第32話 ゲームするだけで。
人生、後にも先にも影響を及ぼし続ける選択がある。
例えば、今目の前に居る人とか。
「…………ぬぅぅうん」
アズロンさんが、今からライドボックスを注文する。
けど、ご存知の通り、ライドボックスは
サソリ型の
ライドボックスでも、データ上の機体制御を
体型が似ている機体、つまり四足歩行なら四足歩行、虫なら虫と言った形での積み替えは可能だ。
でも、本来の規格から外れた使用は当然ながらバイオマシンの性能を著しく落とす事になる。それも、規格から外れれば外れる程に大きく落ちる。最悪は歩く事さえ出来なくなる。
沈静化した
けど、無理だそうだ。
性能的には可能らしいんだけど、古代文明の法律で積み替えには制限があったらしい。その規制が強固なシステムロックとなって
それで、ライドボックスの
まぁ、つまり何が言いたいか。要するにアズロンさんが自分の機体を選べないのだ。
バイオマシンが好き過ぎて、自分の低スペックでは恐れ多過ぎて乗りたくないって言う好き好きの民が、いざ「乗って良いよ!」と言われても、乗りたい機体が選べないのだ。
好き過ぎて、全部乗りた過ぎて、選べ無いのだ。
「その、ディアラ君。オススメとか……」
「あ、僕ってシリアス以外に乗った事が無いんで、カタログスペックを見た評価からに成りますけど、構いませんか?」
「構わんとも! 参考にする!」
僕も、流石に世界中のバイオマシンを全部知ってる訳じゃない。
けど、最近は自分でネットで調べたり、元々バイオマシン狂いだった父から貰った知識もあり、寝泊まりしている整備屋サンジェルマンの主、オジサン・サンジェルマンから教えて貰った知識もある。
なので、ガーランドで見掛ける機体で良いなら、今は結構詳しい。
「まず、アズロンさんに適さない機体から行きましょう。もちろん僕の意見でしか無いので、無視してくれても構いません。けど、僕に決定権があったなら、まず却下する機体だと思って下さい」
「ふむ、よろしく頼むよ!」
僕はアズロンさんに合わない機体を教える。
「まず、小型下級の機体全般。アンシークとかですね。止めましょう」
「ちなみに、理由は?」
「小型下級は小型中級とすら一線を画すくらいに、パワーが弱いんです。機体が小さいので高性能な
「…………なるほど、理解した」
「次は、逆に大きい機体も適さないと思います。大型上級から中型上級くらいまではゴッソリ諦めましょう」
「………………また、理由を聞いても良いかね?」
「はい。アズロンさんは自分の能力に限界を感じて諦めてましたよね。なら、武装を大量に装備出来てしまう大型は、逆に戦闘が複雑化するのでオススメしません。大きな体を重装甲にすると必要以上に鈍足になり、そう成らなくても的が大きいから必要以上に撃たれます。回避運動が求められると今回のコンセプトから外れますし、あらゆる意味で適さないと思います。今回は、的が程よく小さく、重装甲化してもそこそこ動けて、かつ程よい数の高火力武器を積める機種が良いでしょうね」
イメージだと、大きな機体を重装甲化して、強くてデカい武器乗せれば今回の目的に適いそうだけど、実は違う。
物の質量とかって、大きく成れば成る程いくらでも、加速度的に増えるのだ。体積の増え方がそんな感じなので。
で、機体が重ければその分高性能な
そこに大型武器で重武装までしたら、マジで動けなくなる。旋回すら怪しい。
「なので、そこそこ動ける重装甲化をするなら、程よい大きさを選ばないとダメなんですよ。小さくてもパワーが足りない。大きいと体積がヤバい。なのでパワーが有り、重過ぎない機体がベストなんですね。例外を上げるとしたら、ダングですかね? あれ
