第66話 サーベイル・スパート。



「……ゆうべは、おたのしみでしたね?」

「もうそれを朝の挨拶にするの止めない?」

「えへっ、やだっ♪︎」


 拒否されてしまった。

 決闘代行をしてから更に三日。僕達は平和な日々を送ってる。

 シリアスの修理が終わって、試運転がてら狩りをしたり、スーテム家にお呼ばれして三人で夕食をご馳走に成ったり、逆に僕達がスーテム家をシャムへ招待して、夕食をご馳走したり。

 アヤカさんは体を手に入れたシリアスに大興奮して、魚を使ったサーベイルならではの料理を沢山教えてくれたし、イオさんや子供達はネマと僕のVRバトルをコックピットのサブシートで観戦して大興奮だったり、色々と楽しんだ。勿論僕のVRバトルは僕のアカウントで遊んだので、女装はしてない。

 ご馳走した夕食も、せっかくなので天然物のオスシを食べに行った。アヤカさんはペコペコと申し訳無さそうだったけど、イオさんはよっしゃぁぁ! ってガッツポーズをしてアヤカさんに叩かれてた。

 勿論、隙を見てはムク先生から釣りを教わったりもしてる。僕も今では一端の釣り人さ。サーベイルって言う環境も良いのに、先生まで良いんだから上達が早いのは当たり前だ。


 ロコロックルさんは後三日で仕入れを終えるので、そのつもりで居て欲しいと連絡して来た。

 なんでも、こっちで商材を売り捌いて得た資金を全部注ぎ込んで、天然物の魚介を中心に買い漁ってるらしい。

 現代では食材保全機箱エミュコンテナが有れば、鮮魚だろうと年単位の保存が可能だ。だからバンバン仕入れて持って帰るつもりなんだろう。


 そこで僕は、ロコロックルさんにムク君を紹介してみた。


 ムク君は現在、僕が渡した年パスを使って海上施設に出入りして、バンバン天然物の魚を釣っては売ってるらしい。めっちゃ稼いでてお父さんの威厳がボロボロだと、イオさんに愚痴られた。

 今ではもう、イオさんの稼ぎを超えてるらしい。

 自由臣民の傭兵ならまだしも、市民の子供では流石に売買契約とか出来ないので、その辺はイオさんやアヤカさんが間に入るらしいけど。

 それで、物の売却って言うのは基本的に、商材を転がす業者が間に挟まる。ムク君が売った魚を業者が末端価格で買い、小売や行商に卸値で売る。そう言う形が基本なのだ。勿論この『末端価格』は生産者側の末端であって小売の方じゃない。

 で、だから、フリーの生産者足るムク君と行商足るロコロックルさんが直接やり取りをすれば、中抜きされるマージン分だけお互いに得をする。

 本当はもっと煩雑な諸々があるけど、簡単に説明するとこうなる。

 で、ムク君を紹介したロコロックルさんは卸値より安く魚介が買えて、ムク君も末端価格よりも高く売れる。

 ウィンウィンなニコニコの売買だ。二人に大きく感謝されて、イオさんの愚痴が加速した。


「さぁて、今日は何する?」

「……なにすゅ? にーたんたち、さいきんずっとえっちしてるけど」

「言わないでッ!」

「…………ねま、にぃちゃたちのえっち、みてていーい?」

「ダメに決まってるじゃんッ!?」


 そんな現在、僕らはサーベイルを楽しむラストスパート中。

 最近、妹からの性的な弄りが激しい。いや僕が悪いんだけどね? 蜜月の関係にどハマりしてる僕が悪いんだけどね?

 でもネマには気を遣ってこっそりヤッてるんだよ? なのに気が付くとバレてるんだよなぁ…………。

 目覚めたベッドの上で、シーツにくるまりながら僕に甘えるネマが、「にーたんのえっちぃ♡」と弄ってくる。誰か助けてくれ。

 シリアスは今、多分リビングで朝食の準備中だし、助けてくれる人が誰も居ない。


「ねまも、にゃぁにゃぁしてるにーたん、みたいなぁ……♡」

「ダメダメ止めてっ。もぉー! お兄ちゃんイジめる悪い子は、もう朝食であーんって食べさせてあげないからねっ!」

「ぇぅ、それはやだぁ……。にーたん、ごめんね?」

「よし許した」


 僕はチョロい。

 上目遣いでうるうるしちゃうネマに、僕は即落ちするのだ。


「んで、今日は本当にどうしよっか?」

「んー? えっとねぇ、んーとねぇ……」


 シーツの中でうにうに悩むネマの頭をくしゃくしゃする。

 最近は、僕がくしゃくしゃにして、シリアスがブラシで整えて、また僕がくしゃくしゃにするループが完成してる。その度にネマは嬉しそうに鼻歌フンフンさんになる。

 シリアスに髪を弄られるのも、僕にくしゃくしゃにされるのも、どっちも大好きらしい。偶に僕とシリアスの間を無限に往復し始めるからちょっと笑う。偶に見るムービーサイトの『自分の尻尾を追う犬』みたいで微笑ましい。

 仕事をしてない時のネマは、正しく子供に成る。仕事中は冷徹に賊をぶっ殺せる優秀な砲手なのに、お仕事が終わると僕やシリアスに抱き着いて、頭をくしゃくしゃにされると「きゃぁ〜」って言ってきゃらきゃらと喜ぶのだ。

 凄いなぁ。年相応な時間と傭兵の意識を切り替えてる。これは僕も見習いたい。

 僕はまだ十歳の癖に、『子供で居る事』が下手だ。どうしても一々色々と考えてしまう。

 もっと頭パッパラパーに生きて良い歳なのに、物の利害や費用対効果を考えてしまう。


「ネマは凄いなぁ」

「んぇ、ねま、すごい? よいこ?」

「うん。ネマは凄く良い子だよ。ほら、ご褒美のなでなで〜」

「きゃぁ〜……♡」


 むぎゅぅっと抱き着かれる。

 そうして遊んでいると、部屋の自動ゲートオートシャードがプシュッと開いて、シリアスが入って来る。


「ラディア、ネマ、おはよう。朝食が出来たので、顔を洗って来ると良い」

「はーい」

「ゅんっ♪︎」


 この光景が、眩しい。

 僕が手に入れた、シリアスのお陰で転がり込んで来た、新しい日常。

 僕が居て、シリアスが居て、ネマが居る。

 シリアスと一緒にネマを可愛がって、甘々に可愛がって、それで偶に、シリアスと気持ち良い事をする。ある意味、女性を侍らした理想的な傭兵生活とも言えるかも知れない。

 まぁ女性を侍らして可愛がるって言うより、シリアスに可愛がられてる感じなんだけど。子供の僕じゃ、二十歳らしいシリアスお姉さんには流石に勝てませんでした。手玉だよ手玉。手玉に取られるってこう言う事。


「それとラディア、ムクニト・スーテムからメールが来ている」

「ほえ、ムク君?」

「なんでも、スクールが臨時休校らしく、休みになったから釣りに行こうと」

「臨時休校? 何があったの?」

「不明。ネットワークで調べた結果、何やらスクールの設備トラブルで大規模工事が入るらしい。しかし、詳しい事までは調べられなかった」


 ほむ。良く分からないけど、休みって言うなら別に良いか。うん、今日はムク君と釣りに行こう。


「シュナ君達は?」

「不明。流石に個々人の予定はネットワークで調べられない。都市管理システムにアクセスすれば可能。しかし、確実に捕まる」


 そりゃそうだ。そんな些細な理由で都市管理システムにハッキングとか兵士さんが集まって来ちゃうよね。

 まぁ良いや。行けば分かるでしょ。

 僕達は何時も通り、ネマを甘やかしながら朝食を食べた後、ネマの操縦するシャムでタワマンを目指す。

 スーテム家にお邪魔するなら駐機場に停めてからタワマンに移動するけど、ムク君を拾って移動するならタワマン前のマシンロードに路駐するだけで良い。

 今日も朝から甘えまくって鼻歌フンフンさんなネマと一緒に、コックピットでサーベイルの街並みを眺める。


「この景色もそろそろ見納めかぁ。まぁ、またすぐ来るんだけど」

「ゅん。てーとで、よーじおわらせたら、たまくる」

「そうそう。そう言うばネマ、今日の釣りは一緒に来るの?」

「いく。あのむくってこ、にぃたんにあまえすぎ。にぃたんはねまのにぃたんなのに」

「ふふ、まぁ、うん。ムク君も結構甘えん坊だよね。そこが可愛いんだけど」

「むぅ、にーたんは、むくじゃなくて、ねまをもっとあまやかして?」

「勿論。後でまた抱っこしてあげるね」

「ゅんっ♡」


 一瞬不機嫌になったけど、抱っこを約束するとすぐに鼻歌フンフンさんに戻るネマ。僕も人のこと言えないけど、ネマもチョロくて助かる。

 そんな感じで妹とイチャイチャしてると、あっという間にスーテム家が住むタワマン前に到着。

 大型機に片足を突っ込んでるシャムを路駐するのはかなり邪魔なので、なるべく早く退きたいところだ。

 僕は端末を取り出して、ムク君にコールする。……こう言う時って親にコールした方が良いのかな?


『はい、ムクです!』

「はいはい、ラディアだよ。タワーマンションの前に来たけど、ムク君まだ家の中?」

『あ、その、…………えと、あの、ともだちがきちゃってっ』

「あー、そこまで大人数じゃ無かったら構わないよ。どうする?」

『えと、おにーちゃん、ごめんなさい……。いっしょにいっても、いい?』

「気にしない気にしない。ムク君が呼んだ訳じゃ無いでしょ? それに、人が居るって連絡は受けてないけど、居ないとも言われてないからね」


 どうやら、僕に連絡した後から友達が尋ねて来ちゃったらしい。

 ムク君の性格的に、「別の人と遊ぶから帰って!」とか言えないだろう。これは仕方ない。


「それより、シュナ君達は? 兄弟は他に誰も居ないの?」

『あ、えと、メカねーちゃんがのこってるの。シュナにーちゃんと、ハナねーちゃんは、おともだちのところにあそびいっちゃった』

「そかそか、メカちゃんは居るんだね。全員で何人くらい?」

『んーと、ぼくとメカねーちゃんいれて、はちにん?』

「結構多いな」

『んと、さいきんぼく、はぶり? がいいから、ちょっと……』

「あー、理解した。天然魚介を売って稼いで羽振りが良いから、ちょっと人気者になっちゃったんだね」

『ご、ごめんなしゃい……』


 これも別に、ムク君の性格的に自分から「ほれほれ愚民共よ、平伏ひれふし給え。恵んでやろう貧乏人共め」とかやった訳じゃ無いだろう。沢山増えたお小遣いで、お小遣いの少ない子にもちょっと奢ってあげたりした程度なんだと思う。

 それでも子供ってのは現金な存在だから、ちょっと奢るだけで人気者に成れてしまうのだろう。僕にはそんな時代無かったから知らないけどさ。

 まぁそれに、責任が誰に有るかと問えば、僕にも有る。

 ロコロックルさんを紹介して稼ぎの効率を跳ね上げてしまったのは僕なのだ。そのせいで友達の集まりが良過ぎると言うなら、その責任の一端は僕に有ると言える。


「構わないよ。何時も通りタワマン前に機体停めてるから、準備出来たらおいでね。今日はシリアスじゃなくてシャムで来てるから」

『う、うん! おにーちゃん、いつもありがとっ! ぼく、おにーちゃんだいすきっ♡』


 夕食にお呼ばれした時はネマと一緒にシャムで来るけど、釣りに行く時はシリアスで来る事が多い。僕が釣りをしてる間、ネマはVRバトルで腕を磨いてるから。

 ちょっと覗いて見たんだけど、ネマのレートがもう三○○○超えて、バトルランクも二○を超えてた。もうそろそろ追い付かれそうなので、僕もその内、集中的にランク上げをする必要が有るだろう。

 なにせ、シリアスの中にはまだ僕のネットアイドル化計画が残ってるから。


「お、来たね」

「ゅ。うしろあける」


 暫く待つと、タワマンからワラワラと子供達が降りて来た。アヤカさんも見送りでご一緒。

 最初のウチは機体から降りてご挨拶って感じだったけど、最近では親戚のお付き合い的に遠慮が無くなって来たので、シャムの格納庫を開けとけば勝手に入って来る関係に成ってる。

 シャムのお尻がガパッと開いて、アヤカさんと子供達が中に入ったのを確認したら、ネマがコンソールを操作して後部ハッチを閉じる。それから居住区画に移動。

 シリアスは既にリビングでお茶の準備をしておもてなしの構えで、僕らもテーブルに座って皆が来るまで待つ。

 アヤカさんもムク君も常連なので、ガレージ区画から居住区画まで来るのは慣れたものだ。


「おにーちゃん!」

「おじゃま、しますぅ……」

「お邪魔するわね」

「アヤカさんもムク君もメカちゃんも、いらっしゃいませ。他の子も初めまして…………、じゃぁ無いね。遊び会で見た顔だ」

「おはよーござまーす!」

「しゅげぇぇえ! おうちきれー!」

「あー! あそびかいきてたおにーちゃんだ!」


 居住区画に入って来た子供達に群がられながら、まずスーテム家にご挨拶。

 他の子も、遊び会で見た子ばかりだ。


「あー、君たちは確か、一緒に釣りした子だよね」

「うんっ♪︎ イムナナ・クィルチカでーす!」

「キュリララ・クィルチカでーす!」

「「ふたごでーす♪︎」」

「ああ、どうりで似てると思ったんだ。似過ぎては居ないから、二卵生なのかな?」

「たぶんそう!」

「おかーさんがそーいってた!」


 ナナちゃんとララちゃんって言う、あの露骨にアピって来た子達だ。


「もし前回も名乗ってくれてたら、忘れててごめんね。僕、人の名前覚えるのが凄い苦手なんだ。この間なんか、とある商人さんに名乗られたけど、その数分後にはあの人名前なんだっけってなったし」

「なにそれうけるぅ〜♪︎」

「ていうか、なまえいったっけー?」

「ああ、名乗ってなかったら良いんだ。でもまた忘れるかも知れないから、その時は許してね?」

「「はーい!」」


 僕が子供達の相手をしてると、その間にシリアスはアヤカさんとキャッキャウフフと何やら話してる。もう親友かってレベルの仲良し具合だ。

 主婦とメイドで、何やら積もる話しも有るんだろう。僕は其方を放って置いて、ムク君に向き直る。

 これだけ顔を合わせてもまだ人見知りするメカちゃんはムク君の後ろに隠れて真っ赤に成ってるけど、何時もの事なので気にしない。

 ちなみにネマは、ナナララちゃんに可愛い可愛いと言われて鼻歌フンフンさんだ。本日の外部メンバーで女の子は、メカちゃんとナナちゃんララちゃんの三人だけだ。


「それで、この人数で釣りに行く? 全員で同じフロアに入ると、他の釣り人アングラーに迷惑かなって思うけど」

「あー、えと、そのぉ……」

「ん、どしたの?」


 ムク君は何やら言いずらそうにモジモジして、すると周りの子供達が代わりに口を開いた。


「なんかよーへーっぽいことみせて!」

「たたかって!」

「としのそとみたーい!」


 ふむ、なるほど?

 狩りが見たいのかな?


「うーん、ちょっと難しいかなぁ?」

「えー、なんでよいいじゃーん!」

「けちー!」

「あーいや、別に意地悪したい訳じゃないんだよ」


 単純に、許可が降りないと思う。

 市民は国の財産であり、それを無許可で危険な都市外に連れ出すのは違法なのだ。スキャンされて機体の中に都市外出許可未申請の市民が居たら、その時点でゲート前で止められる。

 都市外に出るのも、都市間で旅行するのも、行政に申請して許可を貰わなくちゃいけない。

 僕がスラム孤児だった時に好き放題外に出られたのは、『居ない事に成ってる』存在だからだ。居ないはずの存在だからゲートで止められる事もなく砂漠に行けた。

 しかもそれは入出が緩めのガーランドだから出来たことで、サーベイル並にガチガチのゲート管理がされてる都市だと、それでも難しかったと思われる。この都市、スラム無いし。


「だから、このまま皆を都市の外に連れてくと、僕が盗賊扱いされて捕まっちゃうんだよ。皆、僕が兵士さんに捕まって、酷目に遭っても良い? 死ぬ方が幸せなくらい酷い事されても良いかな?」


 僕がそう言えば、いくら幼いとは言っても法の元で暮らす市民なのだ。すぐに無理を言ってごめんなさいと謝ってくれる。


「皆が親御さんの許可を得てるなら、僕からギルドに申請してみても良いけど、申請してすぐに通る物でも無いし、許可が降りた時間によっては警戒領域まで行けないかも知れないよ?」

「んー、じゃぁパパにきいてみるね!」

「わたしも!」

「おれもきいてみるー!」


 やんわりと「だから止めよ? 釣りに行こ?」って言ったつもりなんだけど、通じなかったらしい。

 子供達はすぐポケットからそれぞれの端末を出して、親御さんにコールしてる。

 その内の何件かは僕も通話を代わって挨拶して、遊び会に居た傭兵で、今はランクも三に上がって、当然危険な事は極力排除するとお話しする。

 けど、何事にも万が一が有るし、その場合は諸共死ぬ可能性が有り、行政の許可が必要なくらいには危ない行動で違いない事も念押しする。

 一応、僕のパーソナルデータと機体の簡単なスペックも相手に送り、そうしてる内に何故か、全員の親から許可を貰えてしまった。


「…………え、マジで? 普通は断らない?」

「ふふ、それだけ信用されてるんじゃ無いかしら? 市民から見ると、これだけ立派なバイオマシンを持ってるランク三傭兵なんて、充分過ぎる戦力よ?」

「あ、アヤカさん。もうシリアスとのお喋りは良いんですか?」

「ええ。沢山喋ったもの。それと、もし外に行くなら、私もご一緒して良いかしら? 一応保護者だから」


 そういう事に成った。

 流石に日を跨ぐ事は無いだろうけど、どうせすぐに許可は降りないだろうと高を括って申請を出すと、何故か音速で申請が通った。


「マジでッ!? いやおかしいでしょ!?」

「どーしたのー?」

「いや、申請が速攻で通っちゃった……」


 不安そうなメカちゃんに聞かれて答えるも、僕はなんか変な事が起きてないか不安で、一応ギルドに連絡してみた。


『はい、此方は傭兵ギルドサーベイル支部総合課です』

「あの、今しがた市民の都市外出申請を出したランク三傭兵のラディアなんですけど、ビックリするくらいの速度で申請が通りまして、何か理由が有るのかと思って連絡したんですけど」

『承りました。少々お待ちいただけますか?』


 女の人がコールに出て対応してくれる。お見合い組の受付嬢かな? 交代要因で待機してる間はコール対応もしてるのか。

 そんな事を思いながら、子供達がシリアスの用意したお菓子を食べて思い思いにはしゃいでる様子を眺め、ギルドからの僕は沙汰を待つ。


『はい、確認出来ました。申請自体は何も問題無く通っておりますので、申請通りの人員を乗せていらっしゃるなら、すぐに都市外へ出られますよ』

「あの、普通はもっと時間掛かりますよね?」

『そうですね。慣例であればそうなります。ですが、ラディア様のデータにはランク五の傭兵様と代理決闘にて勝利された記録と、相当数の盗賊討伐記録が有ります。ロコロックル様からの輸送任務でガーランドとサーベイル間の輸送をたった四日で成し遂げた実績も御座いますし、機体のデータを見ても充分以上の性能を有してると判断出来ます。更には此度の申請に於いて、砂蟲団員のネムネマ様が乗る特注機体もご一緒ですよね? ラディア様だけでもランク三傭兵としてはかなりの信用度が蓄積されてますし、お二人が揃っての簡単な都市外出でしたら、ギルドも安全性に太鼓判をせます』

「そ、そんなにですか?」

『はい。私が職員である事を横に置いて発言させて頂けるならば、ランク詐欺も甚だしい優秀な傭兵の申請に対して、時間を掛けて精査する必要が無いと判断されたのだと思われます。平たく言えば、ラディア様の此度の申請に使う時間が無駄、と言う訳ですね。ギルドも忙しいので』

「…………あ、はい。そっすか」


 ぶっちゃけた事まで言われて、僕は言葉が尽きる。

 その後、二、三言やりとりして、僕は通話を切った。

 ついに、ギルドから公式にランク詐欺呼ばわりされてしまったぞ。


「どうだったかしら?」

「えと、平たく言うと、『わざわざ申請内容を吟味する程の事じゃ無いからさっさと行けや。お前なら余裕やろ』って言われました」

「あらあらぁ〜」


 ホントあらあらーだよ。まさかサーズさんとの戦いが此処に響いて来るとは……。


「えーと、とりあえず許可が出たから、…………行こっか?」


 まだ朝なので、盗賊が出るか出ないかのギリギリ警戒領域って所までなら余裕で日帰り出来る。

 最高速でぶっ飛ばせば更に余裕でもっと奥に行けるけど、流石にコックピットでシートベルトもセーフティロッドも使わず、リビングに人を乗せた状態の最高速機動は危険だ。出せても精々二○○キロくらいか。

 この人数じゃサブシートが余裕で足りないし、リビングでモニターを出せば外の様子も分かるだろうし、リビングで景色でも楽しんで貰って、ゆっくり行こうか。


「じゃぁネマ、移動よろしく。予定ポイントは送っとくから」

「りょーかい」

「しゅげぇ、なんなよーへーっぽい!」

「あはは、なにせ僕、傭兵だからさ。ネマだってランク二の立派な傭兵なんだよ?」

「しゅげぇえええ!」


 おかしいな。シュナ君は居ないはずなのに、至る所からしゅげぇえが聞こえる。しゅげぇえはやはり感染するのか…………。

 男の子達にしゅげぇしゅげぇとはやし立てられるネマはさっさとコックピットに行き、その後を着いて行く子もチラホラ。

 僕は一応、操縦中のパイロットにイタズラする悪い子はマシンロードの真ん中に放り出すからねと言い置いて、おもてなしもそこそこに狩りの準備をする。

 完全に私服だったけど、これから子守りしながらとは言えお仕事なので、バトルジャケットに着替えてライフルも準備する。

 何時もはコックピットに置きっぱなしのライフルだけど、今日は整備する為に偶々部屋に持ち込んでたのだ。


「しゅげぇぇ! じゅうだー! らいふるかっけぇー!」

「ほんものぉー!?」

「勿論、本物だよ。だから危ないし、触っちゃダメだよ? 良い子にしてないと、連れてってあげないからね?」

「はーい!」

「らいふるかっけぇ……」

「おれもよーへーになりたいなぁ……」

「傭兵に成りたいなら、勉強頑張らないとだよ。バイオマシンに乗るための免許って、結構難しいからね」


 ネマだって毎日毎日すっごく勉強して、遊びに行くのも我慢して勉強して、それでやっと最近戦闘機免許を取ったと教えると、子供達は「おれもべんきょーするぅー!」と騒ぐ。

 それからコックピットとリビングを忙しなく行ったり来たりする子供達を見ながら、手早くライフルの準備を終わらせる。

 シリアスにはマンイーターを装備したけど、万が一は何時だって有り得る。携行武装の準備を怠る傭兵は傭兵にあらず。僕はカルボルトさんにそう教わったし、朧気な記憶に残る父も、似た様な事を言ってた気がする。

 パチパチとマガジンにパルス弾を詰め込み、予備マガジンをジャケットの内側に左右二本ずつ、一本をライフルに挿す。

 終わったらライフルをテーブルに置いて、常に腰に提げてるおじさんと同じ型のハンドガンも出して確認。

 薬莢が飛び出ないパルスガンなのにスライドまでしっかり再現された炸薬系ハンドガンのレプリカモデルのスライドをガシャッと開けて、チャンバーを確認。弾は入って無い。何も無い時は安全の為にチャンバーが空に成ってるのが普通だ。

 そのままマガジンを抜いて装弾数を数えて、問題が無いのを確認したらグリップにマガジンを挿してスライドを戻す。これでチャンバーにパルス弾が装填されたので、何時でも撃てる状態だ。

 リビングで撃つ訳にもいかないので、セーフティを掛けてこれもテーブルに置く。最後に腰のホルスターに挿してる予備マガジンも出して、残弾確認。

 旧式のやっすい骨董品だとマガジンがバネ式なので弾の入れっぱなしはダメなんだけど、現行の携行武装に使われるマガジンは超小型モーターによるリフト式なので、弾を入れっぱなしでもバネがヘタって給弾不良を起こすなんて心配は要らない。


「ふむ、よし。まぁ使わないんだけど」

「……そう言う、剣呑な道具を弄ってる姿を見ると、本当に傭兵なのねぇって、思っちゃうわね」

「あはは、まぁ本当に傭兵なので」

「何時もの可愛いラディア君を見てると、こんなに大変な思いをしながらお金を稼いでるって思えないのよね。何時もウチの人が無理を言ってごめんなさいね?」

「いえいえ。僕、イオさんみたいにサッパリした人好きですよ」

「あら、でもそれは本人には言わないでちょうだいね? 絶対に調子乗るもの」


 子供達が銃を見てしゅげぇしゅげぇと騒ぐ中、絶対に触らないでねと言ってもう一回部屋に戻り、予備弾薬が詰まった小型コンテナを持ってくる。

 普通、こんなのは倉庫にでも入れとくんだけどね。この居住区画、下手にガレージが有るから武装を入れとく倉庫とか無いんや。ガレージに置いとけばそれで済むから…………。


「さて、これで僕の準備は終わりっと。…………流石に今日は小さなお客様も居るんで、人死とかはなるべく見せない様にしますけど、有事の時は容赦しないんで、そこだけは覚悟して下さい」

「それは仕方ないわよ。酷いシーンが見たくないなら、都市に居れば良いんだもの。無理に着いてきたのに、文句を言うのはお門違いよ」


 今日はなるべく盗賊を狩らない方針だけど、襲って来たら返り討ちにせざるを得ない。

 警戒領域の浅い場所、サーベイルに近い所なら盗賊の出没率も減るけど、絶対じゃない。馬鹿は馬鹿だから馬鹿と呼ばれるのであって、しっかりリスクマネジメントが出来るならそもそも盗賊なんてやってない。

 だから都市近辺でも居る奴は居るし、襲って来る奴は襲って来る。流石に兵士が速攻で来るような激近には居ないけど、警戒領域のちょっと奥くらいなら偶に居る。


「と、言う訳で。嫌なシーンを見たくない子は、自分で目を瞑ってね?」


 一通りの準備を終えた所で、シャムがサーベイルのゲートを潜って外に出た。


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