第33話 お金を稼ぐ。
アルバリオ一家から依頼を受け、機乗訓練の家庭教師になってから、はや三日。
ポポナさんとセルバスさんの機動制御はほぼ完璧になった。ぶっちゃけ乗機がダングなら、非武装のままでも体当たりを使って狩人出来るんじゃねってくらいの腕前に成ってる。もう実技の心配は要らないだろう。
その二人はVRバトルで実技の練習をしながら、現実では空いた時間にテキストを読んで筆記試験の対策。そして気が向いた時には戦闘機志望の二人に混ざって、戦闘機動の練習まで始めていた。
…………その内、本当に戦闘機免許取るのでは?
まぁ良いや。
戦闘機志望の二人は、僕が用意した戦闘機用のコースを徹底的に遊んでは、二人してVRバトルのランクマッチや野良バトルに挑んではボコボコにされて帰って来る。
愛機を殺されるのがメチャクチャ心にクる様で、二人は負けて帰って来る度に、次は勝つと意気込んで戦闘機用のコースを熱心に回って練習する。
いや二人も筆記を対策せぇや。VRバトルを普通に楽しんでんちゃうぞ。
まぁこれも良い。VRバトルでランクマッチを勝ち上がれるくらいの腕に成れば、免許の実技は余裕だろう。
これで一応、アルバリオ一家の教導は落ち着いたと言える。輸送機免許はもうすぐ取れるだろうし、戦闘機免許は逆にそこまで簡単に取れる物でも無いから、少しずつ訓練するしか無い。
僕も毎日アルバリオ邸に詰める必要も無いし、今日は普通に傭兵業だ。
いや、アルバリオ一家から毎日居てくれても良いよ! って物凄い歓迎されて、なんなら泊まって良いし、住んでも良いよ! って言われてる。
いや、うん。流石に遠慮した。僕がスラムでやらかして追い出されたらお願いしますね。
「ライキティさん、お久しぶりです」
「…………今日は、違うのか?」
「違います。お願いなのでソレには触れないで下さい」
そして今日。僕は傭兵ギルドからまた指名依頼を受けて、永久旅団にお呼ばれしてる。
永久旅団は普段何処に居るのかと思えば、都市の外だった。
東ゲートの外で、交通の邪魔にならない場所に旅団が所有する専用改修型シールドダングを並べて、そこで寝泊まりしていた。
旅団の所有するダングは全部で三○機。その内の一○機は輸送用格納庫の全スペースを居住区画に改造する専用改修がしてある。つまり自走する集合住宅だ。旅団メンバーは基本的に皆そこで暮らすらしい。
それで、残った二○機の内、十五機のダングは内部に機体の整備が出来るハンガーを完備してある。俗にガレージダングと呼ばれるタイプの改修機で、小型なら二機、中型の下級までなら一機を格納して整備、修理、補給が出来る。勿論、それ以上のサイズだって格納出来ないだけで、ダングの設備からドローンやボットを使って整備と補給くらいは可能となってる。流石に本格的な修理となれば格納出来ないと無理なので、その時は都市の中で修理するそうだ。
具体的に言うと団長ライキティさんが乗る中型上級のクロスレオーネや、カルボルトさんが乗る中型中級のミラージュウルフなんかは、ガレージダングに格納出来ないから、修理は都市で行う。
最後に、三○機の内残った五機は、そのまま輸送用のダングらしい。旅団の物資を運ぶのだ。食料とか弾薬とか、フードメタルとか。
まぁそんな訳で、永久旅団は人員輸送と居住空間、そして整備機能、さはに補給まで兼ね揃えた超大型の傭兵団だった。
正直に言う。ちょっと舐めてた。
これが、これがランク八が率いる傭兵団なのか。格が違うなんてレベルじゃないぞ。違い過ぎて何が違うのか分からないレベルだ。
こんな感じで、僕の語彙力が死ぬくらいには凄い傭兵団だった。もう、ズラーっと都市外に並ぶダング三○機が壮観だ。
「さて、みんなに紹介しよう。今回私とカルボルトの伝手で呼んだ外部協力者、ラディア君だ。ランクは一だが侮るなよ?
さて、こんな凄い傭兵団を相手に僕なんかの力が本当に必要なのか、マジで疑問しか無いんだけど、まぁお話しを纏めよう。
永久旅団の皆さんは、そもそもガーランドの傭兵じゃない。ガーランド出身だって居るかもだけど、名前に旅団とある通り、あらゆる都市を巡り続けて様々な仕事を請け負う。そんな傭兵団だ。
その旅団さんが現在ガーランドに居るのは、団の新人さんが使う為の機体を安く調達する為に、旅の途中に丁度良い感じの低ランク警戒領域を擁するガーランドがあったので、デザリアの鹵獲を狙って長期滞在してる。
それで旅団は、デザリアを五機捕まえたら旅に戻る予定だったんだけど、その肝心のデザリアがなかなか捕まらないそうだ。
勿論、ライキティさんやカルボルトさん、セルクさん等の幹部が手を出せば一瞬だ。一日で五機の鹵獲が終わる。ランク八や七ってのはそんなランクの傭兵だし、ランク五のセルクさんだってこの規模の傭兵団で幹部を務める人なんだ。今更デザリア如きの鹵獲なんて問題じゃない。
カルボルトさんがミラージュウルフでディスチャージャーした後に、幻影にアタフタしてるデザリアの手足をへし折ってダルマにするだけで終わる仕事だ。無駄に傷付けて衰弱死させるなんてヘマは一切しないだろう。
じゃぁ、なんでそうしないの? って事なんだけど、基本的に旅団の方針として、新人用の機体は新人が何とかしなさいって事らしい。
その、新人って言うのは戦闘員に留まらず、事務系も入るそうだ。新人と呼ばれる人が皆集まって、力を合わせて五機のデザリアを鹵獲するって仕事を熟す訳だね。つまり旅団の幹部から課された試験であり、旅団が新人に出す依頼だ。報酬は新人機体そのもの。
「そもそも、お前らが腑甲斐無いから呼んだ人材に対して、少しでも舐めた口を利いてみろ。私直々に潰してから団の外に放り出すから、そのつもりで居るように」
現在、旅団の新人さん達が頑張って集めた鹵獲デザリアが三機。内の二機は安かったので購入したそうだ。
その購入費を捻出するのも、新人の仕事だ。と言うか旅団の事務の、会計職の仕事だ。新人事務員さんが予算をやりくりするのだ。
まず旅団がデザリアの鹵獲に、これだけの予算を使って良いよ〜って新人に提示。それで新人は皆で相談して、予算内で計画を立てて、貰った予算を使ってデザリアの鹵獲や購入を進める。目標は正規購入より安く。
旅団の新人用機体獲得は、そんな流れだそうだ。
「えと、ご紹介に与りました、ラディアです。ランク一の若輩ですが、どうぞよろしくお願いします」
でも本当は、旅団からは三機から五機って曖昧な条件提示で、一機は鹵獲してて、残り二機を買って終わりに出来るなら、予算内だしセーフ! って新人達で相談して、会計からお金を出して貰って、安く売りに出てたデザリア二機を買ったそうだ。
それで新人用デザリアを安く三機集めて、課題は無事クリアー…………、って、成るはずだったそうだ。
そこで、ライキティさんがまさかの一言。「やっぱ五機当確で」が発動した。
すると三機でクリア出来ると思って、ちょっとお高いけど正規品買うより安いからセーフセーフって予算を張り込んだ新人達は大慌て。急に言われても予算足んねーよってなもんだ。
一応、団長の気まぐれで発生したトラブルなので、旅団も予算をある程度増額したそうだ。
でも、新人達は未だにあと二機、鹵獲出来て無い。予算増額から結構日にちが経ってるらしいけど、全然進まないらしい。
それで痺れを切らせたライキティさんが、『サソリ狩りのチビ助』とか呼ばれ始めてる僕を外部協力者として呼んだのが、僕が今回受けた依頼だ。
依頼内容はシンプルかつファジー。新人達を程良く助け、程良くイジメてくれって依頼になる。
基本的には助けるのがメインだ。助言だけしても良いし、実際に鹵獲を手伝っても良い。
基本報酬はライキティさんのポケットマネーから二○万約束されてて、割と美味しい仕事だ。
それと、僕はあくまでライキティさんに雇われたので、ライキティさんが文句を言わない限り、僕は僕の裁量で新人さん達を助ける事が出来る。逆も然り。此処がイジメるってポイントだね。
何が言いたいか、つまり新人さん達は僕を上手く使う為に、ライキティさんと別に、僕としっかり交渉しないと行けない。
普通はそうならないんだけど、僕が『受けた仕事だから』って新人さんを助けて、それで終わりなんだけど、今回はイジメも依頼の内なのだ。ライキティさんからは、新人の教育の為って言われて、交渉はガメつく行って欲しいと頼まれた。
「…………アレがクレイジーボーイか」
「殆ど毎日、警戒領域にソロで行って、しっかり毎日二機か三機は狩って来るって噂の奴だろ? ランク詐欺じゃねぇか。何がランク一の若輩だよ」
「……ねぇあの子、可愛くない?」
「わかるぅ。可愛いよねぇ?」
「………………ちッ、顔が良い奴は羨ましいなちくしょう」
「顔っつぅか、態度とか、持ってる余裕じゃね? アレだけ狩ってるなら金も有るだろうし、礼儀も良さそうだし、金のねぇ乱暴者よりずっと良いだろうよ」
「その通り! あんたらよりあの子の方がずっと優良物件!」
「クソがよっ!」
纏めを纏めると、僕は『利を見せて交渉すれば助けてくれる外部要因』の役を演じる仕事を依頼されてるのだ。二○万で。
で、勿論新人さん達からも、可能ならガッポリ貰って良いそうだ。残り二機の鹵獲もモタつくなら、せめて交渉くらいは上手くあってくれよって事らしい。
居住系ダング、旅団ではアパートダングと呼ばれてる機体の一機に用意された会議室。もっぱら新人用のアパートダングに、僕は居る。
部屋には戦闘員も事務も、他にも居るのかな? 五○人くらい居て大所帯だ。
テーブルは無く、椅子だけがあり、僕はライキティさんに連れられて、壁際に立つ。
女装じゃ無かった僕を寂しそうに見るライキティさんが僕を紹介してくれて、ちゃんと自分でも挨拶をする。
明るい会議室で騒いでるのは、二○代前半くらいに見える若い傭兵達。まぁ十歳の僕が「若い傭兵達」とか舐めてんのかよって感じだけど、とにかく二○代前半の人達だ。
皆思い思いの傭兵ルックで、髪色も様々。驚いたのが、結構女性率が高い事。多分、団長が女性だから、女性にも酷い事しないだろうって思われて、人が集まるのかな?
「…………質問、良いか?」
「はい、何ですか?」
取り敢えず、新人さん達の会議の様子でも見てようかと思った僕は、「顔が良い奴は」発言をした傭兵さんが挙手して、何か質問が有るらしいので対応する。
まず僕に対する扱いを決めたりするのかなって思ったけど、急に交渉してくるのかな?
「まず聞きたい。あんたはデザリアをぱぱっと、安く、確実に鹵獲する手段を持ってるか?」
「いいえ。手段は持ってません」
なるほど。簡潔かつ、大事な質問だ。
まず僕の手札が分からないと交渉の余地も無いし、そして僕の手札が弱いなら値下げ交渉が可能だ。
僕の答えを聞いて、何人かはストレートに落胆し、質問して来た人もちょっと失望してる感じだ。
ふーむ。ダメだよ皆さん。こんなにヒントをあげたのに、そのまま引っかかるなら無限にボッタくるからね?
僕はこの依頼で、どんな風に振舞って良いか分からなかった。だから自分にルールを設けて、その通りに動こうと決めた。その定めたルールも、さっきライキティさんと相談して、ゴーサインが出てる。
まず一つ、なるべくボッタくる努力をする。誠意は見せても、オマケはしない。
二つ、嘘は付かない。けど騙す努力をする。チャンスが有るならガンガン潰しに行く。
この二つを徹底するのが、僕が熟すこの依頼だ。
子供と侮ってくれるかな? 僕は薄汚いスラム孤児だけど、侮って良いのかな?
空気の主成分が窒素じゃ無くて嘘と騙りと詐欺と気狂いなスラムに住んでる子供を、その言葉を、本当に額面通りに受け取って良いの?
「じゃぁ、ボクちゃんは何のお手伝いをしてくれるのー?」
団長が舐めるなと言ったにも関わらず、早速舐め腐ってくれる女性傭兵が僕に聞く。
たった一言だけでも僕に刺せば、かなり好条件で進められるのに。僕を舐め腐って態度を悪くすれば悪くするほど、心象が悪くなった僕は値を吊り上げるのに。
あーあ、ドツボにハマったかなー?
「勿論、依頼された通りに、皆さんのデザリア鹵獲を手伝わせて頂きますよ」
「でも、ボクちゃんは鹵獲出来なんでしょ?」
「そうですね。鹵獲の手段を僕は持ってません。でもお手伝いは出来ると思います」
「へぇ、そうなんだぁ〜。すごいねー?」
隣のライキティさんがピクピクしてる気がする。まぁ僕も容赦無く値を吊り上げられそうで、安心する。
と言うか、この人達って自分の機体を手に入れる為に頑張ってるんだよね? つまりこの内の何割かは
「…………そうか。じゃぁ、まぁ、何か気が付いた事があったら、意見でもくれや」
「はい。そうさせて頂きますね」
最初の人がそう言って、それから皆はデザリア鹵獲の計画会議を始めた。
…………僕抜きで。
意見が有ったら言えと、そう言われた。けど僕の席は設けられず、壁際に居る僕には背中を向けて輪になっちゃう始末だ。
あーあ、知らないぞー。
あまりにも、あまりにも酷い対応で、僕はお金を沢山稼げそうでワクワクしてるし、そんな新人達を見てるライキティさんは溜め息が凄い。短い溜め息が五秒に一回は出てるぞ。
「すまないな」
「いえいえ、なんなら此処に立ってるだけでも、僕は報酬を貰えるのでしょう?」
「最後に採点でもしようか。流石にシギルをドブに捨てる気は無いからな」
「分かりました」
ライキティさんと話してると、会話の内容を勘違いしたのか、僕に哀れみの視線をくれる人まで居た。
あのね、採点されるのは僕じゃなくてアナタ達だよ。
そうして三○分くらい会議を聞いていたけど、まぁ、なんと言うか、僕が聞いてても「正気?」とか「本気?」とか「もしかして遊んでる?」って感じの会議だった。これが『踊る会議』って奴か。
「………………はい、もう良い!
三○分も不毛な会議を聞かされたライキティさんが限界を迎えて、柏手を打って会議を止める。
それから全員の視線を集めた上で、僕に聞く。
「何点だった?」
「えーと、本音で良いです?」
「頼む」
「一○○満点で、五点あげたら優しいかなって悩む感じですね」
全員、ポカーンってしてる。
いや、だって、無理無理の無理だよ。無理過ぎる。
会議聞いてたけどさ、なに? 砂漠に落とし穴? クソデカトリモチを特注? ダングのバック走行で突っ込んでガレージ内に無理矢理捕獲?
ねぇ、砂漠舐めてんの?
サラッサラの砂地で落とし穴って何さ。掘った先から崩れる砂漠なんだが? 何か特殊な装置でも使うの? その意味不明で成功するかも分からない作戦を実現させる為の装置を準備するのに、いくら使うの? どんな装置を何処で買うの?
バイオマシンのパワーを封じるトリモチって何? そんなの有ったら鹵獲なんて誰も困ってないでしょうよ。それ特注するのにいくら掛かるの? そしてどうやって使うの? 投げ付けるの? 武装で撃つの? なら発射体にする加工はいくら掛かるの? 費用対効果釣り合ってる?
ダングの後退突撃で捕獲ってハッキリ馬鹿なの? それ捕獲した後どうするの? 中で暴れるデザリアを誰が止めるの? 生身で整備士が命懸けの特攻でもするの? て言うかダングが内側から殺されないって保証は有るの? 野生のバイオマシンはウェポンシステムが使えないだけで、シザーアームでダングの内側をゴリゴリ削って
総評、お粗末。
本気でこの人達、傭兵なの? マジ? フィクションブック見て傭兵になったばかりの一般人だったりしない? お金の勘定って出来ますか? 都市のスクールではシギルの数え方って教わらないの?
「…………はぁ。コイツらに何か、言う事は? 好きに言っていいぞ」
「えっと、そうですね。………………論外?」
言いたい事があり過ぎて、逆に何も言えないパターンだった。それを素直に言うとライキティさんが吹き出した。
明らかに、僕から馬鹿にされてる事だけは分かったらしい新人さん達が不機嫌になる。僕に文句を言わないのは、恐ろしい団長と喋ってるからだ。
「……もう、止めるか? 私も此処までとは思って無かった。セルクは何をしてるんだ」
「いや、あの、セルクさんは多分悪くないと思いますよ……? と言うか、そもそも、予算ってどのくらい残ってるんですか?」
「たしか、一二○万くらいか?」
「えっ!? そんなに残ってるのに鹵獲出来ないんですか? なんでっ!? 実は新人の皆さんって遊んでますっ!?」
「んだとテメェエッッ!?」
ついに我慢出来なくなった一人がいきり立ち、僕を睨みながら怒鳴る。
ほかのメンバーも表情は似たり寄ったりで、僕を可愛い可愛いって言ってた女性達も、今では明確に敵を見る目を向けている。
少しヘイト稼ぎ過ぎたかなと心配に成るけど、「気に入らない」程度ならまだ行けると判断。スラム孤児は顔色を読む力がカンストしてないと死ぬ生物なのだ。
「ねぇねぇ、ボクちゃんも鹵獲出来ないって言ってた癖に、言い過ぎじゃないの〜?」
「そうだよね。自分だって大した事出来ないくせに……」
「団長もなんであんなガキ……」
チラッと団長を見ると、何も無し。ネタバレも無いので、此処が稼ぎ時だと判断する。
「え、誰が鹵獲出来ないなんて言ったんですか? もしかして、お姉さんって言葉が不自由です?」
空気が凍る。
僕から直接煽られたお姉さんは勿論、僕のコレを明らかな『攻撃』だと認識した新人さん達の目から、攻撃色が垣間見える。
「テメェがさっき言ったんだろうがよっ!」
「君こそ言葉が不自由なのかなっ」
「鹵獲する手段持ってねぇって、自分で言った癖によ」
新人さん、……いやもう、「さん」付け要らないかな。新人共からの一斉射を、僕は笑って受け止める。
もう、もう、スラム仕込みの会話術を披露する気だったに、相手の対応が酷過ぎて仕込みもクソも無かったよ。まぁ僕の言葉をマトモに聞いてくれる人なんて殆ど居なかったから、実践なんてした事無いけどね。
もっぱら騙される方だったし。僕も詐欺とかはしないし。
「そうですね。僕は鹵獲の手段を持ってないと言いましたね。誰も鹵獲の方法を知らないとは言ってませんけど。そう、確かに、僕は、デザリアを鹵獲する為の手段は、持ってませんよ?」
にちゃぁ……。
敵意に対して、僕はイヤらしい笑いを返してあげる。さぁ団長であるライキティさん公認で稼ぐぞぉ☆
「は、はぁぁっ!? いや、だったら何か言えよ! 意見が有ったら言えっつっただろ!」
「は? 言いましたよね? 論外だって」
「それ意見じゃねぇだろ!」
「いやいや、立派な意見では? 論ずるに値しない作戦を立ててますねって、立派な意見じゃ無いですか? 一二○万シギルものお金、ドブに捨てるおつもりですかって、それが僕の意見でしたけど?」
売り言葉に買い言葉。空気に砂漠の風を入れる。
熱して、燃やして、その一言を貰う為に。
「僕に残り一二○万シギルの予算を頂けるなら、余裕でデザリアの一機や二機、いや三機だって四機だって、鹵獲して来ますけどねぇ?」
「嘘言ってんじゃねぇぞクソガキ!」
「流石にこの予算で四機とか吹き過ぎ……」
「いやいやいや、余裕でしょ? むしろ皆さん、まさか本当に出来ないので?」
「だったらテメェやって見ろやぁぁあッッ!」
はい、ご依頼有難うございます。
「はーい、では一二○万のご依頼、承りました! ありがとうございまぁーす☆」
やったぜ一二○万シギルのデカいシノギだ。
あぁ腕が鳴るぅ。モキュモキュ。……これ腕の音か? 僕の腕何製なんだ……?
まぁ良いや。さぁて、ガッツリやって良いとライキティさんに言われてるけど、本当にこのレベルでやって良かったのかな? 予算全取りはセーフ? ああライキティさんがコメカミ抑えてピクピクしてる。
「…………は?」
「いえ、ですから、一二○万を僕が頂いて、僕が四機のデザリアを鹵獲するんですよね? ねぇライキティさん。僕は今、お金を貰えたら出来ると言って、新人さんがやれと言いましたよね? 依頼成立ですよね?」
もう計画も頭の中にあるし、と言うか四機どころか理論上は無限に鹵獲出来そうな計画立ったし、ヤバいレベルで稼げそうだ。
「ああ、そうだな。私も聞いたぞ。依頼成立だな」
「まっ、待って下さいよ団長! 今のは言葉の綾でっ……」
「ええぇぇぇぇえっ!? まさか、団長から直々に請われて来たのに、椅子も用意されずに背中を向けられ、意見が欲しいと言うから意見を言ったら怒鳴られて! そんな状況を我慢してたら! 一度明確に料金と仕事内容を提案してソチラもハッキリ『やれ』と言ったのに! その依頼すらも一方的にキャンセルするんですかッ!? えぇぇぇぇっ!? ライキティさん、コレが永久旅団のやり方なんですかぁぁあ?」
めっちゃ態とらしく言う。多分もう、ネタばらしが入るんだろうなって思って。
でも、ネタばらしが入ってもお金は貰う。二○万と一二○万で一四○万の稼ぎだ。ボロい儲けだぜ! だけどもっと稼ぐ予定なのでまだまだ終わらない。
「だ、団長! 何なんですかその子供!」
「感じわるぅい……」
「はぁ、馬鹿なのかお前らは。最初から言ってるだろう? この私と、あのカルボルトが、今回の為にわざわざ話しを通して、コッチから頼んで来て貰った人材だぞ。それをお前ら、あんな軽い確認だけで勝手に値踏みを終わらせ、その粗末な審美眼のせいで盛大に吹っ掛けられ、そしてお前らは吹っ掛けられた金額で、売り言葉に買い言葉を誘発されて許諾させられたんだろう? 要するに、お前らは舐めてた子供から手玉に取られて、予算を全部持って行かれたんだよ。この馬鹿者共が」
そう。旅団が新人に課す課題は、『なるべく安く機体を用意しろ』なのだ。当然、予算を本当に全部使うなんて論外オブ論外。
それを皆さん、たった今やっちゃった訳だね。
「覚悟しろよお前ら。会計の奴らにどれだけ搾られても私は知らんからな」
「そ、そんな…………」
「言っておくが、今の条件でラディア君に依頼した仕事を、一方的にキャンセルなんてして見ろよ。既に私とカルボルトの顔に泥を塗るような対応をしてるのに、恥の上塗りまでする様な奴は、この団に要らんからな」
そして、此処でネタばらしが入る。
「そもそも、今回ラディア君は私からの依頼で、お前らから予算をなるべく掠めとってくれと依頼してたんだよ。デザリアの鹵獲にモタつくなら、せめて交渉で強くあれよと思っての事だ。…………それをお前ら、この体たらくで、私は率直に言って失望したぞ」
新人さん達が真っ青になり始めた。僕もどうもどうもーって感じでピースすると、キッと睨まれた。なんでや、僕悪くないやろ。
「馬鹿者! 何を睨んでる! お前らはそもそも、もっとラディア君から話しを聞き、ラディア君の持ってるアイディアやノウハウをなるべく安く譲ってもらう交渉をするべきだったんだぞ! それを、幼い見た目だけを見て勝手に没交渉して置いて、予算まで全部持って行かれおって! 私からの依頼通りに仕事をしたラディア君を睨む暇があるなら、自分の交渉の腕を磨け愚か者がッ!」
怒られてやーんの。
とは言え、これで僕が鹵獲ミスったら目も当てられない事になる。この規模の傭兵団から一二○万シギルを騙し取ったクソ野郎として敵対される事になる。
それは流石に死ねるので、僕は鹵獲を必ず成功させる必要がある。
「さて、ライキティさん。新人さん達へお叱りは、後でお願いします。僕関係無いですし?」
「関係無い事有るかぁぁッ! お前のせいだろうがっ!?」
「え、いや、関係無いでしょう? 僕はこんなお仕事が出来ますよって提示して、それをギルドを通して無いとは言え、ライキティ団長も居るこの場で『やれ』と言われただけですよ。あとは僕が自分のお仕事を熟して、デザリアを四機ほど鹵獲して皆さんへ納品すれば良いだけです。予算を使い切ったのはそちらの都合でしょう? ねぇライキティさん、これ僕が悪いんです? 僕が間違ってます?」
「…………いや、悪くないし、間違って無いな。ギルドを通して無いからセーフだとか思ったんだろうが、お前らは今、私が此処に居る事実をもっと良く考えるべきだったな。団のトップを交えた話し合いで交わした約束を反故にする。それが団の信用をどれだけ貶めると思う? お前らは一から十まで、ちょっと浅慮が過ぎるぞ」
こんな殺伐とした傭兵業で、お金を払うって言ったのに「口約束だから無効でーす」とか言ったら、もう殺し合いじゃん?
そう成らない為にギルドが有るんだけど、ギルドを介さないからって、団長って言う傭兵団の顔その物が居る場所で、安易な事言っちゃダメでしょ。
傭兵団のトップを交えた会合での約束を反故にしたら、傭兵団の信用がゴミグズになるんだから。
て言うか、皆さんちょっと孤児を舐め過ぎ。
「まぁ、僕がちゃんと仕事を熟せば良いんですよ。そうしたら一二○万でデザリア四機も仕入れたファインプレーになる訳ですし?」
「まぁ、確かに。しかし、ラディア君も大丈夫かな? 流石にコレで君が失敗したら大変な事に成るのだが」
「でしょうね。でも大丈夫です。むしろ、僕も何機かデザリアを確保したいので、納品物を合わせても最低五機は鹵獲するつもりですよ」
「……ほぅ?」
僕がかなり大きな事を言ってるので、聞いてる新人さん達も様々な反応をする。
大口叩いて潰れる馬鹿を見る目がそこそこ。コレからこってり搾られる未来を思ってそれどころじゃない人そこそこ。マジで言ってんの? って顔そこそこ。マジだったらむしろ手柄じゃね? って顔もそこそこ。
「という訳で、ライキティさん。交渉しません?」
「ふむ? 私にか?」
「はい。僕から旅団に、一四○万シギルの依頼を出したいのですけど、受けてくれますか?」
さーて、無限に稼ぐぞぉ〜☆
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