第57話 都市間長距離通信。
「タクト、そっちはどう?」
『お陰様で良い感じだぜ?』
スイートソードと契約が完了した翌日。僕は契約回線を使ってガーランドと通信していた。
傭兵や市民が、都市回線を使って都市間の通信を行う場合は、相応にお金が掛かる。テキストメール一通で二シギル、添付データ次第で五シギルから一○シギルも掛かる。結構な暴利だよね?
でも、特定の専用回線なら都市間長距離通信も料金の内。つまり使い放題だ。
シャムの居住区でポテチをポリポリしながら、親友とホロ通信。今日はお仕事もお休みだ。
「カスタムとかはどう? 機体弄ってる?」
『バーカ。こっちはまだ免許取り立てだぜ? 戦闘機免許もまだなのに、カスタムなんか出来るかよ』
「いや、戦闘以外のカスタムなら出来るでしょ? カスタムコックピットって便利だよ?」
『それがさぁ、みんなお前が使ってるコックピットが基準になっちまってるから、金がさぁ…………』
「お金は? カスタムは個人でしてるの? それともグループの資金?」
『まぁ基本は個人資金だな。でもこれから狩人で生計立てる気だし、狩りに使う装備とかならグループの資金から半分出す形になる。だから、コックピットは全額自腹だ』
「なるほど」
僕がこうしてタクトに連絡してるのは、まぁ当然、シリアスの今の身体を譲る提案がしたいから。
「ねぇタクト。もし、今のシリアスと同じカスタムがタダで手に入るって言ったら、欲しい?」
『メチャクソ欲しいが?』
「そっか。じゃぁあげるから、大事にしてね?」
『………………は? いや、お前そうやって話しを
話した。
『…………マジ? 三○億?』
「マジ。三○億。凄いでしょ?」
『いやもう凄過ぎて何が凄いのか分からないわ。え、三○億ってなんシギル?』
「勿論三○億シギルですが?」
要はシリアスの新しい身体をフルオーダーしようとアレコレ設計してたら、なんかヤバげな新技術を見付けちゃったからメーカーに売り飛ばしたってだけ。
「それで、そのメーカーが色々と優遇してくれる事になったから、シリアスが脱ぐ予定の今の身体を、タクトに託そうかなって。想い出いっぱいだし、下取りには出したくないから」
『いや、そんな大事な物とか受け取れねぇけど?』
「大事にしてねって言うけど、要は正しい形でガンガン使ってねって事だよ。バイオマシンは稼働する為に生まれたんだから、後生大事にガレージに仕舞ってちゃ可哀想だし。無意味に自爆とかさせないなら、普通に戦って普通に壊れる分にはシリアスも許容するってさ」
『肯定。シリアスもタクトを信じて居る。この身体を正しく使い、そしてその果てに朽ちるのであれば何も文句など無い』
『…………ありがてぇ話しだけどよ、良いのか? 結構な額を使ってる機体だろ?』
「気が引けるって言うなら、今度こそ借金って形にしておく? 僕、デザリアも借金って形で用意するねって言ったのに、結局は殆ど無料みたいな形であげちゃったし」
『あー、それなら良いな。そうだよ、俺らってお前に十三機もデザリア貰ってんだよ。値崩れ前の正規価格なら三二五○万シギルだぞ? いくら親友からだって、超えちゃならねぇ額だろこれ』
お、おお。敢えて額面に出すと凄い数字だなこれ。
『その上で、なんだ? またお前から何千万も掛けた機体を譲って貰う? 馬鹿言うなって。俺はお前の息子でも恋人でも無いんだ。流石にダメだろ。うん、だから、やっぱ今回は借金で頼むわ』
「勿論、無利子無担保無催促だけど」
『無利子無担保は助かるが、催促くらいはしろよ馬鹿』
「タクトこそ馬鹿な事言わないでよ。僕が、この僕がだよ? タクトに対して『金返せオラー』って言うの? 心苦し過ぎて心臓止まるけど?」
『警告。タクト、ラディアがこの手の発言をした場合、相当な確率で本当に心臓が止まる危険が有る。よって、無催促を受け入れて欲しい』
『………………シリアス、お前も苦労してんだな』
『感涙。分かって貰えてシリアスは嬉しい』
……………………は? なに僕の前でシリアスとイチャついてるの? いくらタクトでも許さないよ? 嫉妬の炎でプラズマ砲撃てちゃうよ?
