第56話 ランクアップ。
ネマの戦闘機免許取得から二週間。
そろそろ帰る頃かと思いきや、あと一ヶ月欲しいとロコロックルさんから連絡があった。
僕らも特に予定など無いし、何よりロコロックルさんが拘束料金を値切らないので、コッチも文句は無い。
そんな訳で僕らは、まだサーベイルに居る。
『……にぃたん、みぎ』
「あいよ〜」
ドグシャッ…………。
シリアスのアームを叩き付けたホワイトフットがひしゃげて、多分絶命する。乗ってる盗賊がどうなったかは知らない。
それからネマの忠告を聞いてセンサーを確認、巨樹が並ぶ森から飛び出して来たウェポンドッグにコンシールドブラスターのプラズマキャノンをブチ込む。
「あー、ネマ」
『りょ』
プラズマ弾を避けようとして、失敗した挙句土手っ腹に食らって瀕死に成ったウェポンドッグは、遥か遠方から放たれるパルス弾によってコックピットを吹き飛ばされた。後で修理して売ろう。
「いやぁ、稼げるねぇ」
『……ゅんっ♪︎』
此処はサーベイルから二○○○キロほど離れた巨大樹の森で、この辺りには盗賊がウヨウヨ居る夢の楽園だ。主に砂蟲に取って。
ロコロックルさんから予定を聞いたので、日帰りする必要も無くなった僕ら砂蟲は、日を跨いでじっくり狩りをする生活が最近の仕事となってる。
この二週間での稼ぎは実に九○○○万シギルにまで伸びて、ネマの戦力化がかなり大きい事がはっきりと分かる。そしてこの稼ぎによって僕とネマの傭兵ランクも上がった。
現在は僕がランク三で、ネマがランク二だ。これでネマもランク一のなんちゃって傭兵では無くなった。
ランク一の傭兵は本登録した時点でそうなので、信用度で言うとほぼゼロなのだ。最低でも一○○万シギル程を納税してランク二に上がってる傭兵とは、信用に雲泥の差が有る。
「よし、粗方狩ったね? ネマ、獲物を積み込むからコッチに来て」
『ゅん♪︎ わか、た』
「〝ました〟を付けろよデコスケ野郎。ほら、早くしないと獲物の傷から
『…………いそ、ぐ』
周囲の
頭を吹き飛ばしてもウェポンドッグは死なないが、この傷を放置してると出血多量で死ぬ。せっかくの鹵獲機だからそれは勿体無い。
ネマは僕の五倍くらい狙撃の才能が有ったらしく、一○キロほど遠くから僕の援護をしてくれてる。けど、獲物を乗せるのはネマが乗るシャムなので、ちょっと遠過ぎると面倒だ。
人間規格だと一○キロは遠いけど、バイオマシン規格ならソコまでじゃ無い。なにせ時速一○○キロから三○○キロで走れる生き物なのだ。一○キロ程度はあっと言う間だ。
「…………しっかし、この巨大樹の森の中で、木々の隙間からピンホールショットとか凄くない? ネマってもしかして狙撃の天才?」
『肯定。数値的にも異常な成果。何かしらの疾病すら疑える』
通信を落とし、ネマが来るまでシリアスとお喋り。
ああそうか、なんかネマは喋るの苦手そうだし、年齢よりも幼い感じがするし、そう言う欠陥の代償として何かしらの能力が激上してるって線は有り得るかも。
なんだっけ、サヴァンシンドロームだっけ?
「いやぁ、妹に成ったら可愛いし、狙撃の天才だし、良い拾い物だったねぇ」
『…………えへっ♪︎ ねま、よいこ?』
「あ、もうローカル通信距離入ったのか。そだね、ネマは良い子だよ」
『……ゅん♡』
妹を絶賛してたら本人に盗み聞きされてしまった。通信越しでも物凄く喜んでるのが分かる。
ローカル通信領域に入ってすぐ、巨木の合間を縫ってシャムが現れる。
今更だけど、このクソデカいシャムが『合間を塗って現れる』必要がある木々って、どれだけデカいんだろう。シリアスの中から見ても見上げる程のデカさだ。
シャムを操るネマはすぐに獲物の傍に機体を付けて、バックゲートを解放する。ガショァア……、ジョガンッ。って音がしてシャムのお尻が真上に開く。
そこにシリアスが獲物を放り込む。本当に投げて入れる訳じゃないけど。実際はシザーアームで掴んで引き摺って中に入れるのだ。
そうしたら通信による外部操作でシリアスが作業用ボットを動かして、頭を吹っ飛ばしたウェポンドッグを適当に狩ったウェポンドッグの頭パーツを剥ぎ取って修理をする。
「ホワイトフットの方は、どうだろう?」
『スキャニングの結果、両核全損』
「だよねぇ。…………いやぁ、ウサギさん柔らかいなぁ」
盗賊もなんだってあんな柔らかバイオマシンに乗ってんだろ。安かったのかな? 分からないけど、シザーアームでブッ叩くだけで死んじゃう機体とか流石に貧弱が過ぎる。もしかしてアンシークより弱い?
いや、オカシイよね。ホワイトフットはこの周辺で鹵獲出来る場所無いし、腐ってもバイオマシン何だから相応の値段はする。アンシークと同じくらいで一五○万から一八○万くらいが相場だったはず。
それを闇商人がブラックマーケットに流すなら、二○○万は超えたはずだ。最悪三○○万だってするかも。ならウェポンドッグにバンザイアタックして幸運にも鹵獲出来るお祈りクレイジーを待った方が良い気がする。ウェポンドッグ普通に強いし。
ウェポンドッグ、今でこそ装備の差があって野生はボコボコに出来るし、盗賊機も乗り手がショボイから尚更だけど、シリアスがゼロカスタム時代だったら絶対に勝てない戦闘機だからね。ウェポンドッグって普通に強いからね。
だからこそ此処には盗賊が多いって理由も有るんだと思う。戦闘機が比較的簡単(盗賊基準)に手に入る場所だから。
最低でも数十人は死ぬだろうバイオマシン鹵獲ガチャとか、市民から見たら狂気の沙汰だし、傭兵から見ても間違い無くクレイジーだけど。
で、そんな環境に居て、わざわざホワイトフット買う? 闇商人から?
「…………うーん、なんか裏が有りそうな気がする。て言うか盗賊にホワイトフット要る? アイツらマトモにネット使えないじゃん」
下手に端末とか持ったら逆探知からの一斉駆除とか有り得る存在なので、盗賊は基本的に情報端末を持って無い。
盗賊向けの改造品とか出回りそうなモンだけど、そしたら変な端末からのアクセスを回線側で弾けば良いので、やはり盗賊は端末とか持たないんだ。
なのに、ホワイトフット? 広域通信機であるウサギさん? なんの為に?
『助言。考え過ぎの可能性も有る。盗賊とは、著しく知能が拙い生物故に、常人が「おかしい」と思った事も気にせず行う事も有ると推測出来る。故に、「馬鹿」は「馬鹿」と呼ばれる』
「…………なるほど。あれか、要は闇商人が持って来た珍しい機体を見て『俺だけのオンリーワン!』ってはしゃいだ馬鹿である可能性も有るのか。ホワイトフットは都市じゃ良く見るタイプの機体だけど、切った張ったが基本の盗賊には珍しいかもね。都市外をホワイトフットでうろちょろする人も居ないだろうし」
そんな事を大真面目にやって、柔らかバイオマシンで襲って来て一撃で死ぬ馬鹿の行動とか、確かに考えるだけ無駄かも知れない。
馬鹿が馬鹿で有る理由なんて、馬鹿だからとしか言えないから馬鹿なんだし。
『作業完了。どうする?』
「んー、まだ積めそう?」
『肯定。しかし微妙。これ以上の鹵獲は非推奨。狩って
「そっか。まぁ無理する事も無いし、今回は帰ろっか」
シャムの中には、もう鹵獲機が七機と、ウェポンドッグ七機分の
シャムのガレージには小型で四機、中型で二機入るとの評価だけど、それは『機体を整備する為に余裕を持って格納した場合』の数だ。要するにシャムの格納庫ギリギリのサイズで設置してあるハンガーに対応した数が、小型四機か中型二機なのだ。
だから、そんなの気にせず機体同士が接触しても構わず、ハンガーも無視して詰めて詰めてギッチリ寄せ寄せで積めば、評価数以上の機体を詰める。
