員さんから品物を受け取り、ネマの銃は早速ネマに装備させる。

 僕は基本的に腰だけど、ネマはどうするのか。気になって見てたら、「…………つけ、て?」と言われた。とことん甘える方針らしい。

 ちょっとイジワルしたくなったので、ゴスロリスカートの中に手を突っ込んで太ももにホルスターを付けてあげた。


「……………………にーちゃ、えっち」

「自分で付けないからだよ。嫌なら付け直しなさい」

「……んー、ん。これで、よい」


 本決定に成りそうで逆に僕が慌てた。いや、有事の時にそんな取り出し難い場所からハンドガンとか出してられないよ。ごめん、僕が悪かったから、直しなさい。

 僕はもう一度、妹のスカートに手を突っ込む羽目になった。


「…………にーたん、えっち」

「分かってて言ってるな? この、変な事言うと、今日は自分の部屋で寝させるからね」

「……え、あっ、…………ごめん、ね」


 一人で寝るのがよっぽど嫌なのか、ネマは速攻で謝って来た。

 さて、ホルスターは結局どうしようか。腰か、腋でも良い。後ろ腰だとコックピットのシートに座る時、結構邪魔なのだ。そう言うのも考えないとダメなので、割と悩む。


「…………うん、まぁ、腰の横で良いか。ダメなら後で変えよう」

「……ゅんっ♪︎」


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