ダングはそもそも輸送機なので、重い物を運ぶのが仕事なのだ。重くて動けなーいは話しにならない。なのでダングは例外だけど、他の普通の機体は、まぁ戦闘機動が前提だから、機動力と装甲のバランスなんて最初から計算されてるのが殆どだ。それをコッチから崩して専用機にしようってんだから、バランスを崩しても大丈夫そうな機体を慎重に選ばないといけない。
「なるほどねぇ」
「すごいですぅ……」
「そんな訳で、僕がオススメするのは、まずダングです。これはもう、どれだけ重くしても動くので、しかも直線なら普通に早いので、ガンガンヤバい装甲を積んで、鬼程火力が高い火砲を三つか四つ積めば、それだけでアズロンさん用になるかなって思います。欠点はデカい事。利点もデカい事。あと輸送機なので、ポロンちゃんが機体を手に入れた後も、一緒に運んであげることも出来ます」
「ふむ! ポロンの機体も運べると言うのは、魅力的だね!」
「お父様と一緒ですぅ!」
デカいので、お家で管理するのも大変だと思う。けどそれさえクリア出来るなら、重武装ダングって結構な数の傭兵が愛用してる実用的なカスタムだ。永久旅団も戦争で困らせられたって言うし。
その噂の狙撃特化機体に付いて調べたんだけど、本当にゴリッゴリな狙撃特化だった。アローランスとか目じゃないくらいの狙撃特化。
砲門は一つ。超長距離狙撃用大型パルスライフルだけ。そして大型になるほどエネルギー効率がゴミになる特徴があるプラズマ系とパルス系の内の、パルスライフルの大型兵器。しかも超長距離狙撃用って言うより多くエネルギーを食いそうな尖った物を使う為に、最高品質の
ちょっと感動したよね。此処まで尖れるんかって。
そんな訳で、実はダングって使い易くて超強い機体なのだ。小回りが効かないけど、逆に余計な事せず真っ直ぐ走ってブッパするのが仕事って思えば、初心者にもオススメ出来る。
「次にオススメするのは、まぁ身内贔屓なんですけど、デザリアですね。地味ーに人気が有るけど、ガーランド以外だとぶっちゃけマイナー機なので、カスタムパーツも少なくて悩ましいんですけど、程よく小さくて重装甲化しても軽いままで居られます。アローランスの機体が良い例ですね」
テールで高度を稼げるのも大きい。狙撃に向いてるし、フレキシブルに動くのも強い。
「それに、戦闘だけじゃなくて、ご家族で出掛ける時とかにもちょい乗りする前提ならサイズが丁度良いですしね。なんだかんだ、大型とかだと入れないお店や通れない道も有りますし。それに、アームとテールを砲門にするなら武装三つで丁度良く、背中が平たいのでカーゴとか積めば物資輸送にも利用出来るますよ。色々と出来ることが多いのもデザリアの魅力です」
ぶっちゃけると、重装甲砲撃特化だとダングに軍配が上がる。輸送機だし色々出来る。けど、普段からの使い易さって意味だと小さくて小回りが利くデザリアになる。
背中にカゴを増やして、砂漠で残骸集めとか。アームで摘んで背中にポイって出来る。って言うか、そのくらいの自由度が有るのが強みだ。フレキシブルに動かせるアームの存在って超大きいよ。
「このアームって、獣型にはまず無いですから、欲しければ別途増設する必要が有ります。同じ虫型でもアンシークもダングも、ハサミとか無いでしょう? この自由に動く腕って本当に、デザリアくらいにしか無い利点です。他にあるとしたら、カニ型かな? まぁとにかく、戦闘以外への使い道が無限大過ぎる機体なので、それを理由にプッシュします。ああ、テールにもハサミ付けたらアーム三つですね。神かな?」
流石に身内贔屓が露骨になって来たので、これ以上は自重する。でもデザリアはオススメだよ。
「それで、残り二つがぶっちゃけ本命ですね」
「心して聞こうか」
「わくわく、わくわく……」
口でわくわく言ってるポロンちゃんが可愛いんじゃぁ。やっぱりペットっぽいと言うか、妹的な?
まぁ良い。最後に二つ、本命のオススメ二機種をドン。
「残り二つはどちらも小型上級の偵察機ですね。片方は偵察戦闘機。もう片方は高速偵察機です」
「偵察機か。アンシークと同じ?」
「一応そうですね。ただ、アンシークって分類が小型下級広域偵察機って物で、そこに居るだけで広範囲をレーダー探知するって言うコンセプトなんですよね。あとは半分、工作機みたいな扱いでして」
アンシークはなんと言うか、お尻全部を使って組まれてる超広域レーダーが売りで、逆に言うとそれ以外に強みが無いのだ。デザリア並に器用な訳でもなくて、移動も早くないし火力も無い。個人的にはチマチマしてて可愛いと思うんだけど、安くて小さくて一番手軽に買える機体って以外は、結構人気が微妙と言うか。売れてるんだけどね。
チーム組むなら一機は欲しいところだけど、そのくらいに優秀なレーダーなんだけど、他に何も出来ないって言う。
「で、偵察とは名ばかりの置型レーダーじゃなく、本当に偵察しに行く為の偵察機が今回のオススメですね。小型上級偵察戦闘機、ブリッツキャット。それと小型上級高速偵察機、スピードモス」
ブリッツキャットはセルクさんが乗ってる機体だ。偵察のついでに戦闘も熟す小型機で、その偵察機ゆえの強力な探知系を使って砲撃地点を観測して、戦闘機用のパワーを持って重装甲化しましょうって計画だ。
そしてもう一つは、高速偵察機スピードモス。イモムシ型の機体で、機体のイメージを伝えるならば、小さくして輸送機能を消した代わりに速度とレーダーを強化したシールドダングって感じかな。
「ふむ、スピードモスか。この辺ではあまり見ない機体だが、帝都の方だと多いらしいね」
「早いので、何かと重宝するでしょうね。スピードモスは小さいダング扱いして、速度を殺して重装甲化、それと重武装化をすれば、小さくて使い勝手が良い砲撃機になるかと思います。速度を殺すのが勿体ないって思う人も居るでしょうけど、モスだったら多少機動性殺したって、やっと並の移動速度に成るだけです。それが嫌ならブースターでも積めば良いので。モスは車輪走行だからブースターとも相性が良いですし」
ダングとモスはバイオマシンでも異色の機動なんだよね。キャタピラとタイヤだし。基本六ペダルのスライド操作出来ないじゃんと思われそうだけど、なんとコイツらスライド入力すると転がるんだよね。横にゴロンって。
もちろん都市でやると大事故どころか大惨事だから、絶対やっちゃダメだぞ☆
一回転するまで止まらないので、下手したら小さなビルとか薙ぎ倒しかね無い。もしそんな事をしたら人生を八○回くらい終わらせるに足るお金を請求されるだろう。払えなければ、まぁ、うん。突然地獄を見る。
いや、お金を稼いでる傭兵なら払えるかも?
「…………ふむぅ、ダングの時点でかなり惹かれていたが、小さくて使い勝手が良いとなると、うむぅぅ」
「シリアスより大きいので、シリアスより大きい
しかし、アズロンさん。此処まで来てもぬぅぅぅうから進まない。
選べないんかーい! さっきもう何か決める感じだったじゃん。
「アナタ? そんなに悩むなら、悩んでるもの全て買ってみたら?」
「それなら現存するバイオマシン全機種になるぞ!?」
「…………怒るわよ?」
「すまんかった」
「でも、良い案かも知れませんね? ほら、アズロンさんだけでは無く、奥様やセルバスさんも免許を取れば、その日は誰の機体で移動するか、なんて言って毎日取っかえ引っ変えに出来ますよ?」
「それだッッ!」
それらしい。
そんな訳で、奥様とセルバスさんも参加が決定した。
アズロンさんはまた依頼内容を変えようとしたけど、ポポナさんとセルバスさんは別に戦闘機免許要らないし、輸送機免許分の教導ならオマケすると僕は言った。
「……良いのかい?」
「と、言うか。もう既に破格の報酬ですし、最後には特別報酬も有るんですよね? オマケくらいしてもバチは当たらないと思いますよ」
そんな訳で、ポポナさんとセルバスさんは輸送機免許で乗れる機体を選び、残った中からアズロンさんが選ぶ事になった。アズロンさんが先に選ぶと延々と悩むので。
「デザリアは工作機で射撃武器も無いですから、ゼロカスタムなら輸送機免許で乗れますよ。ダングも同じですけど、大きくて普段使いはちょっとあれなので、アンシークにしますか? アンシークもゼロカスタムなら頭部のシザーバイトしか武装無いので、やっぱり輸送機免許で乗れます」
「あら、ならワタクシはアリさんに乗ろうかしら」
「でしたら、私めはデザートシザーリアに乗りましょう」
「ふむ。ウェポンドッグは小型中級だったか。なら、みんな小型機だな。つまりダングで運べるな? だとしたらワタシは、普段使いの時には家族やセルバスの機体に乗せてもらって、傭兵業をする時はダングを使おうか! そうすれば、妻とセルバスがその内傭兵業に興味を持った時にも、機体を運べて便利だ!」
本当はアズロンさん、ずっとずっと傭兵業に憧れてたそうだ。
ポリシーが邪魔をしなくなり、お金も沢山あり、企業のトップなだけあって時間の調整も効くので、趣味で傭兵業をするくらいの時間は捻出可能。
むしろ、これだけ稼いでやりたい事が出来無いなんて不健全だ。アズロンさんはちょっとだけ傭兵家業に本気になった。
「そもそも! 私がお金を稼ぎ始めた一番最初の理由は! 自分のバイオマシンが欲しかったからだ!」
「おおー、じゃぁこれで、夢叶うんですね」
「そう! バイオマシンが好き過ぎて、夢が叶う段階でポリシーが邪魔をしていたが、それもラディア君が取り払ってくれたからな! もう、ワタシは夢を諦めないぞ!」
そうして、アルバリオ邸にライドボックスが三機増える事になった。
アズロンさんは金をブン回して音速注文。何が凄いって、コックピットは本物と同じサイズだから大物なのに、アズロンさんが決済してから家に届くまで一○分弱しかかかってない。そして業者を入れて速攻でセッティング。
ちなみに、ライドボックスがどんな物かと言えば、黒い大きな箱だった。
マジでライドするボックスなのね。
「じゃぁ一旦、VRバトル内に移動しましょうか。確かバトルシティの端っこに機動練習出来るインスタンスエリアがあったはずなので、そこで練習しましょう」
イヌ型。ダンゴムシ型。アリ型。サソリ型。アルバリオ邸の専用部屋に並んだ四つのライドボックスに収められた、四種類の
凄いよね。ポロンちゃん以外の人が乗る機体、全部虫型。
誰も気にしないんだろうけどさ。ウェポンドッグの生産元であるサンダリア共和国と、シリアスや他の虫型を作ってたハイマッド帝国がガチガチの敵対国だと知ってる僕には、なんか不思議な物を感じてしまう。
「よし、じゃぁ僕もログインしようか」
『了解。外の駐機場で待ってる』
アルバリオ邸の外に出て、駐機場に居るシリアスに乗り込む。
その際、セルバスさん以外の使用人さんに「お帰りですか?」と聞かれたので、事情を説明した。お帰りの準備はしなくて大丈夫ですよ。
お金持ちの家は帰るだけでも色々と有るので大変だ。
「さて、ログイン--……」
『停止推奨。ラディア、一つ忘れている事がある』
「……ん? 何?」
『女装。プレイヤーネームが同じなので、そのままだとマズイ』
……………………嘘やん。
信じたく無かった。いや、ダメじゃない? 持って来てないよ?
『こんな事も有ろうかと』
「嘘じゃん」
なんで用意してあるの? どうやって用意したの? なんで用意したの?
コックピットの奥の方に、ちょっとした物を仕舞って置けるスペースがある。そこのコンテンツの一つガコッと勝手に開き、中には何やら布っぽい物を梱包してる透明な袋がががががが……………。
「なして?」
『可愛いから』
ものっそい簡潔な答えが返って来た。愛され過ぎて涙が出て来る。
しかし、確かに身バレは怖い。僕は文句も言わずに女装を開始する。シリアスの中で裸になるの、めっちゃ恥ずかしい。全部見られてしまう。
「…………いやん」
『記録した』
「いやごめん許してッ!?」
『記録した』
記録されてしまった。二回言われた。大事な事だったのかな。
ちくしょう。しかもなんか地味に、ケースの中にオートメイクパイセンが居るじゃん。お前二機目かよぉ……。無駄遣いぃ……。
コネクテッド・ヘアコンタクトも完備され、まさかの完全クオリティでの変身だ。せめて簡易型かと思ったのに…………。
「どうやって用意したの? 誰が手伝ったの?」
『オジサン・サンジェルマンの所有するボットの中から、比較的小型の物を借りて、シリアスがボットを操作してコックピット内に仕込んだ』
「自分で仕込んだって言ってるのコレ蛇足だったって自覚あるじゃん」
『そんな事は無い』
完全女装した後、僕はもう色々諦めてVRバトルにログインした。数分前にアルバリオ邸の中で別れた男がきゃるっきゃるになってる事を、僕はどうやってアズロンさん達に説明すれば良いのか。
『ログイン完了。フレンドのポイントをマークする』
「ポロンちゃんは、…………って目の前じゃん」
良く考えたら、ログアウトしたの此処だもん。当たり前じゃん。
僕は早速ホロ通を入れる。ホロ通ホロ通。
『あ、ラディ--……』
通信が繋がった瞬間、にぱって笑う眩しい顔がピタって止まる。僕は時間を停止させる能力を手に入れたのかも知れない。使用方法は女装なので可能なら使いたく無い能力だ。
『……………………なんでです?』
「僕が聞きたい」
ちなみに、もうボイスチェンジモジュールは起動してるし、エフェクトランチャーも動いてるので、僕の周りはキラッキラしてる。
『…………やっぱり可愛いです』
「あ、ありがとう。…………あの、なんかシリアスがコックピットにオートメイクプリンタ積んでてさ、後で使う? シリアスの演算したメイクって凄いよ。ソースは僕の今の顔だ」
『………………ちょっと興味あるです』
それから、初ログインなら他の三人も此処に居るはずなので、僕は直立不動で一ミリも動かないダングとデザリアとアンシークを見付けて、スキャニングする。ビンゴ。
まずはローカル通信で繋ぐ。途中、やっぱり機体の通信が分からなかったのかポロンちゃんのコックピットにアズロンさんとかが聞きに来るシーンが見えて面白かった。
本物そっくりなのに、奥の方に見えてる壁がガチャって開いてアズロンさんが入って来るの凄いシュールだった。
技術的にはアレなのに、ライドボックスってガワが凄まじく簡素なんだよね。カッコ良く中に入れる扉とか、そんなん無い。本当に部屋に入る扉みたいにガチャっと開く。しかも手動。
で、ローカル通信で繋いでから事情を説明して、その後にホロ通信って予定だったのに、ポロンちゃんのコックピット経由でバレてしまったからもう良いや。
五人でホロ通信を繋いで、僕の女装で全員を改めて驚かせ、それから事情を説明した。取り敢えず、世の中にはネットリテラシーと言う考え方が有るらしく、僕が「身バレ防止を徹底してます」と言えば、大人三人は皆、凄い納得してくれた。助かった。
それで、この場でポロンちゃん以外の三人に簡単な歩かせ方だけを教えて、ゆっくりゆっくり初心者歩きをしながらエリアを移動する。
都市内なら戦闘は発生しないので、インスタンスエリアまでは快適だ。
「考えたらこれ、一緒にゲームしてるだけで一日に一○○○シギル? 働いてる人達に怒られない?」
『あっはっはっは! 大丈夫さ! これは立派な専門職業の技術供与なのだからね!』
それもそうか。
「はい。到着しました。此処でポロンちゃんとアズロンさんには戦闘機動まで、ポポナさんとセルバスさんには移動方法のみをお教えします」
『よろしく頼むよ!』
『お願いするです!』
『お願いねぇ〜』
『お手数をお掛けします』
ホロ通信を繋いで、ゲーム的にもパーティ設定をして置けば、同じインスタンスエリアに入れる。つまり到着したエリアには僕ら以外誰もいない。伸び伸びと練習出来る。
練習用のエリアは、何も無い無機質な広場だ。でも、本当に何も無いって訳じゃない。必要ならゲームメニューから様々なオブジェクトを生み出して設置が出来る。リアルでもゲームだからね。
「では、まずポロンちゃん。君はアズロンさんに、僕が教えた基本動作を教えて見て? 人に教える事で、自分がどのくらい理解してるのかを客観視出来るから。それでまた分からない事があったら、僕に聞いてね?」
『わ、分かりましたです! ポロンがお父様にお教えしますですぅ!』
「それで、アズロンさんはポロンちゃんから一度習って、基礎の基礎の基礎を覚えて下さい。それと、ポロンちゃんの教え方がアレ過ぎて全然分からないとかって場合は、ポロンちゃんに遠慮する事無く僕に聞いて下さい」
『了解した。ポロンにしっかりと先生の才能がある事を期待しようか!』
『ま、任せてですぅ!』
まずは戦闘機免許志望の二人を捌く。これで少し時間が空く。
その時間を使って、さっさとポポナさんとセルバスさんに免許を取らせる。
「ポポナさん。セルバスさん。正直なところですね、輸送機免許くらいなら、本気で練習すると早くて三日、遅くても一週間くらいの訓練で、実技は通れます。ぶっちゃけ問題は筆記です」
『あら、そうなの?』
『つまり移動だけならば、そう難しい事は無いと……?』
「そうですね。なんと言うか、嫌な言い方になるんですけど、僕がポロンちゃんに三○分教えただけで、ポロンちゃんがアズロンさんに基礎の基礎くらいは教えられる様になるんですよ?」
『…………ふふ、確かにそうね?』
十歳が十歳に三○分教えただけでコレなのだから、ぶっちゃけ輸送機免許の実技は楽勝だ。強いて言うなら機体の大きさを把握しないと簡単にぶつけてしまう事と、大き過ぎる物を動かす実感が湧くと恐怖を感じてしまうくらいか。その二つを克服出来るなら、マジで移動だけなら簡単に覚えられる。
勿論、VRバトルなんて便利な物がある前提だけどさ。これ現実で実機だと、何かを壊さないか不安になって、マトモに動かせないと思うし。
「筆記の授業も僕がやるってのも、まぁ手なんですけどね。正直あれ、市販の専用テキストを見て勉強する以外にやる事無いですし。…………ぱぱっと免許取っちゃいましょ? それで、戦闘機免許取るまで機体に乗れないポロンちゃんとアズロンさんに自慢しちゃいましょ?」
『んふっ、ふふふふふっ、それは楽しそうねぇ♪︎』
『少し、気合いを入れて学ぶとしましょう』
輸送機免許は筆記さえ通れる頭が有るなら、マジで楽だ。正直ビークル免許取るより楽だと思う。
僕は二人に移動の基本六ペダルを改めて教えて、更にエリア内にメニューからオブジェクトを展開して練習用のコースを作る。
直線曲線は当たり前、右回りと左回りの三回転する渦巻きコースや、一度ハンガーにバックで駐機してからコースに戻る場所等を作って、全部繋げる。
「これをまず、練習して見て下さい。オススメは、ゴールした後に、ゴール地点からそのままバックでスタート地点まで戻って来てワンセットとする練習ですね。このコースを全部バックで歩けたら、もう実技は半分クリアしたも同然ですよ」
『後ろ向きに動くのは、大変そうね?』
「外をモニターで見るタイプの機体なら、バックもモニターで見れてかなり楽なんですけどね。キャノピータイプの機体だとバックカメラはコンソールモニターに映るので微妙に大変ですよ」
『…………私めはソレで御座いますね』
「ああ、そうですよね。デザリアはキャノピータイプの代表みたいな感じですし」
輸送機志望の二人はこの課題で大丈夫だろう。これをクリアしたら、もっと難易度の高いコースを用意して、それもクリアしたらもう言う事ない。あと筆記頑張ってってなる。
「じゃぁ、お二人はコース頑張って下さい。その間にポロンちゃんとアズロンさんを教えますので」
『ええ、行ってらっしゃいな。こっちも頑張るから、よろしくね』
『バイオマシンに乗れるなら、都市の専用駐機場も使えますからな。流通ギルドと商業ギルドを利用する時に専用駐機場を使えると大分楽なのですよね。良い機会を下さったラディア様には感謝を……』
イケオジの銀髪オールバック執事にホロ通信の向こうから恭しくお辞儀されるとテンション上がる。
やる事はやったので、僕は二人に断ってからポロンちゃんの方に行く。
「こっちはどう?」
『順調です!』
『そうだろうか?』
「え、どっち?」
ああ、うん。見たら分かった。
僕は基本六ペダルを教えて欲しかったんだけど、ポロンちゃんはササッと流してアクショングリップ行っちゃったんだな。
戦闘機免許って事で、気が逸ってるのだろう。
「ポロンちゃん、機動制御をしっかり覚えないと、僕と戦った時みたいに、逃げる事さえ出来ないよ? 武器の使い方はその後が良いね」
『そ、そうですかっ!? あわわわ……』
『ふむ、やはりそうだよね? ダングなど特に小回りが効かないのだし、余計に戦闘機動はしっかりしないと』
「ダングの質量なら取り敢えず突撃して体当たりも手ですけどね。まぁそれも、基礎を覚えた後ですよ。ダングはスライド操作が特殊なので大変ですけど、足周りをカスタムすれば普通のスライド移動も出来るように成るので」
ちなみに、此処はVRバトルなので、ダングでログインしても最初からある程度の武装が施されてる。他の非武装系の機体も同じだ。
その初期装備を使って、ポロンちゃんの授業で砲撃させられてたアズロンさん。教えが分からなかったら来てと言ったけど、教えが分かる上でなんか違う気がしてたって所か。これは僕が悪いな。
「じゃぁ、改めて二人にも基礎を教えますので、ちゃんと聞いて下さいね」
『わかったです!』
『了解した。いやぁ、年甲斐も無くドキドキするね! ゲームでも、バイオマシンに乗れるのはこんなに楽しい!』
ある意味、既に長年の夢の中に居るアズロンさんは、テンションがヤバいレベルで跳ね上がってる。落ち着けるのが大変そうだ。
僕は何とかテンションの高いバイオマシン好き好きの民を宥め、その手網を握りに行く。
「では、まずお二人もアッチの二人と同じようなコースをやりましょうか。でもポロンちゃんが砲撃練習したがってるみたいなので、コースには射撃目標も設けて難易度上げときますね。ゴールするまでに討ち漏らしを出さずに完走しましょう。あ、止まっちゃダメですよ? 最低でも巡航速度を維持して下さい」
こうして、僕の『ゲームするだけで報酬が発生する』生活が始まった。
代わりに、ゲームするだけで何故がガチガチの完全女装も外せなくなって行く不思議。世の中本当に不思議だなぁ…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます