第65話 機種名。
特に何事も無く、パーティは終わった。強いて言うならケータリングのお料理が美味しかった。
金持ちって凄いなぁ。毎日あんな美味い物を食べてるのか。
パーティで供されてた料理、あれ素材から調味料まで全部が全部、天然物だったよ。半端ないなぁ。
僕も今やシリアスと合わせて三○億も持ってるお金持ちだけど、傭兵の場合はあんな贅沢を毎日してたらすぐに枯渇する。
なにせ、戦う度に弾薬費やフードメタル代が掛かるんだ。それに装備更新のお金も要るし、何より単純に稼ぎが足りない。
仮に、毎日サーベイルで天然物のオスシを食べたとしよう。
一回の食事に掛かる平均が二万シギルで、僕とネマの二人で四万シギルだ。
それが毎食だったら一日六万シギル。一ヶ月続けたら約一八○万シギル。
しかも、これは天然の魚が比較的安いサーベイルだからこその値段だ。天然物を輸送で賄ってる都市なら、この二倍や三倍の値段は当たり前。
もっと言えば、ガーランドで毎食天然オスシを食べたなら、一食三○万。毎食で九○万。一ヶ月で二七○○万シギルも消費する。
シャムが買えるっちゅぅねん。
僕もこの調子で行けばそれくらいは捻出可能では有る。けど、明らかに弾薬費や燃料費、更にはシャムの居住区画維持費、装備の更新代、整備費、その他諸々。資金が湯水の如く消えて行くのは自明の理。
それに毎食食べるって事は、シャムに天然食材を積ま無ければ都市に日帰りする仕事しか受けれない。それじゃぁ稼ぎも伸びない。シャムに食材を積むとして、天然物を積むのとフードマテリアルカートリッジを積むのでは、積載量に雲泥の差が有る。
形がバラバラの天然食材と、半練り状に加工されたフードマテリアルを詰めたカートリッジでは、積載効率に多大な差が出るのは当たり前だ。四角い箱をギッチリ詰めるのと、バラバラの形状である天然食材をギッチリ詰めるのでは積み込める最大量が違う。
無駄に積載スペースを取ればその分詰める荷も減る。狩りでも輸送任務でも、稼ぎが減るのだ。
そうした色々を鑑みた結果、僕らはまだこのレベルの贅沢を続けるべきじゃないと分かる。
「稼ぎを増やすなら狩りの獲物をランクアップさせる訳だけど、そうすると余計にお金掛かるしねぇ」
仮に、デザリアやウェポンドッグ狩りを止めて、もっとお金になる高ランク警戒領域に行ってレオーネ辺りを狩るとする。
でも奴らは射撃武装が使えなくても、格闘兵器を起動出来なくても、普通に体当たりや噛み付き、引っ掻きだけでめちゃくちゃ強い。
当たり前だ。古代文明が残した主力戦闘用機体なんだから。雑兵用のウェポンドッグとは格が違う。ただの体当たりだけでも装甲の差、そしてパワーの差が凄まじいのだ。
その凄まじいパワーと装甲に対抗する為に大きな機体で戦う訳だけど、そしたらコッチもその分だけエネルギー消費が増える。武装も壊れて買い替えたり修理したり、強力な弾薬を使ったりするのだ。当然お金が掛かる。
「げんだいだと、みんなとりあえず、ぱるすへーきつかう」
「そだね。パルス砲が一番燃費効率が良いからね」
現代人が射撃武装を選ぶ時、『取り敢えずこれ』って軽さでパルス砲が選ばれ易い。何故ならランニングコストが安すく、威力が高いから。
弾薬費が一番安いのは炸薬兵器だけど、それは下限がそれってだけで、炸薬兵器は弾頭を特殊な物に変えて威力を変えられる。逆に言うと弾頭を変えた高価な弾薬を持ち出さないと満足な威力が出せないのだ。例外は大型砲。完全な質量兵器になっちゃえば弾頭の質もそこまで問われない。
それと比べるなら、パルス砲の弾薬は少し高いけど、基本的に砲の性能によって威力が変わるので楽なのだ。イニシャルコストを妥協しなければ、高価な弾薬を用意する必要が無い。
「でも、パルス砲も特殊弾薬が無いわけじゃ無いんだけどね」
「…………そなの?」
「肯定。パルス砲専用弾薬には、弾体に
当然、高い弾薬は購入率が低い。なので企業は低価格で高威力な弾薬の開発には躍起になる。
武器屋で見掛けた『中型砲だけど威力は大型並』って言うハイブリッドキャノンも、その類の製品だ。
炸薬弾にパルス加速を上乗せして威力を出すって発想は中々良いけど、でも結局それ、使う弾薬が特殊で通常弾より高価だし、だったら普通に大型の炸薬砲かパルス砲を使えば良くね? ってなる。
「だから新しいシリアスには、弾薬を切り替えられるパルス砲を乗せるつもりだよ」
「特殊弾と通常弾を切り替えられる中型パルス砲は素晴らしい」
僕達は今、契約駐機場に帰って来て設計図を引いてる。
仕事の早過ぎるスイートソードから、
あとサーズさんのアクティブソード、エルリアートに搭載されてたハーモニックイオンソードが超強かったので、それも機体に盛り込みたい。
「…………ねぇシリアス。やっぱりテールにシザーユニット付けると、砲身の長さ足りないよね? 砲身伸ばすとシザーユニットで挟めないし」
「思案。なら、シザーユニットのブレードに、電磁レールシステムを付けてみては?」
「………………あぁ! そっか、ブレードを閉じてる時にはレールガンユニットに成るのか! シリアス頭良い!」
「……えっへん」
シリアスのえっへん可愛い。
ただ高性能にすれば良いってもんじゃ無いから、僕達は設計で悩んでる。
強くあればそれで良い。そんな考えなら、誰も彼もが機体に大型炸薬砲でも詰めば良い。きっと馬鹿みたいな威力を出してくれる。
けど、何事にも費用対効果って物があって、一発八○○シギルの小型パルス弾薬で倒せるデザリアを相手に、大型炸薬砲なんてブチ込んだら大変だ。
大型炸薬砲の弾薬は通常弾でも一発で四○○○シギルはする。なので一撃で倒せるなら赤字じゃ無いけど、威力が高過ぎてデザリアの両核は確実に壊れる。つまり討伐費用が五倍近くになった上、稼ぎも減る。
そして射撃を外せば外す程に消費される資金が跳ね上がる。そんな狩りを続けてたら、その内首が回らなくなるのは当たり前。
だから、どれだけ強い機体に仕上げたとしても、程々に弱い武器も必要なのだ。マンイーターと同じ理由だね。
「小型砲は絶対に外せない」
「肯定。小型パルス砲は汎用性が高い」
「テールには大型並の威力を出せる中型パルス砲を乗せるから、火力は足りてるし」
「プラズマ砲も吟味するべき。なんだかんだ、エネルギー弾は有用」
「…………あと、贅沢な話だけどさ、通常の移動でも速度が欲しい」
「苦悩。やはり、タイヤが必要だろうか?」
「うーん…………。中型機を満足に転がせるタイヤとか、そんなの付けたら内部機構の設計やり直しだし…………」
「……………………にぃちゃ、ねぇちゃ、そとづけ、したら?」
……………………ハッ!?
「そ、そうだよ! 別にシリアスの中に全部納める必要無いじゃん! シリアスが乗れるバイオマシン用のビークル的な物を別途仕立てれば良いんだ!」
「目からウロコ。ネマは天才だろうか?」
「えへっ、えへへへぇぃ……♡」
シリアスが外部操作出来るシステムで、板にタイヤが着いてる感じのシンプルな外部ユニットを作れば良い。まさにその通りだ。
タイヤ付きのボードさえ有れば、新シリアスが必死にシャカシャカ走ったり、エネルギーを馬鹿食いするバーニア機動したりせずに済む。タイヤが転がるんだから、乗ったシリアスがちょっとブースターを吹かすだけで加速は充分。
シリアスのお腹辺りにボードと接続出来るジョイントでも作ってエネルギー流路を繋いであげれば、ボード本体もある程度の走力を得られるでしょ。
ボードにとってもシリアスが外付け
完璧か……? 完璧なのか……?
「ね、ネマ…………、天才…………?」
「ぃひっ♪︎ ほめて♡ ほめて♡」
僕はネマをワシャワシャした。
そうと決まれば早速設計だ。なに、大した事じゃない。
こんなの、ビークル系の設計をネットから引っ張って来て改造すれば良いんだ。内部の細かい技術や理論なんか知らなくても、シリアスの演算能力を借りてシュミレーションしながら組めば良い。
「…………これ、さ。走行ユニットの方にも武装を乗せたら便利じゃない?」
「賛成。外部ユニットなら大型炸薬砲を乗せても、大型弾薬の装弾スペースに悩まず済む」
「いやマジ天才。ネマの才能が恐ろしい…………」
「…………てゆーか、そーいうせいひん、さがせばありそう」
「………………………………言われてみれば」
探した。あった。
マジかよ! 設計する必要すら無かったじゃん!
「クソ! このメーカーに特注するだけで良いじゃん!」
「………………思案。別に、このまま設計しても良いのでは? 特注するにしても、ベースの設計を此方が用意してた方が、メーカーも助かるはず」
「あ、それもそっか」
と言う訳で設計を続ける。
基礎知識なんて欠片も無かったけど、最近は良く専門資料とかをネットで探して、勉強してたりする。中々楽しいんだコレが。
シリアスが提案した独自ブランドってのも、真面目に検討したい。
「この際、シャムもシリアスとの連携を前提に組もうか」
「ゅん♪︎ ねまも、しゃむも、にぃちゃのもの♡」
結局、設計遊びは深夜まで続いた。
「シャム、この設計通りだと大型上級機になっちゃうね」
「ゅんっ♪︎ だんぐも、しゃむも、つめる」
大型下級までなら一機と中型中級を二機。中型上級四機。中型下級なら六機、小型上級なら八機、小型下級なら十二機も積めるクソデカ輸送機が、設計アプリケーションの中に爆誕していた。
当然、大きくなった居住区画は別枠で、居住の快適さを維持した上でこのデカさなのだ。
「…………これ、幾らに成るよ」
「試算。スイートソードの支援無しで特注した場合、二○億程」
「マジか。中身スカスカの輸送機でコレなの? 大型戦闘機とか特注したら幾らに成るのか……」
「中型中級を予定してるシリアスの新ボディでさえ、支援無しならば六○億は堅い」
「マジかぁ」
スイートソードの方に相当額を負担して貰う予定だけど、妥協無しで中型戦闘機を特注するのって大変な事なんだなぁ。
「これでも、妥協無しで特注設計した割にはまだ安い方。ライキティ・ハムナプルの機体と比べたら良心的」
「あー、そだよね。うん。ライキティさんのタマは、爪の一本一本、牙の一本一本で億単位のハーモニックイオンソードだもん。内部の
「結論、ランク八は伊達じゃない。シリアス達もまだまだ途上」
て言うか、中級市民が月に三○○○シギルとかで生活してる世界で、一○○億近いお金を注ぎ込んでもまだ上が有るって、この世界はどんな経済状況なんだろう。考えると恐ろしくなるな。
「このお金は何処から湧いて、何処に消えるのか…………」
「
まぁ、そうだよね。
帝都とかは周辺に警戒領域とか無い平和な場所らしいし、でもそんな帝都でも湯水の如く
大型機がお金になるのは、やっぱり使用されてる
「ところでさ、古代文明の遺跡って今も無限にバイオマシンを作ってる訳じゃん?
「シリアスはあくまで一兵卒の機体であったので詳しくは知らないが、初期インストールされた知識に間違いが無ければ枯渇は有り得ない。
「…………つまり、無限増殖が可能?」
「肯定。勿論精製された
「じゃぁ、古代遺跡にはその、無限増殖が出来る
「恐らく。現代人が
なるほど。
元々、
何を食わせて無限増殖させてるか知らないけど、仮に目減りしない何かを、例えば大気を圧縮して生成したプラズマエネルギーとかを食わせて生成したなら、何時までも無限にバイオマシンを生産出来るのも頷けるし、そんな方法で作られた
要は、高密度エネルギーを金属として固めた物が
「また一つ賢くなっちゃったなぁ」
「シリアスは旦那様に賢くあって欲しいので、喜ばしい事」
「……むふっ、照れちゃう。あぁ早くシリアスと結婚したいよぉ〜」
「時間の問題。しかし、シリアスはその場合、嫁入りなのだろうか? それとも、ラディアがシリアスに婿入りするのだろうか?」
「…………ハッ!? どっちだろう!?」
「シリアスもスコーピアを名乗りたいので、出来れば嫁入りが良い」
隙あらばイチャイチャする。シリアスしゅきぃ……♡
「ところで、シリアスの新ボディには名前が決まってるのだろうか? 完全に新造ならば、機種名が未定のはず」
「…………おぉう、地味に重要な案件や」
「しゃむも、おなまえ、きめる?」
三人でイチャイチャしながら相談する。
シリアス専用の機体なんだから、シリアスの名前を使うかって提案したら、まだ途上の機体なので早いと言われた。これ以上無いってなったら、その時にシリアスの名前を冠した機種名にしようと決まる。
「まず、シャムの名前なんだけど、小さいネマが大型上級を動かすって事で、ラージリトルなんてどう?」
「………………良いのでは?」
「えへっ♡ ねま、にぃちゃがくれたおなまえなら、しゃーわせ♡」
シャムはあっさり決まった。
スイートソードがもし正式に製品化してロールアウトしても、ラージリトルで通して貰おう。
「シリアスは、そうだなぁ…………」
「ごしっく、ろりーたなこっくぴっとで、がいそーも、そうなる。にぃちゃも、たまにごすろりきてる。だから、ごしっくろりーた、ってなまえは?」
「……アリでは?」
「可愛い名前だね。サソリ型・ゴシックロリータ? …………アリかな? …………うん、アリかも」
名前からサソリ要素消えちゃったけど。シリアス要素が増えたから問題無し。
「ふむ。サソリ型初の戦闘機は、ゴシックロリータか」
「………………? 質問。ラディア、サソリ型初の戦闘機とは?」
「ふぇ? え、だってサソリ型に最初から戦闘機なバイオマシンって、存在しないでしょ?」
「否定。存在する」
「…………………………は?」
え、ごめん初耳。
いやマジで知らない。調べてもそんな情報出て来ない。
「……なるほど。たった今ネットワークも精査したところ、現代には知られて無いと理解した。祖国ハイマッド帝国には中型中級に分類出来るサソリ型戦闘機が、確かに存在した。データを端末に送る」
見た。
「何これカッコイイ…………」
「機種名は、確かニードリッパー。…………だった気がする」
「あー、そっか。シリアスって確か、瀕死だった時の記憶障害で、名称系のデータは結構飛んでるんだっけ……」