当然、そんな状態で運べば機体が損傷したり、どっか破損したりで値が下がる。けど、僕らは多少の値下げより一回で運べる数を増やした方が効率が良いと判断したので、こんな形になってる。
当たり前だけど、こんな状態ではシリアスが入れないので、帰りはゆっくりだ。本気でハンガー内部がギッチリだからね。
「流石に七機も詰めたのは無茶だったかな?」
帰り道、僕はそんな事を言った。
何時もはもう少し控え目なんだ。シリアスがギリギリ乗って帰れるくらいの積載量で我慢して、一日〜二日を使ってコンスタントに仕事をする。そうすると九○○万から一二○○万程稼げる。
『効率の面から言っても、少し無茶だった。シリアスがシャムに乗れないので、帰投に使う時間で損をする』
『…………ねまも、さみしぃ』
このままだと一仕事に三日から四日の時間が掛かりそうだ。シリアスがシャムに乗れないので、最高速三○○キロでスイスイ移動する訳にも行かないから。
そしてシャムに合流してさえ居れば、僕は今頃シャムのコックピットに居たはずなので、積み荷のせいで会えなくなった事をネマも寂しがってる。
「……うん。次からはいつも通りに四機か五機だけ積んで、あとはシリアスが乗れるスペースを残して
時間効率が悪いので、前回までの方法に戻す事を決める。
二日で一二○○万稼げたのに、今回はこれ三日から四日で一五○○万程かと思われる。二日仕様で往復したら四日で二四○○万は稼げるのだから、比べるまでも無いだろう。
まぁ勿論、稼ぎもウェポンドッグに乗った盗賊をどれだけ見つけられるかに掛かってるので、毎回確定で稼げる訳じゃない。本当に無限湧きしてる気さえする盗賊だけど、アレでも一応は生き物なのだ。殺し過ぎると減るし、遭遇率も下がる。
でも、そのはずなんだけど、ぶっちゃけ遭遇率は下がらないんだよね。何故か。
稼ぎの上下は単純に僕らの運で、統計すると毎日ほぼ変わらずって結果になってる。それくらいに、盗賊が多いんだろう。
「…………アレから盗賊村は見付けて無いけど、やっぱり相当数有るんだろうね」
『肯定。国が手を入れられない領域に、それこそ三桁数の人里が無ければ説明が付かない程の遭遇数』
「前に皆殺した場所には盗賊オンリーだったけど、場所によっては攫われた一般人とかも居るんだろうね。主に女性が、慰み物にされて」
そう言う時はスキャニングで確認する。精度は緩くても良いから、村全体をサッとスキャニングすると、攫われた一般人等は戸籍データが残ってるから反応する。逆に特定の反応が無い者はデータの無い盗賊なので皆殺しで良い。
「そんなの見付けても対応面倒だし、盗賊村は見付けない方が良いのかな?」
『しかし、機体を保有してる村で有れば、それだけで稼げる』
「悩みどころじゃん」
面倒事を引き入れるか、誰も乗ってない状態の機体を電撃作戦で鹵獲しちゃうか、どっちが得かな?
ウェポンドッグは結構高い。
どのくらいかと言えば、まず
さらに
そして機体その物だって、戦闘機に相応しいパワーを備えてる。正規購入するならデザリアの倍から三倍まで、物の程度で値段が上下する。だから売却時にも盗賊から奪った中古なんて曰く付きだって、二○○万なんて高値で売れるのだ。デザリアの正規品に近い値段だ。格が違うと言って良い。
ちなみにこれは、
何が言いたいか、つまりウェポンドッグは良い金になるのだ。
「ガーランドに帰った後もウェポンドッグを狩りたいなぁ」
『献策。ガーランド東からゲートを出て移動すれば、少し遠いがウェポンドッグの警戒領域が存在する。ダメでも、シャムの最高速ならこの辺りにも来れる』
それな。
デザリアの値段下落はまだ後を引くだろうし、帰っても暫くは
しっかし、僕もこれで結構荒稼ぎしてると思うんだけど、この生活を続けてもランク五とかはちょっと遠いんだよね。行けてランク四だと思う。
目標かランク四だからそれでも構わないんだけど、カルボルトさんとかライキティさんは勿論、セルクさんもどうやったらランク五とかに成るんだろう。やっぱり戦争とか、要人の護衛で相場より多く貰うとか、そう言う事なのかな。もしくは高額な機体をコンスタントに狩るとか。
稼ぎの一割前後が税金として持って行かれるから、つまり一ヶ月でランク査定の目安とされる納税額相場よりも十倍稼がないと、高ランクには成れないって事だ。
ランク五で最低二○○○万だったっけ? じゃぁ稼ぎは一ヶ月で二億必要なのか。ヤバいな。今の僕とネマなら、頑張ってギリギリ行けそうかな。
でもランク六から最低でも一ヶ月で五億。ランク七で一○億でしょ? ヤバくない?
