第42話 ディザスター。



『囲めぇぇぇえッッ……! これ以上ヤツの好きにさせるなぁぁ!』


 怒号が響く戦場の、なんと甘美な事か。

 久しぶりに僕のちんちんがおっきしそうだ。きっと僕の状態をスキャニング等で把握してるシリアスにもバレてしまう。


「あはっ☆ 包囲は平均で成さないと! 薄いとこを食い破っちゃうぞ!?」

『ナンなんだよコイツぅぅッ!?』


 僕の撮影会でシリアスとシャラさんが盛り上がった後、ポロンちゃんが着替えて来たので僕らはスクールに向けて出発した。

 ポポナさんのアンシーク『フレアノート』と、セルバスさんのデザリア『ルビット』をシャムに積み込み、教えられた座標へと安全操縦で。

 操縦がネマだと知ったポロンちゃん含むお嬢様四人は驚いて、操縦中に声を掛けない約束で皆がコックピットのサブシートへ。人数的にはピッタリだ。

 その間は僕が居住区でポポナさんとセルバスをおもてなし。

 良い値段のフードプリンターはお茶とお茶菓子の準備も完璧だ。

 そうして到着したスクールは、まぁデカい。アルバリオ邸何個分? ってくらいデカくて、この現代で土地が足りないのは、こんな土地の使い方をしてる上流階級が居るからじゃね? ってちょっと思った。

 それで、僕を含む一行の入場許可はポポナさんが予め取ってたらしくて、スイスイと入場。

 スクールに設けられた大きな駐機場へシャムを停めたら、僕らは軽くスクールの見学をする。最初は親のスクール視察って名目らしい。

 その後、一通り回ったら夏季休暇中でもバッチリ活動してたライドクラブにお邪魔した。

 大きな部屋に大量のライドボックスが置いてある様は壮観だった。いくら機体より安くても、陽電子脳ブレインボックスだけでも結構するのに。この部屋にあるライドボックス全部合わせたら幾らになるのか。

 流石にシャムの購入額には及ばないかも知れないけど、それでも近しい額には届くかも。それをクラブって言う、言わば趣味の集いみたいな活動でやっちゃうのかと、僕は戦慄した。

 上流階級やべぇよね。あんまり逆らわんとこ。

 僕がそうやって内心でビビってると、なんかポポナさんとクラブの顧問がバチバチやり合ってた。内容は良く分からない。けど最終的に、何故か僕がクラブのエースとかをブチのめす事になった。


 最初はクラブのトップエースが登場。ランク二って言う僕のランクを鼻で笑い、自分が傭兵だったらもっと上に行けると豪語してた。


 三分くらいで殺した。勿論VRバトルでね?


 トップエースが相手に成らなかったので、次は人数を増やしてみた。

 最初は三人。次に五人。八人。今は一○人を相手取って無双してる。


「あっはぁー☆ 超たのしぃぃぃいいいいいッッッ!」

『化け物かよコイツぅぅう!』


 酷い事を言う。僕は善良なランク二の傭兵だぞ。

 やり込んでるだけあって、皆結構強い。装備も良い。けど、足りない。

 今日の為にVRバトルの新アカウントは作ってあり、僕のアカウントではディアラ用アカウントと別枠なのでシリアスが実機そのまま扱い。だから今日の為にちょっとだけ、バトリーを買って足周りをバーニアに替えておいた。


