第75話 遠隔猟機兵。



「--って事があったんだよ」


 帰宅後、おじさんも交えて夕食。

 シリアスはおじさんを手伝って料理し、僕とネマは見学しながら料理のお勉強した。

 ムニちゃんは魚介限定なら普通に料理出来るそうなので、僕とネマの料理レベルは五歳児以下って事だね。

 そうして出来上がった今日の夕食は、メインがネマの大好きなアクアパッツァ。主食にエビを使ったシーフードクリームパスタとバケット。主食が二品? って思ったけど、アクアパッツァを食べるにはパンの方が都合良く、でも僕がパンよりパスタ派なのでこうなった。

 副菜にも色々と惣菜が並ぶ食卓で、五人で団欒の時間だ。


「むぅ…………。また、いもーとぞくせーがあらわれた…………」

「いや、まぁポロンちゃんの妹だから妹属性で間違いは無いんだけど……」


 今日あった事を話すと、ネマが拗ねた。仕方ないのでアクアパッツァの魚を解してお口に運んであげる。秒で機嫌が治った。


「むふぅ♡ にーたんしゅきぃ♡♡」


 抱き着かれてスリスリされる。ふむ、やっぱりネマからされるとストレス無いな。むしろ癒しだ。可愛い。

 ネマが羨ましかったのか、ムニちゃんも控え目に近寄って来て、控え目に抱き着いて、控え目にスリスリして来た。可愛い。ムニちゃんも大丈夫だな。

 やっぱり為人ひととなりを知ってて、それを受け入れてるからストレスが無いんだろうなぁ。あと単純に可愛い。


「やっぱお前ハーレムじゃねぇか。鏡見てみろよ」

「くぬっ、言い返せない……」


 まぁ、余り悩まなくても良いか。ポロンちゃんはアズロンさんが立ち上げたがってる傭兵団に入るんだろうし、砂蟲には来ないだろう。それならアロナちゃんだけ砂蟲で預かるって事も無いでしょ。


「質問。そもそもどうして、ラディアはポロン・アルバリオの加入を拒む?」

「ふぇ? いや、拒んでるって言うか、ウチはほら、砂蟲って名前だし、機体は虫型で統一したくない?」

「…………むふ? とても今更だが、ラディアが思う『虫』の定義を知りたい」

「て、定義?」


 と、言われても?


「それは、えっと、まず骨が無い生き物でしょ?」

「理解。まず無脊椎動物に分類される生物であると。他には?」

「他には、そうだなぁ。殻が、ある……?」

「そうすると、ナメクジは虫じゃない判断で良いだろうか? ミミズは? 寄生虫等は? 外骨格を持たない無脊椎動物は全て虫のカテゴリーから除外で良いのだろうか?」

「え、えっと…………」


 た、確かにナメクジやミミズって、虫のイメージだよね。寄生虫は寄生って言うくらいだし、虫なんだろう。


「ラディアの判断では、例えばエビやカニと言った甲殻類は虫だろうか?」

「あ、あー? いや、うーん?」


 どうなんだ? 限りなく虫っぽいけど、憧れの食材の一つだったから、虫って感じがしない。

 けど、見た目だけで言うなら限りなく虫っぽくはある。でも虫を食べてるって思うとちょっと嫌な気分に成るのは何なんだろうね? 普段食べてるフードマテリアルって素材が虫なのに。


「うーん……? でも、何となく、甲殻類は虫じゃない気がする……」

「だとしたら、既に砂蟲は虫以外の機体が居るので今更だと断言する」

「……えっ? いや、え? いやいや、ウチにはまだシリアスとシャムしか居ないじゃん?」

「ラディア、知らないなら落ち着いて聞いて欲しい」


 ぶっちゃけ食事中にする話しとしては不適当だけど、おじさんも気にせずパクパク食べてるし、ネマとムニちゃんは食べながら僕にスリスリするのに夢中でそもそも聞いてない。


「実は、ダンゴムシはエビの仲間。甲殻類」

「……………………はぁっ!?」


 え、嘘でしょっ!? ダンゴって言う癖に!?

 それが事実なら、やっぱりエビやカニは虫なの……!?


「続けて質問。ラディア、結局ナメクジは虫だろうか?」

「ぇと、いや、ナメクジは流石に、虫かなぁ?」

「だとしたら、貝類も虫になる。ナメクジは腹足類と言って、巻貝の仲間」

「マジでぇっ!?」

「ラディアは、サザエやホラガイを見て、それを虫だと思うだろうか?」


 あ、あいつ貝の仲間なのっ……!? 

 い、いや確かにっ? そう言えばナメクジって、殻の無いカタツムリ的な外見だもんね? そしてカタツムリは見た目が完全に巻貝だ。なるほど?


「ま、マジか……」

「そして、貝が虫だと言うなら、イカも虫なる。イカも巻貝の仲間」

「イカも貝なのっ!?」

「イカは種類によって、体内に貝殻の名残だった『骨っぽい物』を内包してる。オウムガイ等を想像すれば分かり易い。あのタイプがイカの祖である」


 なるほどっ!? アレの殻が無くなったらイカになるって思えば良いのか! カタツムリとナメクジの関係に似てる奴だなっ!?


「つ、つまり、ナメクジとイカは仲間?」

「否定、それは少し違う。ナメクジは腹足類であり、イカは頭足類。祖を巻貝とする生物で括るなら仲間になるが、生物進化の分岐で語るならば少し疎遠。しかし近縁では無いとも言い切れない微妙なライン」


 す、凄く微妙だ…………。

 イカのイメージで言うなら、どちらかと言えば魚の方に分類しちゃいそうな魚介だ。しかし巻貝の仲間だと言うし、巻貝の仲間にはナメクジやカタツムリが居る。

 ナメクジやカタツムリを『虫』と定義するなら、巻貝も虫であり、まぁ巻貝なら虫でも良いかなってちょっと思うけど、そうするとイカも虫になる。

 そんなあやふやな定義で、果たして僕は甲殻類であるダンゴムシを、虫と断言して良いのか…………?


「そもそも、虫と言う定義が元来、とてもあやふやな物である。古代文明を超えて太古の歴史では、トカゲやヘビすらも『虫』と呼ばれて居た時代もある。なんならタコやカエルもそう」

「あ、そうなんだ……」


 虫って、虫って何なんだ…………。

 トカゲもヘビも、カエルだって立派な脊椎動物やぞ……。

 タコも…………、虫? あれって虫に見えるかい? どうやったらそう見える? 千歩譲ってまず悪魔か何かに見えない? おぞましい化け物とかさ。少なくとも虫には見えないでしょ…………。  


「ちなみに、サソリって何の仲間なの?」

「サソリは鋏角類きょうかくるいと言って、クモやダニの仲間。つまりシリアスは鋏角類」

「えと、サソリもハサミを入れたら八本足だもんね? 足がいっぱい有る虫っぽい生き物は、そのきょうかく類って奴なの?」

「否定。例えばムカデは多足類であり、鋏角類では無い。クモとはまた別の系譜」

「もう僕には何も分からない…………」


 こうなったら、もう脊椎動物と無脊椎動物で分けるくらいしか思い付かない。けど、無脊椎動物にはイカやタコ、クラゲも居る。

 そして僕にはイカやタコを虫と定義する自信が無く、そうすると貝類を虫と呼べなくて、ならナメクジは虫じゃない事になる。

 ナメクジすら虫じゃ無くなったら、その貝類と並べて、じゃぁエビとカニは虫なのかよって問われたら、僕にはもう頷けない。頷けないと、ダンゴムシも虫じゃなくなる。


「砂蟲って……、砂蟲ってぇ…………」

「一応、祖国でシールドダングが造られた時点で、祖国ではダンゴムシが虫だと定義されていた証左となる。しかし、海洋国家ではカニ型やエビ型の機体も存在し、海洋国家は自国の機体を虫型では無く水棲型と定義してた。海洋国家に於いて甲殻類は虫では無かったと推測する」

「もう、僕には分からぬぅ……」


 そうか、シャムお前、エビの仲間だったのか…………。

 その海洋国家って所がダンゴムシ型を作ってたら、虫型じゃ無かったのかな。でも水には住んでないし…………。

 ああ、そうか。ダンゴムシってアレか、フナムシの近縁なのか。オスシ食いに海洋都市行きてぇって成ってた時に調べた海の情報にチラッと乗ってたけど、確かにあれは似てるわ。なるほどね、ダンゴムシの近縁が海に居るって事は本当に甲殻類の仲間って可能性に信憑性が増すなぁ。

 海洋国家さんが作るならそっちか。水棲型としてフナムシ型を作るのか。なるほどね。


「そんな訳で、シリアスはイヌ畜生の加入など今更だと考える。砂蟲にはシリアスが居れば虫の要素は充分である」

「シリアス、割と真剣にイヌ型とオオカミ型嫌いになったね」

「そんな事実は一切無い。事実無根。スイートソードから新ボディが届けば、シリアスは世界一のオシャレ女子なので他の機種など微塵も気にしてない。風評は止めて欲しい。シリアスは断固抗議する所存」


 すぐ早口になるシリアスが可愛い。無限に可愛い。


「ふふっ、シリアスは今の時点でも世界一のオシャレ女子だし、宇宙一可愛い女の子だよ」


 僕は手を伸ばしてシリアスの金髪をサラサラ撫でた。すると少し頬を染めて俯くシリアス。超可愛い。

 シリアス、攻める時はガンガンに攻めて来る超攻撃型だから、攻められると防御が紙だから弱いんだ。すぐ照れちゃう。


「………………て、照れてなど居ない」


 そうしてスリスリ組にシリアスまで混ざったところで、おじさんに「やっぱハーレムじゃねぇか」と言われた。ぐぬぬぬっ。


「しかし、そうか……。甲殻類は虫か否か……? 大きな問題だなぁ」

「そうだろうか?」

「だって、甲殻類を虫と定義したら、エビやカニを食べる人は、実質虫を食べてる事に成る訳じゃん?」


 そう。つまり今の僕達である。だってパスタにエビ入ってるし。


「フードマテリアルが基本食糧の現代では、今更の問題だと思われる。現代人は基本的に養殖虫と増殖藻ぞうしょくそうを摂取して生きて居る。民間レーションも内容物はほぼ同じ」

「そうなんだけどぁ。ほら、気分の問題でね? 分解された成分を口にするのと、丸のまま食べるんじゃ違うじゃん?」


 話題がアレ過ぎておじさんに睨まれた。ごめんなしゃい……。


「それで、甲殻類を虫と呼ばないなら、例えダンゴムシをバリバリ食べようとそれは虫食とは呼べなくなる訳じゃん? ………………難しい問題だぁ」

「改めて言う。そうだろうか?」


 ダンゴムシをバリバリ食べてたらやっぱりそれは虫食だと思うんだよ。


「…………でもさ、やっぱりダンゴムシって言うんだから、ダンゴムシは甲殻類だとしても虫で良くない?」

「シリアスが提起した話題なので恐縮だが、シリアスとしては正直どうでも良い。虫も獣も全てを含めて『動物』と呼称するのが、本来は正しい形である」


 まぁそうなんだけどさ。


「虫の定義って以外と難しかったんだなぁ……。取り敢えず、僕の独断と偏見でダンゴムシは虫です。つまりシャムは虫なので、まだ砂蟲には虫型しか居ません! ムニちゃんの機体もダング系の予定だし、やっぱり虫系で行きたいと思います!」

「…………ならば、良い機会なのでもう一つ良いだろうか?」

「んぇ? どうぞどうぞ?」


 僕が団長権限を発動してダンゴムシを虫だと決定すると、シリアスが首を傾げながら言う。


「…………そも、この話しを突き詰めれば、ダンゴムシを虫と定義した今のラディアは、イカや巻貝の事は置いといても、『無脊椎動物かつ外骨格を有する生物は取り敢えず虫』と決めた様に思える」

「……うん? まぁ、そだね?」

「ならば、骨を有さず装甲という名の外骨格を持つバイオマシンはすべからく虫であり、イヌ型だろうとネコ型だろうと虫であると言う結論に成らないだろうか?」

「………………なんっ、だとッ?」


 す、凄い暴論だけど…………、これはっ、納得せざるを得ない…………!?


「い、いやでもっ、バイオマシンには骨有るじゃん? フレームってつまり骨じゃん?」

「肯定。しかし骨であっても脊椎では無い。バイオマシンはフレームを脊椎としては運用してない。つまり無脊椎動物。体内に貝殻の名残を骨として有するイカの様に、バイオマシンも体内にフレームと言う骨を内包してるだけの無脊椎動物である。…………いや、バイオマシンをとは呼称しても、と呼称できるかは、また別の議論が必要と思われるが、それでも、少なくともバイオマシンは無脊椎とは呼べるはず」

「……………………ぐ、ぐうの音も出ねぇ」

「つまり、バイオマシンは虫。巨大な虫。これにてQED証明終了。…………まぁ、シリアスはどちらにせよ、最初から虫型なので関係無いが」


 僕はシリアスの完全な理論武装を前にして降伏した。平たく言うと論破された。

 シリアスが言う通り、生体金属心臓ジェネレータやらタンクやら、あと生体金属心臓ジェネレータを砕いて燃性気化金属オーバータールに変化する食堂や胃袋に相当する『消化器官』をなんて言うのか知らないけど、それらの『内臓』を外骨格で守り、そしてに多関節でも無いフレームしか有さないバイオマシンは、確かに虫に相当する生き物なのかも知れない。

 納得してしまったので反論出来ねぇ…………。


「度々の質問で恐縮だか、ラディア? ラディアが虫型に拘る理由は、シリアスが理由だろうか?」

「…………あー、うん。バレちゃったか」


 うん、まぁ、そうなんだよね。

 ハイマッド帝国ってサンダリア共和国と敵対してたみたいだし、獣型を加入させると多少なりともシリアスのストレスに成るかなって思ってた。それも理由としては大きい。

 ダムドルード皇国も獣型で、ダムドルードとハイマッドは敵対して無かったっぽいけど、シリアスが個人的にミラージュウルフとナインテールナットを嫌ってるので結局ダメ。

 僕はシリアスしゅきしゅきの民だから、思考の基準が取り敢えずシリアスなのだ。シリアスすきー♡


「確かに、祖国の機体で固めた戦力ならシリアスもストレスフリーだろうと思う。しかし、流石に現代にも慣れたので、言うほど気にしない。そこまで考慮しなくても良い。それに良く考えると、現在は暴走してる僚機達も仲間とは呼べない。その上、言うなればシリアス達は文明に置き去りにされ、共に現代へと時間旅行した同士である。本当に、ラディアが懸念する程のストレスは無い」

「わぁお、思ったよりも寛大だった……。まぁ僕も流石に、仲間に成った獣型機体に対してシリアスが隔意を持つとは思って無いけどさ。でも、逆に統一しても大した問題が無いなら、統一しちゃった方が良いかなって思ったのも事実なんだよ。ほら、都市外で何かあった時に、機体を修理するにもハイマッド製の機体同士なら部品に互換性が有るじゃん? 有事の際には役立つかなって。ラビータなら虫型の機体も入手が容易だし」


 ラビータ帝国は古代文明サンダリア共和国とハイマッド帝国の跡地に跨る国であり、どちらの機体も入手し易い。虫型にも戦闘機は居るし。

 ガーランド付近では少し入手が面倒だけど、他の都市ならサンダリア製バイオマシンで言うところのウェポンドッグに相当する機体、ハイマッド帝国製のハエトリグモ型・アーミーラクネルスってバイオマシンが三○○万から四○○万くらいで買えるらしい。

 サンダリアのウェポンドッグが主力の量産型だとしたら、アーミーラクネルスはハイマッドの主力量産機だ。どちらも同じく小型中級で、総合的な性能も余り変わらないそうだ。

 まぁガーランドに居る僕ら砂蟲だと、三○○万で小型戦闘機買うくらいなら、デザリア鹵獲して来てカスタムする方が安上がりか、もしくは同じ値段掛けてもゼロカスのアーミーラクネルスより数段は上の性能に出来る。


「まぁ、そもそもの話し、ポロンちゃんが砂蟲に来る前提で話してるのが変なんだけどね。向こうは向こうで傭兵団立ち上げるっぽいし。だからやっぱり虫型で行こうよ。『虫』で統一する意義が無くなっても、『虫型』ってカテゴリーには違いないしさ。ほら、『虫型の虫』ってだけで砂蟲感上がるじゃん?」


 バイオマシンは虫理論に反証出来ないので、僕は個人の感性って言う暴論を持ち出した。


「それに、ムニちゃんにも候補としては一応、申し訳程度にはウェポンドッグを勧めたけどさ? ぶっちゃけ有力候補からは速攻で外れたし」

「ぼくも、ダングにのるんだもんね……?」

「そうそう。ムニちゃんもダングの予定だから、サクっと免許取っちゃってね。戦闘要員は足りてるし、取り敢えずは輸送機で良いからさ」

「ぅんっ! ぼく、がんばるっ……!」


 食器をテーブルに置いてから「むんっ!」って力こぶをアピールするムニちゃん可愛い。僕の隣で密着しながらなのでほぼ見えないけど、小さい子が何かをアピールしてる様って取り敢えず可愛いよね。


「ところでラディア、シリアスから一つ提案が有る」

「ん? なになに」


 食事も大体食べ終えて、食器の片付けをおじさんが作業用ボットにやらせて一服の時間。シリアスが僕にそう切り出した。


「シリアスも、例えばこの身体の様に人の形をしたアンドロイドでならば、バイオマシンを操縦出来ると思う。なので、シリアスも免許を取って機兵乗りライダーに成ろうかと考えてる」


 …………………………うん?

 え、いや? えっ!? マジでっ!?


「ほう、なるほどな? 確かにそれは出来そうだな。それにおもしれぇ」


 おじさんが感心してるけど、僕は目から鱗過ぎて失明しそうな程に驚いてる。

 冷静に考えて目から鱗が落ちたら大怪我だよね。なんだよこの慣用句。目に鱗がある種族が居たとしても、必要だからそこに着いてただろう鱗が感心する度に落っこちてたら生きて行け無いよ。


「と言うか、えっ? そんな事って可能なの? 陽電子脳ブレインボックスのシステム的に行けるの?」

「恐らく。祖国ではバイオマシンに使われる陽電子脳ブレインボックスが人型の機械を動かす事に制限が設けられていたが、現代ではそんな法律は無い。制限の解除も自分では出来ないが、シリアスの権限を持ってるラディアは祖国の法に縛られない現代人なので、制限解除を認めて貰えればそれだけで可能だと判断する。そして、制限が設けられていたと言う事は、つまりそれが可能だと言う事に他ならない。祖国も流石に、不可能な事を態々制限したりはしないと判断する。よって、シリアスはこの身体を遠隔操作してバイオマシンを操縦出来ると確信する」


 もしそれが可能なら、凄い事だ。制限解除なんて幾らでもしてくれ。ハイマッド帝国の法律なんて、もう誰も裁けない様な骨董品は無視して良い。

 陽電子脳ブレインボックスが直接機体を動かすならば、モデルビーストロックなる制限が存在してて、陽電子脳ブレインボックスに対応して無い機体に積み込まれると動けなく成るけど、でもシリアスが言った方法なら、そんな制限を丸っと無視出来る。

 だって陽電子脳ブレインボックスが動かしてるのは機体じゃなくて外部装置であるセクサロイドやアンドロイドだし、それだってローカル通信でデータを飛ばす要領で行ってるだけだ。


「…………ああっ、そうか。それでなのかっ。それが可能ならバイオマシンは、自分で自分を操作して、ウェポンシステムだって使えちゃうもんね。そりゃ規制される訳だよ。なるほどねぇ」

「シリアスは別に、シリアスのコックピットに乗って操縦する気など微塵も無いが」

「あれ、そうなの? じゃぁ提案って……?」


 てっきり、僕がシリアスを動かせない時の保険とかだと思ってたけど…………。


「ラディア。例えシリアス自身だとしても、シリアスのメインシートに乗って良い訳が無い。それは忘れないで欲しい。シリアスのメインシートに座って良いのは、生涯でただ一人。ラディアだけ。それだけは何が有ろうとも変わらない」

「あっ、ちょっ、まって……、不意打ちダメきゅんきゅんしちゃう……」


 シリアスが好き好き過ぎて好き好きの民……。はぁ辛い、好き過ぎて辛い。早く結婚したい…………。

 僕はシリアスとの間に座って黙々とスリスリしてたネマをちょっと退かして抱き着いた。おじさんはそんな僕達を気にせず端末で何かをしながら、タバコを吸ってコーヒーを飲んでる。


「はぁぁしゅきぃ……♡」

「シリアスもラディアが好き。愛してる。……それで、本題に戻っても良いだろうか?」

「あ、うん。お願いします」


 気が付けば退かしたネマが僕とシリアスに纏めて抱き着くと言うスーパー甘えん坊技を披露してる中で、改めてシリアスの提案と言うか、計画を聞く。


「シリアスがこの身体、セクサロイドを含めてアンドロイドを外部操作出来る距離には制限がある。都市内ならば無制限だが、都市外ではシリアス本体が有するローカル通信領域の中でしか不可能」


 シリアスがメイドボディを動かしてる仕組みは、シリアス本体がローカル通信を飛ばしてセクサロイドを外部操作している形である。

 これはあくまで、シリアス本体から発してる強力で精密なローカル通信を都市回線経由で届かせてるからこそ、都市内でも自由に動けるのだ。

 なので、回線が利用出来ない都市外だとローカル通信が届く領域の中でしかメイドシリアスは動けない。専用回線を契約してると言っても、その専用回線に対するアクセス権を持ってるのはシリアスの端末であってシリアスじゃない。

 だからシリアスが都市外でも利用出来る回線を経由してローカル通信をセクサロイドに届かせようとすると、契約してる回線でも違法アクセスになってしまう。

 都市内でそれが出来るのはアクセス制限が特に無い無料回線だからであり、正式なアクセスでネットワークを利用してる訳でも無く、ただローカル通信の経由ルートに使ってるだけだからだ。


「なので、スイートソードにお願いしてる機体には広いローカル通信領域を確保出来る機材を入れて、ある程度の活動領域を確保したい。その上で、シリアスも輸送機を動かそうと思う」

「シリアスもダング?」

「肯定。しかし微妙に否定もする。シリアスはパイロット用の身体を、この身体とは別に用意して、その上でラージリトルをもう一機購入してシリアスの乗機にしたいと考えてる。そしてラージリトルは既にダングとは別種のバイオマシンなので、正確には『ダング系』を予定してる、と言うのが正しいと判断する」

「細かい。細かいけどお嫁さん可愛いからもう何でも言いや」

「ゅんっ♪︎ じゃぁねまは、ねーたんとおそろい……?」

「いいなぁ……、ぼくもおそろいがいいなぁ……」

「確かに、シリアスとネマが同じラージリトルに乗る事になるが、ムニにはお勧めしない。何故ならラージリトルはラージリトルに格納出来ないので、移動中は基本的に居住区画に居れない。なのでラディアに甘えられる時間も減る」

「…………あ、そうか。シリアスだったらラージリトル動かす身体を、仮にパイロットシリアスとでも呼ぼうか? そのパイロットシリアスとメイドシリアスを同時に動かせば、ラージリトルを動かしながら居住区画にも居れるもんね。なるほど、格納出来なくても問題無いのか」

「肯定。ムニはシャム級のダングに乗って、長距離移動時にはラージリトルと成ったシャムの中に乗機を格納出来る状態が好ましいと判断する。でなければ、輸送任務等を受けたら基本的に、ずっとラディアに甘えられ無い」

「な、なるほど……。シリアスおねーちゃん、ぼくのためにそんなこともかんがえてくれたんだね……」


 おねーちゃん、ありがとぉ……。と言ってムニちゃんがシリアスにムギュっと抱き着いた。可愛い。尊い。

 うーん。思ったんだけど、僕って自分が女装するのは嫌だけど、人が女装してるのを見る分には、余計な事を特に何も考えないみたいだな。普通にムニちゃんの可愛さだけを脳が受け取ってる気がする。

 普通なら「しかし男だ」とか「だが男だ」とか、色々と頭を過ぎりそうなもんだけど、僕にとってのムニちゃんは、ただひたすら可愛い子だ。

 ふふんっ、砂蟲には可愛いが溢れてるな…………。我ながらなんて素晴らしい傭兵団を作ったのか。


「それと、シリアスはこんな物も見付けた」


 シリアスが端末を取り出して僕らに見せるホログラムには、バイオマシン用の機材と新開発されたシステムが載ってた。


遠隔猟機兵ハウンドシステム?」

「そう。コックピットを廃して専用の受信機を搭載し、遠隔でバイオマシンを動かす為のシステム。発想としてはシリアスが動かしてるこの身体と同じ様な物」


 バイオマシンの遠隔操作用のシステム。遠隔猟機兵ハウンドシステム。

 シリアスはコレを使って、更に戦力を増やそうとしてるらしい。


「具体的には、センサー系を鬼の様に強化したアンシークを二機、それとスイートソードにお願いする新型デザリアを二機。計四機をシリアス用ラージリトルに搭載して、ラディアが乗るシリアス本体の補助をする」

「四機も同時に操作出来る物なの?」

「普通のパイロットならば専用のコックピットと相応の訓練が必要。しかし、シリアスの演算能力ならば楽勝と言える。必要ならパイロット用のアンドロイドは操縦用マニピュレータを増設するなど、幾らでも対応可能。流石にローカル通信波で直接の介入操作はモデルビーストロックに引っ掛かる恐れが有るが、パイロット用の身体と乗機のコックピットを有線接続などして、間接的な演算操作は可能かも知れない。もしそれが成功したならば、シリアスは最早、一人で軍を組織出来る。…………なお、軍の活動範囲はローカル通信領域に制限される模様」


 最後だけ弱気になったシリアスが可愛い。

 ふむ。しかし、良いな?


「シリアス、採用」

「計画に纏わる決裁権が欲しい。流石にシリアスだけの資産では足が出る可能性が有る」

「一任する。と言うかシリアスは砂蟲の会計役員トップだから、むしろ決裁権持ってるのシリアスだよ」

「知らぬ間に役職持ちだった件について。しかし、任された」


 シリアスの機兵乗りライダー化。ふふふ、面白そうじゃん。

 しかもラージリトルがもう一機? 積載量ヤバいよ? めっちゃ稼げそう。


「じゃぁ、ムニちゃんに任せるつもりだったシャムの古着も、改修計画をシリアスのそれに合わせようか」

「了解」


 ラージリトルは大型上級として設計してるバカ容量を持った輸送機だ。その積載量は圧巻の一言。

 大型下級なら一機と中型中級を二機。

 中型上級なら四機。中型中級も変形ハンガーの仕様の関係で変わらず四機。ただ整備を無視して積むなら五機。

 中型下級なら六機。

 小型上級なら八機。

 小型中級なら十機だけど、変形ハンガーの仕様で全機同時に整備は無理。同時に整備出来るのは八機まで。

 そして小型下級ならば十二機も積める。

 圧巻。正に圧巻の積載量。マジどれだけデカい機体なんだと、今からワクワクしてくる。

 ならムニちゃんが乗る機体は、あまり積載量を気にしなくても良いかも知れない。少し計画を弄った方が良さそうだ。


「ふふふっ、はぁ……♪︎ 新しい機体楽しみだなぁ。早く完成しないかなぁ……」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る