第34話 サソリ祭り。



 新人さん達の前で、ライキティさんと交渉した依頼の内容は、簡単に言うとちょっとの人材とちょっとの機体を貸してくれって話し。


「ふむ? ダング一機とアンシーク?」

「はい。正確には、旅団の所有するガレージダング一機と、アンシークを数機、それとそのパイロットですね。仕事の内容は、依頼期間中は僕の指示に従って砂漠を彷徨うろつくだけです。アンシークは索敵してデザリアを探してもらう事になりますけど、それだけで、ガレージダングも後ろから付いてきてくれるだけで良いです。あとは全部コッチでやるので」

「…………ふむ。その内容で一四○万シギルかな?」

「はい。でも、戦闘は無しで、本当に機体を動かしてレーダーを見るだけのお仕事になるはずなので、その分は安くなりますよね? 安くなった分は長期間雇いたいんですけど」

「なるほど。ならば、雇用費が安く済む目の前の奴らを使うか? 流石に此処までやり込められて、しかも団に資金をフィードバックするなんてアフターケアまでされて、これで隔意をもって仕事に手を抜く奴など居ないだろう? 居たらマジメに潰すから、報告して欲しい」

「わっかりましたー!」


 交渉の結果、ガレージダング一機とアンシーク三機、それとそのパイロット四人を五日間借りれる事になった。

 マジかよそんなに借りて良いの!? 数十機は鹵獲出来るんじゃ無いの!?

 自信満々な僕を見て、ライキティさんもホクホクだ。

 これってさ、実質的に旅団にお金を返しつつ当初の依頼通りに『鹵獲を助ける』を完遂しつつ、さらに僕がオマケでデザリアの鹵獲機体を大量入手してアホほど売り捌けるって事なんだよね。新人さんはだらしない結果を怒られるだろうけど、旅団の会計さんもホックホクのはずだ。新人以外誰も不幸になってない。


「少し、他所よそに通信しても?」

「良いとも。此処で良いのかね?」

「はい。外部要員を助っ人に呼びたいだけなので」


 僕は端末を取り出して、ガーランドで誰よりも頼りにしてる大人であるおじさんをコールする。


「やっほ、おじさん。今良い?」

『お前から通信なんて珍しいな。どした?』

「おじさんって、急に予定って空けられる? おじさんの時間が五日くらい欲しいんだけど」

『はぁ? 急に何言ってんだ? 別に都合付けても良いが、俺のその五日分は、稼ぎを補填してくれんのかよ? えぇ?』

「それはおじさん次第かな? あのね、五日間で見付けたデザリアを確定で無限にニコイチ鹵獲するお祭りやるんだけど、おじさんも一緒に稼が無い? 報酬は鹵獲したデザリアの、僕の取り分の殆どをおじさんに売却するってのでどう?」

『……何時いつだ?』

「それもおじさん次第。おじさんの予定が空いてる日にやる。最短で明日から」

『じゃぁ明日だな! 予定は空ける! 本当に無限に鹵獲出来んだろうなっ!? そんな大口叩いて二、三機だったら許さんからな!』

「大丈夫だと思うよ。五日全部使って三機は無い。日に二機は出会えるから最低でも十機の計算だし、アンシークを三機投入するから、効率は何倍にも上がる計算だよ。あ、でもタクトのも確保するつもりだから、それは許してね?」

『顧客増えるんだから構わねぇよ。なんなら、沈静化済みの陽電子脳ブレインボックスでも、いくつか持ってってやろうか?』

「あ、それ良い! 可能な限り持って来てよ! 鹵獲機体その場で完全修理して、沈静化済みの陽電子脳ブレインボックスと積み替えて、陽電子脳ブレインボックス代だけで二五○万で売れちゃう機体に仕上げちゃお?」

『はっはっはっは! そいつぁ良いな! デザリアの陽電子脳ブレインボックスなんざ、俺の伝手で買えば精々が四○万だぜ? それが約五倍に化けるってんなら、笑いが止まらんぜぇ! 幾らでも仕入れてやるよぉ!』