「……タクト。ちょっとVRバトルおいでよ。
『光の消えた目で俺を見るな馬鹿野郎。俺だって今は自分の機体に夢中なんだから、シリアスに何か想う事はねぇよ』
「え、もしかしてタクトも自機にガチ恋してくれたのっ!?」
『お前はやっぱり馬鹿野郎だよ。て言うか正確にはまだ自機じゃねぇし。戦闘機免許取らなきゃ機体貰えねぇのは俺も一緒だ』
違うらしい。なんでや。ダブルデートしたいやろ。
とにかく、タクトにはカスタムを待ってて貰う事になった。そして後ろで聞いてたグループの子達が『またリーダーかよ! ズルいぞ!』って騒いでた。
煩いな。僕はタクトとおじさん以外はぶっちゃけ塵芥だと思ってるから、贔屓するつもり無いんだよ。最近可愛い妹って言うネマが例外としてグイグイ上に登って来てるけど。
「て言うか、自分達のグループを纏めるリーダーがそれだけ凄い機体に乗ってるって、グループ的にも箔が着くでしょ? なんで騒ぐの?」
『ほら、ラディアもこう言ってるぞ馬鹿共め』
『だってさー! 俺もカッコイイ機体欲しいよぉ〜!』
『つーか免許取れや。戦闘機免許を取れなきゃ乗機無しだぞ』
グループでは、十三機中八機が個人専用になり、五機はグループで共用する形で使う事に決まったらしい。全部誰かに振り分けると思ってたけど、それだと乗機を持てなかった子との格差が酷い事になるって思って、こうなったそうだ。
その自機を得る為の条件が、僕が最初に提案した戦闘機免許の取得順。つまり頑張った人が早い者勝ちで機体を得て行く。
『それに、お前らも聞いてただろ? 俺達はもう、ラディアから三二五○万シギルも融通して貰ってるんだぞ? まさかとは思うが、あの五日であれっぽっち働いただけで、十三機もデザリアを貰えて当たり前だとか思ってねぇよな?』
タクトがホロ通信の向こうでそう言うと、ワーワー騒いでた子達はシーンと静まり返った。
『俺達、殆どお情けで機体を貰ってんだぞ? なのに、そのラディアが「こうしたい」って決めた事を、俺らが文句言うのか? そいつぁ不義理が過ぎねぇか? ん?』
『…………そう、だよなぁ。ごめん、リーダー』
『確かに俺ら、旅団から仕事貰えたのもラディアのお陰だもんな』
『その金で端末だって買えて、傭兵に成れたのに…………』
『騒ぐのも良い。新しい生活で浮かれるのも良い。けど調子には乗るなよ? 何回も言うが、ラディアは三二五○万シギル相当も俺達に融通してくれたんだぞ。て言うか売り払った機体も入れたらもっとだぞ。本当なら、俺達は今だってラディアの為に奴隷の如く働いててもオカシクねぇんだぞ? それがこんな立派な場所にまで住めてるのに、調子に乗ってラディアの意見を踏み付けようたぁ、どう言う了見だ? あ?』
『ご、ごめんリーダー……』
『ちょっと、調子に乗ってた……』
流石タクト。締める時はちゃんと締める。これが四年前の幼児時代から既にグループを纏めてたカリスマだよ。いやぁ僕の親友はカッコイイなぁ。
「まぁ、僕がタクト贔屓なのは事実だけどさ、許してよ。僕はタクトに恩返しがしたいんだ。僕がタクトに感じてる恩は、まだまだこんなモンじゃ無いんだから」
『いやお前もそろそろ満足しろよ。こんな調子じゃ、俺もお前から返された恩で破裂しちゃうだろ』
「その時は言ってね! 破裂した破片を集めて治すから!