「温いよ雑いよ引けてるよ! もっと命を賭けようよ!」

『なんで当たらない!? プラズマならまだしも、なんでパルス砲が避けられるっ!?』


 そりゃシリアスが砲撃予測線出してるもん。

 包囲されて砲撃され、シリアスの演算を頼りにソレを躱す。

 バーニア機動に移行すると複雑化する機動操縦系を楽しみ、カスタムコックピットの十二個もあるフットレバーで繊細かつ精密なタップダンスを踊る。


『なんでだよっ!? バーニアなんてネタ装備でなんでそんな動けるんだよッ!?』

「え、バーニアってネタ装備なの? こんなに使い易いのに……」


 バーニアによって機体が浮いて進み、それを背面後部ブースターを吹かして加速。激化する機動性を六本ある脚に内蔵されたスラスターに強弱を付けて制御する。

 地面を滑るように、回頭しながら走り抜けるシリアスの機動は、相手から見ると不気味だろう。僕の頭も情報処理がギリギリでパチパチするし。

 時には畳んでる脚を伸ばしてブレーキ代わりに無理矢理減速、砲火を避けたらデコピンの要領でブレーキを外して再加速。


『あ、脚を狙え! あの機動の肝は脚のスラスターだ!』

「当たり前…………、あ、え? 普通スラスターってバーニアと一緒に使わないの?」

『エネルギー容量足りねぇよ!』

「プラズマ兵器に頼り過ぎなんじゃない? パルス砲もちゃんと使おうよ」

『って言いながらプラズマ砲撃って来んじゃねぇぇぇええッッ!?』

「じゃぁシザーアームで」

『イギッ--……!?』


 三機撃墜。

 左右三基ずつのスラスターに強弱を付け、必要なら脚を降ろしてブレーキに使い、ゆるふわっとした機動からキレッキレのジグザグ走行を使い分け、戦場をヌルヌルと動き続けて砲弾と爪を叩き込む。

 スラスター制御がマジでヤバい。頭がパチパチする。脚六本それぞれへのエネルギー供給をパワーゲインで割り振って、更にスロットルで出力を弄り続けて複雑な機動を何とか維持する。


「でも三機減ったなら…………」

『やべぇ! 来るぞ避けろっ!?』

「遅いっ」


 コンシールドブラスターを起動して、狙った機体の足元を撃つ。

 プラズマ砲は着弾で爆発する装備だ。それは装甲に限った話しではなく、地面でだって爆発する。要は超高温のプラズマに当たって蒸発させられる何かに当たれば、プラズマ砲弾は爆発するのだ。

 そうして足が浮いたガチガチにカスタムされたウェポンドッグに肉薄。武装で応戦されるけどパルスシールドを使わないコンシールドアームで弾いて防ぐ。


「四機目」

『クソがっ--……』


 コックピットがある顔面をグラディエラで挟んでパイル。パイル。パイル。

 ぶち破ったコックピットで血の花が咲いた。

 レーダーで見えてる、背後から来たデザリアに掴んで殺したままのウェポンドッグを持ち上げて振り返り、機体を丸ごと叩き付ける。質量兵器バンザーイ!


「五機目」


 ウェポンドッグの残骸を叩き付けられて藻掻く青いデザリアにテールの砲門を突き付けて砲撃。砲撃。砲撃。

 長距離狙撃用の中型パルスライフルをゼロ距離で浴びせて三発か。硬い装甲だ。でもアローランス程じゃないね?

 首の後ろにあるはずの陽電子脳ブレインボックスをブチ抜いて殺し、残りは五機。消化試合ですなぁ?


「思ったより楽しいッッ、楽しいッ! 楽しいなぁぁぁああッッ!?」

『バトルジャンキーかよコイツッ!?』

「いえーいジャンキー☆」


 テンションが完全に男版ディアラちゃんである。

 残りは戦闘機カスタムのデザリア二機と、ウェポンドッグ一機、それと砲撃用ダングが一機と、クラブのトップエースが乗るクロスレオーネか。

 ライキティさんの鬼カスタムされたタマは見るからに怖かったけど、正直なところ市民がゲーム内で頑張ったくらいのカスタムなら怖くない。

 これが傭兵ランク八の財力と、市民の差か。


「もっと粘ってくれるよねぇぇえええ!?」

『ドチクショウがっ! コッチは中型戦闘機だってのにっ……!』

「戦いがサイズで決まるなら、この世に偵察機も工作機も要らないでしょうがッ!」


 結局、五機でも勝てなくて八機、一○機と増えてたのに、残り五機になったらどうしようもなかった。

 と言うか、なんか、皆、ちょっと下手じゃない?

