第41話 念願のコンシールド。



『換装完了。念願のコンシールドウェポン』

「…………ねまも、らいせんす。げっと」


 ポロンちゃん達とスクール訪問の約束をしてから、三日目。

 シリアスはおじさんと共に換装作業を終えて、更にネマも、本当にライセンスを取りやがりましてマジ凄い。

 四日とか言ってたのに三日でやりやがった。正しく言うと三日目の今日、現在夕方にはライセンス取ってきたので、時間で言うと二日半くらいか。その前の時間も入れたら五日くらいだけど、四日と宣言してから二日半なのは事実だ。本気で凄い。


「今日から、あのダングのパイロットはネマだよ」

「…………まかされ、た」


 サンジェルマンのガレージの中、大型ハンガーにて鎮座する特注シールドダング、機体名『シャム』。命名は予定通りにネマだ。

 そしてその中に格納された、僕のマイエンジェル。そう、シリアス。


「…………シリアス、超カッコイイ」

『質問。シリアスはイケてる?』

「世界で一番超イケてる」


 念願の、念願のコンシールドだ。

 正確にはグラディエラのパルスライフルが既にコンシールドウェポンなのだが、何故か僕もシリアスもグラディエラは「コンシールドだわほーい!」の判定に入って無い。その理由は僕にも分からない。

 背部装甲がゴツく成ったけど、それもカッコ良さの一因だ。あの追加された装甲がガシャッと割れたら、二条の割れ目からそれぞれ中距離用中型プラズマブラスターが顔を出す。


『………展開』


 -ガシャ、ジャキンッ……!


「死ぬ程カッコイイ」


 シリアスが無意味にコンシールド装甲を開いて武装を展開してくれた。オマケでグラディエラのコンシールドも展開だ。カッコ良さの暴力。トキメキだけで心臓が止まる。

 VRバトルでは既に見てたけど、彼処あそこだとコックピットの中でずっと過ごすから、直接展開する様子は初めて見るのだ。

 プラズマブラスターは『砲』に分類されるとは言え、その見た目は不思議だ。単純に砲口が備わってる訳では無く、それに類するパーツはなんと言うか、どちらかと言えば短いブースターやスラスターとでも表現しようか。

 明確な『口』が無く、四角い板を短い等間隔で並べた様な砲口だ。

 ああ、そう。ちょっと古いエアーコンディショナーの送風口が分かり易いか。

 平たい数枚のパネルで送風角度を操作するアナログチックなエアーコンディショナーの送風パネルの間に、更に細かい板を詰め込んだ様な感じだ。それを縦に細くぶった切り、何やら箱型のエンジンっぽい装置にくっ付けてある様な造形だ。

 起動すると、その短い間隔を空けて重ねられた板の隙間が光り、『ジョンッッ……!』って音と共にプラズマ弾を発射する。

 その装置がシリアスの頭の後ろ辺りに格納されて、それぞれのブラスターに装甲が被さる仕組みになってる。

 格納後の装甲が少し山形になってて、正面から見るとシリアスがネコミミでも付けた様に見える。可愛い。

 左右の山の頂点がガバッと割れて、格納されてたブラスターに張り付くように畳まれる。そしてゴツくて太いアームに接続されたブラスターがジャキッと展開され、真横から見たら『櫛』みたいな砲門を正面に向ける。

 アームの自由度が高くてブラスターはフレキシブルに動かせて、三六○度しっかり狙えるし、展開されたブラスターには格納時に蓋の役割をするコンシールド装甲もくっ付いてるので、防御用アームとしても使える。

 シールドには範囲が狭いけどパルスシールド発生機も備わってるので、背部アームが届く範囲ならエネルギーを消費して小型パルス弾くらいなら防げる。角度とか気にして上手く使えばもっと強い弾丸も弾けるし、相応のエネルギー消費とパルスシールド発生機に無茶をさせればプラズマ弾も防げる。

