第71話 帰宅はまだ。



 ネマのデコスケ野郎具合を改めて確認した後、一旦落ち着くのを待ってから話しを再開した。

 内容は地味だけど多岐に渡る。

 僕的には別にムニちゃんからお金取る気は無いんだけど、スーテム家との約束で、ムニちゃんは免許取得まで自分の生活費は自腹である。

 その金額の打ち合わせも必要だし、機兵乗りライダーとしての加入が前提なので将来的に乗る機体の機種も決めなくては成ら無い。

 他にも女装少年として過ごす事が決まってしまったムニちゃんは、持って来た着替えが殆ど無意味になったので、その調達も必要だし、その他にも細々としたアレコレを揃える必要がある。

 ムニちゃんは砂蟲の待遇がどうあれ加入一択らしいけど、砂蟲に所属する上での給与とかも事前に示す必要がある。

 普通に考えて加入しないと給与も分からない職場とかブラック超えて光を捻じ曲げちゃう漆黒の過重力空間ブラックホールだろう。絶対に社畜を逃がさない重力場だよ。


「じゃぁ、この条件で良い?」

「うんっ♡ (すりすり……♡)」

「………………ムニちゃん、聞いてる?」

「き、きいてるよっ……♡ (すりすり♡)」


 やっぱりもうダメかも知れない。

 弟ポジから妹ポジになって、何かから開放されたムニちゃんは僕へのスリスリが止まらない。そんなに、そんなにお兄ちゃんに甘える妹ポジが嬉しいのか…………。

 将来的な給与の定時を受けたムニちゃんは、やっと自由だと言わんばかりにスリスリが加速して、仕舞いには僕の胸元に顔をうずめて深呼吸し始めた。いや、まだ機体選び残ってるんだけよムニちゃん。今はそっちに集中してくれ?


「…………ふんふん♡ ふにゅぅあっ、ひぃにほぃしゅぅう♡」

「せやろか? いやそれより嗅ぐなや。僕も臭いつもりは無いけどさ、そんなに幸せそうな声が出るほどフレグランスじゃないだろう?」

「否定。ラディアは良い匂い。とてもフレグランス」

「え、マぁジぃ〜?」


 良い匂いらしい。自分じゃ分からん。

 自分でくんくんしてみても分からないので、早々に諦めた僕はムニちゃんをちょっと引き離す。膝の上で抱っこしたままだけど、僕の胸元でくんくんしながら深呼吸は止めなさい。背中が痒くなるから。


「あ、あぁッ、もっとくんくんしたぃ…………」

「こらこら、まだ用事あるからちゃんとしなさいって」

「うぅ、じゃぁまた、あとで、くんくんしても、いーい?」

「まぁ減るもんじゃ無いし……、別に構わないけども」

「…………えへへへぇ♡ おにーちゃん、ありぁと♡」


 ムニちゃんが将来乗る機体がまだ決まって無い。

 候補としては今のところ四択。


 一つ、当初の予定通りアンシーク。


 砂蟲には前衛の僕と後衛のネマ居るし、砲撃によるスイッチは僕も出来て、ネマが乗るシャムは輸送機でも有る。

 だから砂蟲に今一番必要なのは戦力じゃなくて補助力なのだ。

 そうすると最有力がアンシークかホワイトフットなんだけど、ホワイトフットが真に性能を発揮するのはガーランドをすら越える超辺境の未開拓地だけだ。それ以外は高額な専用契約回線を使って都市外でもネットワークが使えるから。

 すると補助の最有力がアンシークのみになる。


 そして次に、候補の二がデザリア。


 僕はシリアスを戦闘機に改修して来たけど、デザリアは元々局地工作機であり、要は多目的に使える作業用の期待なのだ。

 精密マニピュレータを内蔵したシザーアームをデフォルトで二本備えるデザリアは、様々な作業を熟すオールラウンダーであり、シャムに獲物を積み込む手伝いも出来るし、武装すればサブ戦闘機にも成れる。

 背中の空いたスペースに専用ユニットを積めば電子戦も可能で、センサー強化カスタムをガン積みしてアンシークモドキにも成れる。と言うかアンシークを一機バラして丸々センサーユニットに改造してからデザリアの背中に乗せれば、アンシークと同じセンサー能力が手に入る。


