第35話 リザルト。



 一二六,四○四,○○○シギル。

 一億と二六四○万。それが五日間のサソリ祭りで稼いだ僕のリザルトだった。

 約六三○○万シギルをシリアスと分け合い、口座に入れる。

 その間も、端末で見る口座の残高を見た僕の頭はふわふわしてる。


「…………か、稼いだねぇ」

『肯定。百より先は覚えてない』


 サンジェルマンの二階、僕が借りてる自室のベッドで、独りごちる。返答はお馴染み、端末で僕をモニタリングしてるシリアスだ。


「億って、億って…………」

『身持ちを崩さない様に心掛けるべき。質素倹約推奨』


 乱獲。まさに乱獲と言って良い勢いでデザリアを鹵獲した僕達。

 おじさんが用意した沈静化済み陽電子脳ブレインボックスだって途中から品切れで、僕らが買い過ぎるからガーランドの市場から消え去ってしまう事態になった。

 それでもサソリ祭りが終わらないので、最後は普通に手脚を綺麗にバラした状態でのまっさらな鹵獲状態で販売。状態がめっちゃ綺麗だったし、おじさんが業者として売り払う形でなるべく高値を目指す。

 けど、最後はもう供給過多で値崩れは必至。僕らはデザリアの値をバコバコ下げながらも乱獲を続けた。

 そんな最終総合リザルトは三億をマーク。経費を抜いた後におじさんと折半した結果が、僕とシリアスのリザルトになる。


「…………フルカスタム、やり放題?」

『肯定。なんなら、生体金属副心臓サブジェネレータを積んでも良い。もはや何でも出来る』


 ヤバいヤバいヤバい。金額がデカ過ぎて実感が無い。

 気を引き締め無いとやらかしそうで怖い。装備を買う時はVRバトルで絶対に試してからにしよう。こんなん、「僕って金もってっしー?」とか舐めた態度で当たるを幸いにパーツガチャとか始めたら最悪だ。

 無駄遣いノー! 質素倹約イェェェエス! その精神で行こう!


「タクトも大丈夫かな?」

『分からない。予測不能』


 タクトも稼いだ。

 百を超えてデザリアを捕まえたので、タクト達も一○機を超えるデザリアをゲットしてる。

 しかしタクト達は免許を持ってないので、自分では都市の中に機体を運ぶ事すら出来ないし、機体の保管場所も無い。

 今回タクト達は機体を沢山手に入れたけど、僕はタクトに一シギルも払ってない。当たり前だ。デザリア一機でもう二五○万シギルの報酬みたいなもんなんだから、シギルなんか払う必要が無い。

 けど、それだとタクト達は機体の輸送費も、管理費も無くてどうしようも無い。なので、手に入れた余分な機体は売却し、そのお金でガレージを借りてる。

 本当ならタクト達もそれで山程のお金が手に入ったのだけど、今は僕のせいでデザリア値崩れ中。大した金額で売れず、まぁそれでもタクト達の今までを思えば充分な大金だ。

 タクトグループが現在保有する機体はデザートシザーリア十三機。

 その内三機は、僕が借り受けてたアンシークのパイロットに個別交渉してテント村に運んで貰ってた。それ以外は貸しガレージで眠ってる。

 なんでテント村に三機運んだかと言うと、理由は三つ。


 一つ、まずテンションが上がる。自分達の機体を目の前しにしてグループのモチベが爆増する。こんな理由でも凄い大事な事である。


 二つ、スラムの住人への牽制。今のタクトグループはコレだけの力を持ってるから、舐めた事したらぶっ殺すぞって脅しを含めて、目に見える場所に態々わざわざ三機も持って来たのだ。


 三つ、免許取得の練習するのに必要。凄く重要。とても大事。免許無いと乗れないからね。


 法的に無免許操縦は『機体が立ち上がった時点でアウト』なので、座らせたままコックピットに乗るだけならセーフなのだ。VRバトルを入れて遊ぶくらいなら問題無い。

 私有地の中とか敷地内なら動かしても良いんだけど、テント村の土地は不法占拠なので、敷地もクソも無いのだ。

 VRバトルの存在はタクトもターラちゃんの経験で知ってるし、お金も手に入ったから自分で買うのだろう。


「…………明日はまた、旅団にお呼ばれだっけ?」

『肯定。ライキティ・ハムナプルから呼ばれて居る』


 お互いに大きな商いを成功させたので、おめでとう壮行会でもやろうぜぇぇって感じの話しになってる。壮行会ってこう言うので合ってる? 分からぬ。


「取り敢えず、シリアスのカスタムを考えようか。その後VRバトルで試して、良さそうなら現実で本購入」

『いっそ、機体をゼロからオーダーメイドも視野』

「…………いや無理じゃない? いや行ける?」


 オーダーメイド機体のフルビルドってクソ高い気がするんだけど、デザリア規格なら一億くらいで行ける?


「いや、どうせフルビルドするなら、中型規格とかに上げたいし、止めよう。流石に中型フルオーダーとか一億じゃ足りない」

『残念』


 その代わり、現行のシリアスを最大限にカスタマイズする。

 端末を出してアプリケーションを立ち上げ、ネットを介してパーツ情報などを落とし込みながら、シリアスの擬似カスタムを行っていく。


「武装のコンセプトは今のままで良いよね?」

『肯定。背部に中型プラズマ砲のフレキシブルコンシールドブラスターを増設。テールウェポンは長距離狙撃用中型パルスライフル。アームには小型パルスライフルとパイルバンカー』

「アームのブラスターは増やしても良いんじゃない? 砲角揃うなら操作には負担無いし」

『把握。一つの武装として複数の砲門を管理するなら切り替えも容易。なら、小型パルスライフルを二門ずつで良い。それ以上はエネルギー効率が悪化する』

「了解。…………これさ、テールにシザーパーツ付けられない? あったら便利だよね?」

『それもVRバトルで試すべき』


 それから色々、機体の底面を高出力バーニアに換装して、脚も高出力スラスターが備わった物に替える。尻尾の付け根の両脇に大型イオンブースターを付けて、ブースターとコンシールドブラスターの間にあるデッドスペースに生体金属心臓ジェネレータとサブタンクを増設。背中が全体的に嵩増しされてる。


『アームとテール、コンシールドブラスターにもそれぞれ小型で良いので弾倉用エネルギータンクを付けた方が良い。本体供給のままでは武装と機動の間で綱引きになる』


 つまり、本体からの供給だと機動制御に使うエネルギーと食い合うけど、サブタンクや弾倉用マガジンタンクでワンクッション置けばエネルギー配分がスムーズに成るって事か。

 余裕がある時にサブへ供給して置けば、必要な時に使える最大量も上がるし、サブが尽きない間は本体供給を全部機動に回せる。


「重量ヤバない?」

『その分、脚周りを良い物に。生体金属心臓ジェネレータとタンクを増強したのでエネルギーは問題無い』


 ああそうか。本体供給を全部機体に回せるって事は、その分パワーが出せるって事だもんな。そのパワーを使い切れる強力な脚部パーツに換装すれば、その分重くても良いのか。

 それに生体金属副心臓サブジェネレータを積むなら最大出力も上がるし、シリアスの強化が留まる所を知らないな……。


 ちなみに、バイオマシンのエネルギーや補給に着いての仕組みは、まずバイオマシンが生体金属ジオメタル補給し食べて燃料化する。メインタンクに入ってるのはコレだ。コレはそのままエネルギーと呼ばれがちだけど、本当はまだエネルギー化されて無くて、正確には燃性気化金属オーバータールと呼ばれる特殊な液体金属である。


 次に生体金属心臓ジェネレータがメインタンクの燃性気化金属オーバータールを消費してエネルギーに変換する。燃性気化金属オーバータールは燃え易く、燃えると高密度エネルギーに変換し易い状態に気化する。それを生体金属心臓ジェネレータが取り込んで何かすると、生体金属血漿液ブラッドジオネールと言う超高密度エネルギーに成る。

 生体金属血漿液ブラッドジオネールは、現代の科学力でも解明出来ない古代の超技術の一つで、概念的にはプラズマと同質なのに液状で、触った感覚は有るのに物理的な接触は不可能って言う意味不明なエネルギーだ。

 簡単なイメージで説明するなら、液状化して触った気に成れる電気みたいな。触れちゃうけど触れてない、そこに在るのにそこに無い、そんな『触れる概念的なエネルギー』が生体金属血漿液ブラッドジオネールだ。通称がそのままエネルギー。


 情報端末や都市機能、それにビークルやボット、ドローンが動く為に使われてる『エネルギーパック』も中身は生体金属血漿液ブラッドジオネールだ。生体金属心臓ジェネレータを単独で動かすだけなら陽電子脳ブレインボックスは必要無いので、都市専用の超巨大なウルトラ高効率生体金属心臓ジェネレータをブン回してエネルギーを作って人類は生きてるんだね。

 ちなみに生体金属血漿液ブラッドジオネールも気化性が高くて外気に触れると空気に溶ける様に無くなる。凄い勢いで無くなる。


 バイオマシンを殺すなら陽電子脳ブレインボックス生体金属心臓ジェネレータを破壊するのが手っ取り早いんだけど、単純に損壊率を上げていけば身体中から生体金属血漿液ブラッドジオネールが漏れ出て、最後はエネルギー枯渇と、その状態でも無理に稼働した生体金属心臓ジェネレータの過負荷でも死ぬ。だから死ぬまで暴れるバイオマシンの鹵獲が難しく、鹵獲後には技師が綺麗にバラす必要が有るんだ。


 シリアスが最初に鹵獲した三機も、シリアスが綺麗に最低限かつ最高率の機関部破壊をしてたから、生体金属血漿液ブラッドジオネール漏れで死ぬ事は無かったって事らしい。ぶっちゃけコレも最近知った。


 それで、サブタンクはメインと同じく燃性気化金属オーバータールを保存して、マガジンタンクはメインタンクと違って燃性気化金属オーバータールでは無く生体金属血漿液ブラッドジオネールを充填して置く。ただ操縦するだけならあまり気にしなくて良い事だけど、エネルギー配分をスロットルやパワーゲインで操作するなら覚えて置く必要がある。


「使えるエネルギーと最大出力が豊富だと、選択肢が多くて助かるね」

『シリアスも、工作機から随分と出世した。遠い所まで来た気分』

「すぐ隣に故郷が有るんだけどね」

『徒歩圏内に実家がある新婚生活』


 そうやって巫山戯ながら、装甲も重量と防御力のバランスが良いハイエンドを選んで行く。

 そこまでカスタムが決まったら、次はそれらを調整して見た目をスタイリッシュに仕上げる工程だ。

 メーカー違いのパーツとか色々と組み込んでるので、少し不恰好に成ってしまってる。それに何より、増加した質量分だけ着膨れしてる。

 これを対応可能な範囲で調整して、スリムかつスタイリッシュに戻すのだ。


「カラーリングも、どうしようか。やっぱりシリアスは砂色が似合うと思うけど」

『ベースは今のままで、末端を黒にしてグラデーションする程度で良いかと判断する。ただ、赤と青のサブカラーより、ゲーム内で使ってるシルバーカラーの方がシリアスは好み』

「マジかじゃぁソレで」


 カラーデザインはまた改めて。

 それよりも、問題が発生した。


「…………装備買うのにランクが足りねぇ」

『今回の出物、ある程度はギルドに卸すべきだった』

「もう遅いんだよなぁ」


 僕は納税率と言うか、量が足りてないのでまだランク一なのだ。

 それでも最近はデザリアを狩ってちゃんとギルドに納品してたから、もうすぐランク二程度にはなる筈なんだけど…………。


「買いたい装備が軒並みランク四からって言う」

『否定。ブースターのみランク三から購入可能』

「ブースターだけあってもね?」


 虫型の弱点と言うか、ハイマッド帝国製の機体は獣型と比べて速度に劣るのだ。

 虫足を頑張ってシャカシャカするのと、犬や猫が全身のバネを使って駆けるのでは、サイズが同じだと『翔ぶ』分の差がデカい。

 もちろんスピードモスとか言う例外も居るんだけど、アイツ車輪走行だし参考にならない。

 なので、バーニア移動にブースター加速してスラスターによる機動制御をしたら早いんじゃね? って言うのが僕とシリアスの計画だ。

 一応、獣型は瞬間速度が強くて、虫型は繊細な機動が売りって事に成ってる。別に虫型が弱いって事じゃない。むしろハイマッド帝国はかなり強い国だったはずだ。


「ふむぅ。壮行会終わったらギルドの仕事斡旋してもらおうかな」

『疑問。非効率。一口納税を連打する方が早い』

「その手があったかッ!?」


 なんだよじゃぁ問題無いじゃん。

 一口納税って一○万シギルからなので、この場合は金額がデカい方が有難い。その分多く納税してランクを上げやすいから。

 高ランクだと『安定した稼ぎ』も重要なんだけど、低ランクなら適当に納税しとけば安定性なんか無縁でもランクは上がる。


「ランク四まで上げるなら、何回納税?」

『数日の内にランクを上げる場合の試算結果を端末に送る』


 見た。偉い額を要求される。二○○回?

 え、つまり最低でも二○○○万シギル? マジかよ。


「…………これ、さ。ランク上げだけに連打するのは流石に躊躇う金額だね」

『諸行無常』


 諸行無常じゃないよ。

 あーいや、でも傭兵歴一ヶ月未満の駆け出しがコレなんだから、文句を言うのは間違ってるか。

 と言うか、稼ぎの安定性とかも考慮されるランクを数日で無理矢理上げるってんだから、その分余計に掛かるのかな? 普通に納税して行ったらもう少し安かったりするのかな?


『勿論、すぐにカスタムする必要性は無い。もう一回程度の装備更新なら、繋ぎで刻んでも良いと思われる』

「あー、うん。そうだね。どうせ上見たらもっと凄いパーツとかも有るんだし、毎回その時の限界を狙う必要も無いか」

『ランク一か二で購入可能なパーツで今一度再興するべき。このカスタムのデータはシリアスが保存しておく』


 そういう訳で、もう一度カスタム計画。

 と言っても、バーニア系の足周りを一旦諦めて、他の装備をグレード下げる程度の事なんだけど。


「やっぱシザーアームにパイルバンカー内蔵されてると良いよね。グラディエラ系かなり気に入ってるし」

『逆に、エキドナは使用率が微妙』

「そもそも、エキドナってお金無かったから炸薬系で妥協したんだよね。今なら普通にパルスライフル積めるし」


 夜も老けて、壮行会の後に行うシリアスのアップグレード計画は完成し、僕は寝た。


 翌日。


 シリアスに乗ってガーランド東ゲートから出て少し進み、ズラっと並ぶダングの元までやって来た。

 壮行会と言われたから、僕はてっきり都市内の飲食店でも使うのかなって思ってたけど、送られて来た座標は此処だった。


「じゃぁ行ってくるね」

『了解。シリアスは大人しく待って居る』


 僕は砂色のスナップブリムを被り直してコックピットから降りる。その際にホログラムで現れたリアスが手を振ってくれてキュンキュンする。

 黒いシャツに錆色のバトルジャケット、ベージュのカーゴパンツとアクションブーツ。合わせる帽子はシリアスが選んでくれたスナップブリム。

 ゴリゴリの傭兵ルックで旅団の新人用アパートダングを訪れて、寮母的な人に要件を伝える。

 話しは通ってるみたいですぐに案内してくれて、そうして到着したのは前回と同じ会議室だった。

 畏まるのも今更かと思ってそのまま部屋に入ると、前回と違って中にはテーブルが三つほどあり、そこに山程の菓子類が並んでた。

 ああ、分かったぞ。この壮行会も企画と実行が新人さん達なんだな。


「どうも、呼ばれて来ましたラディアです」

「あ、ラディアじゃん」

「タクトっ? え、他のみんなも……」


 僕が挨拶するとビクッとする新人さんが多い中、それに混じってタクト達も居た。

 前はカルボルトさんに買って貰った服を毎日着るって感じだったけど、デザリア大量獲得でお金をゲットしたから普通の服を手に入れたらしい。皆が思い思いの傭兵ルックだ。


「タクトも呼ばれたの?」

「ああ、カルボルトさんとかセルクさんが是非にって」


 旅団の良心筆頭じゃん。僕なんて旅団の問題児筆頭のライキティさんに呼ばれてるのに。

 でも、肝心のご本人様達はいらっしゃらない様子だ。どうしたのだろうか?


「なんか、お前が流しまくったデザリアを、良い機会だか相当数確保するんだってさ。値崩れしてる内に確保して、お安く旅団の戦力を微増するらしい。今その予算を捻出中で、その関係で色々あるから少し遅れるってセルクさんが言ってたぞ」

「そうなんだ。先に始めちゃって良いのかな?」

「良いんじゃないか? と言うか、これ一次会らしくて、二次会からは幹部さんとかが計画したちゃんとした壮行会になるんだとさ」


 ああ、そう言うアレなのか。

 なら遠慮は要らないと、僕は新人さんに挨拶をしながら混ざって、テーブルのお菓子を頂く。

 お高い料理も当然嬉しいけど、僕ら孤児はお菓子だってマトモに食べられなかったから、これはコレで嬉しいのだ。

 縁がなかったから、知らないパッケージばかりだ。コレは何だろう? リピートスナック?


「ああ、それは中に五パーの確率で当たりクジが入ってる菓子だぜ。クレイジーボーイはこう言うの知らないのか?」

「ええ、孤児には縁遠かった物でして。…………それよりクレイジーボーイは止めません?」


 僕が不思議そうな顔でお菓子のパッケージを持ってると、新人さんが教えてくれた。でもそのアダ名は止めてくれ。


「いや、アレどう見てもクレイジーボーイだったろ。高笑いしながら長距離狙撃して夥しい数の獲物を積み上げて…………。ああ、ちなみに俺はダングに乗ってた奴だぞ。現場でクレイジー具合を見てた」

「ああ、現場で一緒だったんですね!」


 アンシーク乗りには挨拶したんだけど、ダングのパイロットは降りて来なくて声しか知らなかったんだ。そう言えば通信で聞いた声だ。


「クレイジーボーイが嫌だったら、乱獲小僧スローターボーイとか暴走少年アンタッチャブルとかに成るぞ」

「…………うぇぇ、全部嫌だぁ」

「まぁ、お前のお掛けで俺も乗機貰えそうだから、感謝はしてるんだぜ?」


 此処の新人さん達は、免許有るけど機体が無いって集まりらしい。と言うか機体を持ってて新人扱いされ続けるのは問題らしい。

 今回彼らがダングやアンシークに乗って来たのは、旅団が所有する機体をレンタルしただけで、自分の機体は持って無いんだそうだ。


「依頼で鹵獲した機体もそうですけど、今はデザリアの値段が崩壊してますからね! お安く買い放題ですよ!」

「今は一四○万まで下がってるらしいぞ。大暴落だな」

「僕が旅団に依頼した皆さんのレンタル代じゃ無いですか」


 二五○万シギルの機体が、今や一四○万シギルか。あれ? アンシークより安いのでは?

 確かアンシークって一五○万から一八○万シギルじゃなかった?

 セルバスさんも安くなったデザリアに乗るのかな。この五日は忙しくてアルバリオ家の仕事して無いけど、順調ならポポナさんもセルバスさんも輸送機免許は取れてるはずだ。


「じゃぁ、これからは同じデザリア乗りですね!」

「こっちはオリジンじゃ無いけどな。デザリア乗りの先輩として頼むぜ、クレイジーボーイ」

「だからクレイジーボーイは止めてよ…………」


 お話しを聞きながら、手に持ったパッケージをパンッ! って開けて、リピートスナックとやらを食べてみる。ふむ、美味しい。

 これは、なんだ? 甘め? 塩っぱい? 不思議な味がする。


「あ、スピカはそれ何食べてるの?」

「ふやっ!? え、これですか? えと、キャベツボーイってスナックですね。強めの味付けで、美味しいですよ」


 キャベツボーイ。ふむ、クレイジーボーイとか呼ばれてる僕が食べても良いボーイ? と言うか何がキャベツなのだろうか? 普通のスナック菓子に見えるが……。

 食べてみる。まぁ強い。ハッキリと塩っぱい系の味で、だけど食べ易い。


「美味しいね。サクサク行ける」

「ね。なんか、チープな味? 私達に合ってる感じするね」

「あー分かる。孤児にはコレでええやろ感が凄いあるんだけど、体がそれに納得しちゃう」

「おいスピカ、ラディア、笑いずれぇ話しでニコニコしてんじゃねぇよ。周りの傭兵さん達が気まずそうな顔してるだろうが」

「いや、そうは言ってもさ? ほら、タクトも食べてみなよ」


 -サクッ。


「………………あぁぁぁぁ分かるぅぅ。これは俺ら向けのチープさだぁぁ」

「でっしょ?」


 タクトが即落ちした。

 まぁね、凝った物もやっぱり美味しいんだけどさ、僕ら孤児の粗末な舌は豪奢な味に慣れてないから、疲れちゃうんだよね。だから普段はコレくらいチープで良い。

 僕も砂漠で狩りしてる時とか、警戒領域で食べてるお昼って民間レーションだったりするからね。流石に最低グレードからは脱出したけど、それでも安くてチープな奴が食べたくなる。

 勿論毎回じゃ無いし、なんなら偶にお高い携行食とか買ってるけどさ。でも普段は三シギルのレーションとかで良いかなぁ。もしくはおじさんの料理。

 おじさんの料理って、凄い美味しいけど舌に優しいって言うか、疲れないんだよね。


「はぁ、タクトも早く免許取ってね。一緒に狩りに行こうね。それでレーションパーティしよう」

「おうよ。…………でも先にカスタムか?」

「狩りに使うなら、デザリアの装甲を抜けるくらいの小型パルスライフル積めば、それで良いと思うよ。オススメはグラディエラシリーズ。グレード低いのならお手軽だし」

「あー、あの、コンシールドアーム?」

「そうそう。装甲の中にパルスライフルが入ってる奴。パイルバンカーが地味に便利なんだよ」


 グラディエラも装甲の中に武装を格納してるから、分類はコンシールドウェポンだ。可変して砲門がガシャッて出て来るのカッコイイよね。


「カスタムの相談はマジで頼むぜ。俺ら超素人だから」

「もち。あ、そう言えば僕、機体のカラーリングデザイナーもやってたりするから、グループでデザイン揃えるとかあったら、是非依頼してね! おじさんに言えば僕にお仕事回って来るから!」

「え、お前そんな事もしてんの?」

「うん! まだ仕事したの一回だけなんだけど、それでもお客さんはリテイク無しで満足してくれたよ」

「ほぉえ、すげぇじゃん」


 僕はシリアスに砂色が似合うって思ってるから、あまり色を弄れないけど、他の人のデザリアなら弄り放題だもんね。張り切ってデザインしちゃうぞ!

 素人でも直感的に使えるアプリケーションには感謝だよホント。


「…………カラーリングか。俺も興味あるな」


 タクトに宣伝してると、最初に話してた傭兵さんが加わる。僕はもう椅子に座って手当たり次第にお菓子をバリボリしてる。あとソフトドリンクもゴッキュゴキュ。


「お兄さんも、初めての愛機ですもんね」

「ああ、やはり自分の機体ってなったら、自分だけの物にしたいよな」

「パーソナルカラーで染めちゃうのが一番ですからね。装備で個性だそうとしてトチる新人の話しは、行き付けの整備屋でも聞きますし」

「今回の大量購入って流れでも、まぁ何人かは出るだろうな。マイナーウェポンで失敗する奴。本当はまだ機体を持てる程じゃ無い奴にも宛てがわれるだろうし」


 永久旅団の団員は、都市を巡る内に集まる人と、古参の人達が結ばれて産んだ子供が育った場合の二パターンが有り、旅団で生まれた旅団出身はずっと機兵乗りライダーが集う場所の中で過ごす為、ヤンチャな人が多いそうだ。

 鹵獲計画を任されてた新人さん達も、三分の一は旅団生まれだそうだ。絶対ダングバックで突っ込む計画立てたのソレでしょ。


「まだウチも一週間程はガーランドに居るらしいから、俺も愛機を貰えたらお前に塗装デザインでも依頼しようか」

「お待ちしてます! その時は外周西区にある整備屋サンジェルマンまでどうぞ!」


 僕が直接仕事を受けても、その手の経理とか無理だし、値段交渉も無理だ。自分のデザインに幾らの値を付けるかなんて、判断出来ない。


「ちなみに、どんな感じが良いですか? 色とか、モチーフとか」

「ふむ。…………ああ、色はセルク姉さんのコルナスっぽい緑が良いな。それと黒か。それ以外は任せるぜ」

「ふむふむ。考えておきますね!」


 セルクさんのブリッツキャットであるコルナスは、ベースは深い深い緑色をしてる。部位ごとの単色塗装で、絵柄とかは特に無い機体だ。

 けど、コルナスの緑色は凄く綺麗で深みがあり、シックな感じとナチュラルな感じが同居してて、憧れるのも分かる色合いだ。


「俺もラディアに依頼するカラーデザインの希望とか考えとくかね」

「グループで揃えたりしないの?」

「皆だって自分の機体は自分用にしたいだろうさ。特に揃えたりしねぇよ」


 それはそれで勿体無い気もするな。

 色も柄も別々で良いけど、何処かにワンポイントでも揃いのエンブレムとか入れたら良いのに。


「--すまない! 待たせた!」

「お待たせ〜。これから幹部主催の部に移行するが、準備は良いかー?」


 お菓子ポリポリタイムを満喫してると、部屋の扉をバーン! って開け放ってライキティさんが現れた。後ろからはカルボルトさんが。

 カルボルトさん久しぶりに見たな。


「おお、坊主もちゃんと居るな!」

「お久しぶりです!」

「随分稼いだらしいなー?」

「お陰様で!」


 久しぶりに会えたカルボルトさんとキャッキャしてると、何やら準備が整って皆で移動となった。

 ああ、お菓子勿体無い。

 と、思ったら、残りは旅団に居る子供達に配られるそうだ。例の団員同士で結ばれた人達の子供である。まぁそれなら仕方ないね。


「では、出発するぞ! 最奥東区のビュッフェガーデンを貸し切ってるからな! 楽しみにしてろ!」


 そしてその日、僕は胃袋が破けるかも知れない感覚を初めて味わった。


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