 まぁ消費エネルギーも馬鹿に成らないから、小型パルス弾くらいなら装甲で上手く弾くし、プラズマ弾も可能な限り避けたいところだ。

 コンシールド装甲とキャノピー装甲はめっちゃ硬いのを採用してるので、その辺を上手く使えれば防御力も跳ね上がるだろう。

 全身の装甲も良い物を積んだけど、あくまでソレは『現状では』としか言えない。上を見れば品質とかキリが無いから。

 例えばカルボルトさんとか、ライキティさんとかが乗ってる機体を相手にしたら、あっと言う間に装甲を抜かれるか、ブチ破られる。

 あの二人の機体には相当性能が良いプラズマ砲も装備されてるので、下手したら一撃で装甲が剥がされるだろう。

 つまり、コレだけ強化しても、僕とシリアスもまだまだなのだ。


「…………あぁ、でも、早くこのシリアスで戦いたいっ」

『同意。機体が疼く』


 滾る闘志を何とか静め、明日に備える寝る準備。

 イチャつく僕とシリアスをネマがじーっと見てるのは何なのか。

 そして自分の個室が有るのに一緒に寝ようとするのは何なのか。


「なに、寂しいの?」

「…………こうてい」

「それ、シリアスの真似してるんだとしたらブッ飛ばすよ?」

「……むぅ」


 明日に備えてシャムの居住区で休もうとすると、ネマがグズる。何なんだ。僕は人の助けを借りて生きて来たけど、それでも基本は五歳からソロ活動だったのだ。子供のあやし方なんて知らないよ。


「………………めんきょ、がんばた。ごほーび、あっても、いい」

「あー、それを言われたら、まぁそうかな?」


 僕は折れた。そう言えば免許取ったら好きなだけ褒めてあげるって約束だったな。

 食事もシャワーも終えて、僕は『褒美に添い寝しろ』と申されるネマを伴って部屋に帰る。

 僕って、結構最初からネマにキツい対応してると思うんだけど、なんでこの子は僕に懐くの? 分からぬ。

 新居のキッチンは当然、自動調理器が着いてる。僕もネマも料理なんて出来ないので、フードマテリアルから料理を出力してくれるフードプリンターを積んであるのだ。コンソールから料理を選ぶと出来たてホヤホヤの料理を出してくれる機械である。

 この機械はデータ通りに物を生み出すレプリケート技術の一つで、これも一応はレプリケーターだ。つまり正確にはフードレプリケートプリンターって名前になる。…………長いな。やっぱりフードプリンターで良いでしょ。

 機器に装填してあるフードマテリアルの質で料理の味や出来も変わるけど、まぁ僕はそこそこ稼いでるので、フードプリンターのグレードも含めてマテリアルはまぁまぁ良い物(最高級品)を買ってある。

 一応、キッチンにはもう一種類フードプリンターがあって、そっちは素材を出力してくれる。コチラもマシンその物と入れてあるマテリアルが高品質なので、相性の悪い生魚とかじゃ無いなら本物そっくりの素材を作って出してくれる。野菜とか出すと瑞々しいリアルな奴が出力されるのだ。

 まぁそれでも、やっぱり天然物には勝てないんだけどね。


「料理もその内覚えたいなぁ。やりたい事が沢山ある」

「…………ねまも、おりょーり、する」

「お、じゃぁ一緒に覚えようか? それに、家事とかしてくれるなら、その分は給料も出すよ」

「……やる」

「〝ます〟を付けろよデコスケ野郎。…………ふふ、おやすみ」

「………………えへっ。でこすけ、ねるっ」


 照れながら、ガバッとシーツを被るネマ。

 自分をデコスケ呼ばわりとか、やっぱり気に入ってるじゃんこの子。

 僕は自分のベッドにネマを連れ込んで、何も無く寝た。当たり前だよ。ネマは八歳だし、僕は十歳。そして僕にはシリアスって言う世界で一番素敵な婚約者が居るんだから、浮気など有り得ない。