「申し訳ない。シリアスはシリアスの機種名すら覚えて居ない。現代で確認されてる機体も、ほぼ名称データが飛んで居る」
「むしろニードリッパーって名前が出て来ただけでも奇跡なのか」
しかしニードリッパーか。うーん、良い機体だなぁ…………。
「…………どうしてこの機体の情報が現代には無いんだろうね?」
「推測。単純に生産基地が全て朽ちた可能性」
「あぁ、そっか」
古代文明は戦争ばっかりしてたみたいだし、現代に至る前にニードリッパーの生産基地が全部綺麗に壊されて残らなかった可能性も有るのか。
ピンポイントでその機種だけ絶滅とかそんなん起こるかよ、って意見も有るかもだけど、現代まで残ったバイオマシンの種類を思えば、一機種くらいはそんなバイオマシンがあってもオカシク無いよね。
「もしくは、未開拓領域にだけ残っている可能性」
「…………なるほど」
未開拓領域。
要は現代人がまだ開拓出来てない古代の領域である。古代文明の遺産が山程残っているにも関わらず、古代遺跡から産出されて警戒領域を
俗に新世界と呼ばれ、新世界の開拓をメインに活動してる傭兵も少なく無い。
そこなら狩れるバイオマシンも高額で売れるし、民間系の古代遺跡を見つけて古代の遺物でも見付けられたなら、一攫千金のチャンスが有る。軍事系の遺跡だと何をどうやっても傭兵では攻略不可能だし、国が総力を上げて攻略しても最後は爆発しちゃうので何も得るものが無い。なので漁るなら民間系の遺跡なのだ。
そんな領域の奥、現代人がまだ手を伸ばせない場所にだけニードリッパーを産出する古代遺跡が残ってる可能性も有る。
「このニードリッパーのデータって、売れるんじゃない?」
そして、それならば、コレはまだ見ぬ新世界に居るかも知れない新型バイオマシンの情報であり、ならば高値で買う者も居る。
傭兵も獲物として狙うし、機体の情報が欲しい企業だって欲しい情報だろう。
「確かに。早速スイートソードに売り込んでみる」
「行動が早い。いや待って、今深夜じゃん。迷惑じゃない?」
「…………しかし、ノータイムで返答が返って来た」
マジかよ。こんな時間まで働いてるのかよスイートソードの社員さん。て言うか返信が早過ぎる。十秒も経ってなかったぞ。
スイートソードの社員は思考加速手術でも受けてるのか……?
「幾らで売れそう?」
「まだ上役に掛け合う段階なので断言は出来ないと返って来たが、七億は固いらしい」
「稼ぐねぇ〜……」
ある程度の設計が終わってしまった僕だけど、せっかく古代文明のレア機体のデータが此処に有るのだ。参考にして設計し直すべきだろう。
「ふぅ、今夜は寝れないなぁ」
「否定。寝るべき。寝室に行かないと、シリアスがラディアとハメハメ出来ない」
「……にぃちゃと、ねぇちゃ、そんなにまいにちえっちして、たいりょく、もつの?」
「妹に変な心配されてるッ……!」
「肯定。シリアスはエネルギーパックを交換すれば無限にハメハメ可能なセクサロイドボディ。ラディアもシリアスが投与する薬剤で絶倫に--」
「待て待て待て! ネマに何教えてるのッ!?」
「んふっ、もぅねま、きにしなーよ? なかよし、よいこと」
「シリアスも、既に情操教育に着いては諦めた」
「諦めないでッ!?」
ちくしょう、妹にお嫁さんとのハメハメ具合を把握されてる兄のなんと情けない事か…………!
「だって、ねまのぱぱおや、ままおや、もっとひどかった。おひるはさすがに、やめてほしかった」
「娘が起きてる昼も盛ってたのッ!? マジでネマの実父クソだなっ!? ネマの事を置物だとでも思ってたのッ!?」
「あ、それ、せーかい。ぱぱおや、ねまのこと、にんぎょーだと、おもてたよ。だからねま、しゃべっちゃ、だめだったの」
よし殺そう。やっぱり殺そう。
ネマの実父には地獄を見せてやろう。
「でも、もぅどーでもよい。いまは、にーたんと、ねーたんがいるもんっ♡」
「はい可愛い」
「愛らしい」
ふんっ、ネマに免じて許してやる。感謝しろよクソ親め。
僕みたいな勘違いなら良かったのに、ネマの親は聞く限り真性のクズだ。
むしろ捨てられて良かったんだ。僕とシリアスが幸せにするからな。僕らは兄妹になるべくして成ったんだ。出会うべくして出会ったんだ。
「よーしネマ、一緒にねんねしよーなー?」
「ゅんっ♪︎ だっこして、ねんね♪︎ そのあと、にーちゃとねーちゃ、またえっちするの?」
「肯定」
「するっ、けども……! 態々確認しなくて良いんだよッ!?」
「…………えへっ♪︎ しりたい、のっ♪︎ にーたんとねーたん、なかよし、ねま、うれしぃ♪︎」
ちくしょう怒れねぇ!
「それじゃ、まぁ、寝ますか。設計の続きは明日やろう。ロコロックルさんもそろそろ仕入れ終わるだろうし、その前にはスイートソードにデータ送りたいね」
「肯定。移動期間を使ってもらえれば効率的」
僕はアプリケーションを落として、ネマを抱っこしてシリアスと寝室に移動する。
ネマはもうポケットに常備した調整剤をパクッと飲み込み、準備万端だ。
「あ、シャワーとかどうする?」
「あしたの、あさっ」
「着替えは?」
「もぅ、にーたんのおへやに、おいてある」
「…………僕の部屋が知らぬ間に私物化されてる」
部屋に帰ったら、ネマが僕の部屋のクローゼットを開けて、いつの間にか仕込まれてたネマのパジャマを取り出して着替え始めた。
すぽーんと全部脱いで、もちゃもちゃも着替える。恥じらいなど無い。
「もう、脱ぎ散らかしちゃって」
「んへぇ、あしたかたづけるもんっ♪︎」
「それはメイドの仕事。シリアスの役目」
「んふぅ、ねぇちゃ、ありぁとぉー♡」
脱ぎ散らかしてパジャマに着替えたネマが、メイド服のシリアスに抱き着く。
その様子を見ながら、僕は適当に服を脱いで部屋に置いてあるカゴに入れ、インナー姿になる。
僕はネマと違ってパジャマ派じゃなく、インナーで寝る派だ。たまにシリアスから女装指示を受けて女の子の格好で寝るけども。
「んゅぅ、じゃぁねーたん、にーたん、ねまと、おはなしして?」
シリアスもいつの間にか、メイド服を脱いで可愛らしいフリフリのネグリジェになってる。超可愛い。めっちゃシコい。
全員寝る準備が整ったので、イチャイチャしながらベッドに入る。
この後三○分はネマが僕達に甘える時間で、その時間が過ぎると薬の効果で寝てしまう。そしたら、僕はシリアスと、…………気持ち良い事を楽しんでから寝る。
「あのね、あのね--……」
ネマが今日のパーティで見た戦いが凄かったと、ニコニコして語りながら三○分。思いっきり甘えて鼻歌フンフンさんになる。
そして、段々と睡眠導入効果が出てきて、お目々がトロトロのふにゃふにゃに成ったネマへ、僕とシリアスは頭を撫でながら「おやすみ」と言う。
「…………此処からは、大人の時間」
「ぼ、僕まだ子供だけど……」
「ラディアは大人の階段を登ったので、大人」
「あ、はい」
ネマが眠る横で、狭いベッドの上でお嫁さんに迫られる。
「や、優しくしてね…………?」
「後ろ向きに善処する」
「ま、前向きですら無いんだ……」
シリアスは、優しくしてくれなかった。善処ってなんだろう?
僕は今日も、シリアスににゃぁにゃぁ鳴かされてから眠りに着いた。
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