第64話 殴り合い。
『警告。エネルギー残量が危険域』
「それは向こうさんも同じでしょ!」
サーズさんと互いにカウントして始まったマシンバトル。
もう既に、始まってから一時間近く経っている。
お互い、初手は吶喊だった。
「流石に格闘機乗りは反応が早いッッ…………!」
『現役のベテランに幼くして対応し切ってるラディアも、大差ない傑物』
「お褒め頂きありがとうッ!」
四本のブレードユニットをシザーアームとコンシールドブラスターのフレキシブルアームとパルスシールドで捌いて行く。
アクティブソードのブレードユニットは全てが格闘用のパワーアームによって振るわれるが、それでもフレキシブルアームとシザーアームを比べたらパワー総量は此方に軍配が上がる。
けど、シリアスのコンシールドブラスターは接触攻撃を前提として無いので、向こうの格闘用のアームにはパワー負けしてる。
つまり、装備の総合力で言うとイーブンなのだ。
「デフォルトのブレードユニットだったらもう少し楽だったのに……!」
振るわれる四本のブレードは、明らかに強化パーツだった。
本来のアクティブソードならインパクトソードって言うユニットで、接触時にインパクトを起こして威力を底上げする実体剣である。
けどサーズさんの機体、エルリアートって名前らしいアクティブソードに装備されたブレードユニットは、多分ハーモニックイオンソードだと思う。
これは単分子超振動刃を更に溶断イオンコートしてるガチガチの強装備で、ゼロカスタムのダング装甲くらいならスパッと切れちゃうヤバい奴。
具体的に言うとライキティさんのタマも爪と牙がコレだ。先日『敵機をバラバラに』って言ってたのはこの装備で斬り裂いたのだ。壮行会で装備について聞いたから間違いない。
つまり、ライキティさんレベルの装備って事だ。それだけでどのくらいヤバい武器なのかは知れようものだ。
「攻めきれないッ!」
振るわれるブレードをグラディエラで弾いて、ゼロ距離でパルス弾を叩き込む。けど、読まれてた射線はブレードで弾かれ、返す刃をコンシールドブラスターのパルスシールドで弾く。もうずっと、一時間もこんな事を続けてる。
殴り合って、撃ち合って、弾き合って、捌き合う。
向こうはブレードユニットが四本。コッチもシザーアームとコンシールドブラスターのフレキシブルアームを合わせて四本。
肉薄する時に胸の四連装砲は集中射撃で潰したけど、代わりにコッチもテールウェポンをブレードユニット付属のパルス砲で潰されてる。
『少年! ここまでヤルとは予想外だぞッ! 何がランク三だ! ランク詐欺も甚だしいぞ!』
「あはははははっ! 楽しいですねぇッ!」
ローカル通信が入って、テンションが上がる。
機体出力で負けてるコッチは、死ぬ気で足掻くしかないのだ。
高性能武装で斬り刻まれない為に、必死で格闘兵器で弾いて行く。ブレードユニットが強力過ぎるから、打ち合ってるシザーアームがどんどんボロボロになって行く。
「シリアスッッ……!」
『任された』
出力で勝てない格闘機に、なんで格闘戦を挑んで形になってるのか。その理由は僕が
本来、バイオマシンの機体操縦は
脚部に何割、アームに何割、武装に何割、そうやってエネルギーを大まかに配分して、姿勢制御プログラムを走らせて動かしてる。
けど、それは脚の一本一本にまで配分を調整してる訳じゃない。脚部なら脚部、武装なら武装って大まかな括りで効率的な運用をしてるだけなのだ。
それを僕達は、全て手動で再入力して戦ってる。
僕が機体操作を担当し、シリアスが機体のパワーゲインとスロットルを担当して、無駄を削ぎ落として攻撃に回せるパワーを普通よりも多く確保する。たったそれだけの事で、この戦闘を無理やり維持してる。僕とシリアスの動きがズレた瞬間、斬り殺される。
『警告。アームの損壊が危険域。
「くそぅ! 向こうにはまだダメージらしいダメージも無いのに……!」
そも、パワーゲインとスロットルとは何か。
これはまずパワーゲインで各部に割り振るエネルギー量を決定する。そしてスロットルとは、その割り振られたエネルギー量を基準として出力を調整する機能だ。
エルリアートは中型中級。シリアスとは体格差も有り、攻撃の間合いはブレードユニットの方が若干有利。なのでシリアスの攻撃はブレードユニットを超えて本体に届く事が無い。
なのに、コッチは本体パーツであるシザーアームで戦ってる。武装としての格が違うから、打ち合う度にシリアスのアームが徐々に壊れてく。
「シリアス、合わせて! そろそろ仕掛けるッ!」
『了解。データも溜まった。演算精度を引き上げる』
コッチの被害を最小限に留めて、一時間も打ち合ったんだ。シリアスも既に、サーズさんの行動ルーチンを把握してる。
シリアスの
あとは、僕の腕次第か。
もうエネルギーが、シリアスのお腹に溜まってる
「今ァアっッ……!」
四条の斬撃を、予測線頼りに潜り抜ける。
ブレードユニットが強過ぎるので、アレをグラディエラの格闘用部位かパルスシールド以外で受けるとスパッと斬られる。それこそトーフをナイフで斬るが如くだ。
しかし、一時間もデータを蓄積したシリアスの超高精度演算から導き出した斬撃予測線を見れる僕には、もうこっから先ブレードユニットがシリアスに掠る事さえさせてあげられない。
ブレードユニットの間合いの、内の内。踏み込み、シザーアームでブレードユニットの一本を鷲掴み。
「パイルッ!!」
此処まで温存したパイルバンカーが火を拭いて、ブレードユニットを一本吹き飛ばす。
ブレードその物が硬いなら、アームを壊せば良いのさ。
突然行動の精度が上がった僕達に、サーズさんは一瞬対応が遅れてしまった。その隙を突いてまんまとブレードを一本潰してやった。
て言うか、ハーモニックイオンソードが強過ぎる。スイートソードに依頼するシリアスの新ボディにはアレも使おう。後で設計図引き直さないと。
『逆襲。此処からラディアとシリアスの絆を見せ付ける』
「おうよ! 行っくぞぉぉぉおッッ……!」
ブレードが一本脱落したエルリアートは、間合いの内に入った僕らを引き剥がそうとバックステップで距離を取る。追い縋りたいが、獣型の瞬発力にはサソリ型じゃ勝てない。そもそものパワーも違うし。
これがクモ型とかなら瞬発力も有るから、一瞬なら追い付けるんだけどね。
『一本ヤやれるとは……!』
「あはっ☆ コッチだって勝つつもりでヤッてるんですよ!」
またローカル通信が入り、僕も声高に返す。相手が格上だからって、最初から負けるつもりで代行依頼なんて受けてない。
さぁ、手数に差が出来たぞ。コッチは四本生きてるし、エルリアートは一本潰れて三本に。
大きな差だ。手数が被ってたからこそ、機体性能差で負けてるコッチはジリ貧に追い込まれてたんだ。でも手数で勝てるなら、押し込める……!
此処が勝負所!
「覚悟ぉぉおッッ!」
*
引き分けました。
ちくしょう、エネルギー切れで攻めきれなかった。
「いやぁ、良くやってくれたよラディア君。最高だ!」
「どうも。いや、僕は納得して無いんですけどね」
この余興は、勝敗に仕入れの権利が賭けられてた。
なので引き分けだと困るんだけど、会場に戻るとサーズさんが負けを宣言した。
曰く、ランク五の良い大人が、十歳の子供に此処まで追い縋られての引き分け。機体性能の差もあってコレでは、誰の目から見ても負けだろう。
そう言って敗北宣言。当然向こうのナントカって商人はブチ切れたけど、手加減して態と負けたならまだしも、この手の代理決闘は勝敗の結果で信用が落ちる事は無い。もちろん勝率って言う形で数値には出るから、仕事に多少の影響は出るけど。
しかし、会場に居る全員が尋常の勝負だったと認める形での、自ら潔く引くその姿勢はむしろ好ましく思われていた。
ナントカさんはキレにキレて傭兵ギルドに抗議するとか言ってるけど、サーズさんはそんなの何処吹く風。なんなら会場に居る豪商達に自分をさり気なく売り込んでた。
僕も色んな商人に話しかけられた。中でもご機嫌だったのは、ロコロックルさんから個人的にデザリアを買ってた商人さん。
なんでも彼は、まだ若い子供へプレゼントする為に、サーベイルでは珍しいデザリアを買ったのだと言う。
「まさかまさか! 作業的な実用性が高い機体で、将来は仕事の手伝いでもして貰おうかと思っていたのに! こんなにも強い機体だとは思わなかったよ!」
デザリアはシザーアームをデフォルトで持ってるので、荷物の積み込みやレプリケーターが使えない建築現場など、様々な場所で活躍出来る。
商人さんはそれを見込んで子供にプレゼントしたみたいだけど、まさか戦闘でも此処までの結果を出せるとは思って無かったと、良い買い物をしたとはしゃいでる。
そりゃぁねぇ。億単位はしそうなアクティブソードの、更に億単位でカスタムしてそうなガチ機体を相手に、引き分けたもんねぇ。
たった三○○万シギルでそんな、つよつよバイオマシンの素体を手に入れたって言うなら、そりゃ良い買い物だったろうさ。
ちなみに、騒ぎになると面倒なので、シリアスがオリジンだと言う事は言ってない。隠して無いから調べれば分かるだろうけど、今は騒がれたくない。
「なぁキミィ! ロコロックル君! ウチも本格的に
「勿論ですとも! よろしくお願いします!」
なんか目の前で商談が音速で成立してた。
ついでにシリアスも何か売り込んでた。
「…………シリアス、何売ったの?」
「ラディアのパイロットデータから抽出したデザリア操縦用のVR教材ソフトを作ったので、それを売ってみた」
まだ余興の熱が冷めやらない会場で、僕に話しかけたそうにしてる商人さん達に断りを入れて少し離れた。僕もお腹ペコペコなので、ケータリングの料理を食べたいのだ。
その折にシリアスへ売り込んだ物を聞いてみたら、そんな答えが帰って来た。
「……なにそれ。そんなの作ってたの?」
「肯定。なかなか良いソフトウェアが開発出来たと自負している。アレで訓練すれば、劣化ラディアを量産できる試算」
シリアスに任せてたネマの頭をくしゃくしゃと撫でながら聞く。
なんでも、僕がシリアスと共に活躍すればこの先
僕の操縦記録は勿論、基礎を教える為に僕がアルバリオ家のみんなにやった教導のデータも使ったから、この先ソフトが売れる度にロイヤリティが僕にも入るそうだ。
知らぬ間にシリアスが商売までしてる。
「…………そりゃさぁ、こんな有能な存在が当たり前に居た古代文明って、そりゃ現代から見たらオーバーテクノロジーだよねって言う」
「肯定。しかし、シリアスは現代の技術利用の方が有意義に感じて居る」
適当に美味しい料理をモグモグしながら、パーティ会場を眺める。
至る所で良い服を来てるオジサマ達がにこやかに会話をしていて、あの笑顔の裏で何を思って、そしてその場でどれだけのシギルが動いてるのか、想像するとちょっと寒気がする。
「……いっその事、僕らも何か大きな商売しても面白いかもね」
「賛成。スイートソードと組んで独自ブランドのバイオマシンを出してみるとか、どうだろうか?」
「なにそれ。僕が設計して売り出すの?」
「肯定。手始めに小型中級のデザートシザーリアを完全改修した機体を売り出してみる。開発テスターにはタクト達が居るので、データのフィードバックもコンスタントに回収、応用が可能」
…………ふむ。新しいデザリアの開発か。面白そうだなぁ。
鹵獲したデザリアをベースに、規格を変えず、安価で手に入って値段以上の戦果を出せるサソリ型バイオマシンの開発と販売か。
「…………そだね。ガーランドに帰っても値崩れの影響は残ってるだろうし、だったらデザリアを新しい存在に作り替えて売っちゃえば値崩れの影響から僕達だけ抜け出せるね」
しかし、安く仕上がるかなぁ?
デザリアに積まれてる
流石に四基も
デザリアがバックパック背負って、バックパックから砲門が飛び出してる様な形だね。
それから、スイートソードでデザリア用の戦闘装甲も量産してもらって、テールとアームもウェポンパーツに換装すれば、かなり高性能なデザリアに仕上がるよね。
一機辺り四○○万くらいにしたいな。
「僕達がまたデザリアを鹵獲して、それを素体にすれば行けるよね?」
「スイートソードとの交渉次第。しかし、新型
あー、そっか。
デザリアの鹵獲機売却は一○○万前後だけど、売れる様に仕立てて売れば二五○万だもんね。今は値崩れ中だけど、終わった後に利益が逆転すると損をする。
「ガーランドに帰ったらシリアスが脱ぐ予定の体も、その機体に仕立てて見る?」
「良案。タクトからデータも取れるので、シリアスはその計画を推奨する」
ふむ。もう帰りたくなってる僕が居る。
料理は食べたし、仕事はしたし、もう帰って良いかな? 帰ってシャムのリビングで設計図引きたい。
こう、ね。地味にね。僕、機体設計が楽しいんだよね。趣味って言って良いかも知れない。
と言うか、狩りにも行きたい。お金稼ぎたい。シギルが増えてく口座データ見るのも楽しいんだ。
「どうしよう。もう帰りたい」
「…………かえる? ねま、きいてこよっか?」
「いや、どうしようね。決闘代行だったけど、護衛の意味合いも有るから帰っちゃダメな気がするし」
「……むぅ。かえって、いちゃいちゃしたい」
「それな」
まぁ、そもそもロコロックルさんから受けた依頼がそもそも趣味みたいな物だしね。普通に狩りしてた方が稼げるのに、態々依頼受けたんだから。
サーベイルでオスシ食べたかったのが一番大きいけど、おじさんの紹介だったし、ロコロックルさんもかなり困ってたみたいだし。
正直、これなら依頼を受けずに旅行で来た方が楽しかったかも知れない。今更言っても仕方ない事だけど。
「次にサーベイルまで来る時は、もっとルート選択をブラッシュアップして、短時間で往復出来るようにしたいね」
「……たくと、つれてくる?」
「うん、それも良い。シャムを改修してまた大きくしたら、グループの子をみんな連れて来ちゃおうか」
流石にタクトグループの機体を全部運べはしないので、ダングのレンタルとかも視野に入れようかな。いや、それともまた買っちゃう?
ノーマルダングなら一○○○万くらいだし、それともシャム仕様の奴にする?
流石にオプション増し増しで二七○○万のシャムとか買ってられないけど、
そのくらい落とせば、一九○○万くらいに成らないかな? 行っても二○○○万だよね。
「…………どうしようかなぁ」
…………ああ、そうか。別にダングである必要も無いのか。と言うかバイオマシンである必要も無い。
デザリアに牽引させる巨大なカーゴコンテナを用意すれば良いんだ。
普通は牽引する機体のパワーとか色々問題があって、カーゴを牽引するのは専らダングの仕事なんだけども。デザリアだって二機とか四機も使えば、コンテナの牽引くらい出来るでしょ。
「四機牽きで、六から八機は格納出来るガレージ付き…………。居住区画も付けて、そうすれば…………」
「にぃちゃ、どしたの?」
「確認。井戸ポンか?」
「井戸ポンちゃうわっ。ちょっと帰って設計図引きたいだけだよ」
「そもそも、まだシリアスは機体の修復を終えてないので、帰らないで欲しい」
「あ、そっか」
現在、シリアスはこの階層のハンガーに呼び付けたシャムの中で急速修理中だ。何せグラディエラはボロボロだし、グラムスターも吹っ飛ばされたのだ。
パルスシールド装置もかなり負荷を掛けたし、あらゆる意味で今のシリアスはボロボロなのだ。
勿論、此処はそう言う場所なので、申請すれば修理もしてくれる。けど、僕らはおじさん以外の技師を利用したくないので、シリアスはアリーナビルから資材だけ受け取って、後はシャムの中で事故修理してる。
「訂正。どうせ修理はシャムの中で行うので、帰っても良い。しかし、都市内の治安が良いとは言え、何があるか分からない。シリアスが今回負った負傷はそこそこの被害なので、有事の際はその分危険度が増す。どうせなら、よりセキュリティの高いアリーナビル内にてある程度の修理を終わらせたい」
「……流石に都市内でバイオマシンに乗ってドンパチが有るとは思えないけど、備えられる事に備えないのもダメだね。うん、分かった。まだ暫くは会場に居るよ。…………怪我させてごめんね?」
「今回は相手が強かっただけ。むしろ、この戦力差で引き分けた事をラディアは誇るべき。スイートソードの協力で機体改修後だったなら、間違い無く圧勝していた」
「それは流石にどうだろうか?」
とにかく、僕達はパーティが終わるまでは会場に居る事となった。
とは言っても、やる事無いんだけどねぇ。
うん。仕方ないので、ネマと一緒にケータリングの料理でもモグモグしますか。食べるの止めると商人さんに囲まれそうだし。
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