 VRバトルやり込んでる人って言うから楽しみにしてたけど、武器の使い方が下手。プラズマ砲を地面に撃って浮かせるとか、パルス砲を装甲の薄い脚に撃って嫌がらせて進路を操作するとか、戦い方なんて山程有るじゃん?

 なんで愚直に機体へ掃射しかし無いの? もしかしてオートロック使ってる?


「まぁ良いや。楽しかった〜。良い経験に成ったし」

『肯定。複数機に囲まれた状態での戦闘経験は貴重。贅沢を言えば、敵機に更なる強装備、そして敵パイロットに腕と戦術が有ったなら、更に高評価だった』

「それは、仕方なく無い? ライドクラブってそもそも、免許取得の為の活動でしょ? 囲んで殺す戦術なんて学ぶか微妙だし、バリバリにVRバトルを遊ぶ為のお金なんか、親が出してくれるか分からないし。『免許取得と勉強にバトリー買うからお金ちょーだい☆』って言って出す親居るの?」

『納得。前提条件が違った』

「そうそう。だから、あの装備は皆、コツコツとゲーム内で貯めたバトリーで買ったんだと思うよ。そう思えばかなりの装備だったでしょ」


 もしかしたら子供に激甘でホイホイお金を出す親も居る可能性は有るけどね。

 エースが乗ってたあのレオーネも、なんか動きが少しぎこち無い感じしたし、あれってもしかしてブリッツキャットの陽電子脳ブレインボックスをレオーネに使ってるんじゃないの?

 本物のレオーネ産なら売りで二○○○万って聞いたし、なら買う時にはもっと高いんでしょ。そんな傭兵や軍人御用達のバリバリ戦闘機な陽電子脳ブレインボックスなんて、免許取得に買わないと思うし、実際に買って無いならまぁ、そう言う事なんでしょ。

 そりゃね、陽電子脳ブレインボックスだけで二○○○万とか、実機買えるっちゅうねん。デザリア買ってからシリアスの初期カスタムくらいの戦闘機改修とか余裕の金額だよ。

 むしろエキドナなんて妥協選択じゃ無くて、もっとちゃんとした装備を積んだ後に装甲だって変えられる。


「バトリーとは言え、自分で稼いで機体の強化をしてるのは好印象だよね」


 僕は戦いが終わったので、名残惜しいけどシリアスから降りる。

 開いたハッチの下部タラップを踏んで外に出ると、そこは大型まで対応出来るハンガーを六基備えたガレージだった。

 ライドクラブが持つ設備で、クラブの部屋から直通で行ける様に併設された場所だ。

 シリアスの他にも三機程埋まってるガレージを歩いて、ライドクラブに戻る。


「戻りました」

「あら、お帰りなさい。ラディア君、大戦果ね? ワタクシも生徒として鼻が高いわ」

「えへへ……。僕はシリアスに相応しい機兵乗りライダーで居たいので、頑張ってます」


 ライドボックスだらけの部屋に帰れば、「やっぱり戦闘機のライセンスも取ろうかしら?」と言ってるポポナさんが出迎えてくれた。

 戦闘機免許は取って良いと思うけど、その場合はアンシークのカスタムで相当悩むと思う。アンシークって本当に戦闘に向かない機体だし。

 一応、アンシークを元にした現代人開発の機体に小型中級汎用戦闘機、ジガバチ型マイトワスプって機体が有るので、陽電子脳ブレインボックスをそちらに積み替えても良いかも。

 アリとハチはかなり近しい近縁種なので、陽電子脳ブレインボックス積み替えでも不具合がほぼゼロって特性がある。でも本物の蜂のように飛べないんだけども。

 現代って、上空にヤバいレベルで飛行型戦闘機の野生バイオマシンが犇いてるから、空の道を使えないんだよね。ちょっと浮くくらいが精々で、だから陸路での輸送でお金が掛かるのだ。

 マイトワスプはアンシークをモデルにしたとは言え、現代人が設計と開発をした機体だ。アンシークは産出量が多い機体なので、その陽電子脳ブレインボックスだけでも何とか戦闘機に利用出来ないかと、現代人が四苦八苦したらしい。

 ただその分、ワスプは体の十割が現代生産のパーツで構成されるので、かなり高い。一機買うのに八○○万シギルだそうだ。ウェポンドッグより高いので、人気は無い。でも無類のアンシーク好きは買うそうだ。


「それで、僕はまだ戦います?」

「いえ、もう充分よ」


 見れば、クラブ顧問のオジサマが苦虫を噛み潰した様な、どころか口の中で苦虫が繁殖しちゃった様な顔でクラブの子達を怒ってる。

 そこに楽しそうな顔のポポナさんが近付いて行き、気が付いたオジサマは更に苦い顔に成った。苦虫を巣ごと噛み潰したのかな。


「中々に皆様、お勉強なさっておいでですわね?」

「…………ぐっ」

「あら、でも、ワタクシはアチラの『もっとお勉強なさってる』ラディア君が居るので、娘をコチラに預ける必要も無いですわね? ふふっ」


 要は、『自分の娘はこのクラブにハブられたのでは無く、必要が無いから所属しないのだ』と、ポポナさんはそう言ってる。

 娘の状況はポポナさんも知ってるらしく、今日は良い機会だから一発ブチかましてやれって思ったそうだ。つまり今日の僕は『護衛』と言う名の『剣』である。護衛なのに『盾』じゃない。

 まだ暫くは楽しそうにオジサマを煽るだろうポポナさんは置いといて、僕は女の子で固まってキャピキャピしてる所へ向かう。

 VRバトルは観戦時にコックピット内部も良く見えるから、僕の戦闘機動を良く見て勉強してねって、ポロンちゃんとネマに言ってあったのだ。その感想とか色々を聞こうと思う。

 そこは簡易な椅子が並べられて、ネマを含むポロンちゃん一行五人よりも人が多く、何人だ? 十二人?

 男子が近寄れないその、無限にキャピキャピしてる場所に向かう僕を、ライドクラブの男の子達が「……勇者かよ」とか言って見てるのも無視して声を掛ける。


「やぁ、戻ったよ。ポロンちゃん、ネマ、勉強に--……」


 歓声。


「きゃぁぁぁあ! ディザスター様よ!」

「なんて?」

「素敵! 戦ってる時の楽しそうなお顔と、終わった後の落ち着いちゃうギャップが素敵ですわ!」

「ああんズルい! アルバリオだけでは無く、我が家にもお越しくださいませぇッ……? 手取り足取りお教え下さいませっ……♪︎」

「あら、抜け駆けはおよしになって? 我がコピット家もディザスター様をお迎えする用意が有りますのよ?」

「待って、なんて?」

「ちょっと! ラディアさんはポロンの先生なのよ! 横取りは淑女としてどうなのかしらッ!?」


 なんて? なに? そのディザスターっての、なに?

 もしかして僕のこと? ダサくない? ストレートにダサい『クレイジーボーイ』よりも酷く無い? ちょっとカッコ付けてる感あるのが目も当てれないダサさじゃない?

 説明を求め様にも、ポロンちゃんは顔を真っ赤にして「ぴゅっ、にゃぃっ!?」とか奇声を発してて使い物に成らない。

 モモさんは他のお嬢様方に噛み付いてて忙しいし、シャラさんは端末を弄ってて忙しい。さっきの戦いのアーカイブでも編集してるのかな。

 マルさんは壊れたポロンちゃんを宥めてて忙しいし、残ってるのはネマくらいか。


「…………ネマ?」

「……らでぃあ、しゅごかった」

「〝さん〟を付けろよデコスケ野郎。で、これなに?」


 聞けば、僕がシリアスに乗って此処に居ない間、対戦相手の男の子が「…………災害野郎かよ。あのディザスターボーイが」って呟いたのが発端で、ライドクラブに所属する女の子達が「災害王子様よ!」と独特のセンスで騒ぎ始め、僕の生徒のポロンちゃんを囲んで根掘り葉掘り僕の事を聞いて盛り上がったそうな。

 それで最終的に『ディザスター様』が定着したらしい。何故だよ。まだディザスターボーイの方がストレートにダサい分だけ許容出来るよ。

 でもそれはそれ、コレはコレ。僕をディザスターボーイとか言い始めた奴は何処だ。一対一ワン・オン・ワンでボコってやるから出て来いよオラ。


「…………それ、より。らでぃあ、こんなに、つよかった?」

「ん? ああ、まぁ僕はシリアスに乗ってるからね。オリジンに乗って普通の戦果とか、許されないでしょ」

「そ、そうだよ! 俺だってオリジンさえ有れば!」


 僕のセリフを聞いた男の子が、少し離れた場所で声を上げる。

 ちなみに、シリアスがオリジンだって事はもう紹介済みで、って言うか、ポポナさんの差し金で紹介されてる。

 せっかくなので、オリジンとその機兵乗りライダーを相手にする経験など如何いかがかしら? みたいな感じで。

 免許取得が命題のクラブである。子供達の成長に繋がる機会を逃すのは教育者として良くない。そこを突っつき回したポポナさんが、僕と言う剣を好きな様に振り回す為のセッティングを見事に終えた瞬間だった。

 なので、多分声的にカスタムデザリアに乗ってた男の子は『自分もあのシリアスって機体に乗れたら、同じ事がきっと出来る』と言いたいのだろう。

 まぁ絶対に乗せないけど。でもその言葉の何割かは真実だ。

 莫大な演算領域を使って砲撃予測線とか平気で用意しちゃうシリアス、オリジンの恩恵は凄まじい。僕の腕も悪く無いと思うけど、大部分はやっぱりシリアスのサポートが厚いからこそ僕は戦えてるのだ。

 しかし、シリアスはそう思わなかったらしい。


『否定。明確に否定する。当該パイロットがシリアスと同等のオリジンに乗っていたとして、今日の結果は変わらない。甘めに見積もって、生存時間が五割伸びたか否か、と言ったところ』


 僕の端末から返って来た返答に驚く男の子。

 更にポケットに入れっぱなしの端末から喋るシリアスが『要請。ラディア、端末を出して欲しい』と言うのでポケットから出す。

 するとシリアスは、端末のホロ機能を使って小さなリアスとなって登場する。

 もちろん僕の身バレに気を使って、何時もの銀髪ゴスロリじゃなく、金髪に白い清楚系ワンピースを着たホワイトバージョン。

 ゴスロリアスはディアラと一緒に乗ってるからね。もし此処に僕のアーカイブ見てる人が居たら一撃死するからね。有難い配慮だ。


『再答する。シリアスは当該パイロットの主張を強く否定する。少なくとも、ラディアは敗北の理由を機体に求めたりはしない。別の機体なら、等と言うパイロットに、ラディアは決して負けたりしない』


 その発言と強い信頼で、胸が裂けそう。ぎゅぅぅぅって成る。

 突然のホログラム美少女に全否定食らった男の子は、少し呆けたが、再起動した後にやっぱり噛み付いた。


「巫山戯んな! 今正に! そんな特殊性見せ付けて機体性能のせいじゃないとか有り得るかよ! なんだよそれ! 自分の機体の人格が金髪無表情系清楚美少女とか! 舐めてんのか羨ましいッ!」

「分かる。めっちゃ分かる。なにあれ可愛い。あんな美少女から『一緒に頑張ろうね?』とか言われて共に戦うんだろ? モチベ爆上がりだっつぅの」

「それな。マジでそれ。俺だって俺の事あんなに信頼してくれる美少女擬人化バイオマシンとか愛機にしたい人生だった。来世に期待すれば良い? 死ぬしか無い? 今から死ぬ?」