 さぁ、明日が楽しみだ。

 ポロンちゃんにはコッチの準備が終わったから、クラブには何時でも行けると連絡してある。

 そしてモモさん達と相談したら、明日に成ったらしい。

 一応、完全なる部外者が遊びに行くのは少し問題なので、ポポナさんも付き添ってくれて、僕はその護衛として着いていく。

 聞いた所によると、ライドクラブには実機も一応有るので、その危険に対する護衛って事で捩じ込むそうだ。

 親がクラブの見学するのは、まぁ有る事らしい。自分の子がどんな活動してるのか、気になる親も多いのだろう。

 僕なんか砂漠に置き去りにされたのに、世間の親御さんは子供に甘いんだなぁ。

 サラサラの金髪を撫でて寝かし付けてると、ネマはあっと言う間にくーくーと寝息を立て始めた。

 うん、僕も寝よう。


 そして翌日。


「ネマ、おはよ」

「…………えへへっ。おはよ」

「〝御座います〟を付けろよデコスケ野郎。さて、先にシャワー浴びて来ちゃいなよ。その間に朝食の準備しとくからさ」

「……あぃ」


 もはや僕も敬語とか気にしてないけど、ネマが喜ぶのでデコスケ野郎が挨拶に成りつつある。嫌な挨拶もあったもんだなぁ。

 旧サンジェルマンで過ごした毎日だったら、おじさんの手料理が食べられたのだけども。

 特注シールドダング・シャムを買って自分の家としたなら、自分の家を持ったなら、自分の世話は自分でせねば。

 少し寂しく思うけど、これも自立の一つだと思えばなんて事ない。それに、料理を覚えるってなると、僕の知ってる料理上手っておじさんだ。なので必然的におじさんに教わる事になる。

 その時にまた一緒に食べれると思えば、悪い事は無いだろう。


「あー、朝ってなんか無意味に気だるい。自分だけだったら民間レーションで手抜き朝食だったなこれ」


 ネマがシャワーを浴びてる間に、フードプリンターにお任せ朝食を入力。朝に最適な栄養バランス完璧な食事を提供してくれるプリセットだ。一五○種類のセットから高度な乱数で選ばれるらしく、今日は根野菜のさっぱりした煮物と、スライスしたゆで卵が乗ったシーザーサラダに、パンだった。煮物が汁まで飲める様で、それが汁物扱いでもあるらしい。ネマがシャワーから出たら食事だ。


 美味しかった。


 ネマと交代でシャワーを浴びて、シリアスが用意してくれた本気コーデの傭兵服に着替える。

 ふむ。これ傭兵服なの?

 下は黒のスラックスと、ガッチリしたダミーレザーの革靴だ。今どき本革の靴とか高性能ナノマテリアルより高いよ。

 それで上は白でボタン留めの襟シャツ。シャツの上に黒のジャケット。ジャケットのデザインはギリギリでフォーマルを回避しつつ、スラックスのデザインと不和を起こさない絶妙な物。

 シャツにはネクタイでは無くゴツいシルバーチェーン。マジか、シリアス攻めるなぁコレ。

 最後にシックな黒のホンブルグハットを被る。ハットにはサソリがモチーフのトライバルが黒糸で刺繍された白のハットバンドが巻いてある。何これカッコイイ。

 鏡を見る。ふむ、イケてるな。あ、よく見ると襟シャツの胸ポケットにもサソリのトライバルが刺繍されてる。何これ素敵。

 アレかな。ラディアはシリアスのだって言う、シリアスのマーキング? ヤバい嬉しい。興奮して来た。シリアス大好き。愛してる。

 ちなみに髪型は僕お気に入りの前髪遊んだオールバックだ。帽子被っちゃうけど、服に合ってる。ヘアセットは何時ものオートメイク先輩がやってくれた。メンズもレディースも網羅してるとかホント凄いな先輩…………。


「どう?」


 リビングに戻るとネマが居て、聞いてみる。すると僕を見るなりネマは「…………いい」と言った。

 まぁ、そりゃシリアスの本気コーデだからね。

 僕以外の誰かが着てもカッコイイだろうけど、この服は僕の骨格とか仕草とか表情の癖とか髪型髪色肌の色、とにかくスキャニングで可能な限りのデータを取って、古代文明レベルの演算能力を無駄遣いしたコーデなのだ。『似合う』の次元が違うと言える。

 例え本当は僕に合ってないコーデだとしても、シリアスなら合わせられる。

 なので僕が着る場合において、このファッションは通常の何倍も僕に似合う様になってるのだ。

 服のデザインがどうとかじゃなく、もっと概念的な所から僕に親和する様に選ばれてる。


「ネマもその内、シリアスの本気コーデやって貰うと良いよ。普通の服でも数十倍似合ってヤバいレベルの物を選んでくれるから」

『任せると良い。シリアスは良い仕事をする』

「…………おかね、できたら、おねがぃ」


 それからシャムを降りて、既にバリバリ働き始めてるおじさんに挨拶してから、シャムに乗り直してアルバリオ邸に出発。操縦は免許取り立てのネマだ。

 サンジェルマン凄かったな。アレだけ増やしたハンガーが半分以上埋まってたぞ。おじさんどれだけ稼ぐんだ…………。


「ネマ、安全操縦でお願いね」

「……まか、された」


 ネマと共にシャムのコックピットへ。僕は複座に座る。スイートフラワーシリーズのカスタムコックピットにも、ちゃんとサブシートを用意してある。輸送機なのでサブシートが四つある。

 眠そうな無表情系美少女が、小さな鼻からふんふんと鼻歌を奏でるちょっとした時間。

 アルバリオ邸まであっという間だけど、ライセンスを取得して正式に雇用出来るように成ったネマに、多少のお話しは必要だろう。


「ネマ、雇用条件はアレで良い?」

「よい」

「それと、仕事して無い時も専属のダングパイロットとして使うから、一応は月給みたいのも出そうか。どれくらい欲しい?」

「…………? まだ、おかね、わからにゃぃ。まか、せる」

「そっか。まぁ現時点ではまだシャムのオーナーは僕だし、資本はコッチだから多少は安くなるよ?」

「………………よい。そのぶん、いっしょ」

「いや、別に返済が終わっても、ネマが望むならそのまま雇うよ? と言うか、ソロ傭兵二人だとギルドが報酬を精算する時に面倒だし、次の狩りに行く前には傭兵団でも立ち上げるつもりなんだけど」

「……えへ。いっしょ、なら、よい」


 どうでも良いけど、ネマの「よい」がなんか可愛いな。「いい」じゃない所が、なんかこう、なんとなくグッドだ。

 傭兵団を立ち上げれば、仕事を傭兵団単位で受けて、報酬も傭兵団に一括で支払われる。だからネマの返済に着いて再計算とかが楽になるのだ。

 勿論、僕が仕事をして無い時なら、ネマも傭兵団としてでは無く、ソロで仕事をして稼いでも良い。その場合でも返済はして欲しいけど、そっちは別に無理強いする気は無い。

 返済が終わるまではシャムのオーナーは僕だし、それまではコッチの仕事を優先してもらう。つまり僕が仕事をすればネマは自動的に稼ぎ、そして自動的に返済が進む。だから個人の仕事にまで目くじらを立てる必要が無いのだ。

 まぁ、コッチの仕事を無視して個人依頼を優先し始めたら怒るけど。


『質問。傭兵団の名称』

「ああ、一応は二人からも募集するけど、意見が無いなら取り敢えずってのは決めてるよ。ダングもデザリアもガーランドで産出する機体だし、ガーランドで始まった虫型に乗る傭兵団って事で、『砂蟲すなむし』なんてどう?」


 シリアスはデザートシザーリアで、シャムはシールドダングだ。

 どちらも古代文明ハイマッド帝国が開発した虫型機体であり、どちらも砂漠で手に入り、砂漠で複数の虫を持って始まる傭兵団。つまり砂蟲だ。


『肯定。シリアスはラディアのセンスを支持する』

「…………ねまも、よき。ねまは、よーへーだん、すなむしの、ぱいろっと。…………えへへ」

「ん。じゃぁ明日にでも傭兵団を立ち上げようか。…………団の立ち上げはギルド行かないとダメなんだよねぇ」

『傭兵団の立ち上げは、つまり武装集団の結成。面談は必須と思われる』


 そのせいでまた、あのエレベーター地獄を味わうのか。辛い。

 特別待遇のお陰で面談は心配して無いけど、あのエレベーターがただひたすらに嫌だ。なんで階段を付けなかった馬鹿野郎。


「〝階段〟を付けろよデコスケ野郎ッッ!」

「ぴっ……!? な、なんで、いま、ねま、おこられ、た?」

「あーごめん、今のはネマに対してじゃないよ」


 傭兵ギルドって言う本物のデコスケ野郎に対してだよ。


「あ、そうだ。砂蟲として活動を始めたら、必要分稼いでシャムのカスタムするからね」

「…………それも、しゃきん?」

「いや、これはどうしようかな。僕が望むカスタムだけど、普通にネマにも必要だし、だから僕が出すのも違う気がするけど、ネマに出させるのもなんか違う…………」

『提案。傭兵団としての資金を別途で組み、そこから出せば良い』

「流石シリアス。それで行こう」

「……どんな、かすたむ?」

「アレだよ、ネマがスライドペダル踏んでもシャムがロールアクションしない様に、キャタピラの外に脚を付けるんだ」


 ダングとモスはスライドペダルを踏むと機体ごとロールする巫山戯た機動設定がされてる。それを変えるためには、マトモなスライド移動に対応したパーツを付ける必要がある。

 その為に、普段は折り畳まれてるけどスライド機動時には仕事をする十四本の脚パーツをキャタピラの隣に増設するのだ。未使用時は折りたたまれてて、キャタピラを外側から守る様な形で格納される。

 本当はシャムを注文したメーカーで最初からオプションとして付けたかったんだけど、残念な事にそのメーカーでは取り扱ってなかった。

 それに、これ以上ネマの借金を僕の判断で増やすのも鬼畜が過ぎると思ったので、ある意味丁度良かった。


「団の資金を積立するなら、僕らもそうだけどネマの手取りと返済も減っちゃうね。どうしようか?」

『その分、大量に稼げば良い。一日で数十万も稼がせれば、この程度の借金は遊びながらでも一年掛からずに完済可能』

「…………経費抜いた稼ぎから三割とか五割を砂蟲の資金に貯めるとして、残った分配金から数十万も渡せる稼ぎって、一回で確実に三桁万シギルは稼がないとダメだよね?」

『シャムのセンサー類を強化した為、そう悪い試算では無いと判断する。アンシークと比べたら拙いが、充分に及第点。最悪は、ポポナ・アルバリオに協力を要請する』

「いや、アズロンさんより先に傭兵業させたら怒られるよ。二重の意味で」


 そんな事したら、アズロンさんから「なぜ妻に抜け駆けをさせたのかねッ!? ワタシも誘い給えよッ!?」ってお叱りと、「妻を警戒領域に連れてったら危ないだろう!? 代わりにワタシを誘い給えよッ!?」ってお叱りを受けると思う。多分前者の割合が大きそうだけど。

 そんな色々諸々を相談してると、アルバリオ邸に到着した。

 何時も通りにゲートを通って、駐機場にシャムを停める。何気にこれがネマの初仕事だ。

 ただ、今日は何時もと違って反転させて停める。

 ダングの格納庫は後ろに有るので、お客を乗せる時は後ろから乗ると都合が良い。コックピットからでも良いけど、コックピットは人が移動する為の通路じゃないので余り良いとは言えない。

 サブシートに収まるならむしろ前から乗せた方が早いんだけど、今日は人数が多いからサブシートじゃ足りない。

 今日のお出掛けは僕、ネマ、ポロンちゃん、ポポナさん、セルバスさん、モモさん、シャラさん、マルさんの八人である。パイロット一人とサブ四人でも三人余る。アズロンさんが購入する予定のダングじゃないと無理や…………。

 なので、お客さんは基本的にリビングに居て頂く。

 それに、どうせならポポナさんとセルバスさんの機体も運んでしまえば良い。特注で巨大化したシャムなら、小型を四機格納出来るからね。シリアスの他にアンシークとデザリアが増えても問題無い。

 アズロンさんとポロンちゃんが免許を取って機体を買っても、ウェポンドッグなら乗せられる。ピッタリ四機だ。アズロンさんのダングは無理だけど。

 ダングにダングを積める訳が無い…………。


「お待たせ」

「いらっしゃいませですぅー!」


 機体から降りて屋敷に向かうと、屋敷から飛び出して来たポロンちゃんと遭遇する。この子は何時も元気である。ちなみにネマはすぐ出れる様にコックピットで待機だ。プロ意識が出て来てて良き良き。

 今日のポロンちゃんは、初めて会った時のパイロットジャケットを着てる。白いソレは元気で明るいポロンちゃんに良く似合ってる。


「それ、初めて会った時のジャケットだよね。良く似合ってて可愛いよ」

「ぴっ--!?」


 褒めたら何故かフリーズするポロンちゃん。…………アレか、スクールで折り合いが悪いから、こんな風に褒めてくれる相手も居ないのか。普通にめちゃカワな女の子なのに、スクールのカーストってそんなに強力なのか? いくら家同士が仲悪くても、可愛い女の子は可愛いって思わないのかな。

 ふーむ、上流階級って不思議だ。


「あ、あああ、あにょ! えと、ラディアさんも! かこいいでしゅ!」

「え? あ、うん。ありがとう。何時もよりキマってるでしょ? シリアスが選んでくれたんだよ」

「あにゃ、そうなんです?」

「うん。ほら、シリアスってオリジンでしょ? だからオリジンとしてその機能を十割全部使える陽電子脳ブレインボックスで高度に演算すると、その人にメチャクチャ似合う服を選ぶくらい造作もないんだってさ」

「ほぇぇ、しゅごぃですぅ……」


 今日の僕は、自分でもキマってると思う。流石シリアスだよね。

 ハット、ジャケット、スラックスの材質や質感もバランス良くて、もう本当に非の打ち所が無いんだよ。こうやって陽に晒される時に浮く光沢とかも計算に入ってるからね。マジでヤバい。

 僕みたいな子供でも若干の『大人の色気』が出るくらいヤバいコーデだ。今日の僕は二歳くらい上に見えるはず。

 シリアスにコーディネートされた日だけ、僕はガーランドで一番のオシャレボーイである自信がある。自分のカッコ良さに対する自信じゃなくて、シリアスなら僕が一○○○年に一度のブサイクでも、その能力でイケメンにしてくれるって信頼だ。つまり誰でも最強のイケメンに成れるのだ。


「モモさん達は?」

「もうすぐ来るです!」


 とか言ってたら来た。

 今日も今日とて、全員制服。いや待てよ? 出掛ける時は制服って校則なんだよね? なんでポロンちゃんはジャケット着てるの?


「ポロンちゃん。校則的にそのジャケットはアリなの?」

「--ナシよッ! ちょっとポロン! 着替えもしないで飛び出さないで!」

「あっ!? ごごごごごめんなさいですっ!?」

「おっちょこちょいかな?」


 モモさんに言われてポロンちゃんはまたピューって屋敷に戻って行く。


「ポロンちゃんはせっかちだなぁ」

「ラディアさんに会えるから、舞い上がっただけ。何時もはもっとマシ」

「皆さん、おはようございます。今日はダングでスクールまでお送りしますよ」


 僕が挨拶すると、出て来た女の子達がピタって止まる。なになに?


(え、良くない?)

(むしろ良過ぎる。クラブには女の子も居るけど、大騒ぎ確定だと思う)

(ぶっちゃけマルはアリ寄りのアリ! え、本当にイケてない? ポロンの恋路じゃなかったら割り込みたいんだけど!?)

(分かる。え、本当にカッコイイ……)

(あのハットを押さえてポーズ取って欲しい)

(普通ならあの太いネックチェーンとか、他の人なら凄いダサく成りそうなのに、有り得ない程似合ってるのヤバいわよね?)


 あの、目の前でヒソヒソ話しは良くないと思うよ?

 上流階級に文句とか怖くて言えないけど。なんだろ、悪口じゃ無いよね? 女子ってそう言うとこ有るけど、モモさんはめっちゃ良い人だから無いと信じたい。

 僕がタクトとおじさん以外に感動したのは、ギルドの管理官であるセシルさん以来だから、出来れば信じたいところだ。

 そう思ってると、シャラさんがトコトコと僕に近付いてきた。


「お願いがある」

「えっと、なんです?」

「こう言うポーズを、お願いしたい」


 眠そうな顔でポケットから端末を出したシャラさんは、ささっと端末を操作して僕に画像を見せる。

 中には、僕の服とちょっと似てる服を着た成人男性が、右手でハットを押さえながら左手でシャツを少しはだけてるセクシーなポーズをしていた。シャツのボタンが上から三つほど空いてる着こなしだ。

 特に害も無いので、僕は自分のシャツをプチプチしてボタンを開けて、願われた通りのポーズを取ってみる。


 -カシャシャシャシャシャシャシャッッ……!


 なんか凄い撮影された。

 なに、えーと、なに?


『警告。被写体に無許可の撮影は帝国法に反する。肖像権侵害』

「わっ……!?」

「あ、シリアス?」

『侵害された肖像権に則って、外部アクセスを敢行。データの消去を実行する』

「まっ、待っ--…………!?」


 無断撮影した事に怒ったシリアスが僕の端末から発言して、シャラさんの端末に不正規アクセスして画像を消したっぽい。


「…………シリアス? 違法アクセスはマズイよ?」

『否定。侵害された権利回復の為ならグレーゾーンで済む。無断撮影とそのデータ処理の為の違法アクセスなら、こちらが有利』

「……け、消されちゃった。何が、起こった?」


 混乱してるシャラさんを、あと次いでに「シャラ行ったー!」と騒いでたモモさん達も、ガレージに案内する。

 そこではグラディエラアームをガチガチさせてちょっとお怒りのシリアスが居た。


「紹介するね。僕の乗機、オリジンのシリアスだよ」

『よろしく。しかしラディアの権利侵害は認めない。ちゃんと確認すべき』


 一人でに喋って動くシリアスにぶったまげる三人。

 先日の話しで存在は知ってたんだろうけど、実際に目撃するとインパクトが違うらしい。


「ご、ごご、ごめんなさいっ」

『謝罪を受け入れる用意は有る。しかし、謝る相手が違う。権利侵害されたのはラディアであり、シリアスじゃない。強いて言うなら、一緒に写ってしまったシャム、この僚機シールドダングも謝罪の対象』

「シリアス、多分シャムはオリジンじゃ無いから人権が認められてないし、権利侵害についてはシロじゃないかな?」

『肯定。しかし、シリアスから見れば沈静化処置を受けたとしても、同じ古代文明を祖とする仲間』


 なんか、シリアスがシャムにも仲間意識を持ってくれてて嬉しい。


「本当に、ごめんなさいっ。少し、調子に乗った…………」

「ああ、いや、僕は構わないよ。ネットにバラ撒くとか、人に見せまくって画像を渡しちゃうとかは困るけど」

『その可能性が有るから、最初に許可を取るべき。まだお互いをそこまで良く知らない間柄に於いて、無断撮影は中々失礼な行為だと判断する。質問、シリアスのこの考えは間違っているだろうか?』

「全然! マル達も後ろから応援しちゃったけど、これはマル達が悪い! ラディアさんもシリアスさんも、ごめんなさい!」


 ポロンちゃんが制服に着替えて来るまで、三人は僕とシリアスにペコペコしていた。多分これ、『オリジンは気難しい』って通説のせいで余計に怖がられてる気がする。


「えと、僕は許すよ。シャラさんも別に、ネットにバラ撒いて僕を困らせてやろうかと思ってないでしょ?」

「勿論、誓って。あまりに服のセンスが神掛かってたので、ちょっと暴走した」

「今回はシリアスが怒ったけど、普段のシリアスはお茶目で可愛いんだ。あまり怖がらないでね?」


 それは乗り手だからではって顔されたけど、まぁその内分かるよね。タクトとかおじさん相手だと凄いフランクだし。

 取り敢えず僕は、シリアスのイメージ回復の為に体を張って、被写体になる事にした。なんか写真撮りたがってたし。


『…………アングル決定が甘い。そのポーズなら、この角度が良いと判断する』

「………………ッッ!? し、師匠と呼んでも?」

『シリアスは弟子シャラートラーナを受け入れる。精進すると良い』

「はい! 師匠!」


 速攻でイメージ回復してた。


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