 正規で買うと、デザリアの陽電子脳ブレインボックスでも沈静化済みは高いらしい。メーカーと処置の方法によるけど、安くても格安でも六○万くらいだそうだ。それを伝手で、かつオマケされた卸値で買えるおじさんのパイプで入手すれば四○万で済むそうだ。おじさんしゅげぇ。


「仕立てたデザリアも、すぐに全部売れる訳じゃ無いだろうし、破産はしないでね? おじさんが没落すると僕も困るし」

『誰に言ってんだよ馬鹿野郎! こうしちゃ居られねぇ、さっさと仕入れとスケジュール調整しねぇとなっ! あばよ!』


 通信終了。


「…………はい、明日から五日、お願いします」

「ふむ、仕事の伝手もなかなかみたいだ。…………お前らも見習う様に! これが、お前らが舐め腐った十歳の傭兵が熟す仕事だぞ! 良く見て、そして良く学べ! 明日以降彼に付ける人員は、本当に良く学べよ! 無為に過ごして戻って来たら引っ叩くからな!」


 ライキティさんが大声で発破を掛けると、怒号の様な「はい!」が揃って聞こえた。壮観だけど、僕にはもう関係無い。ライキティさんに挨拶したら、僕は明日に備えてサンジェルマンに帰る。

 …………いや僕、本当に自分の住処すみかへ帰らないな。もう、実質おじさんと同居だよね。居候って感じでも無いし。今回なんか仕事も持ってくし。

 旅団のダングから降りて、近くに居たシリアスに乗り込んでガーランドに向かう。東からのゲートは西と違ってて非常に混み合ってる。そこを抜けて西区へ帰り、ちょっと寄り道。

 タクトの拠点だ。僕の拠点も近いんだけど、あの日から一回も帰ってない。


「たーくとー!」


 何時もの様にパルスシールド沿いに行ってテント村に突撃。シリアスから降りてタクトにも突撃。眠そうなタクトの袖を掴んでぶんぶん回す。


「…………うぇーい、どうしたー?」

「大仕事だよー!」

「………………ふーん、どんなだー?」

「デザリア大量鹵獲! タクトの機体付き!」

「詳しく話せ」


 眠そうにしょぼしょぼしてたのに、機体が用意出来るよって教えたら急にシャッキリする僕の恩人。


「明日から五日でね、馬鹿みたいに大量のデザリアを鹵獲する計画を実行するから、タクトも手伝って? そこでタクトの機体も用意する算段だから」

「任せろ。任せ過ぎろ」

「ちょ、それ僕の真似? 何かちょっと使い方違うし」


 取り敢えず、僕が簡単に操縦を教えた経験がある子も明日はなるべく呼んで欲しいとお願いする。もし、もし予想以上に沢山の、本当に沢山のデザリアが鹵獲出来たら、この子達の分も用意出来るかも知れない。

 そうじゃなくても、鹵獲機をせっせと運び出さないとダングのガレージ内がパンパンになる。


「じゃぁ、そういう事で!」

「おう! 明日な! いやぁ楽しみだぜぇえ!?」

「リーダー良いなぁ……」

「ばっか、確かに俺が贔屓されてっけど、そのお掛けで今は仕事も貰えてるし、俺が頑張ればお前らの機体も用意出来るじゃねぇか! 悪ぃが我慢してくれよ!」


 俺も俺もと騒ぐ子達を尻目に、僕はタクトに挨拶してからシリアスに乗り込む。


「帰ろ、シリアス」

『了解した』

「シリアスも明日からは、完全演算の精密狙撃をお願いね? …………あれ、僕コレ、人集めるだけで、実質何もしてない?」

『そんな事は無い。狙撃以外全て任せる。そして、人員手配は相当重要なファクター。むしろ立役者』


 シリアスに慰められながら帰宅。いや、もう『帰宅』って意識なのヤバい。サンジェルマンが実家みたいになってる。

 帰るとおじさんは大忙し。現在ハンガーに入ってる機体を通常の三倍近い速度で整備し、修理して、カスタムしてる。多分もう、僕が帰って来るまでにも仕事を捌いて居たんだろう。今の時点でサンジェルマンの中には一機しか残ってなかった。


「おじさん、ただいまー」

『帰投した』

「おう! 帰ったな主役! 準備は出来てるぜ? 処置済みのサソリ型陽電子脳ブレインボックスを取り敢えず四○機分用意した。その後は稼ぎ次第で追加注文出来る手筈も整えてる。販路はまだ怪しいが、物さえ有れば問題ねぇだろ。ああ、この費用分は勿論、経費として貰うぞ?」

「当然。他の人員には報酬前払いしてるから、デザリア売却の利益は殆どコッチで独占して大丈夫。ただ、四機分だけ旅団に納品する必要がある。そう言う仕事のオマケでこの計画だから」

『加えて、タクトの機体の用意。そしてタクトグループにもある程度の優遇。鹵獲量によっては、タクトグループのメンバーへある程度流し、整備屋サンジェルマンの顧客にする手もある』

「へっ、山ほど稼ぎつつも先々を見据えてマーケティングしましょってか? コッチでも大型の貸しガレージと輸送用ダングを押さえたからよ、貸しガレージが溢れるまで頑張ってくれて良いぜ? 溢れた分はガキ共に流してやっても良い」


 それから僕とおじさんは詳細を詰める。

 まず、おじさんをガレージダングに積む。もはや全自動ニコイチ修繕機扱いなので、乗せるじゃなくて『積む』だ。『装備品・おじさん』をガレージダングへ装備する。

 そして僕と一緒にガレージダング、アンシークが砂漠へ突撃。アンシーク三機の超広域索敵によってデザリアをバンバン見付けながら、シリアスの演算狙撃で生体金属心臓ジェネレータをブチ抜き続ける。

 そしてブチ殺したデザリアをダングに回収して、陽電子脳ブレインボックスを周りの装置ごと引き抜いてバラす。

 此処までが前準備で、準備が終わったら、次は陽電子脳ブレインボックスを撃ち抜いてデザリアを殺して行く。そして機体が死ぬ前に速攻で回収。

 ココ大事。陽電子脳ブレインボックスは二日ほど生きれるパーツだけど、生体金属ジオメタルは徐々に、急速に死んで行くらしい。なので殺した機体の生体金属ジオメタルが完全に『死亡』する前に、さっさと回収してパパッと修理する必要がある。その為にガレージダングが現場に居る必要が有るのだ。

 撃ち抜いて損壊してる心臓周りを、別機から周囲の素材ごと引き抜いた陽電子脳ブレインボックスを使って修繕し、完全なデザリアを一機仕上げる。これがシリアス考案の狙撃鹵獲計画だ。

 当たり前だけど、そのままコレやるとダングの中で目覚めたデザリアが暴れるので、陽電子脳ブレインボックスを入れて起動する前にアームもレッグもテールもバラして置く。起動しても全く動けない状態にする。

 バイオマシンも生き物だ。怪我を重ねると陽電子脳ブレインボックス生体金属心臓ジェネレータの両核が生きてても弱って死ぬ。だから下手に機体を達磨にするだけじゃ機体を殺してしまう。鹵獲が難しい理由の内の一つだ。

 でも、整備士とハンガー付きガレージがその場に揃ってて、正しい手順でバラせるなら、バイオマシンにダメージは無い。つまりノーダメージの鹵獲を達成出来る。

 そうして、ほぼ無傷の状態で機動部をだけをバラされた『完全な状態の鹵獲機』が手に入り、必要なら陽電子脳ブレインボックスをその場で沈静化済みの物に積み替えて、タクト達に都市まで運ばせる。

 それを、時間が許す限り繰り返す。


「俺が手配したダングは都市内輸送用だ。ゲートの前くらいなら出て来てくれるが、警戒領域までは無理だ」

「うん。だから、タクト達に『自分で乗って都市入口まで運んで貰う』のが良いと思うんだ。鹵獲機は用意した陽電子脳ブレインボックスに積み変えれば、すぐ動かせるでしょ。免許無いから都市内に入れないけど、そこで輸送業者さんにバトンタッチすれば良いし」

「アイツら、動かせんのか?」

「歩かせるくらいなら教えといた。免許取れなくても、砂漠を進むだけなら行けるはず」

「じゃぁ業者に引き渡した後にガキ共が歩きで戻って来る訳にも行かねぇから、タクトともう二、三人は人員輸送用に残しておくか」

「そうだね。みんなも、効率的に動いて僕らが鹵獲すればする程、おじさんが捌き切れなかった分の機体を貰えるって言えば鬼ほど頑張るでしょ」

「はっ、大型ガレージは四○機は入るからな? ニコイチしながらでも有料回線使ってバンバン売却を進めるし、そう簡単には溢れさせねぇぞ? まぁ、十機に一機くらいはガキ共に流してやっても良いかね」


 ぶっちゃけまだ皮算用だ。

 でもアンシーク三機って編成がこの皮算用を成立させてる。

 アンシークってマジで、余程専用にガチカスタムした様な趣味機じゃないと、もう本当に、ガチで、索敵しか出来ないんだ。

 でもその代わり、索敵はヤバい。レーダー機能だけは他の追随を許さない。索敵機の中でも随一の性能を誇る。

 具体的に言うと、砂の中でステルスしてるデザリアだろうとも、浅い場所に居るなら丸裸に出来る。

 その詳細な座標データを貰えば、シリアスの演算狙撃で砂の中ですやぁ……、してるデザリアをそのまま狙撃も可能。砂の中で永眠すやぁさせてあげられる。

 この作戦だと、遭遇したデザリアの内、実に半分は確定で陽電子脳ブレインボックスを殺す事になる。けど、流石に僕も一から兆まで全ての陽電子脳ブレインボックスを救えるとか思ってない。半分を残して市場に流せるならそれで良いと思ってる。

 シリアスも現代と古代文明の差異を認識して、現代で生きる為の意識刷新や妥協なんかも覚えてる。今回は、大量の僚機を元祖国の地に眠らせるだけで構わないって。


「はっはぁー! 笑いが止まらないぃぃいいいい!」


 そして当日。サソリ祭り開催。


『あー、またデザリアを発見。座標を送信する』

「貰いマース☆ 午前中だけで旅団のお仕事終わったからもう後は全部僕の稼ぎぃぃいいいいい! ひゃっほぅぅう!」


 僕は旅団からダングとアンシーク、そしてパイロットを借り受けた後、西ゲート近くで待ち合わせしたタクト達とおじさんをダングに回収し、そのまま警戒領域へ。

 おじさんは所有するありったけの作業用ドローンとボットを持ち込み、ガレージダングの設備も早急に確認。

 タクト達はおじさんに持たされた陽電子脳ブレインボックスをダングに積み込み、これからの事にワクワクしてた。でも陽電子脳ブレインボックスを運ばされてる時は真っ青だった。落として壊したら四○万の借金だもんね。

 そうして作業を開始すると、いやぁアンシークの索敵能力がヤバすぎる。偵察機って言うより索敵機だよね。分類が間違ってる。

 最初の二時間でもう旅団からの依頼である四機分は鹵獲完了。いやぁ、設備が有ると楽ですねぇ! 僕もダングの所有を検討しようかなっ!?

 て言うか、日に二機か三機の遭遇がアベレージだったのに、アンシーク居るだけでどれだけだよ! どんだけ砂の中に隠れてたの!


「うっひゃぁぁぁあっ! 稼げるぅぅぅうう!」

『…………羨ましい限りだ』

『肖りてぇ……』

『コレ、砂漠を歩くだけで金貰える美味しい仕事かと思ったら、目の前で山ほど稼がれる拷問じゃねぇか。割に合わねぇ……』

「あはー☆ 五日後なら旅団で真似して良いですよぉー!?」

『馬鹿野郎。その精度で狙撃出来る新人なんて居ねぇよ』


 そして狙撃出来る人ならもっと別の仕事でもっと稼げる。

 高火力でクロスレオーネとかを狙えば、片核だけで千万単位のシギルが稼げるのだ。

 しかし、ランク一や二の僕らには、デザリアの鹵獲が丁度良い。そしてデザリアの鹵獲で良いなら、今の僕でも無双出来る。


「八機目ェぇえー!」

『稼ぐなこいつぅ……』

『女共が最初に優良物件とか騒いでた意味が良く分かるよな。俺も女だったらこんな稼ぐガキを選ぶよ』

『まぁその女共はあの会議で少年へのヘイト高いんだけどよ』

「そんな事よりダング早くこっち来てー!? 生体金属ジオメタル死んじゃうじゃん!」

『あ、悪ぃ。すぐ寄せる』


 生体金属心臓ジェネレータ狙撃で殺した機体と、陽電子脳ブレインボックス狙撃で殺した機体をガンガン積み込む。そしておじさんが速攻でバラし、組み直して、一機にする。

 旅団に納品する鹵獲機は陽電子脳ブレインボックスを積み替えずに、と言うかそこまでする依頼じゃないので、脚と尻尾とハサミをバラされて完全なダルマになったデザリアを四機、綺麗にバラしたパーツごと納品してある。

 納品には一度都市に帰るのかと思ったら、ダングのパイロットが傭兵回線で旅団まで連絡してくれたらしく、旅団のガレージダングが二機ほど来て納品物を回収してくれた。


「タクトー! 急いで!」

『ぁぁぁあっ!? 待てよ俺まだ歩かせるしか出来ないんだから!?』


 五機目に鹵獲したデザリアには、沈静化済みの陽電子脳ブレインボックスを積み込み、完成品として仕上げ、タクトに託す。

 これからタクトは鬼のように働かなくては成らないので、その前払いだ。


「稼ぎ減っちゃうよー? 十機に一機の約束だから、テンポ落ちると困るのはタクトだよー?」


 都市の前まで完成品のデザリアを運ぶ人員を、タクトがチマチマと運ぶ。

 ノーマルの汎用コックピットなんて、そう何人も乗せられない。だからその分タクトが往復して、グループのメンバーを高効率で回さないとダメだ。


『まったく! 人使いが荒い自慢の親友だぜちくしょう!』


 え、あ、まっ、うぇっ、はぅぅ、た、タクト、僕の事、親友だと思ってくれてたの……?

 あわわわ嬉しい手が滑るままま狙撃がぶれれれれ……。


『ラディア、落ち着く』

「ふにゃぁぁあ」

『ッ!? どうした坊主!? 稼げ過ぎて壊れたか?』

『ふにゃぁぁあってなんだ!? 何が起きるとそんな声出る!?』


 旅団から借りてるメンバーさんに心配されたので、気を引き締める。

 しっかし、本当にアンシーク凄いな。あのセンサーが詰まってる尻尾だけ、シリアスに増設出来ないかな。反ってるサソリ尻尾の付け根に、アリ尻尾も。正確には尻尾じゃなくてお腹って言うんだろうけど。


「討伐数の半分は鹵獲機になるの笑いが止まらん……」

『こっちも笑いが止まらんぜぇー! なぁラディア、これ定期的にやろうぜぇぇ!?』

「旅団がガーランドから旅立ったらガレージダングとアンシークを手配出来ないので無理でぇーす!」


 と言うか、コレでもかなり格安で人を借りてるからね。日割りの報酬だからコレで済んでるけど、一機当たりで別途報酬とか要求されたら一気に効率が悪化する。

 この条件でライキティさんから人を借りる交渉を経て、今が有るのだ。だって新人さんが大いにやらかしてくれてたし? 僕が新人さんを助けるって仕事の流れに沿うものでもあったし、旅団の利益に大きく寄与する為の行為だった上に新人の態度に負い目もあって、諸々で格安の人材派遣なのだ。


「…………あれ? でも最近、ダングとアンシークを買いそうな人と知り合ったな?」


 アズロンさんに、免許取得後にこれが傭兵の仕事だーって連れ出してダング借りようかな? 家族を乗せるって事は武装系ガレージダングになるんだろうし。

 問題は奥様が連れ出せるか……。アンシークに乗る予定なのはポポナさんだから。


「そんなこんなで遭遇二○機目! つまり鹵獲数一○! 納品物とタクトの機体抜いて五機! グループの子達も頑張って! あと五機でグループの機体がもう一機貰えるよ!」

『それはそれで争奪戦がヤバそうなんだよな』

「戦闘機免許を一番早く取った子の物とか」

『それ良いな! それで行こう!』


 アンシークから座標を貰って撃つ。座標を貰って撃つ。

 本当に、デザリアって砂の中にはこんなウジャウジャ居たんだな。それで、お腹が減ってどうしようも無かった子が、砂から奇襲仕掛けてくるんだな。

 シリアスによると、古代文明の遺跡は砂の奥深くに沈んでるらしく、シリアスも砂の海を泳いで地上に出て来たらしい。


『おいラディア! そろそろガレージがニコイチの残骸で溢れる! 一旦休憩だ! その間にチビ達使って生体金属ジオメタルを都市に運ぶから!』

「了解でーす。じゃぁ、皆さんそう言う事なので、一度ダングに集まって貰えますか?」

『一番機了解』

『二番機了解。確か昼はそっち持ちだったよな?』

『三番機了解した。可能なら女の子の手料理を所望す』

『ガレージダング了解。安心しろ三番機、さっき聞いたらスピカって子がガレージでなんか作ってるらしいぞ』

『マジかッ!?』

「あー、多分おじさんの手伝いかな。スピカはあくまで助手……」

『それでも良いだろ! スピカってあの青髪の子だろ!? 小さいけど可愛いから良し!』


 心做し、他よりも急いでダングに戻るアンシークをレーダーで見た。多分彼が三番機なんだろう。

 子供が相手でも喜ぶなんて、どれだけ飢えてるんだろうか。


「さーて、お昼休憩だー!」

『ラディアもしっかりと休む。恐らく、自覚が無いだけで疲労は溜まってる』

「でも僕、シリアスと一緒に居て、こうやってお喋りするだけで疲れとか吹き飛ぶよ?」

『……スキャニングの結果、本当に疲労物質の低減が確認出来るので、シリアスは驚いてる』


 スキャンの結果、僕は本当にシリアスと喋ると疲労がある程度飛ぶらしい。知ってた。幸せだもん。

 ダングに戻ると、中にはおじさんの言う通りに生体金属ジオメタルの残骸が山積みオブ山積みだった。崩れたら人死が出るレベル。

 まぁガレージ備え付けの固定バンドで縛ってるから大丈夫だけど。

 さて、ガレージの中に凄まじい匂いがする。これは殺人的な匂いだ。

 勿論悪い意味ではなく、良い意味で。

 料理上手なおじさんが居て、失敗する訳ないもんね。


「おじさーん」

「おう、帰ったか。昼はお前に貰ったスパイスから、カレーだぞ。忙し過ぎてボット操作とスピカの手伝いで仕上げちまったが」

「多分その方がアンシークパイロットは喜ぶよ」

「はっはっはっは! だろうな! と言うか通信聞こえてたぜ」


 今日のお昼はカレーライスだ。スパイスは僕が用意した物で、アルバリオ邸に行く度にアズロンさんがお土産にくれるのだ。


「はーい、旅団の皆さん。お昼は天然香辛料と培養肉をたっぷり使って、スピカちゃんが混ぜ混ぜしたカレーライスでーす!」

「まじか!? 天然香辛料の料理食えるの!? しかも女の子の手料理!? やっぱ割り良い仕事だなコレ!?」


 ダングの近くで機体を止めて降りて来た三番機さんがひゃっほいしてる。

 しかし、全員が同時に降りる訳にはいかないので、アンシークは交代でお昼を食べる。センサーで見守って、野生のデザリアが襲って来ないかを見てるのだ。

 なのでローテーションを決めるべきなんだけど、三番機さんは勝手に降りて来たらしく、一番機さんがキレ気味に通信で文句言ってる。

 向こうのシフトは向こうに任せて、僕はガレージの隅っこで作られてたカレーをスピカから受け取って、モグモグタイムだ。


「…………む? 味付けがちょっとだけおじさんっぽくない。コレがスピカの味……?」

「わ、わっ、なにか間違えたかな……?」

「いや、美味しいよ。タクトもきっと喜ぶ」


 取り敢えずグループの女の子はタクトが喜ぶって言っておけば問題を回避出来るのでオススメだ。

 今回の仕事は、戦闘が全部僕の仕事なので、仮に今アンシークの索敵にデザリアの襲撃が引っ掛かると、僕はカレーを投げ出してシリアスに乗り込み、防衛しないといけない。

 なので僕はさっさと食べる。しかし手軽にモリモリがつがつ食べれるカレーってチョイスは良いなぁ。食器にライスとカレーを入れるだけだから、凝った盛り付けとか要らないし。

 スプーンで流し込む様に食べれるからスピーディに摂取出来るし、何より美味しい。肉と野菜の旨みが汁に溶け込み、それにスパイスが飾り立てる。ある意味で『食べ物の完成系』の一つとすら言えるだろう。

 まぁ最近やっとマトモな料理を食べれる様になった孤児ぼくの食レポとか、信憑性ゴミクズだけどね。


「あー! ラディアだけ飯食ってズルい!」

「馬鹿言うなアホ! ラディアは一人でずっと戦ってたんだから、先に飯食うのは当たり前だろ! 今日一番働いてるのはラディアとおやっさんなんだからな!」

「でもよぉ、俺も腹減ったぁ……」


 生体金属ジオメタルの残骸を運び出すタクトと、その補助の為にもう一機乗ってる誰かが作業を進める中で、周りに居るグループの子達に見咎められた。

 しかし僕は本当に忙しいので、先に食べるのはむしろ君達の安全の為なのだよ?


「順番で食べちゃってね。最低でもタクトが食べて、ちょっと休憩出来るまでは休みだから」


 もう利益がヤバいレベルで確定してるから、多少ゆったり休んでも大丈夫だ。

 何せ、もう旅団の鹵獲依頼は終わったので、今日を除いてもあと四日は鹵獲祭りを独占して良いのだ。これ最後はマジで幾ら稼げるのか予想も付かない。

 一応、僕とおじさんの稼ぎは相談して、おじさんが売却した鹵獲機の利益を折半って事になってる。こっちもシリアスと僕とおじさんで折半しよって意見したけど、流石に無理やった。

 二つで一つの癖に二人分請求すんじゃねぇって怒られた。ちくせう。


「ねぇシリアス。これもしかして、VRバトルで使ってる装備くらいは買える稼ぎになるかな?」

『不明。しかし、その場合はあえて、バーニア等に手を出すのも良い。そうすればVRバトルではフル武装のフルバーニアが試せる』


 それ良いな。

 いや、良いのか? ゲームで装備のお試しをして、現実でハズレを引かない様にって始めたVRバトルなのに、まだ試してないバーニア系を現実で買って良いのか?

 て言うか、僕のランクでバーニア買えなくね?


『それが気になるなら、稼ぎの内の少しを使ってバトリーを購入して、しっかりと試せば良い』

「あー、うん。あんまり課金したく無いけど、本購入前のお試し費用だと思えば、まぁ……」


 本購入に比べたら雀の涙、いや雀の号泣くらいで済む金額を使えば、好きなだけ試運転が出来ると考えれば悪くない。

 試運転無しで外したら、丸っと大金が無駄になる。試して購入してもバトリー代を余計に払う程度で保険の先取りをしたと思えば良いのだ。


「タクト達の機体にもVRバトル入れてやらせよう。免許無いと乗れないし」

『それが良い。タクトは今でも筆記の勉強はしているので、輸送機免許であれば数日で取得可能と思われる』

「あ、マジ? 僕それ知らないんだけど」

『購入するテキストの精査を手伝った事がある。電子書籍購入もタクトにとっては大きな買い物に違いないので、より効果的で正しく学べるテキストを選んで欲しいと端末に連絡があった』


 話しの内容より、僕の知らぬ間にタクトがシリアスとメッセージのやり取りしていた事実に無限の嫉妬を感じるんだけど。

 なに? 僕の彼女にコショコショ話し? つまり戦争か?


「…………ちょっとタクトを機体のコックピットごと吹っ飛ばしてくる」

「なんでっ!?」

「ちょ、タクト逃げろぉっ!?」

『非推奨行動。ラディア、落ち着くと良い』


 僕、ご乱心。


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