「は、早まるな! 今此処で、あの子を口説けばワンチャン……」

『否定。明確に否定。シリアスはそれらを強く、強く否定する。ラディアはシリアスに乗った最初のパイロットであり、そして最後のパイロットである。シリアスはラディア以外のパイロットを、絶対にコックピットのメインシートへ乗せる気は無い。少しも、微塵も、砂漠の砂粒程も無い』

「ああああああああぁぁぁ俺だってあんな事言われたいぃぃぃッッ」

「独占欲持ってくれる機体とか機兵乗りライダーのロマンなんじゃぁぁぁあああッッ!」


 分かる。めっちゃ分かる。だって言われてる本人が今、死にそうだもの。

 コレを外から見せ付けられても、やっぱり僕は嫉妬で死ねる自信がある。

 つまり致死量二倍でとても危険。シリアスの愛らしさは用法用量を守って正しくデレデレしたら幸せ過剰摂取して皆でクレイジーボーイ!

 いえーいクレイジー☆

 ヤバい精神が飛びそうなくらいに幸せだ。毎日毎秒好きになってるシリアスラブラブメーターが加速して計器が吹っ飛びそう。ボンッ! って。


「そこまで言うなら! 俺らと同じ条件でもソイツは強いんだろうなぁ!?」

『肯定。シリアスから見ても、ラディアの操作技術はかなりの物。正直、シリアスとラディアは偶然によって出会ったが、今では出会うべくして出会ったと確信してる。この様な素晴らしいパイロットと出会えたシリアスは、人工知性ながら天に祈る所存。機械生命の神が居るならば感謝したい。ラディアに出会わせて貰った幸運を幾重にも感謝する。シリアスは自身が世界で一番幸福なバイオマシンだと自負している』

「もう…………! 待ってッ!? それ以上デレられたら僕が死ぬ!」

「尊さがオーバーフローしてパイロット本人がダウンしやがった!?」

「でもやっぱり羨ましいんじゃクソがぁッ! おいテメェ! オリジンじゃなくてライドボックスで勝負しやがれ! 俺らの気が済むまでタイマンだオラァァンッ!」


 二○戦した。

 シリアス以外に乗りたくないけど、シリアスが『殺って良い』と言うのでクラブのデザリアを一機借りた。

 シリアスによってモチベが爆上がりして脳の機能もフルスロットルな僕は、それでも全員フルボッコにして、最後は五体一で戦ってた。

 うん。シリアス居ないと八体一は無理だった。


「クソがっ! なんで勝てねぇ!?」

「オリジンちゃんの言う通り、本人もバケモノなのか……」


 良い経験だった。

 シリアスの補助がゼロで囲まれる状況とか、凄い訓練に成る。めっちゃ助かる。


『これで証明された。ラディアはシリアスが居らずとも類稀なるパイロットであり、シリアスと共に在る事でお互いを支えるパートナーである。自らの未熟を機体のせいにするパイロットでは相手に成らない。ラディアを倒したくば、永久旅団の幹部クラスを連れて来ると良い』

「うぐっ、今日のシリアスがデレ過ぎてヤバい…………! ねぇ君、ちょっと助け…………」

「うぉぉおおいッ!? おま、大丈夫か!? 顔色ヤベぇぞ!?」

「愛機の尊さが致命傷になってやがる…………」


 僕は呼吸が苦しくなって、近くに居た男の子に助けを求めた。

 まったく、馬鹿だなシリアスは。僕を倒したかったら旅団の幹部さんとか要らないよ。シリアスが可愛ければそれで僕は死ぬんだから。


「皆様、ご覧になって? あれが愛ですわ…………?」

「わたくしのカトリーヌちゃんも、もしオリジンだったら、わたくしをあの様想ってくれるのかしら……?」

「それよりホログラムで擬人化可能とか初めて知ったんだけど…………。ポロンは知ってた?」

「知ってたです。りあ……、じゃなくてシリアスさんはお友達です!」

『肯定。シリアスとポロン・アルバリオは友人。主に姫系ファッションに着いて語り合う仲である』

「なにそれ楽しそう」


 待って、僕それ知らない。

 え、僕の女装パーツって、もしかしてポロンちゃんの意見も入ってたりしたの!? 嘘でしょ!?

 お、同い歳の女の子が提案したパーツで女装とか流石にダメージがががががが…………。


「真っ青から土気色の顔に!?」

「おい、ヤバいんじゃねぇかっ!? 流石に医務室に…………」

『否定。シリアスのコックピットへ運べば良い。生命維持装置のナノマシンをラディアに合わせて調整してあるので、そこらの汎用ナノマシンで治療するより効果的』

「マジかよオリジンすげぇ……」

「そんな事までしてくれんのかよ…………」

「え、でも、コックピットに俺ら入っちゃマズいんじゃないの?」

『否定。メインシートに座らなければ許可する。もしメインシートに座ったならば、帝国のオリジン法に則って処断するつもりなので、心して欲しい』


 僕は三人掛りで運ばれた。なんだかんだ言っても心配してくれるとか優しいな君達。

 ナノマシンとか使わなくても僕はシリアスに触れてシリアスに乗るだけで完全回復する生き物なので、取り敢えず元気になった。

 運んでくれた男の子達にはお礼って訳じゃないけど、サブシートには座って良いし、コックピットの見学も許した。勿論シリアスの許可を得た上で。


「すげぇ、オリジンのコックピットってこうなってるのか」

「いや、シリアスも普通のゼロカスタムデザリアだったから、最初は汎用コックピットだったよ。普通にカスタムしたんだ」

「そうなのか。でも、良いよなぁ。クラブのライドボックスは共用品だから、コックピットのカスタム出来ないし」

「あんた、もしかしたらさっきの戦い、オリジン居なくてもコッチのコックピットならもう少しイケたんじゃねーの?」

「あー、そうかも。六か、七くらいはイケたかも。カスタムコックピットって本当に使い易いから。ほら見て、フットペダルもこうだし」

「うわっ!? なんだこれ、気が付かなかった……」

「十二個? え、フットレバー十二個とか制御し切れるのか?」

「むしろ、行動の選択肢増えるから楽だよ。微妙な角度の斜めスライド走行とか予め設定しておけば、六ペダルで微調整しながらやる必要無いし」

「なるほどなぁ。アクショングリップは武装増えると複雑になるけど、フットレバーは増えると楽に成るのか」

「いや、違くね? 結局は設定増やしても即座に使い分ける腕が要るって事だろ? つまりオリジンちゃんが言ってたのはそう言う事だろ?」

「…………それもそうか」


 運んでくれた三人と少し仲良くなった。

 それから四人でクラブに戻って、三人は「コックピット凄かった!」と話して回ってる。あれ、四○万から五○万シギルするコックピットだからね。実機を買って入れるなら気を付けてね。

 僕がダウンしちゃって落とした端末を探してると、ネマが拾っててくれた。心做しかネマのお目々がキラキラしてる。


「端末ありがと。で、どしたの? 何か言いたい事でも?」

「…………ねま、すなむし、だんちょー、そんけーしゅる」

「〝します〟を付けろよデコスケ野郎。まぁでも、ありがと。これからはシリアスだけじゃなくて、団員のネマにも誇って貰える機兵乗りライダーになるよ」

「………………ううん、もう、そんけー。ほこ、ってる」


 よほど僕の戦いがお気に召したらしいネマは、これからより一層、戦闘機免許を取る為に頑張るそうだ。

 若干の敵地に乗り込む感じがしたライドクラブ訪問は、こうやって平和に終わった。

 ポポナさんが顧問を穏やかに煽り散らしてたのは気になったけど、見なかった事にしよう。ポロンちゃんも意外と女の子達に溶け込めてたし、平和に終わったって言って良いはずだ。


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