「うーん、サーベイルではお金を稼ぐに終始して、ガーランドに戻ったらシリアスのカスタムをまた考えようか。シャムのカスタムも有るし」
『提案。今までの様にバラバラのメーカーをツギハギするのでは無く、特定のメーカーにフルオーダーさせるのはどうか』
「あー、前は一億じゃ足りないって諦めたんだっけ?」
『肯定。しかし今の稼ぎなら、五億から一○億の予算も捻出可能。信用の置けるメーカーに問い合わせてみると良い』
うーん? 僕が信用を置いてるメーカーって、ゴシック&スイートソードか、もしくはグラディエラの製造元であるガンバスター重工じゃない?
でもスイートソードは最近までデザリアのカスタムパーツを取り扱って無かったしなぁ。ガンバスターもパーツ専門のメーカーで、機体全部をフルビルドとかやって無い。
おじさんに紹介でもして貰おうか。そんな事を考えながら、僕はサーベイルまでの帰り道に端末を弄ってメーカーを調べてみた。
ああ、僕もやっと専用回線の契約したので、都市外でもネットワークをバンバン使える。月極で二万シギル持って行かれるけど、回線速度も使用可能領域も良好だ。都市から二○○○キロ離れててもしっかり使える。
「……………………お? スイートソードで一応、デザリアのフルビルドやってくれるみたい。と言うか完全オーダーメイドのビルドアップかな? デザリア改修機って言うより、完全に別物の中型機にしたいし」
『シリアスは戦えるレディになる』
既にシリアスは戦えるレディだと思うけど。
甘えん坊に転職したネマを甘やかして母性全開にしたり、僕を甘やかしてイチャイチャしたり、お料理とかも積極的にする様になったし、何より強い。
やっぱりサソリ型のポテンシャルが凄いんだ。世間でサソリ型が地味に人気のあるマイナー機って言うのか信じられないくらいに、サソリ型は可能性に満ちてる。
六本脚の安定性。シザーアームの汎用性と自由度。小型機体なのに中型機並の砲角と砲高を保証するテールパーツ。サソリの平たい背中に感じる拡張性。
何故、此処まで条件が揃って工作機なのか。
ハイマッド帝国は何してたの? なぜサソリ型の戦闘機を生み出さなかった?
いや、それともまだ、現代人がハイマッド帝国領土を探し切れてないだけで、探せば何処かに、まだ見付かってない新種のサソリ型が存在する?
でもシリアスからそんな話し聞いてないしなぁ。
「取り敢えず、スイートソードに機体のフルビルドをお願いする前提で設計してみようか?」
『肯定。しかし、ラディアは中型機に拘っているが、シリアスは小型機のままでも構わないと判断している』
「小回り効くから?」
『肯定。そして、シャムが居るから。戦闘機改修をすればシャムも立派な大型戦闘機であり、充分な戦力。なおかつシリアスが中型になると、シャムの積載量が減る』
ああ、そっか。小型四機を積めるスペースを有効活用した結果が今の稼ぎなんだから、中型二機格納出来る内の一機分を確保しながらの狩りは当然、積める量が減る。
「んー、でもさ? 新しいボディのシリアスが、早く動ければ良いんじゃないの?」
『…………なるほど。しかし方策は?』
「脚部機動とバーニア機動を基本にするけど、巡航速で走るならタイヤとか付けても良くない? 中型ならそのくらいの余裕は有るでしょ」
『確かに、車輪走行はエネルギー効率が良い。しかし、中型戦闘機を十全に走らせるに
ふむ。確かに『有ったら便利』程度の理由で兵装増やすのも下策か。
バーニアやスラスターはエネルギーを食うけど、その分だけ上等な
「勿論、積み込む中型
『
「…………ふむ。ちょっと端末のアプリケーションで設計図引いてみるね。シリアス、移動お願いして良い?」
『任された』
…………最初から
フットレバーから足を離して、機動をシリアスに任せる。
「……二つの
ちょっとシリアスの演算領域を借りてシュミレートした。
………………は?
「は、え? シリアス、これどうなってる? 演算ミス?」
『………………………………非常に驚いた。単純に
なんか、素人が遊びで設計してたら凄い物を産んでしまった感が有る。
「これ、古代文明では無かったの?」
『肯定。少なくとも祖国には無かった。敵国の内情は不明。しかし、無かったと予想される』
「その心は?」
『知っての通り、古代文明の技術力は特出していた。なので、高出力な
ほえー、なるほどね。
技術の高さが逆にこの手の発想を殺してた訳か。
「…………これさ、ちょっとスイートソードに売り込んでみる? 思い付いたけど、此処から先は本職に研究して貰って実用化する方が性能良いと思うし」
『肯定。ならばシリアスが、その手の交渉をしておく』
そうして僕は、シリアスにメーカーとの交渉を任せた。
そしてサーベイルに帰ってゲートを潜る頃には、スイートソードから連絡が有った。シリアスによるとめちゃくちゃ食い付いたそうだ。
サーベイルに帰投。
そして狩りの成果を売り払ってる間に、シリアスがスイートソードのお偉いさんと話しを付けたそうだ。
『どうも。ゴシック&スイートソードの開発担当、ヤマダです』
『技術開発主任のフルノックです』
『契約等の雑事全般を担うコリミアですわ』
「ご丁寧にどうも。傭兵ランク三、傭兵団砂蟲が団長。ラディア・スコーピアです」
「……ねま、です」
『小型中級局地工作機、サソリ型バイオマシン・デザートシザーリア戦闘改修機体制御人格。機体名シリアス。よしなに』
契約駐機場に帰って、シャムの居住区にて。
情報端末ホロ通信によって即席の会議場と化したリビングにて、スイートソードの方々とお話しが始まる。
『いやはや、まさかオリジン様に我社の製品を使って貰えるとは……』
『国内三機目のオリジン。その噂は聞いていたんですがね、まだ信憑性を確かめてる段階でしたが…………』
『ふふふ、ゴシックローズとはお目が高いですわ』
お相手は、柔和に笑うけどとても偉そうなスーツを着てる白髪のお爺ちゃん、ヤマダさん。
目付きが鋭くブロードヘアを巻き巻きしてる中年、フルノックさん。
そして妙齢にしか見えないけど老獪な雰囲気を持った銀髪のお姉さん、コリミアさんだ。
こちらはホログラム式メイドシリアスと、ゴスロリ服を着た眠そうな妹ネムネマ。そして僕だ。
「ゴシックローズは一目惚れだったんで、ほぼ即決で買いました。一番最初のカスタムですよ」
『まぁ、光栄ですわ』
「お金を貯めてシリアスの新しいボディをフルビルドしようと考えてまして、その依頼先も是非、スイートソードにと考えてました」
『おお……! 我社のデザインした機体をオリジン様に使って頂けるなら、これ以上の宣伝は無いですな……!』
『どうでしょう、ラディア様。そしてシリアス様。我社とスポンサードなど結ばれると言うのは…………?』
『議題の飛躍と思われる。今は、そちらに提供しようと考えてる
『まさに、その通りですな。フルノックさん、少し焦り過ぎですぞ?』
『ははは、これは失敬』
『と言うより、その手のお話しは私のお仕事ですわ?』
流石に、いくら僕が人の顔色を見て生きて来た孤児とは言え、こんな海千山千を潜り抜けたベテラン相手に交渉を有利に進める
と言っても、ニコニコも僕の担当なんだけど。ネマは僕が甘やかさないと笑わないし。基本眠そうな顔をしてる。
『それで、新しい
「はい。
『賢明ですな。そして、我社にとってこの上ない幸運でございましょう』
それからはシリアスに任せて、お話しがトントン拍子に進む。これ、『トントン拍子の実例』って言ってスクールの教科書に載せるべきでは? ってレベルでトントン拍子だ。トントン拍子過ぎる。
と言うのも、シリアスがスイートソードを相手にする為に色々と情報を漁って来たらしく、かなり有利な契約を結ぶに至った。
具体的には
情報の売却と独占契約で僕らが貰えるのは、実に三○億シギル。
「た、大金ですね…………」
『いえ、そんな事有りませんよ。むしろ安いくらいです』
『肯定。現代人の
『その通りですわね。むしろ、こんなに安くてよろしいので?』
『肯定。しかし当然、色は付けて欲しい』
僕にとっては三○億なんて莫大過ぎるお金だけど、新しい方式の
それで、シリアスはその後も暇のある時にオリジン由来の演算能力を使って開発の手伝いをするらしいけど、その代わり僕らがスイートソードから購入する品物は相応の値引きが成される契約になった。
他にも色々とオマケが着いて、ビックリする程に良い契約が結べた。
ちなみにスポンサードは断った。
スイートソード的には、僕らが自社製品を使ってVRバトルやアリーナで活躍して欲しいと思ってる訳だけど、僕らは仕事を限定する気が無い。やりたい時にやりたい事をやる。それが砂蟲だ。
けど、逆にスポンサード契約なんかしなくても、僕らはほっといてもその内、VRバトルやアリーナで活躍をする。その分だけコッチに譲歩した契約内容にして貰った。
そんな色々諸々の駆け引きを危うげ無くやって見せたシリアスは、やっぱり非凡な存在なんだろう。
『宜しければ、ラディア様とシリアス様が望む新しい機体の開発も、
「でもその分、お高いんでしょ?」
『まさかまさか! しかし、ラディア様からの要望を受けて、そして開発中にまた新技術を得ましたら、そちらの方も我社に担当させて頂きたく思いますな』
『その分、フルオーダーの料金も勉強して貰いたい』
『勿論ですとも! それに、下手な仕事をしてオリジン様のお身体に何か御座いましたら、宣伝どころでは有りませんからな。開発スタッフ一同、全力で取り組む所存ですぞ』
『ふふふ、やはりデザートシザーリアに参入したのは正解でしたわね?』
聞けば、デザートシザーリアにも手を出したのはコリミアさんの案だと言う。
地味に人気があるマイナー機。しかしラビータ帝国ではガーランドでしか産出せず、他国に於いても珍しい部類に入るシザーリア系のバイオマシン。そのシェアを丸っと手に入れたなら、マイナー機だろうともかなりの市場を開拓出来るのでは? って事だったらしい。
そして、そんな新しい市場を開拓してたら、ポロッとオリジンが舞い込んだのだ。これはもう、コリミアさんの出世待った無しだよね。
だからコリミアさん、本気出せばもっと僕らから絞れそうな老獪さを滲ませてるのに、終始ニコニコして何も言わなかったのかな。
『では、契約は成立で?』
『肯定。まずは御社に
気の長い話しに聞こえるけど、
そして
スポンサードは断ったから
僕らは凄い物がタダで貰えて嬉しい。スイートソードはオリジンに自社製品を使って貰えて、しかも新開発した
最後に、僕はもう一つだけお願いした。
「あの、新機体にシリアスの
『ふむ? 勿論可能ですが、何か理由が?』
「はい。シリアスの古い体は下取りに出さないで、友人に渡そうかと思ってまして」
この世に、僕とシリアスが最初に出会った時の身体はもう残ってない。僕が移植手術をした後に、シリアスが食べちゃったから。
でも、それでも今の身体だって僕とシリアスの想い出が詰まった宝物だ。下取りになんて出したくない。
ならどうするか。簡単だ。タクトにプレゼントするのだ。
タクトに使って貰えるなら、僕もシリアスも納得出来る。その為に、カスタムを進めてゴチャゴチャし始めた現在のシリアスをシェイプアップして貰う。
様々なメーカーの寄せ集めになってる今の機体を、スイートソードに任せて規格を統一するのだ。
僕の話しを聞いたスイートソードのお偉いさん達は、ニッコニコして快諾してくれた。
『では、まず
こうして、僕らの傭兵ランクが上がった頃に、シリアスの身体もランクアップが決定した。
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