 それから三つ目、シールドダング。


 砂蟲にはもう既にシャムが居るけど、狩りの成果を積める輸送機は何台あっても困る事が無い。

 居住区画や僕達団員の機体の輸送をシャムに任せて、ムニちゃん用のダングは完全に輸送機として格納庫スペースを全部使ってギッチリ獲物を積み込める。

 前二つの候補と違って砂蟲の稼ぎに直結する選択肢と言える。


 最後の四つ目。ウェポンドッグ。


 戦力は足りてると言っても、多くて困る事も無い。

 小型で有りながら充分以上の戦闘力を有し、戦闘機の中では比較的安価で購入出来て、流通が多いからカスタムパーツも豊富に有る。

 僕との連携を全体に訓練して行けば僕とシリアスを上手く援護出来るサブアタッカーに成ってくれるし、後方火力であるシャムの直衛として配備すれば安全性も格段に上がる。無くは無い選択肢だ。


「どれが良い?」

「…………え、えらべなぃよぉ」


 シリアス的には四つ目が微妙な顔してるけど、ムニちゃんが砂蟲へ借金って形で機体を買うので、安い戦闘機は選択肢から降ろせないのだ。

 獣型を入れたら砂蟲が砂蟲じゃ無くなる感も有るし、戦闘機なら別にデザリアカスタムすれば良いんじゃねって話しだからパンチは弱いけども。

 でもデザリアと違って購入時点でも普通に強いのは魅力的だ。デザリアは結構なお金を掛けてカスタムする必要が有るからね。


「シリアスのオススメはデザリア。流石にゴシックロリータを与えるとは行かずとも、スイートソードにデザリアベースの廉価機体を開発させる予定も有るので、アンシークを丸一機内部搭載させる無茶な案も今なら通せると判断する」

「あー、そうか。そんな話しもあったねぇ。シリアスの古着はタクトにあげる約束だからムニちゃんには回せないけど、僕達がササッとデザリアを一機鹵獲して、改造する分には手早いし安くあがるね」


 鹵獲すれば購入費をガクッと落とせるし、その分をカスタム費に回せば額面ではウェポンドッグとそう変わらない値段でサブ戦闘機を買える。

 アンシーク並のセンサーも手に入るし、最有力候補はデザリアか。

 ゴシックロリータみたいにゼロからの特注なら馬鹿みたいな額のシギルが消えてくけど、あくまでデザリアをベースにカスタムするなら値段は段違いだ。


「アンシークをバラして組み込む案だけどさ、陽電子脳ブレインボックスの制限的には有りなの?」

「可能。陽電子脳ブレインボックスに掛かるモデルビーストロックはあくまで機体制御に掛かる物であり、システムの運用は別枠。例えばシリアスの陽電子脳ブレインボックスをシャムの身体に積んだ場合、概算で機動性が七割落ちると予測される。しかし、パイロットがトリガーを引くならウェポンシステムは十全に使える。センサー系も同様」


 なるほど。

 モデルビーストロックって言うのは陽電子脳ブレインボックスを別種の機体に積むと機動性が落ちて、種類が違えば違う程動かせなくなるセキュリティの事らしい。そんな名前だったんだね。

 でも、そのロックに掛かってるセキュリティは身体の動かし方が分からなく成るだけで、例え歩けない程のモデルビーストロックが掛かってても砲撃は行えるのだとか。

 同じ理由で、アンシークの身体丸ごと使って専用ユニットを組んで機体に乗せても、アリ型の身体を動かす訳じゃなくてセンサー機能を使うだけなら、他の陽電子脳ブレインボックスでも可能らしい。

 勿論、ダメだった場合でもアンシークのアリ型陽電子脳ブレインボックスごとセンサーユニットとして搭載するって荒業も出来なくは無いだろうけど、流石にバイオマシンの本体である陽電子脳ブレインボックスをそんな扱いしたくない。

 完全なオマケとして扱って、生きてる間はずっとセンサーだけ制御してろオラッ、とか、非人道的にも程があるだろう。


「他にも、敢えてダングを選び、ドローン化したデザリアをダングから操作して戦闘をする案も有る」

「………………え? なに? 待ってドローン化ってなに?」

「コックピットブロックを潰して専用機材を入れたバイオマシンをドローンと呼ぶ。そうするとライドボックスの様な装置から遠隔で機体を動かせる。そう言うシステムが存在する」


 調べてみた。

 うわマジで有るじゃん。

 本来人が乗る為のスペースを潰して、そこに機動入力を受け付ける為の通信機器を入れて、遠隔操作用のコックピットから機体を動かせるカスタムが存在した。


「これは、シリアス的にはどうなの? 有りなの?」

「肯定。勿論思うところが無くは無い。しかし、『酷い行い』と言える程の運用方法でも無い。ただコックピットが機体の外に有るだけ」

「あー、そう言う見方もあるのか」

「しかし、シリアスはラディアに直接乗って欲しいので、シリアスのドローン化は止めて欲しい」

「そんなの僕だって直接乗りたいから気にしなくて良いよ! 僕はシリアスに触りたいもん!」

「…………??? どろーん?」


 よく分かってないムニちゃんの頭を撫でながら思案する。

 スイートソードに開発を依頼してるラージリトルは、現在僕達が生活してるシャムすら積み込める大型上級機。

 なら、ムニちゃんはシャムの古着に乗って、ドローン化したデザリアとかで戦闘をすれば、かなり良い感じなのでは? 積載量、戦力、センサー性能が全部カバー出来るのでは?


「シャムのこの古着から居住区画も取り払って整備して、アンシークセンサーを積み込んだ新型デザリアのドローンを二機くらい繋げれば…………」

「一つのコックピットでドローンの操作まで行うには相当に特殊なコックピットと訓練が必要。しかし、ムニは賢いので将来的には可能と判断」


 大変優秀な奇跡的な子供ばかりが集まるちびっ子傭兵団砂蟲だけど、ムニちゃんに至っては別に奇跡じゃなくて可愛くて優秀だから受け入れた訳だし、コレも必定か。

 ネマは完全に激運による拾い物だったけど、ムニちゃんは関わる内に優秀さは一目瞭然だったし。


「このドローン化したバイオマシンって、どのくらい難易度高い?」

「そこそこ。今のラディアなら訓練すれば十全に。ネマだと数ヶ月の訓練が必要。ムニのポテンシャルはまだ不明なので何とも言えない」

「ふむふむ。このドローンシステム…………、えーと、製品名はハウンドシステム? ああ、パイロットが猟師で遠隔操作する機体が猟犬って事なのかな?」

「複数のドローンを操作するなら、まさに猟犬と言った運用も可能。追い立てて、ダングの主砲でズドン」


 ムニちゃんを置いてけぼりにして話し合い、結局ドローンは二機まで、それもデザリアのアンシークカスタムに落ち着いた。

 シャムの古着から居住区画を取り払えば小型六機は積めるだろうし、そうすれば二機のドローンを常時積んでても積載量は今と変わらない。

 それにドローン化した機体、遠隔猟機兵ハウンドとでも呼ぼうか。遠隔猟機兵ハウンドは増やせば増やす程操作が難しくなるみたいだし、その観点から見ても二機くらいが丁度良いと思う。


「うん、取り敢えずムニちゃんにはダングに乗って貰おうかな。ムニちゃん、それで良いかな? もちろん、ムニちゃんが何か特定の機体に乗りたいって言うなら考慮するけど」

「う、ううん、だいじょうぶ。ぼく、だんぐのるっ」


 候補の中では一番高い選択肢だし、遠隔猟機兵ハウンドを入れると更に上がる。けど、まぁ本人が良いって言ってるし。

 待遇諸々が決まったなら、あとは生活物資や雑貨だね。


「今から買いに行く? 後にする?」

「んーと、どっちがいいかなぁ?」

「ムニちゃん、シリアスが買った服以外は女の子物持ってないでしょ? 早い方が良いんじゃない?」

「…………おにーちゃんも、いっしょにおかいもの、きてくれる?」

「勿論。一応保護者だし?」

「じゃぁ、いく♡」


 そんなところでシャムが停止。駐機場に到着したみたいだ。


『はなし、きいてた。おみせのちかくのちゅーきじょー、えらんだよ』

「お、ナイスじゃんデコスケ野郎。後でご褒美だね」

『ごほーびは、さっきむにちゃんがしてた、にぃちゃのにおいくんくんがいい』

「…………いや、別に良いけど、そんなに良い物か?」


 そんな訳でお買い物へ。

 シャムを降りて駐機場から出て、人間規格の通りを歩いて商業ビルへ。

 市民で賑わうビルの中で案内板を頼りにお店を探し、ムニちゃんが必要とする物を買って行く。

 途中、ムニちゃんが下着をどっちで買うか悩んで、赤くなって悩みながら可愛いフリル付きの女性物に手を伸ばしては手を引っ込めるアクシデントがあったりした。

 その時はシリアスの案内で、『男性向け女性用下着』とか言う頭の悪い商品を取り扱うお店のテナントまで行って、まさにその商品が並ぶコーナーを彷徨うろつく事になった。

 男性向け女性用パンティとかを真っ赤になって選ぶムニちゃんを見て、店の店員が『えっ、えっ!? あんなに可愛いのに男の子なのっ!?』て、目をギラつかせるアクシデント追加。さり気なく視線を遮る様に動いて気を使った。

 探してる商品が男性向け女性用パンティだからね。それに手を伸ばしてる時点で男の子だからね。バレバレだね。

 この手の商品は僕もシリアスに渡されてるから感慨深い。ちんちんを良い感じに隠して、仮に下着姿を見られても気付かれない様な物だからね。おっきしたら流石に隠せないけど。


「随分可愛いの買ったねぇ」

「…………ぅう、やっぱり、へんだよねっ」

「まぁ、一般的では無いんだろうけどね。でも可愛いし、良いんじゃない? 似合ってるしさ」


 買い物は大体終わったけど、まだ四人でテクテク歩いてビルを物色中。

 買った物はシャムに送らず、買い物袋を手に持ってのショッピングだ。偶には良いよね。

 大体さ、ムニちゃんはやたら気にしてるけど、実際にその商品が売ってるって時点で、確かな需要があるって事に他ならないんだよ。なら別に言うほど気にする事ないでしょ。


「お、おにーちゃんは、ぼくがこのぱんつはいてたら、うれしい?」

「いや流石に僕もムニちゃんが履いてる下着までは気にしねぇよ。あくまで物が可愛いねって意見だよ? 履いてる姿を想像して可愛いねって言ってる訳じゃ無いからね?」

「…………ざんねん」

「え、なに? 君は見られたいのかい? 女の子扱いされたいならちゃんと恥じらいを持とう?」

「ぇと、そのっ、かわいいって、いわれたくてっ…………」

「それなら別に下着姿とか見せなくても今のままで超可愛いから大丈夫だよ?」

「…………うれしっ♡」


 照れてはにゃぁって笑うムニちゃん。ほんと何でこうなったのか。


(ど、どーしよう。ねぇちゃ、むにちゃんがせっきょくてきすぎて、よそーいじょーに、きょーてき)

(シリアスは現在鉄壁の構えなので、困ってない)

(ぬぅっ、こまってるの、ねまだけか…………!)

(羨ましいなら、何時も通り甘えれば良いと思う)

(そう、するっ…………)


 ムニちゃんの頭を撫で撫でしながら、もう冷やかす物無いし帰ろっかなって思ってたら後ろからネマに突撃された。


「な、なに、どしたのネマ? 突然突っ込んで来たら危ないでしょ?」

「…………むぅ、ねま、さみしぃ。にぃちゃ、むにちゃんに、かまってばっか」

「あー、そだね。うん、ごめん。ほら、抱っこしてあげるから許せ許せ」


 寂しかったらしいネマを抱き上げて片腕に乗せて座らせる形にする。

 年齢差的にかなりキツい行動だけど、服にパワーアシストが着いてるので何とかなる。

 僕の頭に抱き着く形でバランスを取るネマをわっしょいわっしょいと持ち上げながら宥めると、今度はムニちゃんが羨ましそうに僕を見てる。うん、流石に二人同時は無理だ。許しておくれ。

 ゴスロリ二人とメイドを侍らせてる僕はそこそこ目立ってるし、更にこの微妙な身長差でネマを片腕抱きするのは注目追い炊きなので、ムニちゃんまで抱き上げたら完全に奇行種だ。諦めてくれ。


「ああ、そうだネマ。一つ忘れてたよ。シャムの代金、どんな処理にしようか?」

「…………どう、とは?」


 途中、ムニちゃんの待遇に関して話してた内容から、ふと思い出してネマに聞く。


「いやさ、まだ返済中なのに乗り換えそうじゃない? それで乗り換えたシャムの古着に新しい陽電子脳ブレインボックスを入れてムニちゃんの機体にする流れだし、シャムの購入代金に着いての処理が必要だと思うんだよね。あれ、一応は借金って形だし?」

「…………あー、ゅんっ。りかいした」


 ネマの借金はまだ返済途中。かなりの額を既に返済してるけど、まだ完済では無い。

 そんな中途半端な時に、お金を払ってた機体がムニちゃんへと流れたら、既に払った額と返済途中の金額は、どんな扱いにすれば良いのか宙ぶらりんなのだ。


「……………………うーん? にぃちゃ、あのねっ、ねまは、すなむしにずっといるつもりだから、ねまはなんでもよいと、おもってぅ」

「そう? でもなぁなぁはダメだと思うんだよ。かなりの額だし」

「じゃぁ、しゃむのいまのからだは、すなむしのびひんってことにして、おかねかえして? それで、あたらしいきたいのおかねは、またしゃっきんで。そーすれば、とりあえずむにちゃんにだんぐかして、そのうちかいとりってかたちで、いいんじゃない?」

「あー、なるほど? うーん? うん、それでいっか」


 思ったより良案だった。

 つまり、シャムの今着てる古着を砂蟲が買い戻して、それをムニちゃんに貸し出せば良いんだな。ムニちゃんが正式に欲しくなったら、その時に売れば良いか。

 面倒な支払い計算とかゴチャゴチャするよりシンプルで良い。


「てゆーか、ねま、しょーじきね? きゅーりょーも、いらないよ?」

「いやそれはダメやろ。タダ働きは悪だよ」

「じゃぁ、そのかわり、にーたんにあまえるのが、ねまのほーしゅう」

「やっす上がりだなぁ……。まぁ、そうだな。そう言うなら、少しそっちも変えようか?」


 買い物袋を提げてシャムに向かいながら、ちょっと団員の契約面を考える。


「じゃぁこうしよう。取り敢えず、シャムの新機体も砂蟲の資金で買って、当面のオーナーは僕って事にしよう。借金は要らない。で、ネマにはムニちゃんと同じ様に機体を貸し出すって形で、ネマが正式に所有したくなったら買取って事にしよう。その代わり、機体とかの資本は全部僕が持つ事になるから、依頼を砂蟲で受けたりしてネマも参加した仕事の報酬を少し下げよう。狩りも同じで」

「わかた。いちわりくらい?」

「そだね。そのくらいかな? ムニちゃんもネマと同じくらいの仕事を任せる様になったら、同額の報酬でどうだろう? 勿論、ネマもムニちゃんもソロで熟す仕事の報酬については何も言わないから」

「ぼ、ぼくもそれで、だいじょぅぶ」

「ねまも」


 そう言う事になった。

 ふむ、これでネマがシャムの買取を言い出さない限り、大手を振ってシャムに住めるぞ。


「…………あ、陽電子脳ブレインボックスだけは買ってね。相棒本体の所有権くらいはちゃんと持ってて。勿論、機体を用意したらムニちゃんもね」

「うんっ」

「りょーかい。ねまも、しゃむはだいじ」


 良い事だ。

 と言う訳で、三歩後ろを歩いてるシリアスにお願いしてお金の処理をして貰う。その手の記録付けてるのシリアスだから、今までネマが僕達に支払った返済分からシャムの陽電子脳ブレインボックス代を引いて振り込んでもらう。


「完了」

「これでネマも、結構な金持ちだよね」

「でも、つかうとこない」

「…………そうなんだよなぁ」


 それは僕にも言える事だった。

 僕とネマには趣味が無い。シリアスには女装(させる)趣味があるし、ムニちゃんも釣りが趣味だ。

 でも僕とネマって、機体にお金掛けるくらいしかお金の使い道が無い。そして僕はまだしも、ネマは機体の資本を僕に帰属させちゃったから、尚更お金を使う事が無くなった。


「お金なぁ。うん、お金……」

「ねまも、しゃむにおかねつかう?」

「装備品だけ自腹だと所有の所在が訳分からん事になるよね」

「でも、ねまも、しゃむにはうんど? ほしい」

「あー、そうか。シャムにも遠隔猟機兵ハウンド使わせる手もあるのか」


 ネマにも二機、遠隔猟機兵ハウンド用に仕立てたデザリアを持たせて、シャムに積んでおくのも良いかも知れない。

 シャムと古着に追加する新しいダング陽電子脳ブレインボックス。その二機が有れば計四機の遠隔猟機兵ハウンドを積んでても、総合的な積載量は上がってる。


「…………うーん、スイートソードにはもう、シャムの新しい身体依頼しちゃってるけど、今更仕様変更とか連絡しても怒られないかな?」

「恐らく、ハウンドシステムを導入するくらいならば作業量的にも問題無い。しかし、ハウンドシステムは他社製品なので、その兼ね合いは有ると思われる」

「あー、うん。そうね。でもそれは、追加で用意する遠隔猟機兵ハウンドをスイートソードに任せるって形で何とか相殺出来ないかな」


 ビルを出てシャムに帰った後も、新しい可能性であるハウンドシステムに着いて考える。

 仕様変更とかは早い方が良いと思うので、一応スイートソードにメールを飛ばす。…………シリアスが。

 うん、言うて僕もまだ十歳だし。スラムで磨いた賢しさで誤魔化しては居るけど、本当に大人が悩む様な契約とか諸々の対応とかは流石に自信が無いので、その手の窓口はシリアスにお願いしてる。

 あー、やっぱりシリアスに甘え過ぎてるよねぇ。今度、何かシリアスに改めてお礼でもしなきゃ。


「よし、じゃぁ買うもの買ったし、ムニちゃんの処遇もちゃんと決まったし、サンジェルマンに帰ろうか。僕もおじさんとタクトに会いたいし」


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