『…………由来は微妙を超えて情けないが、音の響は良いなそれ。タクト・キルティックか』
おや、タクトが乗り気だぞ。
「ギルドで戸籍管理してるから、申請すればファミリーネーム持てるよ」
『お、マジで? ほほぉーん。ちょっとマジで申請してみよっかな』
「僕も今は、色々とあってラディア・スコーピアに成ってるよ。ほら、ネマ居たじゃん? あの子を正式に僕の妹として戸籍を取得したから」
『はぇっ? おま、え? あれを妹にしたのか?』
「うん。なんか、戦闘機免許を凄い勢いで取得してさ。そのご褒美に一○○万シギルあげよっかって言ったら、そんなの要らないから僕の妹に成りたいとか可愛い事言い始めてさ」
『マジかよ。…………いや、でも確かにちょっと可愛いな。戦闘機免許なんてマジで鬼ほど頑張らないと取れないのに、そのご褒美が妹に成りたいって』
「でしょ? でしょ? 最初はさぁ、僕もネマの事を小生意気な部下だなぁって思ってたけど、そんな甘え方されたら可愛くてさぁ。最近は甘やかしちゃってるんだよね」
『…………お前が誰かを甘やかしてる姿が想像出来ん。ちょっとそこにネマが居るならやって見てくんね?』
リクエストを貰ったので、近くで端末を弄ってたネマを呼んで膝に乗せる。すぐに「んふぅ〜♪︎ にぃたん♡」って甘えて来て可愛い。
早速メイドシリアスにお菓子の準備を頼む。
『うわ、もうその時点で妹っぽい』
「でしょ。もう妹になったら可愛くて可愛くて…………」
「……にーちゃ、しゅきっ♪︎」
『ベッタベタじゃねぇか』
「素敵なお嫁さんが居て、可愛い妹が居て、沢山お金も稼げて、僕は世界一幸せな孤児だよ」
スリスリしてくるネマに、シリアスが用意してくれたポテチを食べさせる。あーん。
「…………あむっ♡」
「おいし?」
「……ゅんっ♪︎」
『ドロッドロのベッタベタじゃねぇか。液体甘味料かよ。あぁ俺もそんな妹欲しいわぁ』
ネマのサラサラな金髪を撫でながらホロを見ると、タクトの向こう側にスピカが見えた。なんかコッチを見てプルプルしてる。どしたの?
「スピカ?」
『…………う、うらやま、しっ』
「はい?」
『あッ!? えぁ、ななな、何でも無いよっ!?』
「……タクト、羨ましいってさ。膝に乗せてあげたら?」
『うぇぁっ!? ち、ちがうのっ……!?』
『…………膝、座るか?』
『だから違うのぉ〜!』
もう、スピカは素直じゃ無いなぁ。
せっかくのチャンスなんだから、乗っちゃえば良いのに。憧れのタクトから膝に乗って良いって言われたんだから、遠慮なんて要らないよ。
タクトグループの子達の名前を覚えられない僕だけど、なんかスピカは印象に残ってる。
プリカとエレーツィアも覚えてるけど、こっちは忘れそうになると復唱して何とか記憶に繋いでる。あと副リーダーの子は間に合わず忘れてしまった。なんだっけ? ディギルス? ジルギル? …………ダメだ思い出せない。
でもスピカはなんか、サソリ祭りの時も料理とか頑張ってたし、何かと僕を気に掛けてくれたので、記憶に残った。
他の女の子は基本的にタクトへしゅきしゅきアッピルする仕事で忙しいから、僕に構ってられないのだ。男の子も自分の機体が欲しいってモチベーションが高過ぎてそれどころじゃないし。
「スピカがタクトの妹に成る?」
『お? …………いやなんか違くね?』
『あの、本当にちがっ…………』
「…………すぴ、か。にーちゃ、すき?」
『あにゃッ--!?』
ネマがそんな事を言うと、ホロの向こうでスピカが固まる。
こらこらネマちゃんや。スピカの想い人の前でそんな事言ったら可哀想だろ? タクトに「ふーん、スピカはラディアが好きなのか」って思われたら可哀想だ。可哀想過ぎる。
「ネマ、そう言うのは人前で聞いちゃダメだよ。それを聞いた人が、事実と全然違うのにそう信じちゃったら不幸だろ? ネマだって逆に、スピカからタクトの事好きなのかーって聞かれて、誰か好きな人に『へぇそうなんだぁ』って思われたらどうする? 好きな人に勘違いされて悲しくない?」
「…………ごめにゃしゃ」
『そこで謝られるのすげぇモニョるんだが』
「口に出す言葉には責任が伴うんだ。もしスピカが、ネマの言葉のせいで、本当に好きな人に勘違いされたら、ネマは責任取れる?」
「……とれにゃぁ」
『おい無視か』
ネマは賢い良い子なので、僕が言い聞かせればちゃんと理解してくれる。
その間もスピカは『ちがっ、違うのにっ』て百面相してる。分かってる。分かってるよスピカ。違うよね。スピカが好きなのは僕じゃなくてタクトだもんね。
スピカの更に後方で、男子組が『お? お? 新しい争奪戦か? 見応えはあるかな』とか言ってるのマジでシャラップ。ブッ飛ばすぞコノヤロウ。僕はタクト争奪戦でスピカ推しだからな。ドロップアウトさせるのは許さんぞ。
『あ、そうだラディア。お前に依頼が有るんだよ』
「はぇ? 依頼?」
『そう。お前、機体のカラーデザインしてくれんだろ? 俺らもあと二、三日したら戦闘機免許取れ始めそうだし、愛機のカラーリング任せたいんだわ』
「やるー! 任せてよ! どんなのが良い!?」
『うーん、そうだな。俺はお前から機体を貰う訳だから、それに合わせたデザインが良いな』
「そうすると、黒かな? 僕はシリアスに砂色が似合うと思って頑なにデザートカラー残したけど、タクトが気にしないならベースカラーを全部黒にしちゃう?」
『それも良いよな。黒い機体にしちゃう奴って多いけど、やっぱカッコイイもんな』
取り敢えず、タクトの機体はスイートソードに任せてゴシック強めの機体デザインにして貰って、それに合わせて黒ベースの物を考えよう。
「そう言えば、タクトは機体の
『ん? ああ、そっか。まだ愛機が決まって無い今なら、お前に貰う機体に積むのは新しい
「新しい
『あー、それも有るか。どうすっか。専用機体枠を一機増やすか?』
「大穴で、ガボットに一機プレゼントしちゃうとか」
『……………………それは無くね?』
「うん、自分で言ってて、ナイなって思った」
何が悲しくてガボットのアホに二五○万シギルも奢らないといけないのか。
ハンガーミートは奢ってあげたけど、アレは永久旅団の皆さんを見送って気分が良かったからだ。
『で? 肝心のお前は何時帰って来るんだ?』
「まだ掛かるんだよねぇ。こっちでの狩りも稼げるし、しこたま稼いでから帰るよ」
『
タクト達は現在、輸送機免許を持ったメンバーで砂漠に行って、見付けた野良デザリアを囲んでゼロカスタムのままフルボッコにしてるそうだ。
最低でも三機。用意出来るなら五機は準備してから狩りに行って、シザーアームで押さえ付けて数人掛りでニードルカノン…………、テールのパイルバンカーをブチ込んで野良をボコる。それで仕留めたら背中に乗せて移動して、また見付けたらボコる。
そんな形で狩りをしてるらしい。
流石にゼロカスタム同士のぶつかり合いだと自軍側の機体が怪我をする事も有るけど、今のところは収支黒字で安定してるそうだ。
『前までの暮らしに比べたら本気で天国だぜ。ラディア、マジでありがとうな』
「それは僕の方こそだよ。生きて行けない僕にその術をくれたタクトは、今その生活をしてるタクトが抱いた感謝と同じくらいの感謝をずっとずっと持ってたんだよ。やっと恩を返せて安心してるくらいさ」
『ははっ、ならお前が俺を崇め奉る勢いで感謝してたのも納得だわな。メチャクソ感謝してるし』
「でっしょ?」
僕とタクトの仲良し具合に妬いたネマが、僕の胸板に頭をゴリゴリと擦り付ける。痛い痛い、せめてスリスリにしておくれ。
「……むぅ、にーたんは、ねまの、にーたん、なのっ」
『今更だけどソイツ、そんなんだったっけ?』
「いや、前は結構なデコスケ野郎だったけど、あれもワガママを我慢してたみたいだよ。この子箱入りっぽいからさ」
『なんか、アレだな。後でソイツの親とか出て来て、面倒事に成ったりしてな』
「それなんてフィクションブックさ? そもそも、ネマの戸籍は完全に残ってなかったから、何も問題無いよ。もし血縁を盾に迫って来ても、むしろそれが子供を捨てた証拠に成るし」
『あー、それもそうか。捨てる時は業者でも使ったんだろうけど、その間も都市管理システムにネマの行動記録は残ってるし、血縁なんてバラしたら自供も一緒か』
帝国は法に煩い国なので、不貞の発覚を恐れて子供を捨てたなんてバレたら、相当マズい事になる。
本当なら殺してしまうのが一番だけど、そっちの方がバレた時のリスクが高いので普通はやらない。基本バレるし。
都市内で殺せば都市管理システムに見付かるし、システムの監視領域外に連れてって殺したら、戻って来た時にバレる。居るはずの子供を伴って無いんだから、なんでやねんって詰められるに決まってる。
僕ら孤児を相手にして強姦や誘拐以外だと罪に成らないのは、それは僕らが不法滞在者だったからだ。普通の市民を普通に殺したら相応にヤバい事態になる。
帝国法では、正当な怨みによる報復や、不幸な事故によって殺人を犯した場合でもアンチエイドを施した上で五○年から一○○年の服役刑。
そしてもし、逆恨みや不貞の証拠隠滅などと身勝手な理由で殺人なんてしたら、一発で死刑だ。それもかなり酷い目に遭ってからの死刑である。
帝国的には、そんなアホな理由で人を殺すヤバい奴を生かして、第二第三の被害者が出て人的損害を受けるくらいならすぐに殺そうって決まってる。理由が有ったなら刑罰を課して改心を促すけど、クソみたいな理由で人を殺す緩々倫理のヤバい奴を更生させる費用なんか無駄過ぎるから、殺した方が早い。そう言う国なのだ。
対して育児放棄に戸籍改竄に棄民、これらのトリプル役満くらいなら、まだ終身戦奴隷くらいで済む。それにバレ難いし。
都市管理システムの外で殺しても情報端末のオーバードライブで即バレするし、端末ごと身ぐるみ剥がしてから殺しても、死体の処理に困る。人体由来の成分たっぷりな廃棄物なんか感知したら、処理に使われた機材が速攻で勝手に通報する。
都市外に死体を捨てに行こうにも、都市の出入りはスキャニングで監視されてるから無理。死体なんか積んで外に出ようとしたら速攻で捕まる。
生きたまま連れ出してから都市外で殺しても、都市に帰って「連れはどうしたの?」って成るし、適当な言い訳なんかしたら「じゃぁそのデータ頂戴ね。精査するから」って言われて、周囲環境をマークしてた端末やコックピットデータを取り上げられる。
そして此処で言い訳通りのデータがハッキリ残って無いとその場で捕まる。偶然データが残って無いなんて言い訳は通らない。下手したら盗賊に市民を売りに行った闇商人扱いされてもっとヤバい事になる。盗賊を助ける人間は準盗賊扱いなので人間扱いされなくなるから。スナッフムービー撮られながら殺されても合法に成るくらいの扱いをされる。
でも、殺しさえして無いなら何とか成る。
子供を連れ出して、捨てる為の都市にまで行って、そこで仲間に連絡して捨て子の戸籍を消してから、捨てる都市に有る専門の施設に預ければ良い。
ウチの娘をお願いしますぅ。良い子なのでぇ。とか言いながら渡せば良い。そして自分が帰った後に予定通りに施設が潰れる。それで一仕事の終わりだ。
潰れた施設から放逐された子供はスラム落ち。都市のセーフティネットを使いたくても戸籍が消えてるので無理。施設に預けた親をトレースしたくても、その受け渡した親役が既に業者の可能性も有るし、戸籍が無いからやっぱりトレース出来ない。
業者もスラムやブラックマーケットに暫く行方を晦ます。明確に犯罪じゃないので長期間のトレースはされない。
これが、僕の知ってる捨て子の仕組み。その一つ。
まぁ他にも色々、方法は有るんだろうけど、僕は他の方法を知らない。
だから此処で、血縁なんてバラしたらその時点で終わりだ。何故戸籍が消えてる? って話しに成るから。
当たり前だけど戸籍の改竄なんて重罪だ。子供を捨てるのも中々重い罪が待ってる。て言うかネグレクトの時点で有罪だし、不倫も普通に有罪。
ああ、トリプル役満じゃ無かった。クワトロ役満だった。
戸籍改竄なんて行政側の人間も関わって無いと無理だし、当然バレたら芋づる式に捕まる。普通はやらない。つまりそれをやらせるだけの何かを持ってないと無理なんだ。お金か、弱みか。
そう言う意味では、確かにネマは良家の血が入ってる可能性はある。と言うかかなり高確率でそうだろう。
「貴族とまでは行かないと思うけど…………」
『どうだかね。お貴族様は重婚も出来るだろうけど、それも正妻次第だろ。正妻が嫌がってるのに浮気してたって言うなら、ヤバくなって子供捨てたってオカシクは無いぞ』
「そうかなぁ」
微妙だと思うなぁ。
だって、貴族なら重婚は合法なのだ。バレたらバレたで「へてっ、ごめーんね☆」って言って殴られれば良い。子供を捨てるなんて危ない橋を渡るよりずっと良い。バレた時のリスクが段違いだ。
それでも強いて可能性を言うなら、妻の実家が怖過ぎて頭が上がらないとか?
「そうなったら、ネマってかなり高貴な血が入ってる事になるけど」
「…………どー、でも、よい。ねま、いまは、にぃたんの、いもーと」
「それもそだね」
どっちにしろ、もう関係無い。
今更ネマの親権を振りかざしたって遅過ぎるのだ。普通に通報して処分して貰って終わりだ。どんな良家でも、貴族でも、帝国法には逆らえ無い。逆らいたいなら法の緩い他国に行くしかない。
もうネマは国際組織である傭兵ギルドが管理する戸籍で、正式に僕の妹になってる。何なら本当に血を繋いでも良い。
「確か、骨髄移植手術で血液のDNAだけは同じに出来たよね。詳しく知らないけど、他にも完全な血縁に成る為の手術とか色々有りそうじゃない?」
『肯定。その手の施術は存在する。骨髄移植ならば日帰り。ゲノム干渉手術ならば日帰り措置の後、処方されたナノマシン錠剤を一ヶ月ほど服用すれば、DNAレベルで兄妹に成れる』
「だってさ。やる?」
「…………やぅ♪︎」
という訳で、本当の本当に兄妹となる事が決まった。
ついでにメディカルチェックも受けちゃおう。孤児の生活で酷使した身体をハチャメチャ綺麗にして貰おうか。
「じゃぁネマ、後で病院に行こうね?」
「ゅんっ♡」
めっちゃスリスリされた。
骨髄移植だと血が同じに成るだけなので、ちゃんと兄妹っぽく調整してくれる施術を探す。これで名だけじゃなく、名実共に兄妹だ。
『つーことは、本当の妹に成るんだな。お祝いでもするか?』
「ホロ通信で?」
『バーカ。早く帰って来いよ。祝いの準備して待っててやるから』
「だってさ、ネマ」
「…………えへっ、たくと、ありあとぉ」
『くはっ、〝さん〟を付けろよデコスケ野郎、って言うんだったか?』
「にゃふっ、…………ねま、でこすけっ♪︎」
本当に、なんでよりによってデコスケ野郎を気に入っちゃったんだろうな、この子。
「じゃぁ、もう一ヶ月くらいで多分帰るよ。流石にもう延長は無いでしょ」
『おう、待ってるからな』
それから暫く、タクトと適当な雑談をして通信終了。
「あとは、そうだな。ポロンちゃんにでもコールする?」
『ポロン・アルバリオは既に夏季休暇を終えている。大した予定もなく通信を送るのは迷惑である可能性』
「あー、今日って何曜日だっけ?」
そう。ムク君達がもう夏休みを終えてスクールに行ってる。なので当然、夏季休暇だったポロンちゃんも夏休みが終わってるはすだ。
休日ならコールしても良いだろうけど、スクールで勉強してる時に通信要求なんた送ったら確かに迷惑だ。しかも急ぎの連絡で有ればまだしも、サーベイルに来て一ヶ月経つから近況報告、……なんて緩い要件でのコールだ。
うん、僕が相手の立場なら取り敢えず叩くわ。
「あー、孤児生活の弊害で曜日感覚が死んでる……」
『本日は
孤児は曜日なんて関係無く、毎日が
勿論僕も元は普通の市民だったから、曜日の存在くらいは弁えてる。ただ気にしなくなっただけなのだ。
今だって曜日とか関係無く狩りに出て獲物を売って過ごしてるんだし。
まぁ僕も、スクールとかじゃなくてロクデナシの父から旅の途中に教わっただけなんだけど。
曜日は全部で七つ。
この曜日が
多分、これで合ってるはず。合ってるよね? 父がアホ過ぎて間違って教わったって言うならお手上げだけど。こんな常識中の常識を今更誰かに教わるとか難し過ぎるぞ。
いいや、シリアスに聞いちゃえ。
「シリアス、曜日って
『肯定。暦の作り方は現代も古代文明も同じ様子』
合ってた。良かった。
取り敢えず、
「送信、と」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます